第2話 やり直し

 「彼女自身がその力を欲するか、“呪いに飲み込まれる前に殺すんじゃ”」

 その言葉を聞いた時、俺は何も言えなかった。

 「あくまで殺すのは最終手段、何とかその力を欲すれば、呪いは産まれない」

 「欲するって....どうすればいいんだよ!」

 「.....それは......言えぬ。わしが言ってしまえばおぬしの成長を止めてしまう」

 成長?何を言ってるのか分からなかった。

 「ただし、ヒントを授けよう。おぬしが選んだその力を“うまく使う”んじゃ」

 そう言って、俺はもう一度無色透明な丸い球体を見る。この力をうまく使えば、村田は助かるのか、そうすれば朱里さんも助けられる。

 「決めたようじゃな。そしたらそれに触れるのじゃ」

 言われたとおりに触れてみると、こういう場合なんか光るのが定番だと思ったら.....。

 プシュ—―。

 「うわぁぁぁぁぁぁ、くっせええええええ!!」

 「言い忘れておったんじゃが、わしの作る力の源は匂いが強烈での、わしでも鼻が捻曲がるほどの臭さなのじゃ」

 臭い、臭すぎる。何だこの匂いは、あの世界一臭い缶詰よりも絶対臭いって!!嗅いだことないけど!!こんなの誰だってそうなるって!!。

 「これ、どうすればいいんだ?」

 何とか鼻をつまんで耐えてるけど、これは気を抜いたら死んでしまう。あの世に来てまで死にたくない!

 「しばらくそのままじゃ、こればかりは耐えるしかない。あっやばい。うわぁぁぁぁぁぁぁ、くっせええええええ!」

 「あんたキャラ崩壊してるじゃねえか!どうせするならその語尾くらい守れよ!」

 神様のキャラ崩壊まで追い込むとは....ほんとに大丈夫なのか.....?


 しばらくして、ようやくあの匂いも無くなり、本題に戻ることができた。

 「ふぅ、危なかったのぅ。もう少しで気絶するとこだったわい」

 気絶よりもキャラ崩壊の方がしたらダメな気がするんだが......まあ細かいとこは気にしないでおこう。

 「で?次は何をすれば良いんだ?」

 「何もしなくてよい。もうおぬしの体に入っておる」

 「........え?これで終わり.....?」「終わりじゃな」

 「あの匂いは必要だったんか.....?」「あれは匂いを嗅いで体内に取り込む系じゃから仕方ない」

 なんか思ってたんと違うんですけど.....。

 「試しに“思念の仮面”を出してみよ」

 と言われても分からないから何もできないんだが.....。困ったな。

 「?どうしたんじゃ?困ったような顔をして」

 「出し方知らないんだけど.....」「あっ......」

 本当にこの神様大丈夫かなとちょと心配になった。


その後神様からいろんなことを教えてもらい、要約すると「来い!思念の仮面」と言わないと出てこないらしい。しかもこれ単体では何も効果は無く、滅多に使わないという。

 「それはおぬしの想像力で大きく左右する力じゃ、今はこれしか使えないがランクを上げるとぶっ壊れ特典が待っておる」

 気になる。めっちゃ知りてぇ。

 「その仮面は何にでもなれる。だが、気を付けろその仮面はおぬしを主と思っておらぬ、まずは仮面と向き合い、その仮面に力を示すんじゃ」

 すると、仮面の中から小さな仮面をつけている変なものが現れた。

 「ここで問題!俺は誰だ?」「仮面の精霊?」

 ブブーとなんかクイズ番組みたいな音が流れて、ぺしっ!

 「痛っ!」

 なんかタライが落ちてきたんだけど?!

「正解は浦本一輝、私は精霊だけど俺じゃない」

 「紛らわしいわ!」

 「続いて問題!この仮面どんな能力?」「簡単だな。想像力で大きく左右される力!」

 少し間が空いた....?するとなんかドラムロールがなり始めた。

 ドルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッ デデン!

 ブブー!

 「痛て!そこは正解の演出だろ.....」

 「ざんねーん。正解は何にでもなる力です。こんなのが主なんですか?」

 「馬鹿にすんな!次こそ勝ってやる!」

 意気揚々と宣言してやった。


 .......だめだ一向に勝てない。タライは山のごとく積み重なり、俺の頭もおかしくなりそうだった。

 「まさかここまで正解できないとは.....おぬし....」

 「ん?」

 「馬鹿じゃな」「うん馬鹿ですね」

 ....俺のHPは残り1になった。

 「まさか最後の問題にまで到達するとは....おぬしは運がいいのか悪いのか分からぬのぅ」

 最後の問題....?なんか神の様子がおかしいぞ?

 「最後の問題とは....?」

 「本来であればおぬしの体を鍛え、様々な知識を身に着けてから手にすることができるランクを初めから獲得できる問題....というよりも試練じゃな」

 試練と聞くとやはり少し身構えてしまう。けどそれより.....

 「そんなのあるなら言ってよぉぉぉぉぉ。普通にこれからこいつに俺を主として認めさせようとして頑張ってたんだけど!!なんだこの損した気分は!」

 ともうただただ怒りが込み上げてくる。....てあれ?怒り......?

 「気づいたようじゃな。今のおぬしには感情がある。わしの試練はその感情を一時的でもいい。無くすのじゃ」

 「...無くす?」

 どういう事だろう?正直なにを言ってるのかさっぱりだった。

 「そう、おぬしのその力を使ってこれから1時間以内に感情を無くすのじゃ」

 「この仮面は今は使えないんじゃ?」

 そう、俺は今、この仮面の精霊を主として認めさせようと奮闘している。ならこの仮面の精霊は当然俺に力を貸してくれるはず無い。

 「安心せい、わしの権限で一時間だけその使用を認めよう」

 何そのチート......普通に欲しい。

 「ほれ、感情を抑えんか。その様子じゃとこの試練を乗り越えられぬぞ」

 「ということでよーい......スタート!!」

 頭上に60:00の文字が浮かぶとそれはもう既に59:49になっていた。

 「ではわしの妨害を始めるぞ?」

 急に杖で頭を強く叩かれた。

 「痛ってえええええええ!!なにすんだこn」

 「ほれ、まだまだこれからじゃぞ?」

 なんか神様が全体的ににやけてるんだが....。

 てか普通に感情を無くすことなんてできるのだろうか?

 改めて痛みに耐えながらこれまでを振り返る。

 そういえば、あのお茶飲んだら自然と落ち着いたな。とりあえずそんな能力あったらなぁと考えてしまった。

 すると思念の仮面が光り、形を変える。

 「ほう、これは癒しの仮面じゃ、おぬし邪魔はせんから試してみよ」

 言われた通り仮面をつけてみる。すると体のあちこちの傷が治っていく。

 「すげえこれは使える!って痛い!!」

 「おや、どうやら傷を治せても痛みは感じるみたいじゃの」

 時間は45:38とだんだん時間は無くなっていく。お題は感情を無くす、いや正しくは“コントロール”の方がいいかもしれない。でも神は考える暇を与えずに杖で頭を叩いてくる。まずは痛みを無くすものを考えないといけない。ということは神経毒で体を麻痺させて痛覚を鈍らせるような感じが似てるのかな?

 また仮面は光り、その形を変えていく。

 「これは........見たことない仮面じゃ。ちょっと鑑定して......フム.....これは相手に着けると効果を発揮できる仮面。名付けて付与型仮面(エンチャントマスク)じゃな」

 ネーミングそのままじゃねえか!!とか考えていると時刻は29:45と半分を過ぎていた。

 「おぬし、それを一度わしに着けてみよ」

 言われた通り付けたけど何も変わらなかった。

 「フム。神経毒を使い感覚を鈍らせる能力か.....」

 「これ....効いてるの?」「わしにはこういう状態異常は効かないんじゃ」

 .....神ってチートの塊かな....?改めて時刻を見ると20:00だった。


 本格的に焦り始めた。こんどは自分の効果としての仮面を作らないといけない。

 でも神経毒を使った感覚を鈍らせる方法しか思いつかない。なら.....あれしか無いな。

 勝つ方法は一つしかないと考えた。神がチートなら俺の力だってチートになれるはず。そして俺が考えた道筋は........“時間を止める仮面”と“時間を巻き戻す仮面”の両者を一つにした仮面を作ることだった。

 

 =‘@+:・?!”、。;―― ら—―隊――に—――――――――し――—―を—――――せよ。なお@;#?~=^¥」「・:;@@。―――....................。

 無線機の隣にはこう記されている。もしもこの無線が聞き取りづらかった時用

こちら討伐隊負傷者多数により帰還する。至急応援を要請し目標、村田美鈴を抹殺せよ。なおこの任務は極秘によって行われるため他所への口外を禁ずる。

 辺りは新しい血がどっぷり付いている。そしてすべて“私が殺した”

 一人の少女は今や世界を脅かす存在となり........こう呼ばれている。“殺人人形”と、人形ねえ。フフっ面白い冗談だわ。私の主は侍、できれば落ち武者と呼んで欲しかった。本当の私ももういないし、これからおもしろおかしい殺人ショーでもやりましょうか?ねえ今は亡き主様♡

 そこへまた一人、少女か少年かはたまた“違う存在か”そんな考える隙は無く、一瞬で首を切られてしまった。

 あぁ消えてしまう。存在が、あぁ次の器を見つけ.....なくては.......。


 首を切られ、死んだ彼女は優しい顔をしていた。俺、いや私の物語はここには無い。自分の存在意義を忘れた者はそそくさに仮面を被り.....ズ——―ズ——。

 おっと、いかんいかんこれはあやつの別の未来じゃった。さて.....そろそろかの....わしはこの先を知っている。だからわしは何もできない。すべて“運命”なのだから。

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