仮面高校生
黒夢
第1話 力
仮面とは、何のために作られた物なのか俺は考えていた。“力”の存在が世間一般に広がってない世の中で意識が飛ぶ寸前、聞えてくるのは、「あんたのせいで、―は」という怒りを露わにした声、肝心な名前が聞き取れなかったがもう関係ない。左の脇腹から出るのは血だ。それが意味するものは〝死″だった。
俺、浦本 一輝(うらもと かずき)は少し前までは普通の太った高校1年生だった。
遡ること、4か月前。季節は春で入学式が終わってすぐの頃だ。その頃の俺は中学の時のようになりたくない一心で色々な人に声をかけていた。しかし結果は残酷で慣れない会話で俺に寄り付こうとしたのは一人もいなかった。そんなある日だ。
(今日の授業は数学Ⅰに体育に....あとは.....)と今日の授業の準備をしている。傍から見れば何気ない普通の高校生だ。
父と母は共働きで滅多に家には来ない。だから普段から炊事等の家事全般は出来るようにしていた。俺の朝はいつも早い、朝から弁当を作って、朝食を作って、準備してと、改めて考えると母は毎日これをしていたんだなと身をもって沁みる。
とまあ我ながらこの時の俺は浮かれすぎていたのかもしれない。これから起こることなんて、誰が想像していたのか。そんなもの知ってる奴なんて居るはずない。
朝は快晴で春なのにちょっと暑いと感じてしまうほどに太陽は光輝いて見えた。簡単に登校ルートを説明すると、1大通りをまっすぐ行く2右に曲がって信号を渡り、到着。家からわずか10分でつくところだった。
登校後、時計を見ると7時35分くらいだった。予定どおりだ。後5分もすればクラスメイトがぞろぞろ来る。今日こそ話し相手を作るぞと意気込んでいると。
ガラガラという音とともに一人の女の子が入って来る。名前は、佐藤 朱里(さとう あかり)、入学して初めて話してた女の子だった。...でも今は話していない。何故なら
「朱里ちゃ~ん!おはよう!」
元気よく飛び出してきたのは村田 美鈴(むらた みすず)だ。こいつが朱里さんに話しかけているせいで俺はなかなか近づけないでいた。
「あっ村田さんおはよう」
「ねえねえ昨日のあれ見た?」
また始まった昨日のあれ見た?トーク。女子とはなんで知らない人とこんなにも自然と会話ができるのだろうか。小学校から中学卒業までの9年間。何気なく見てきたこの光景に疑問を覚えてしまった。
時刻は7時55分、話し声が次第に大きくなっている。HR前はほとんどの学校がこうなのだろうか。
ようやく担任が来て朝のHRも終えて、一気に昼休み。朝作った弁当を食べ終わると、俺はそそくさと朱里さんの方へ向かった。勇気を振り絞って朝から気になっていたこの疑問に答えてもらうためだ。
「朱里さん。ちょっといい?」
朱里さんはちょっとびっくりしているみたいで、少しの間が空いてから。
「ちょっと待ってて、今お弁当片づけるから」
「うん、分かった」
俺と朱里さんを見ていた村田の顔は嫌そうな顔をしていた。
「朱里ちゃん。行っちゃうの?」
私は浦本一輝が嫌いだ。理由はキモいから。そう私はデブが嫌いだった。デブがこの世にいること自体が嫌だった。私はあのデブをどうやって片付けようか悩んでいた。
「....さん。....む.....さん。村田さん!」
「わあ、びっくりした」
肩を揺さぶられて少し驚いてしまった。どうやら深く考えすぎたらしい。
「大丈夫?」
朱里ちゃんはすこし心配そうにしていた。
「うん、大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
「そう、ならよかった。...じゃあ私行ってくるね」
そう言って、朱里ちゃんは教室を出て行った。
(さてと、私も行きますか)
後を付けてるなんて朱里ちゃんは知るわけないよね。足音を立てずにこっそりと朱里ちゃんと近すぎず遠すぎずの距離で進んでいった。
待つこと数分後に彼女は来た。
「お待たせ。どうしたの?」
「ああ.....えと....たいした事じゃないんだけど、気になっててさ」
やっぱり人と話をすると緊張してしまう。一度大きく深呼吸をしてから話す。
「俺、人と話すのが苦手でさ、朱里さん達を見てるとすごいなあって思って、どうしてあんな自然的に話せるのか気になってて」
朱里さんは俺の疑問にどう答えるのか少し期待していた。
「簡単なことだよ。十人十色って言うでしょ?...そんなかんじだよ。...私もよく分からないんだ。気が付いたら話せてたの」
意外な結果が返ってきた。俺はてっきり何か他の人と違う力的な何かがあると思っていたのに、なぜか損した気分だが朱里さんにも分からないならそれはきっと答えを自分なりに見つけることだと言い聞かして「分かった。ありがとう」と答えようとしたとき
「あ!そうだ!忘れてた」
朱里さんは何かを思い出したような顔をしていた。
「一輝くん!良かったらREINしない?」
REINとは今やほとんどの人が使っている通話やチャットが可能なアプリの事だ。俺はやる相手がいないからまったくと言ってもいいほど使っていない。
「いいけど、俺なんも開いてないからどうすればいいか分からなくて」
事実、使い方もままならないほど、使っていない。
「じゃあ私が教えてあげる」
こうして、朱里さんに教えてもらい、試しに朱里さんのチャット画面に文字を送るまで、昼休みぎりぎりまで掛かった。朱里さんはすごく丁寧に教えてくれた。
気に食わない。どうしてあんなデブと仲良くするの?どうして私よりも仲がいいの? 木の後ろから二人を見ていた。辺りは草とか木とかに囲まれているから滅多なことが無い限りバレずに済む私のベストポジション。あのデブが朱里ちゃんを変えてしまった。いったいどうすればあのデブから朱里ちゃんを救えるだろうか?私は考えた。ついでにあいつを二度と視界に入れないための策も考えた。そこで私ははっとした。(濡れ衣を着せれば?)そんな声がどこからかした。それは私の両親が亡くなったときにもした声だった。(そうすれば学校は退学、朱里ちゃんは助かる。これでいいでしょ?)私は素直にその声に従い行動することにした。机にはボイスレコーダーと生徒会会長立候補の用紙があり、それを手に取る。鏡を見ればそこには一人の道化のような不吉な笑みを浮かべている私がいた。
もうすぐ、生徒会役員を決める投票日が来る。うちの学校は6月の中間テストを終えてすぐに決めて一年を通して、その役員で回すという風になっている。
クラスでは村田が生徒会長に立候補するという話題で持ち切りだった。しかし何で村田が生徒会長に立候補したのか具体的なことは分からなかった。ただ一言、この学校を大きく変えるためだけだった。
気づけばあっという間に時間は過ぎていく。中間も終わり、いよいよ件の生徒会役員を決める投票が始まった。
今回、生徒会長に立候補したのは村田を含めて、2人だけだった。最初は書記の男子から始まり、会計は一名ずつしか立候補していなかったので、スルー。副会長も一人なのでスルー。いよいよ会長の演説が始まる。最初はいかにも固そうな3年生の男だった。
「私が会長になったら、校則の緩和に取り組みます」
中学の三年間聞いてきたから分かる話だが、嘘だ。だがこの演説を聞いたらまずほとんどの人はこの人に票を入れるだろう。さて、村田はどう出るか。話さなければ、俺はずっとこんな感じで人の観察を主な日課としている。そんなことをしていると時間というのはあっという間で、村田の演説が始まった。
「私は会長になりたいです。なぜか、それは簡単な話です。この学校を変えたい。ただそれだけなんです。やれないことをするよりも、まずは地道にひとつひとつ変えていって、そして大きく変えるんです。もし、少しでも興味があるなら、私に清き一票をお願いします!」
何というか、凄かった。村田の学校にかける思いが伝わってきた。俺は迷わず、村田に票を入れる。そして、圧倒的差をつけて、村田が生徒会長になった。
生徒会役員決めの前日、私はひどく悲しんでいた。最近みるみるうちに朱里ちゃんが中学の頃の朱里ちゃんから遠ざかっていく感じがして、そこでまたあの声がした。
(自分の力を恐れないで、これは君の力。その力で今の朱里ちゃんを“殺せばいいじゃない”)声に逆らう事ができない。嫌なのに、殺したくないのに、そこで私の意識は飛んだ。
私は予定通り生徒会長になった。すべて計画通り、あとは......。私は朱里ちゃんに会いに行った。
「あ、村田さん。おめでとう!」
「ありがとう」
さて、朱里ちゃん。先に謝っておくね。私は......“あなたを殺す”なんとなく殺さないといけない気がしていた。
そうして私は朱里ちゃんと一緒に屋上に行った。
生徒会役員決めまであともう少しという時に村田が俺に話しかけてきた。村田は中間テスト前の日の昼休みに話しかけてきた。
「一輝くん、ちょと分からないとこがあって、これを読んで欲しいの」
差し出してきたのは、一冊の本。主なストーリーは殺人犯を捕らえるまでを描いたものだった。
「どこを読んで欲しいの?」
彼女は手を動かして線を引いている文字に向かって指をさした。
「この線を引いてるとこを読んで、筆者の気持ちを考えてほしいの」
書いてあるのは、“俺が和也を屋上から突き落として殺した”という内容。
「分かった。俺が和也を屋上から突き落として殺した。んで、多分だけど筆者は親友を殺してしまった犯人の罪悪感や寂寥感に悩まされている心情を書いたんだと思う」
彼女は最後まで何事も言わず話を聞き、その目はこの前の目と違い、優しく穏やかな目をしていた。
「ありがとう、何となく分かった気がする。最後にひとつ良い?」
「何?」
「“朱里ちゃんは何処?”」
朱里さんはいつも昼休みは確か図書室で勉強していたと思うが、話始めてから数分は経っているし、どうなんだろう。とりあえず伝えるか。
「いつもなら朱里さんは図書室で勉強しているよ」
「ありがとう、それじゃあ中間頑張ってね」
彼女はそう言って、図書室の方へ走り去っていった。
声に意識を乗っ取られてる間私は昔の事を思い出していた。思えば最悪な人生だった。私の家庭は由緒正しき武家の本家で、当然、私もそのような立ち振る舞いをしないといけない。嫌だったんだ。そんなしたくないことを長年続けていた。...でも、そんなときに朱里ちゃんに出会ったんだ。私の人生に必要な存在.....だったのに、彼女もまた、変わってしまった。私だけなのかな、“変わることを恐れて変わろうとしないのは”....今、それに答えられる者は 誰もいない。右手にはボイスレコーダー、左手には一冊のノートを持って、私は朱里ちゃんのところへ行った。
「朱里ちゃん。ちょっと話したいことがあるから屋上へ来てくれる?」
「うん、いいよ」
朱里ちゃんはすんなりOKしてくれた。ここから屋上まで歩いて三分、それまで話しながら歩こう。
「ねえ朱里ちゃん。好きな人っている?」
「....いるよ」
朱里ちゃんは少し恥ずかしそうに言った。やっぱり、朱里ちゃんは変わってしまったんだなぁ。もうその時点で彼女に抱いていた友情は殺意に変わる。恋とは人をダメにするものじゃないのだろうか。昔の朱里ちゃんを知っているから言えるが、あまりにも、それとはかけ離れていた。
屋上まであと二分
一方の俺は教室で今日の授業の復習を兼ねた予習をしていた。俺は数学が大好きすぎて、毎回学年一位を取るほどだった。....他のテストはさっぱりだけど...。
屋上に着くまであと1分
「その朱里ちゃんが好きな人って誰?」
やっぱり気になっていたのだろうか、それとも許せなかったのだろうか私にはこの感情が分からないでいる。だって“私は本当の私じゃないから”。朱里ちゃんは口を開いた。
「一輝くんだよ。」
あぁ、やっぱりだ。すべての元凶。朱里ちゃんを変えてしまったのはあのデブだったか。でも最後にこれだけは聞かないと
「なんで、好きになったの?」
これで、“最後”だから聞かせてよ。
「私ね、受験の時に来るのが遅かったでしょ?」
確かに、朱里ちゃんなら受験の時はもっと早く来るはずだ。彼女の記憶に少しだけある。
「あの時、自転車がパンクしてしまって、押しながら来てたの。その時に、一輝くんが、「それ、俺が押していくから俺の使ってよ」って言ってきて、何とか間に合ったの」
じゃあ、あのデブは何で来れたんだ?
「え?じゃああのd....浦本はなんでこの高校に入れたの?」
「一輝くんが教えてくれたよ。あの事を見ていた学校長が本来なら遅れるのはダメだけど、特別に受けさせたの。それで合格したんだって」
「それで私、好きになっちゃったの。見た目で人を判断していた中学の頃と違って、きちんと内面まで見ようとあの時思ったの」
「そうだったんだ」
すでに屋上には到着していた。そろそろ来るかな。
「それで、話って何?」
私は手からナイフを出した。私の力はあらゆる体の箇所から刃物を出せる。
「朱里ちゃん。ごめんね。死んで」
思いっきり彼女の胸にナイフを突き立てて、話す間もなく殺した。遺体をすぐに屋上から放り投げた。あとは.....明日が勝負の時だ。
俺はその時家に帰ろうと玄関まで来ていた。だからその光景を目にしたとき、走って逃げてしまったんだ。.....朱里さんが玄関前で血を流して倒れていた。誰がやったのか、俺は分からないでいた。だから明日このことを先生に伝えに行こう。そう思って寝ようと思ったけど寝れないでいた。
朱里ちゃんを殺した。この世でたった一人の理解者を殺してしまった。私の力をすごいと言って逃げなかった唯一の友達を殺してしまった。「親友を殺してしまった犯人の罪悪感や寂寥感に悩まされている心情を書いたんだ」うるさい!お前が朱里ちゃんを変えてしまったんだ。私の大好きだった朱里ちゃんを変えてしまったから私は....私は....ひぐっ....えぐっ。この家には今は私しかいない。解放されたらすべて終わっている。親も身内もあの事件で死んでしまったんだから。......辺りに響くのは私の嗚咽だけだった。
酷く寝不足な中、教室へ向かい、鞄をおろして、職員室へ向かおうとしたとき、村田と校長先生が現れた。
「浦本一輝くん。ちょっと話をしないかね」
何を話すのだろう。俺は昨日の事件を伝えるがてら校長室へ行った。
「単刀直入に言おう、君にはこの学校を去ってもらいたい」
...え?
「昨日、佐藤朱里さんが殺されたことは知っているかね。」
「...はい。伝えに行こうと思ったんですが怖くて行けなくて、でもなんで俺が退学になるんですか?」
そう、朱里さんが殺されたのと俺の退学は全くと言ってもいいほど無関係なのだから。
「これを」
渡してきたのはビデオレコーダーだった。再生してみると、「俺が朱里さんを屋上から突き落として殺した」という内容。しかも声も同じ。どういうことだ。俺はあの日、朱里さんの死体を見ただけのはずなのに
「え?なんで、俺の声で録音されているんだ?」
すると今まで何も話さなかった村田が、
「あんたのせいで、朱里ちゃんは....許さない」
と泣き出してしまった。今俺の頭の中はぐちゃぐちゃにかき回されていた。
「今日の放課後。また来なさい」
何かを察したかのような物言いで今朝の“話し合い”は幕を閉じた。
その日の授業はいつもより長く感じた。だが、時間というものは恐ろしく、時に優しい。この日だけはありがとうと伝えてもいいと思ったほどだ。あんなに長いと感じた授業も終わり、既に他のクラスメイトは教室を離れていて、俺と村田の二人だけがまだこの教室に残っていた。
「なあ、昨日、朱里さんと一緒にいなかったのか?」
いつも付きっきりの彼女が昨日に限ってなぜいなかったのか、俺はそれがずっと気掛かりでいた。
「いたわよ。だって.....“私が殺したんだから”」
驚きよりも先に言ってしまった。
「....そうか。何で殺したんだ?」
その瞬間俺の左脇腹に激痛が走る。俺は痛みで膝をつき、動けないでいた。
「もう.....いいや。朱里ちゃんごめんね。」
村田は泣いていた。ボロボロ大粒の涙を流して。一方、俺の血は止まらず、流れ続けている。確実に死は近づいていた。
「誰か私を殺してくれないかな」
独り言のように吐き出した声は俺にしか届かない。意識が飛ぶ寸前、聞えてくるのは、「あんたのせいで—―は—―ってしまった。」と泣きながらも怒りの感情を露わにさせた声。次の瞬間。意識が途絶えた。
デブが死んだ。朱里ちゃんも死んだ。親も死んだ。......もうこの世界に居場所なんて無い。(それなら、全員殺せばいいじゃないそしたら居場所なんてどこにでもある)またあの声に従うまま。私は校長室へ赴いた。涙なんて流さなくていいのに、悲しいはずないのに。私の力はある意味呪いなのかもしれない。人を傷つけることしか出来ないこの力なんて、要らない。大切な人を亡くした世界なんて要らない。私にああしろこうしろ言ってきた家族なんて要らない。私はすべてを切り捨てて一人になろう。感情さえ亡くした落ち武者のように独りでいよう。そうすれば、私は自由になれる。しばらくして、彼女が殺人鬼として恐れられるのは別の話。そして........。
意識が戻るとそこは白くて何もない見慣れない光景だった。
「起きたか」
知らない老人、そして口が無い⁉
「あぁすまん。今のおぬしは感情の揺れが激しくて、パニック状態になっておるもんで喋れないんじゃ。感情を落ち着かせれば自然と喋れるようになる。ほれ、このお茶でも飲んでまずは落ち着かせなさい」
出されたお茶を飲むと自然と体が暖かく感じて、口が生えてきた。
「ようやく落ち着いたか。実は少し前に目覚めてから暴れだしたもんで眠らせたんじゃついでに落ち着くまで口が無くなるようにもした」
心は落ち着いたが、聞きたいことが山ほどある。
「ここは何処だ?」「ここは楽園(エデン)じゃ」
「あんたは誰だ?」「ふむ、とりあえずおぬしたちからすれば神という存在じゃ」
「俺は死んだのか?」「ああ、村田美鈴の力、刀にやられて死んだのじゃ」
「力って何だ?」「この世界ではあまり知られていない。願いによってもたらされたものじゃ」
「もう気は済んだかのう?....そろそろ本題を話したいんじゃが」
俺はコクリとうなずいて見せた。
「普通ならおぬしは閻魔のところに連れていくんじゃが。あそこで暴れれば間違いなく地獄送りになるものじゃから。おぬしに二つの人生のどちらかを選んでもらおうと思ってな」
そう言って持ってきたものは、ボールくらいの大きさをした様々な色や形をした見たことのないものだった。
「まずは、おぬしに力を授ける。その手でおぬしが欲している力を選ぶのじゃ」
力か、気づくと小さい時の思い出が蘇ってきた。俺は昔から仮面〇イダ―に憧れていた。俺はどんな役でもきっちりこなせる俳優になりたい。でも、家族はそれを許してくれなかった。そんな体で俳優になれるはずがないと言われてあきらめた夢。だから俺が欲しいのは俳優みたいにどんな役でも演じ、時には本性を現す、そんな力が欲しい。すると、無色透明な丸い球体がこっちに向かって来た。
「ほほう、これを選ぶか」
「これはなんだ?」
「これは仮面という力でな、わしが作った代物じゃ」
仮面か、俺にピッタリじゃないか。
「だが、この仮面という力は願いによって発生した物と違い。ランクを上げていかないといけない代物じゃ」
「ランク?」
「言わば熟練度みたいなものじゃ。この力の場合、そうじゃなぁ.......まずはおぬしの体を鍛えんといけんのぅ」
「でも俺は死んだんだろ?」
そう、俺は村田に殺された。
「あぁそういえば言っておらんかのぅ。おぬしの一つ目の人生はもう一度、同じ人生を生きて、村田美鈴の呪いを解くことじゃ」
「呪い?」
「村田美鈴の力はある武将の願いによって発生した物、しかし、彼女はその力を欲していない。その場合力は行き場を失い、彼女の人格を捻じ曲げていく。そして、最後には、力に飲み込まれる。これが呪いじゃ」
なるほど、朱里さんを殺したのは村田じゃなくて呪いだったのか。
「呪いの浸食が進みすぎておる。おそらく、中学の頃から力が暴走しておるぞ」
「どうやって、呪いを解くんだ?」
「.....ちと酷かもしれないが聞くかの?」
俺はこの先を聞かないといけない気がしてコクリと頷く。
「彼女自身がその力を欲するか、“呪いに飲み込まれる前に殺すんじゃ”」
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