夢幻の少女は何想ふ

@gesseki

第1話

其れは、或る夏の夜の事だ

月明かりに照らされ、湖が輝く。空には星々が煌めき何とも形容し難い美しき夜だった。


 崖の上にて其の空を眺めて居た少女が一人。少女は美しき黒髪を風に靡かせ、只空を見詰めて居るばかり。其の横顔は、とても儚く哀しくて、空に勝るとも劣らない。

 何故、少女は此処に居るのだろうか。いや、此の様な質問は聞くだけ野暮なものだろう。不安など忘れてしまおうか。疑念など捨ててしまおうか。此の空に比べればとても小さなものなのだから。

 嗚呼、気付けば朝日が昇り来る。月明かりに照らされて居た湖も、今は朝日に照らされている。星々の煌めいて居た空も、今は星の面影が些か残って居るばかりで今にも消えてしまいそうだ。先程の少女も居ない。もう、戻ったのだろう。はて、何処に戻ったのだろうか。此の近くに其の様な場所は存在しないというのに。此れも亦、聞くだけ野暮なものなのか。


空は、幾つの姿を持つのだろうか

同じ空は、存在するのだろうか

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夢幻の少女は何想ふ @gesseki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ