ただいま
数十分後、ヒカリとヒカルの家の前に到着したカグヤは、玄関横の呼び鈴を押す。
すると、家の中から軽快な音が小さく鳴り響いた。
カグヤは眉尻を上げながら険しい表情を浮かべ、
(居ないはずない!)
そして、もう一度呼び鈴を押す。
しかし、玄関が開かれることはなく、静寂が返ってくるだけだった。
カグヤは不安そうな顔に変え、今度は玄関を強めに叩いていき、
「ただいま!」
数秒後、玄関が小さく横に滑っていき、狭い隙間が出来上がった。
そして、その隙間からヒカルが顔をのぞかせて、目を見開きながら、
「カグヤ!?」
「お父さん! ただいま!」
「あぁ、うん……」
ヒカルは目を横にそらしながら、気まずそうな雰囲気を漂わせる。
それから、硬い笑みを浮かべながらカグヤを見つめ、
「ごめんね。わざわざ来てもらって悪いんだけど、帰ってくれないかな?」
「え、どうして!?」
ヒカルは苦しそうに顔をしかめながら、
「俺たちじゃ、カグヤを育てるのは無理なんだ。いや、前みたいに一緒に過ごしたい気持ちはあるんだけど。でも、俺たちにも学生生活があるし、今でもギリギリっていうか。……カグヤと一緒に居たら、多分なにかが壊れると思う。だから、カグヤはイルミネートウィズライトムーンで生活を続けてよ。生きてくれ」
「わたしここがいいっ!」
「俺もだよ」
ヒカルは苦笑しながら家の奥に姿を消していった。
しかし、同時にヒカリが玄関の隙間からぬくもりを感じる顔をのぞかせ、
「カグヤ」
「お母さんっ!」
「どうしたの?」
「わたし、二人とまた一緒に過ごしたい!」
ヒカリは困った顔を浮かべ、頬をかきながら、
「……うん、私もだよ」
「えっ!? じゃあ――」
「ごめん、気持ちと現実は別なんだ。カグヤと一緒にいたら、何かを失っちゃう」
「何かって、なに!?」
「色々よ。……ほら、これを持っていきなさい。おにぎりと交換する前に捨てたり口の中に入れたりしたらダメだからね? それと、これも。お水に変えてもらえるから」
ヒカリは優しい微笑みをカグヤに向ける。
そして、しばらく苦しそうに顔をしかめて、
「……それじゃあ、元気でね、カグヤ」
ヒカリは玄関をゆっくりと横に移動させていき、隙間を完全になくしていった。
しばらく無言のまま玄関をまっすぐ見つめ続けるカグヤ。
そして、目から涙を溢れさせ、両頬を潤わせていく。
それから、顔をしかめながらその場にしゃがみ込み、
「うぅっ、うっうっ……うっぅっうぇっ、うぇっうぇううぇっ、うっうっうぇっ、うわぁうぇ、うっうっうっ」
そして、抑えられた泣き声を漏らしているカグヤの後ろを他の住人が半眼を向けながら、
(こいつ邪魔だなぁ。なにやってんだよ)
住人は無言のまま自分の家に早足で向かっていった。
それから数分後、カグヤが身に着けていたフォンダントが小さな軽い音を鳴らす。
カグヤは握っていた引換券を強く握りしめ、フォンダントを起動させていく。
ハルナ:『気が済んだかな? 早く戻ってきなさいね』
カグヤは
(わたしはいらない子? ……わたしの居場所はどこ?)
カグヤは虚ろな目をしながら立ち上がり、弱弱しい姿で集合住宅地から離れていった。
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