秘め事

 ヒカリとヒカルは人が二人住めるほどの広さの部屋に腰を下ろした。


 ヒカリは部屋の隅に置かれた赤ん坊の着物を見て、


「あれ、光らなくなってる?」


「部屋が明るいからじゃないかな? 暗いときに光る機能なんだよ」


「うーん、技術の進歩はすごいね……って、あれ? なんかこのお人形ちょっと大きくなってない?」


「姿勢がまっすぐになったからじゃ?」


「えぇ、そうかな?」


 ヒカルは赤ん坊に近づいていき、両脇を掴んで抱き上げ、


「よしよ――あれ、重くなってる!?」


 顔を歪めながら赤ん坊を床に放り出すヒカル。


 ヒカリは硬い笑みを浮かべて肩をすくめ、


「そういう機能じゃないの?」


 赤ん坊は親指を咥えながら目の両端から静かに涙を流していく。


 ヒカルは目を見開きながら後退し、


「違う! こいつ、生きてる!」


「ように見えるだけの機能でしょ?」


 ヒカリも赤ん坊を優しく抱きかかえ、


「あれ、重い……よしよーし。って、臭っ! ……漏らしてる!」


「それ機能じゃなくて、本物だって!」


「えっ、そんな!?」


 ヒカリとヒカルは静かな視線を赤ん坊に固定させ続けた。


 ヒカリは慌てた様子で語気を荒くし、


「生きた赤ちゃん拾ってきちゃったの!?」


「どうする!?」


「というか、なんで竹の中に!?」


「知らないよ! とにかく、元の場所に戻そう!」


「それって、罪にならない?」


「分からない!」


「インターネットで、助けを求める?」


「それもダメだろ! 俺たちに責任がついてしまうから、秘密にした方がいい!」


「じゃあ、赤ちゃんを託せる場所。えーっと、赤ちゃんポスト!」


「それだ!」


 ヒカルがペンダント型端末に触ると、眼前に長方形の映像が映し出される。

 そして画面を指で押していき、


「赤ちゃんポスト、近くにないんだけど!?」


「一番近いところでいいから!」


「分かった!」


 ヒカルは再び映像を押していくと、ペンダント型端末から女性の音声が流れ、


『はい、こちらウォッチングカンガルーです。本日はどうなされましたか?』


「あのっ、すみません、子供を拾ったんですけど」


『……詳しくお話を聞かせてくれませんか?』


「山の中へ肝試しに行ったんですけど、そこで光る竹を見つけたから切ったんです。そしたら、中に赤ちゃんがいて。最初は作りものだろうと思って持ち帰っちゃったんですよ。そうしたら、生きてる赤ちゃんで……」


『あー、なるほどー。そういう話でしたら、一度警察に行ってみたり、もしくは私たちも確認したいので、こちらにご訪問していただけませんでしょうか?』


「えっと、分かりました。すぐには無理なので、後日伺ってもよろしいですか?」


『はい、お待ちしてます。できるだけ早くお願いしますね』


「はい、ありがとうございます! 失礼します!」


 ヒカルはため息を漏らしながら親指を立て、


「とりあえず、解決への道が開けた」


「よかったー。とりあえず、その子に食事させなきゃ」


 ヒカルとヒカリは粗削りな育児を施し、眠りについた。

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