第132話


「さて、ハニートラップがあまり効果が無かったようだから、私達は次の作戦に出たわ。」

「でも私とエルはその作戦の必要性に疑問だった。」

「そーそー。私達は魔族の能力を持ってるんだから、人間相手に作戦なんてわざわざ立てる必要あるとは思えないよね。」


セイラ、ルカ、エルが再び話を続ける。


「それで勇者様を直接誘拐しようとしたわけね。」


ルーシーが受ける。


「その方が手っ取り早いし、まどろっこしいことをやらなくてすむでしょう?」

「でも誤算だった。ルーシー強すぎ!」


ルカとエルが素直に白状した。


「これで入念な作戦はやっぱり必要ということも分かったわね。そこでルカとエルには元々の作戦を実行してもらったわ。」

「元々の作戦ってなによ?」


セイラにルーシーが尋ねる。


「勇者ちゃんの前で死んで見せて、勇者ちゃんの心を折ることよ。」


セイラの言った作戦がいかに俺に効果があったか、言うまでもないだろう。

ルカ、エル、キシリア、ミネバの死にどれだけ吐きそうになったか。


「なにあれ、演技だったの?エルなんてルカに謝らなきゃー、ルカの所に早く行かせてよー!って泣き叫んでたじゃないの?」


ルーシーが呆れる。


「半分は本当だけどねー。死んだらルカが先に来ているここに戻って来れるんだし。」


エルが答える。

そういう意味かよ。唖然だ。


「私達は予備の体をこのベッドに寝かせて置いておいたの。記憶を思考のリンクで共有して本体の体が灰になったとき自動的に切り替わるようにしてね。ニナが戻って来た時もビックリしたけど、まさか自分も使うことになるとは思わなかったわ。」


ルカが続けて言ったが、クリスの予想通りとはいえ驚くべき能力だ。

この能力に俺達はずっと振り回されていたというわけか。


「反撃されるとは思わなくて油断しちゃったんだっけー?もうあんま覚えてないわー。」

「私とフラウが頑張ったんだよ。生きてるなんてぜんぜん考えもしなかったよ。」

「おかげで私はずっとここで待機の暇人だよー。」


ニナが初めて会話らしい会話に入ってきて、クリスが返答した。


「そうそう。キシリアがルカとエルの死を認めなくって最初焦ったよ。死んでないことは絶対禁句だったからねー。にゅふふ。」

「わたくし嘘が苦手なもので・・・。」


ミネバとキシリアが思い出したように言ったが、クイーンローゼス号のラウンジでルカとエルの死を伝えたとき、キシリアが信じないと言ったのをミネバが折れる形で間に入ったのも、ちゃんと理由があってのことだったのか。


「それで?あの白い竜との共闘作戦はどこまで本気だったの?」


ルーシーがミネバについでに尋ねる。


「あー、あれはあたしとルーシー、キシリアと勇者のペアさえできればなんでもよかったから利用させてもらっただけだよ。ホワイトデーモンがリーヴァのために残されてたってのは気付かなかったから悪いことをしちゃったのかなー?まあいいか。」

「勇者さん達とご一緒して、情を育めば作戦の効果が一層引き立つだろうというセイラさんの計画でした。思っていたより長い時間お休みを頂いて、一緒に居られたのは、わたくしにとって嬉しい誤算でした。」

「思わずあたしまで情が湧いちゃったよ。にゅふふふふ。」


ミネバ、キシリア、そしてミネバが答える。


「なるほどねー。わりと私もショックだったわよ。」

「作戦は成功だったわね。そのわりにはミネバに冷淡だったようだけど?」

「そりゃそうよ。勇者様が狙われてると知ったからにはね。」


ルーシーにセイラが突っ込む。


「演技と言えばキシリアの最後の言葉も大した役者だった。喪失感で抜け殻になったようだったよ。」

「ありがとうございます。と、言うべきなのか分かりませんが、わたくし嘘が苦手なもので、演技というわけでもないんですよ?」

「そうなのか?」

「だって、この能力、ニナさんの一件で有効だと分かりましたけど、自分が使うのは初めてでしょう?それは生きた心地はしません。」


俺にキシリアが応じる。

そうか。ぶっつけ本番。もしも能力が効かなかったらという不安はあって当然か。


「そうだよ。怖かったんだから!」


エルがルーシーに口を出した。


「勝手に立てた作戦で勝手に怖がられても、やらなきゃいいじゃないとしか言えないわね。」


ルーシーは冷静に返す。


「ということは、キシリアの言ったどちらでもない場所というのも、死んだ扱いで観覧席に付いたことだったのか?」

「そういうことになりますね。」


俺は膝から力が抜けるのを感じた。

なんだ、そうだったのか・・・。俺はてっきり・・・。


「そういう訳でキシリアの死が勇者ちゃんにガッツリ効果あったから、最終手段、マリアの暗示による勇者ちゃんの取り込みをやることになった。」

「私は島に幻の街を作り、そこでみんなの夢を実現させるようにしたの。」

「ルーシーだけが悪者という事にして勇者君と離反させて、私達の仲間になってもらおうと。」

「結局ルーシーには効かずに失敗だったけどねー。」


セイラ、マリア、ファラ、カテジナが吐露する。


「キシリア似の女性なんかが居たのは、君達のことを俺に思い出させるためだったのか。」

「まー、見た目は幻だったけど、声はあたし達が出演してたからあたし達本人と言えなくもないんだけどね。」


俺の疑問にミネバがとんでもないことを言った。


「え?あれやっぱりキシリアだったのか!?」


しかもみんなで会話を聞いていたというのか!?なんか恥ずかしいことを言ってしまっていたような気がして赤面する思いだ。


「え?あれセイラだったの?」


クリスも赤面している。


「あんた達なにやってたのよ。」


ルーシーが冷たい視線で俺とクリスを見る。


「勇者さんに仲間になってもらいたいと言っていただいて、わたくしとても嬉しかったです。そのあと死ぬ死ぬ詐欺をしてしまいましたけど。」

「あれはちょっと酷かったわね。」

「わたくしの意思じゃないんですー。幻の島が事象を操っていたので、まさかルーシーさんがあそこに居たなんて思いもしませんでしたし。」


キシリアにルーシーが突っ込み、弁解するキシリア。


「マリアも私を悪者はともかく、悪魔呼ばわりは酷かったんじゃないの?」

「ごめんねー。でもファラが読んだ日記に書いてあったんだもん。」

「日記?」

「魔王の城に居たとき、上の部屋の一室でルーシーが来る以前にチラッと見たらしいの。」

「あー・・・。そういうこと。」


ルーシーとマリアが話すが、俺には初耳だ。


「ホント、惜しいとこまで行ったのになー。」

「うん。私達まで幻の街の住人になってたのはやり過ぎだったのかもね?幻の街の高低さのマジックに引っ掛かって翻弄されちゃった。」

「しょーがないじゃん。私らだけ演技なんて出来ないし。体は幻だったキシリア達とは違って、私らは生身であそこに居たんだし。」


マリア、ファラ、カテジナが思いに耽っている。

俺もルーシーに剣を抜いていたのを思い出して冷や汗が出てくる。

まさにあれが、セイラやマリアの仕組んでいたシナリオだった・・・。


「私達結構仲良くできそうだったのにね。」

「そうだよー。よく知らないけどケーサツ役もバッチリ決まってたでしょ。」

「マリアの妄想の世界にゃ困ったね。実際にあったら住んでみたいけどね。」


ルカ、エル、ミネバもうんうん頷きながら思慮を巡らせているようだ。



「そういうわけであなた達もここを探せなくってゲームオーバーになったけど、ある意味私達も勇者ちゃんを引き入れることができなくてゲームオーバーになったというわけね。」

「じゃあ、三番星や一番星で言ってたのは自分自身のことだったの?」

「そうよ。私達のこの作戦は勇者ちゃんを味方にすることが目標だったけど、リーヴァの方は違ってた。リーヴァはルーシーの弱点である勇者ちゃんは殺してしまえばいいという考えだった。だから私達の作戦が上手くいくのならそれでよし。もし失敗したら、今度はリーヴァのやり方で勇者ちゃんを処理するという約束になってた。」


セイラとルーシー、そしてセイラにより、恐ろしい事実が明かされた。


「俺とクリスがリーヴァに差し出されたのはそのためか。」


俺は唸るように呟く。


「よく生きて帰ったわね。クリス。」

「うん。頑張った。」


セイラは優しい目でクリスに話しかけた。


「それでリーヴァに聞いたわ。なんでそうまでしてルーシーの弱点を探そうとするのかをね。そしたらねー。」

「分かったわ。話は終わりよ。先に進ませてもらう。」


セイラの言葉を遮るようにルーシーは奥へ続く洞窟の通路を歩きだした。


仕方なく俺とクリスも後を追う。


「気を付けてねー。」


セイラが俺達を案じている。

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