第131話


あの後ビコックは船を降り、昼食をそのままいただいてから昼過ぎになって町を出た。

とんぼ返りの旅の途中、ルーシーにリーヴァとの戦いの細かな部分を聞かれた。

近付けば消滅してしまう能力。剣だろうが矢だろうが、近付ける事ができなければ一方的な遠隔攻撃にこちらからはどうにもできない。

どうやって攻略するのか?


それとルーシーはフラウに俺とルーシーの解毒の施術を頼んだようだ。

海の水で洗った野菜の矢。火で炙ったものの、何かの成分が海の水にまだ含まれていないとも限らないから。


捜索の内容は簡単に紹介だけしよう。


クイーンローゼス号は一番星沖合いに停泊。

魔物の住む三角地帯には入れないからだ。

できるだけ満潮時を選んで2槽の救命艇で中央付近にあるであろう海底火山の噴火口を目指す。

その時、救命艇とはいえ暗礁に乗り上げると大破してしまいかねないので、2人の人間がガラス玉のダイバースーツを着て海に潜り、海底を見ながら救命艇を先導する。

これは男連中が順番に行うことになった。

クリスは水に潜りっぱなしでも大丈夫というので、魔人の変化能力で入り口を閉じられてないか見るためにずっと捜索に入ってもらった。

結局クリスの力を借りてしまわなければならないのは申し訳ない。


ルーシー、ルセット、フラウは食事などのサポートをしてもらった。


2時間交代で空気が切れるのでそこで休憩、首飾りにならないよう濡らした布を被せて空気をボンベに補充する。


中央付近を捜索し、そこから螺旋状に近海を船を泳がせる。

かなり広い範囲の捜索だ。元の大きな島は1辺150キロメートルはある三角の島だったことになる。

ぐるぐると何周か回って海底を探る。


ベラやビルギットが言う通り、底はゴツゴツとした岩で覆われ満潮と思えないほど近い。

こんなところを大きな船が通れば、深く船底が沈むであろうし、危険極まりない。


捜索開始2日目の昼近く。

何回目かの休憩で救命艇の上でぬるい紅茶をポットからいただく俺。


「どうだった?」

「まだなんとも。海底の美しさだとか、驚異だとか、そういうのは感じられて退屈はしないが、長丁場ではさすがにキツイな。」


ルーシーの言葉に思ったままを口に出す。


「魚もいねーしな。」


モンシアが割って入ってきた。


「遊びに来たんじゃないからな。」


アデルはもう1つの救命艇から声をかけた。


「今日中に終わるかしら?」

「どうでしょうね。広い場所ですからね。」


ルセットとフラウも今後のことを考えているようだ。

もし噴火口が見つかれば、それはかなりの確率でリーヴァのアジトに繋がっている可能性が高い。そうなればその時点で最終決戦が始まるということだ。

リーヴァの他にセイラ達10人だってまだいる。

どんな戦いになるのかは想像もできない。




その時クリスが救命艇に血相を変えて上がってきた。


「勇者!大きな穴が見つかったよ!」


「何だって!」

「マジか!見つかったのか!」


色めき立つ俺達。


「やっとここまで来たわね。最終決戦。間近ね。」


ルーシーが感慨にふける。

潜っていたアレンとベイトも上がってきた。


「でっけー大穴が開いてるぜ!」

「奧が見えません。相当深いようです。」


二人の言葉を聞きながら救命艇に上げる俺達。

これからのことは何も決まってない。どうするつもりだ?ルーシー。


「ベイト、モンシア、アデル、アレン、ルセット。みんなここまで付いてきてくれてありがとう。そもそも魔王の娘の捜索する任務は私達特別捜査室のやるべきことだった。それをここまで危険を省みず手伝ってくれて、本当に感謝してるわ。」


ルーシーが改まって発言する。


「よせよ。それを言うならこのスタリオンの領地の問題をコミットしてくれたのは大助かりだったぜ。」

「私達だけではとても問題に対処できなかったでしょうね。」


アレンとルセットが返す。


「今さら他人行儀は無しですよ。これは俺達の仕事でもある。」

「そうそう。気にすることじゃねーぜ。」

「まさか、あんた、一人で行くつもりなんじゃないだろうな?」


ベイト、モンシアもルーシーに答えるが、アデルは意図に気付いて突っ込んだ。


「私と勇者様、クリスの3人で行くわ。どちらにしろダイバースーツは2人分しかないし、どこまで続いているかも分からない。」


そういえばそうだ。潜れるのは2人。

みんなハッとして顔を見合わせる。


「そんなー!危険過ぎますよー!」


フラウが嘆くが他にどうしようもなさそうだ。


「大丈夫大丈夫。30分で帰ってくるから。」

「どこまで続いているかも分からないと言ったばかりじゃないか。」


ルーシーがあっけらかんと言うが、矛盾しているぞ。


「任せる以外ないでしょうね。空気を補充しておくわ。ベイト、アレン。ダイバースーツを貸して。」


ルセットは心が決まったようだ。

顔を見合わせるアレンとベイトだが、やはりそれ以外無いと諦めスーツを脱いで寄越す。



「一時間潜っても見つからないようなら絶対に引き返して来てよ?」


ルセットに念を押され、ダイバースーツに身を包んだ俺とルーシー、クリスが海底に入っていく。


「どうぞ!どうぞご無事で!」


フラウの必死な激励が俺達の背中を押してくれる。

俺はただルーシーを信じてこの道中を進むだけ。今までと同じように。


『ホントにおっきい穴ねー。』


ルーシーが通信装置で話す。

海底に直径400メートルの大穴が開いている。ゴツゴツとした岩に囲まれ遠くからでは判別できないみたいだ。

そして、どこまで続くのかというほどの底の見えない暗闇が大口を開けて俺達を今か今かと飲み込もうとしている。

魔物の口と言われたら信じてしまいそうだ。


「勇者怖いの?」


入り口でたじろいでる俺を追い越してクリスとルーシーがその中に入っていく。


「ちょっとは怯えたりとかは無いのか?」

『時間がなくなっちゃう方が怖いわよー。』


それもそうだな。とルーシーの言葉に納得して俺も大口へと急いだ。



中はパイプのように真下に伸びた海底洞窟だった。

しばらく進むと横に広がっている場所がある。

そこをさらに泳ぐと頭上に光が見えてきた。


こんな洞窟で光?


『どうやら着いたようね。』

「ここがセイラ達の居るアジトなの?」


光を目指して泳ぐと、水面に頭を出せた。

横穴に空洞がある?

水から出てダイバースーツを脱ぐ、首飾りになったガラス玉とともに乾いた地面に置いておく。いつもの服と腰にロザミィの剣を下げる俺と、肩に同じくロザミィの剣を掛けるルーシー。メイド姿のクリス。


周囲を見ると広い洞窟の空洞があり、そこには天然の洞窟以外のものは・・・。

あった。

洞窟の奥の壁に不自然な人工物の扉が備え付けられていた。


「これ。」


扉に近付く俺達。

クリスが言うまでもなく、セイラ達が造ったものだろう。


「入ってみましょうか。」


構わずルーシーが扉を開ける。

そこには狭く曲がりくねった洞窟が続いていた。

ホッと息を吐く俺。

だが、セイラ達がここに居るのは間違いない。

俺達は慎重に洞窟を進んでいく。


やがて人が通るのにちょうど良い広さの洞窟に出て、その横穴に光が見えてきた。

話し声も聞こえる。

俺は緊張が走った。


ついに来た。

セイラ達の住むアジトに。


ルーシーに続いて角を曲がりその部屋へと足を踏み入れる。


「あーら。ルーシー、勇者ちゃんにクリス。よくここが分かったわね。」


セイラの第一声が俺達を迎える。


「ついに辿り着いたわよ。少々時間はオーバーしちゃったけど。」


それに答えるルーシー。


何の変鉄もない洞窟だ。そこにバラバラに屋根付きのベッドが10台置かれている。

ゆえに広さはかなりある。

そのベッドの縁に腰掛けて、人間の姿のセイラ、ルカ、エル、ミネバ、キシリア、マリア、ファラ、カテジナ、ロザミィ、ニナが俺達を迎えるように座っていた。

皆下着姿でまさにベッドでくつろいでいるという様相だった。


「それで?あなた達、どうするつもり?リーヴァの居場所まで通させないよう襲って来るってなら、受けて立つけど。」


ルーシーはセイラ達を挑発する。

能力が制限されているとはいえ、こも数を一度に相手するなんて無茶だ。

勝機があるとは思えない。


「アハハ。やめとくわ。リーヴァはこの先の洞窟に居るから会いたいなら勝手に会ってきたら?」

「急に聞き分けが良くなったのね。どういう風の吹き回し?」


セイラは事も無げに手を引く。ルーシーも疑問のようだ。


「リーヴァがあなたのこと何も言わないから無理に聞き出してみたわ。うふふふふ。そりゃー私達がどんなに挑んでも勝てないわけね。」


セイラは含みのある顔でルーシーを見ている。

どういうことだ?セイラ達が勝てないことに理由があるのか?


「ねえ、どうしてみんなこんなことしたの?何が目的だったの?」


クリスが前に出てセイラ達に問う。

確かに不自然な行動が多いような気がする。

何故ルカとエル、ミネバとキシリア、マリア達もセイラも。俺達の前で死んでみせたのか。

予備の自分が残っており、死んだわけでないなら、わざわざ悲痛な死に様を俺達に見せる必要がない。


「何って、言ってあるでしょう?ルーシーの弱点を探すためにあのゲームは用意されたのよ?」

「私の弱点ですって?」


さらに堂々とセイラが言うが、要点を得ない。

ルーシーがくってかかる。


「そうだよー。ルーシーお姉さんの弱点を突くために長い作戦が用意されたんだよー。」


ロザミィが入ってくる。


「私に弱点なんてないって言ったでしょう?」


ルーシーがロザミィを見る。


「えー。あるよー。だって一番星で私が負けたあと、ルーシーちゃんの弱点見っけーって言ったでしょう?」


ルーシーも俺もクリスも、すぐには思い出せないでいる。

が・・・。思い出した!


「まさか・・・。勇者様と私達が離れ離れになるとき、私がヘロヘロになって倒れ込んだこと!?」


まさか!?ルーシーの弱点・・・、それは、俺!?


「あのときのこと!?冗談みたいなことだったのに!?」


クリスも驚く。


「そうよ。ルーシーを弱体化させるには勇者ちゃんをルーシーから切り離せばいい。それが私達が真面目に考えた方法だった。」

「それで私達が最初に行動に移したのが・・・。」

「温泉で混浴作戦ー!」


セイラ、ルカ、エルが続けて言った。


混浴作戦!?


「勇者ちゃんを私達の魅力で悩殺して私達に興味を向けさせる・・・。いわゆるハニートラップ、というやつよ。」


ハニートラップ!?まさか、まさか・・・。あのときのやった宝探しゲーム・・・。

セイラ達に何のメリットがあるのだろうとずっと疑問に思っていた。

妙にみんなが俺に触れ合って来たという感じはした。

ルカに肩車したり、エルがやたら俺に密着して支えたり、キシリアとミネバも滑りやすい沢とはいえ、妙に俺に突っ込んで来ていたし、マリア達も下半身を露にして迎えてくれた。


おかしいと気付くべきだった!あれは全部わざとか!!


そして二番星に着いて、急にロザミィが尻を見せたり股を見せたりしていたのも、赤い風船を見張って行動できなかった、その時のノルマを遅れて実行したというわけか!


「でもこれは失敗だったわ。勇者ちゃんはルーシーやクリスから目を離さない。」

「あたし達の裸を見ておいてスルーとは、なかなか酷いことをしてくれるじゃないのよ。」

「わたくしも残念でした。勇者さんともっと一緒に居れると思いましたのに。」


セイラ、ミネバ、キシリアが言う。


「でもキシリアにはそれなりに興味を持ってくれてたみたいねー。勇者ちゃん。」


セイラがニヤリと冷やかす。


「そんな・・・。」


照れるキシリア。


「そうか、そうか。皆が俺に多少好意を持ってくれているような気がしたが、あれは全部俺を騙すための演技だったというわけだな。そんな上手い話なんてあるわけないよな。」


俺はちょっと拗ねた。


「それは違うよー、勇者君。私もファラもカテジナも、みんなだって勇者君のこと気になってるのは本当だよ!」

「そうだよ。勇者君カッコいいもん。それに恩人だし。」

「表も裏も目的が一致したってだけだから!じゃないといくら私らだってそんなことやりたくないし!」


ちょっと顔を赤らめながらマリア、ファラ、カテジナが訴えた。


「おーおー、好かれてるのね勇者様。嬉しい?」


ルーシーが俺を冷やかす。


「まあ、少し。」

「勇者、簡単にハニートラップにかかりそう。」


手のひら返しで浮かれた俺をなじるクリス。


「みんなはいろいろできていいねー。」


話に入れないニナが寂しそうに言った。


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