43、魔王の娘
第130話
金髪のルーシー43、魔王の娘
俺達は勝利の祝勝会を兼ねて遅めの昼食をラウンジで集まって食べることになった。
1つめのテーブルには俺、ルーシー、フラウ、クリス。2つめのテーブルにはベイト、アデル、モンシアが。3つめのテーブルにはアレン、ルセット、ビコックも来ていた。4つめのテーブルにはベラとビルギットが参加してくれた。
食事は船員達が運んでくれて、俺達の前には豪勢とは言わないがそれなりの量のものが並べられた。チキン、サラダ、スープ、いつものバゲットサンド。
「さあーさー、今日は特別だ!みんな食べてくんな!一万ものモンスターを相手に1人で!それも無傷で撃退した英雄の誕生を祝して!今までの労を労う慰労会も兼ねてちょいとゆっくりしようじゃないか!」
ベラの言葉で会は始まった。
「さすがのアタイも今度の今度はあんたの正気を疑っちまったよ。始まる前は取り囲まれて袋叩きにされるかと思ったけど、まさかこっちが追い回して一匹残らず片付けることになるなんてね!」
満面の笑みでさらに続ける。
「いやー。素晴らしい。私も見てましたが町でも大騒ぎになってますよ。不安と恐怖で固唾を飲んで見守っている所にいきなり光の渦。唖然として何が起こったのか理解できませんでしたね。それからはむしろお祭り騒ぎで興奮冷めやらぬという状況で。こりゃあ明日には他の町まで噂が広まっていますね。モンスターの登場も冗談かと思いましたが、それをいとも簡単に撃退とは恐れ入りました。ホントに冗談みたいな話です。いや、失礼。」
ビコックも興奮している。
今の話が本当なら、とんでもないことになりそうだ。
「困ったわねー。そんなに噂になりたくなかったんだけど、こうするより他になかったしねー。」
ルーシー本人は困惑している。
「まったく、とんでもねー女だな!あんたは!」
モンシアがさっそく酒を飲みながら上機嫌で叫ぶ。
「いったいどんな魔法を使ったんだ?そろそろタネを明かしてくれよ!」
アレンもさすがに酒が入って上機嫌だ。
「これだけの腕があったのなら、今までだって何らかの活躍はしていたんでしょう?あなたのことを聞かせてよ。」
ルセットはルーシー自身にも興味があるようだ。
「それはそうですね。今までそんな人物が居たなんて聞いたことがない。どこでなにをやっていたんですか?」
ベイトも聞き始める。
俺もそれは知りたい。いったい君は何者なのか?
「浮かれているところ悪いんだけど、私は今後のことが気になってる。」
ルーシーはそれらに取り合わず、独自の話を切り出してきた。真面目な顔で。
「さきも言ったけど、このモンスター襲来はリーヴァの作り出した黒い霧から生み出されたものだと思うの。それが真実ならこれが最後ではないかもしれない。」
ルーシーの言葉に浮かれた雰囲気がピリッと締まる。
「一万ものモンスターを一度に生み出せるリーヴァの黒い霧。もしかしたらあと数時間後にさらに倍のモンスターが襲って来る恐れだって無いとは言えない。」
むしろゾッとして背筋が震えそうな思いだ。
「これはメッセージだと思うの。リーヴァを放置していたら同じことを起こすという、私達へのメッセージ。だから私達は奴の手の内へともう一度行かねばならない。」
俺とクリスを逃さないという意思の表明というわけか。
「確かに、再びいつ襲って来るとも分からない、その時ルーシーがここに居るとも分からない。それじゃあ安心して生活はできないね。」
ベラが話を飲み込んだ。
「決着をつけねばならない。というわけか。どういう形にしろ。」
俺が呟いた。
「そんな。罠だよ。行ったってやられちゃうよ。」
クリスが怯えたように口出した。
俺ももうあんな思いはしたくはない。クリスを失うようなことはできない。
「海辺の町全土を人質に取られたようなものですね。恐ろしいことです。」
フラウが言った。
一同騒ぎから一転して沈黙に染まる。
行かざるを得ない、だが、行って何ができよう。
沈黙の中、フラウがさらに続けて言い出した。
「そう言えばアレンさんが言っていた海域の魔物のことも分からず終いでしたね。出くわさなくて良かったです。」
「あー、あれかい。」
フラウの言葉にベラが答えた。
「あははは。あれは最初に一番星に着いたときに正体が分かったよ。」
ベラの言葉に一同がベラの顔を見る。
「あれ?勇者君には言ってなかったかね。」
「俺は何も聞いてないぞ。」
驚く俺。
「言っただろ?あそこの3つの島は魔物の手のひらだって。」
なんか聞いたような気もするが、それが何だというのか?
「魔物の指じゃない。3つの島が向かい合って崖になってるが指みたいに見えるだけじゃない。あそこは手のひらの上なんだよ。」
要領を得ない。何の違いがあるんだ?
「あそこは引き潮になると浅瀬になるんだよ。他の外海と違ってあそこの三角地帯だけ暗礁が敷き詰められている。」
ビルギットが答えてくれた。
「そう。あんな海域に入っちまったら暗礁に乗り上げて、船底が大破、沈没しちまうよ。だからアレンのじいさん達は魔物が居ると例えてあそこの海域には近付かないようにしてたんだね。」
ベラが付け加える。
「へー。」
「なんだ。化け物が居たんじゃないんだ。」
感心するフラウとつまらなそうに言い放つクリス。
「そういうことだったのか。じゃあ魔物とはぜんぜん関係無かったってのか。」
呆れるアレン。
魔物が居そうな島ということでこの捜索が始まったんだったな。
ふーんと、一同が関心もなく感心していると突然ルーシーが立ち上がった。
「温泉!温泉!温泉よ!!なんで気付かなかったの!?」
あまりの急な大声にぎょっとしてルーシーを注目する一同。
温泉?
「なんであんなところに温泉なんて湧いてるの?温泉があるということは、地下水が熱されているということ!地下水が熱されているということは地下にマグマが流れているということ!!」
まあ、確かにそうかもしれないが。
「マグマがあるということは火山があるということ!一番星で最初に見た大きな岩、何か不自然だと思ったのよ!砂浜に大きな岩、これどこから涌いてきたのかって!地面からにょきにょき生えてきたわけじゃないわ!降ってきたのよ!原生林にもあちこちに岩が落ちていた!」
何を言わんとしているのかちょっと分かりかけて、俺達は体が固まっていく。
「一番星、二番星、三番星、あの3つの島はもともと一つの大きな島だった!何百年か前に大きな島の火山が爆発して跡形もなく吹き飛んだ、そこが浅瀬になり、特に一番星にその破片の岩が降り注いだ!噴煙と灰が周辺を覆い微生物が死に絶え小動物が滅び、それを餌にしていた鳥や魚も寄り付かなくなった!」
なんてことだ!俺達が見てきたものが全て繋がっていた!
「ああ、まさか、ルカとエルのヒント2は、単純な地震のことではなく、その大噴火のこと・・・。」
「そうよ!私達が探すべき場所は三角地帯の真ん中、海底の地下洞窟!火山の噴火口!」
ルーシーの言葉に一同唖然として聞き込んでいた。
やがて立ち上がるベラ。
「もう一度行ってみるしかないようだね。覚悟はいいかい?」
「行きましょう!」
「そうこなくっちゃ!」
「スッキリできそうだ。」
ベイト、モンシア、アデルが。
「やってやろうじゃねーか!」
「最後の戦いになりそうね。」
「今度は期待できそうですね。」
アレン、ルセット、ビコックが。
「大陸の命運がかかっています!」
「服取ってこなきゃ。」
「勇者様?」
「もちろんだ。決着をつけよう!」
フラウ、クリス、ルーシー、そして俺が。
最後の船旅に出ることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます