第125話


「ちょっと待って。一斉攻撃って誰が攻撃してくるっていうの?もう残ったのはリーヴァただ一人のはずよ。」


ルーシーがロザミィの言い残した言葉を反芻する。


ハッとする俺達。


ロザミィの衝撃的な最期に気をとられていたが、確かに意味不明な言葉だ。


いったい誰が・・・。


その時北側の空からバサバサと羽の音が聞こえてきた。

ハッと見上げる俺達。


まさか・・・まさか・・・そんな・・・。



北の空に10体の飛行体の影が見える。

旋回し不気味に空を舞う。


俺達はただ呆然とそれを見て立ち尽くしている。

ハーピーの姿。青い肌白い髪、腕が翼と一体となり、下半身は鳥の脚と鍵爪。

俺達が船上で襲われた最初のセイラ達の姿だ。


やがて一体が降りてきて青い肌のままの人間の姿になり、俺達の近くに着地する。

それを追いかけるように残りの9体もそばで空中に翼を羽ばたかせながら滞空している。


「あーら。もう覚悟はできたの?ゲームはもう終わりよ?」

「セイラ・・・!?あなたなんで・・・。」


肌の色が違うが間違いなくそれはセイラだ。

ルーシーが正面に立ちながら驚いている。

飛んでいる9体も間違いない、マリア、ファラ、カテジナ、ミネバ、キシリア、ルカ、エル、そして今目の前で自害したばかりのロザミィ。それに俺の知らない顔が一人。


「ニナがどうして?」


クリスが呟く。

そうか、クリスとフラウを町で襲った相手か。


「言ったでしょう?私達は不滅って。」


セイラが不適に笑う。



この状況・・・。確かに恐ろしく不可解であるし、絶体絶命の決死の状況だ。

だが、俺の中に安堵し喜んでいる感情があった。


みんな生きていた・・・。


「アハハ。勇者が涙目になってるー。」

「私達が怖いのかしら?」

「にゅふふ。違うでしょ。喜んでんのよ。」

「勇者さん、騙して申し訳ありませんでした。」

「ルーシーもビックリしてるねー。」

「そりゃあそうだよ。せっかく倒したのに生きてるんだもん。」

「こっからは私らの反撃開始だよ!」

「待ちくたびれた・・・。」


口々に言葉を放つハーピー姿の魔人達。


「もう準備はいいの?ルーシーちゃん?」


クリスに体を変化されて自分では変身できないはずのロザミィがハーピーの姿になっている。

これはどういうことなんだ・・・?


「あんた達・・・。どういうわけ?」


ルーシーの言葉に怒気がこもっている。

俺も半ば喜んでいる場合ではない。セイラ達が束になって襲ってきたら俺達など一捻りで全滅してしまうだろう。

それを考えて身震いをしてしまった。

目の前で自害したロザミィ、何故か生きていたセイラ達、感情も思考もぐちゃぐちゃになって頭の中が真っ白だ。

喜びと恐れと不可解さと、とにかく訳が分からないまま立ち尽くして何も手が付かない。



「これで最後にしましょう。残念だけどゲームオーバーよ。」


セイラが冷たく言い放つ。

そして再びハーピーの姿に戻り空中へと飛び上がる。

それを期に10人のハーピーの攻撃が始まった。


船で見せた針の攻撃を空中から放ってきたり、長い触手や骨針を振り回してきたりと基本的な攻撃だが、俺達に空を飛ぶセイラ達とまともに戦う術はなく、剣で応戦したり、弓で追い払ったりするしか出来ることはない。

弓矢が例え当たってもすぐに変身再生する。船の時のようにはいかない。


俺の前にハーピー姿で血管を触手に変え、先端に鍵爪をぶら下げたロザミィがやってくる。


「勇者ちゃん。私の攻撃がかわせるかなー?」


何故その能力が使える?

何故生きている?

答えが朦朧として出てこないままロザミィの触手が数本俺に向かってきた。

剣で応戦するが、果たして俺に50本はあるという触手の猛攻を防ぐことができるのだろうか?

そんな諦めにも似た心境で数本の触手を断ち斬っていると、クリスが俺の前に飛びだして、ロザミィの触手を次々と捌いていった。


「クリス!助かった!」

「勇者は後ろに下がっていて!」


俺の方が女の子に守られているのは非常に情けないが、ロザミィの攻撃を捌くのは俺には難しそうだ。足手まといにならないようにバックアップに努めよう。


ロザミィが俺達の前に立ち塞がるように広く展開した触手を次々に繰り出してくる。

俺達は徐々に後方へと追いやられていく。


まずいぞ!俺達だけルーシー達からどんどん離れていっている。

いや、まさかロザミィは最初からそれが目的で俺達を追い詰めていっているんじゃないのか!?俺とクリスをルーシー達から分断する気だ!

気付いたところですでにどうしようもない状況に陥っていた。

俺達は原生林に入りルーシーの姿はもう見えない。


「ロザミィ、どういうこと?どうして生きてるの?どうして変身できるの?」

「それは教えられないなー。もうゲームは終わったんだよー。」


クリスの問いにも、しらをきって問答にならない。

木の隙間を拭うように触手が俺達を襲い続け、俺達は剣で払い続ける。


しばらくその攻防が続き、どんどん林の中に追いやられていく俺達。

もう随分奥へと追いやられ、ルーシー達とはまったく離れ離れになってしまった。

今みんながどうなっているのか分からない。

ふとクリスが周囲を見て驚く。


「勇者!ここ、変化させられていた場所だ!」


その言葉で俺も後ろを振り向き辺りを確認する。


バカな!Cの字に盛り上がった岩場、中央に大きな木、白骨になり見る影もないが、胴体や足、腕だけになってロープに括られ枝からぶら下がった数人の亡骸が無惨な姿を晒されている。


間違いない!セイラによって変化させられたあの隠された場所だ!

何故今元通りに戻っているんだ!?

それは考えるまでもなくセイラが戻したからだ。だが、何故・・・?


「勇者ちゃんとクリスお姉さんはここでお別れだから本当のことを教えてあげるね。」


お別れだって?ロザミィやセイラは俺達を始末するつもりだ!

もはや温情も猶予もないということか。


俺とクリスはCの字の内側、大きな木の手前まで押し込まれている、それを空中に飛びながら立ち塞がって触手で壁を作るロザミィ。

その触手を俺達に向けて数本伸ばしてきた!

構える俺達。

だが、触手は俺達の頭上を越えて背後に飛んでいく。


なんだ!?


正面のロザミィは気になるが、奴が何を攻撃したのか見るために振り向く俺達。

ロザミィは大きな木の幹に鍵爪を突き刺して、引き倒そうとしていた。


「何を・・・!?」


俺がその言葉の続きを言うよりも早く、大きな音がした。

ズン!というような地響き。


そして、信じられないものを見た。


「勇者!この木!下がっていくよ!」


クリスも叫ぶ。

そう、そう言うしかない。大きな木は地面に沈むように一瞬ガクンと背を低くした。

次にビシビシという何かが砕けるような音。

それから足元がぐらつき始める。


「あはははは!ここはね、地盤が薄くて崩れそうになっていたんだよ!だから昔の人が目印に塚を造っていたんじゃないかなー?」


なんだって・・・!地下洞窟・・・!セイラが隠したかったのは・・・!


「バイバイ勇者ちゃん、クリスお姉さん。」


最後にロザミィの声を聞きながら、それ以上思考することはできなかった。

俺とクリスは地面が崩れ、そのまま陥没穴に飲み込まれていったのだから・・・。



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