41、闇の中

第124話

金髪のルーシー41、闇の中


セイラとの決着が着いてしまった。

不本意な形での終わり。

結局アジトの場所は聞き出せず、セイラの救出も果たせなかった。

暗澹たる思いをしながら救命艇でクイーンローゼス号に戻った俺、ルーシー、クリス。

結局ルーシーの剣は探せずに妖刀の鞘を肩に掛けて背負っているルーシー。


空の円盤は嘘のようにさっぱり消えて、朝日が東の空から昇ってきていた。

島と言わず海にも瓦礫の山が積み上がり、もうここで何かの活動を行うのは無理だと思い知る。

波も穏やかに戻っていて、破滅的な様相は去った。

ロザミィも人間に戻っていてデッキに立っている。

ベイト、アデル、モンシア、アレン、フラウ、ルセット、ベラもどうやら残っていてくれたようだ。

俺達の帰還に安堵した様子だったが、芳しくない顔色に察して喜びの声はほどほどにしてくれた。


「さてと、いったいこれからどうするってんだい?」


ベラが口を開いた。

確かに船長として、リーダーとして、この先の展開に計画が必要だ。

だが、島に向かう前に言ったように、俺達は星の屑諸島での捜索は終了した。

残るは・・・。


ルーシーがロザミィの両肩を掴み正面から尋ねる。


「セイラが死んだわ。もうあなたの仲間と言えるのはリーヴァしかいない。この戦いを終わらせるために、あなたの知っていることを教えてちょうだい。」


言っても無駄かと思っていたが、ロザミィが船首に歩き出した。


「じゃあ着いてきて。」


意外な反応に問うたルーシーでさえ驚いた。

ロザミィが空中を歩き船首のその先に向かう。


「お前達!巨大鳥牽引の用意をしな!」


ベラが船員に指示を出す。

にわかに慌ただしくなるデッキ。


「しばらくかかるだろうから、休んでた方がいいよ。」


船首の上で俺達に向かって口を開くロザミィ。

どこかに連れていくつもりなのか?

どこかってどこに?まさにアジトの場所にか?


目を白黒させて俺達はたじろいだ。

何度目か船員達の準備は手慣れて軽快に進んでいく。

ロザミィはその一言以上の言葉は発するつもりが無いのか、船首の向こうを見ながら俺達には一瞥もくれない。

ベイト、アレン、ルセット達はロザミィの言葉に従い、自室へと下がっていく。

元々体力的にも体調的にも限界だ。夜も開けて睡魔も酷い。俺は頷きながら黙って皆を見送る。


残ったのはベラと俺とルーシー、クリスとフラウ。ロザミィの動向が気になって仕方ない。


巨大鳥がロープをくわえ、船が進み始める。


三番星の東の海上からまずは北に回り、三番星をぐるりと回り込んで南下を始める。円盤の残骸に埋もれ、見る影もない三番星と周辺の海域に今更ながら恐怖と憐れみを覚える。

もちろん南下を始めるまでそれなりに時間はかかっているが、動向を見届けなければ休んでもいられない。


「魔の海域を避けて南下するようだね。このまま行くなら一番星に行くつもりのようだけど、もしそうなら数時間はかかるだろうから、あんた達も今のうちに休んでた方がいいね。」


デッキでベラが告げる。


「そのようね。ロザミィが気になるけど、部屋に戻りましょう。」


ルーシーも同意した。


一番星。ロザミィとの死闘を演じた場所。再びそこに向かってどうしようというのか?

とにかくロザミィの行動が不気味だ。何を考えている?

セイラを始め、仲間は皆居なくなった。魔王の娘、リーヴァの指示でもあったのか?

今はロザミィの誘う場所への到着を待つ他ない。


俺達四人はいつもの部屋でベッドにごろんと寝転んだ。

やはり皆疲れている。

ふかふかのベッドが心地良い。


クリスが肩を落として項垂れている。

セイラの突然の自害。ショックを受けるのも当然だ。

なんとか励ましてやりたくて手を握った。

クリスも俺の手を握り返して受け入れてくれる。


ルーシーも天井を見上げ、ぼうっとしている。


「勇者様・・・。私は何か間違えたのかしら?がむしゃらに進んできたつもりだったけど、結局どこにも辿り着けていない。何も手にできていない。」


珍しく弱音を吐くルーシー。


「間違えなんかじゃないさ。思い通りにいくことの方が少ない。どんな事があっても、最善を尽くせばいずれ正解に辿り着ける。」


「そう・・・、だといいけど。」


「さあ、皆さん、今は何も考えずに休みましょう!まだまだ何が起こるか分からないんですから!」


フラウが俺達に言って聞かせた。

フラウのいう通りだ。

そう、何が起こるか分からないのだから・・・。






そう易々と眠れるかと思ったが、俺はすぐに眠ってしまったようだ。

起きたら船が停泊していた。

ハッと起き上がる俺。

ルーシーはやはり寝ていないようで、すでにベッドから起きていた。

クリスとフラウは横で寝ている。


「どこに着いた?」

「ベラの目算通り一番星のようね。デッキに出ましょうか。」

「ああ。」


俺達の話し声でクリスとフラウも起きてきた。


「勇者。これからどうなるんだろう?」

「怖いです。いつものロザミィさんじゃないみたいで・・・。」


二人も口々に感想を吐露した。

確かに俺も同じ感情だ。

これから何が起こるのかまったく読めない。


何も答えられず、ただ、


「行こう。」


とだけ言った。



デッキにはアレンとアデルが出てきていた。俺達が最後というわけではないようだ。

ベラと話している所に俺達も入っていった。


「よく眠れたかい?」

「お陰さんで。それよりロザミィの動向は?」


ベラに俺が返すが、気になるのはそれだ。


「今のところ鳥のままずっと船首で止まってるよ。」

「そうか。」


「なんか久しぶりですねー。」


フラウが外を見て言った。


「ここはいわゆるポイントGってとこだな。川があって水を汲んだりしたとこだ。」


アレンが答える。


「そしてロザミィを問い詰めた所でもある。」


ルーシーが付け加える。

一番星であった色々なことの舞台になった場所。その沖合いに船が泊まっているのだ。


「ここで待ってるのも焦れる。他の奴等も起こしてこようか?」

「ロザミィが私達の揃うのを待ってるなら、悪いけどそうさせてもらおうかしらね。まだ体調が万全じゃないかもしれないけど。」


アデルが提案しルーシーが答えた。


「じゃあ俺とアデルで寝坊助どもを起こしてくるぜ。」


アレンがそう言うとアデルと共に船尾楼のドアに入っていった。


「さて、何が出るやら。」


ルーシーは背中を見せてこっちに一切の感心がないという風のロザミィを見ながら腕を組んでいる。


すぐにベイト、モンシア、ルセットを連れてアデル、アレンがデッキに出てきた。

ばつが悪そうに頭を掻いているが、何も寝坊というわけではないので気にやむ必要はない。


「なんでい。見慣れた光景だな。」

「戻ってきたという感じですね。」

「ここが一番星?ずいぶん普通の島だったのね。」


モンシア、ベイト、ルセットがそれぞれ口を開いた。


「叩き起こしちゃって悪いわね。」

「それは良いけど、どうなるの?」


ルーシーにルセットが尋ねる。が、それは俺達も知りたい。


「ボートを用意してみんなで島に上陸して。」


突然ロザミィがこちらを向いて発言した。

皆驚いて船首のロザミィを見上げる。

そしてルーシーが口を開く。


「みんな?私達戦闘員9名のこと?」

「うん。そうだよ。」

「どうして?島に何かあるというの?この島はセイラが変化させた場所意外、捜索は終わってる。セイラが死んだ今、その場所も元に戻ることはない。上陸したところで意味があるとは思えないわ。」

「従わないの?知ってることを教えてって聞いたのはルーシーちゃんの方だよ?」

「内容によるわね。アジトがやっぱりここに有ったっていうなら先に聞きたい。」

「それはどうかなぁー。」


この態度・・・。

ロザミィの意図が読めない。

だが、不気味であることは間違いない。

何かを企んでいる。そんな感じがする。

島に上陸してしまって良いのだろうか?


「上陸しないならこの船を沈めて船員もろとも陸に打ち上げちゃうよー。」


全員の体に衝撃が走った。

これはロザミィの脅しだ。

今まで一緒に行動してきて、少しは打ち解け心を許していた所もあったが、やはりこいつは信用できない敵だった。

そしてロザミィになら簡単にいう通りの事が出来るだろう。

船を破壊されれば俺達が町に戻ることはできなくなる。食料の目処がたたないこの島では全員野垂れ死にすることが確実だ。


「本気・・・のようね。」


「どーする?ルーシーちゃん?」


デッキに立っている者に緊張が走る。


「分かった。言う通りにしましょう。」


ルーシーが飲んだ。

ここまで言うからには当然何かある。

何かあるが、それがまったく推測も予想もできない。


なんのため?何の目的で?


船員が救命艇を用意して俺達9名が乗り込む。

ロザミィは巨大鳥のまま船から離れ、島へと向かうようだ。


「気を付けなよ。」

「ええ。分かってる。」


デッキから身をのりだし俺達に告げるベラ。

答えるルーシー。

救命艇の9名は一様に不安な表情だ。


ボートはスクリューを回してグングンと島に近付く。

無言のまま俺達は一番星へと再び上陸することになる。


砂浜に救命艇を上げて水が流れていた岩場に集まるようにする。

ロザミィも変化させた巨大鳥を消して本体が降りてくる。

一同、そわそわとロザミィの発言を注視している。


俺達に向き合って一同を眺めるロザミィ。

いつものふざけた調子で口を開き出した。


「勇者ちゃん、ルーシーちゃん。クリスお姉さんにフラウ。他のみんなも。少しの間だったけど一緒に旅ができて楽しかったー。今から10分後に一斉攻撃を始めるから準備してね。それじゃあさようなら。」


一気に訳の分からない事を口走った。

さようなら?いったいどういう・・・。

俺が頭でそう考える間もなく、ロザミィの前後に鉄の板のような、棺桶型の重い、重厚な巨大な物体が現れ、ロザミィを押し潰した。


あっという間の出来事で、息をする間もないいという感じだった。


呆気にとられて、目の前で起こったことに理解が追い付かない。


「きゃぁああああー!!」


フラウとルセットが恐怖で叫んだ。


「まさか・・・。またここで自害したっていうの?」


ルーシーも困惑している。


「嘘!?ロザミィ・・・。なんで?」


クリスのショックもひとしおだ。


「今度は念入りに体を磨り潰して回復されねえようにしたってわけかよ。何を考えてんだ。」


アレンもさすがに血の気が引いている。


「そんな・・・そんな・・・。」


フラウが膝をつき泣き始める。微妙な関係だったとはいえ、数日過ごした仲だ、突然のことに取り乱しても仕方がない。

俺だって動揺を隠せない。

体が震えている。

ベイト達も発言は無いが同じく呆然としているようだ。


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