第119話
気が付くと空は暗く深夜になっていた。
私は眠っていたみたいだ。
「ごめん。寝てた。」
「ううん。いいよ。まだ動きはないみたいだから。」
「良い夢見てた?」
「なんで?」
「うふふ。笑ってたよ。」
「なんの夢だか当ててやろっか?勇者君の夢でしょ?」
「違うよー。昔のこと夢見てた気がする。」
「村のこと?」
「なーんだ。にやけてたからてっきり。」
「それはファラとカテジナでしょ。」
「えー。」
「なんで私らなの!?」
「なんでって、バレバレだよー。罰ゲームとかいってチューしたりさー。そりゃ私達を助けてくれた王子様だし、イケメンだし優しそうだし頼もしそうだから恋するなって方が無理なんだけどさー。」
「あー!それ言わないで!」
「マリアだって気があるんでしょ!白状しちゃえよー!」
「そりゃ無くはないけど、私達はほとんど勇者君と接点ないし、ルーシーやクリスの壁が厚すぎると思うけどなー。」
「悲しい。」
「今度は私らが勇者君を助ける番でしょ!悪魔のルーシーからさ!」
「そうなんだけど、悪魔のルーシーがなにをしようと・・・。」
「待って!」
ファラが突然叫んだ。
私達の頭上には直径3メートルほどのビスケットみたいな円盤が浮いている。
ファラの斬首台だ。背景の色と溶け込んで保護色になっているからパッと見では判別は出来にくいはずだ。
それが南西の方に向かって反応している。
「どこかで反応している!?どこ!?」
カテジナは設置されている双眼鏡に向かって走った。私も追う。
深夜の住宅地。月明かりがあるけど建物の影が多いから探すのは・・・。
「いたよ!砂浜のところ!一番遠いところだ!」
ファラは殺気の位置を認識しているみたいだ。殺気の位置ということは、何に対して?
「勇者君が狙われてる!」
斬首台の上部に2つの輪が輝いた。ファラが斬首砲を撃つ準備段階だ。
ビスケットの外側から筒状のものがにょきにょき生えてきてフライパンのようになった。
光の粒を熱して砲身から打ち出す斬首砲。赤い光線が一直線に飛び出す。
「私も見つけた!勇者君が倒れてる!他にも女の人が1人!」
カテジナが双眼鏡で見ながら叫んだ。
「あ!避けられた!」
今度はファラが叫んだ。初撃の斬首砲が避けられたらしい。
弾速は音速を越えているはずなのに避けたの?ルーシーはやっぱり普通じゃない。
「こっちの位置をつかまれたよ!それとファラ、ルーシーの顔見た?」
「うん。緑色だったし、不気味な顔してた。」
緑色?悪魔の本性を現したってこと?信じられないけどやっぱり本当の本当だったんだ。
「なにあれ!?速い!」
「建物を段差をものともせず飛び越えて近付いてくる!」
建物の段差!?そんなの飛び越えられるのは私達くらいなものじゃないの?
悪魔も同じような身体能力を持っているってことか。
「ファラ!続けて撃って!」
「分かった!」
ファラの斬首砲が空中からルーシーの居場所に赤い光線を放つ。
「駄目だ!誰かが足止めしないと動きに合わせられない!」
カテジナが双眼鏡の設置されている場所を飛び越えて翼を生やした。
「カテジナ!」
「援護頼むよ!」
私はカテジナの名前を叫んだ。翼を羽ばたかせカテジナがルーシーの近くに飛んでいく。背中から骨針を出して肩越しに胸の部分まで引っ張り出して折り畳む。それを束ねて筒を作る。内部で発熱させて火炎を放射する神の灯だ。
私は代わりに双眼鏡を覗く。
「距離は3キロ、向こうもカテジナに気付いたみたいだけど、気にせず近付いてくる!私も弾幕張るよ!」
ファラの斬首砲はチャージが必要で連射はできない。動き回る敵には狙撃は難しい。
『よし!近付いた!こっちからも攻撃する!』
「分かった!狙い撃ちしてみる!」
カテジナがリンクで話しかけてきてファラも応じる。
私も双眼鏡で遠くの様子を見る。
カテジナは200メートルくらい離れた上空からルーシーに向かって火炎を放射した。
民家の屋根の上を走るルーシーはそれに構わずクロスボウをカテジナに向けて矢を発射した。
危ない!
どういうわけかルーシーのクロスボウから放たれた矢も火がついている!
『こんなに遠くて当たるかー!』
カテジナは潜るように飛んでくる矢を避けたように見えた。
けど、矢の軌道が下がっていってカテジナの右の翼に当たってしまった。
まるで吸い寄せられたかのように。
『あ!当たった!あっつ!こんにゃろ!人に火をつけるな!』
カテジナの翼が燃え上がった。すぐに翼自体を消去して作り直すカテジナ。
火炎を放射したカテジナの言うセリフじゃないよ。まあ、当たらなかったけど。
ルーシーはカテジナの火炎を無視して私達のいる役所の方へどんどん近付いてくる。
ファラの斬首砲がルーシーを狙撃するけど、屋根を上がったり降りたりしながら移動するルーシーを捕まえることができない。
カテジナは肘から骨針を出してルーシーに接近する。
『足止めするには直接戦うしかない!』
「気を付けてカテジナ!」
『分かってる!でもルーシーがさっきからギャーギャー獣の雄叫びみたいなのを叫んでる!何言ってんだか分かんねー!』
カテジナはそう言いながら背後から胸部に回していた神の灯の筒をバラバラな骨針に戻す。
ルーシーが家屋の屋根から道路に降りて走っているところにカテジナの肘の骨針の攻撃が襲う。クロスボウを背中のホルダーに掛けて剣に持ち替え対応するルーシー。
私の位置からはその手前の建物の影で見えないけど、空中に浮いている斬首台からは見えるみたいだ。
足の止まったルーシーに斬首砲の射撃を狙い撃つ。
「駄目だー!狙撃を警戒して一瞬でも立ち止まろうとしない!」
狙いは外れたみたいだ。ファラが無念そうに叫んでる。
最初の狙撃がミスだったのが痛かった。
翼で飛びながら空中から肘の骨針を付き出してルーシーと大太刀回りを演じるカテジナと、足を止めずにカテジナの連続攻撃を剣でいなすルーシー。
『あ!飛び上がった!こいつ何の前触れもなく家の屋根まで移動しやがった!』
カテジナが叫んで私の位置からもルーシーの姿が見えた。
一旦上下に離れた隙を見てルーシーがこちらに走り出す。
射程外からの遠距離攻撃はルーシーにとっても放置はしておけないのか、斬首台とそれを操るファラが第一目標なんだ。
まだ距離は2キロメートルは離れている。まだルーシーのクロスボウの射程には遠いだろうけど・・・。
ルーシーはそのまま屋根の上からこちら側に飛び降り、また私の位置から見えなくなった。
カテジナはまだ屋根の上を飛んでいる。
『ん?あ!あいつどこか家の中に隠れやがった!』
追うカテジナが叫ぶ。
建ち並ぶ家々がひっそりと不気味に佇んでいる。
この辺りは住宅地。何重にも軒が連なって道が迷路のようになっている。
あの中のどれかに侵入したんだ。
「ファラは!?」
「私も見えなかった。」
まずい。ファラの狙撃とカテジナの足止めを避けて隠れながら接近してくるつもりなんだ。
『くっそー。探すしかないか。』
カテジナは地面に降りて遠慮がちにその辺の家を外から眺めたり様子を伺ったりしている。
深夜なのでどこも寝静まっている。物音がすれば分かるはずだけど・・・。
「はっきりとは位置が分かるわけじゃないけど、確かにこっちに近付いているみたい。」
ファラの斬首台は空中でまだそちらの方を警戒している。
カテジナは家々を探しながら徐々に手前に寄ってきている。。
『いない!どこ行きやがった!』
「ルーシーに狙われるのってなんか怖いね。」
カテジナがイライラした調子で口を開き。ファラがおどおどした様子で唸る。
できるだけ物音や何かの動きに集中できるように私達はそれ以上話さなかった。
ジリジリとした時間がしばらく続いた。
生汗が滲むようなじっとりとした時間。
「さっき言いかけてたけど、ルーシーの目的ってなんだろう?」
私は緊張に耐えかねたように沈黙を破った。
『勇者君が倒れたままだ。あいつの目的はそれだろう。』
「えー。それは突然過ぎるよー。」
カテジナは勇者君の事が気になっているみたいだ。動かないけど大丈夫なんだろうか?
ファラの言う通り何故唐突に人を襲いだしたのかは不明。正体がバレたから?いや、順序が逆だ。勇者君が私に正体を聞きに来たのは何かあったから。
ルーシーの行動をもっと掘り下げていこう。
ルーシーは魔王の城に潜入して魔王の首を狙っていた。驚いたけど温泉で本人から聞いた。
そのときルーシーの名前が書かれた日記を回収してると思う。
勇者君に近付きリーヴァや私達を敵として戦いを挑んできた。これについては私達も悪いんだけど。
要するに魔王とその血を分けた魔族に戦いを挑んでいる?
突然人を襲いだしたのはリーヴァの居場所をつかめたから?もう勇者君達を使って居場所を探す必要がなくなったから?
分かった!私達魔王の血を分けた存在を根絶やしにして悪魔の覇権を広げたいんだ!
ルーシーは悪の手先。何故かそれだけはわかっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます