39、永遠のマリア

第118話

金髪のルーシー39、永遠のマリア


「さて、もう時間がないよ。」

「うん。ルーシーが逃げ出した。」

「さっさと見つけて捕まえないとね。」


私とファラとカテジナは勇者君がフラフラとしながら帰った後、早速行動に出ることにした。


部屋からエレベーターを使って外に出る。人だかりもまばらになっていた。

私達が見ていたときにルーシーは高層タワーから飛び降りて東の方に走って行った。

どこに行ったんだろう?


「どうやって探そう?」

「私に任せて。私の斬首台ならそういうの得意だよ。」

「ファラの探知能力なら間違いないだろうね。それじゃ、中央の役所の屋上にでも上がろっか?」


ファラの斬首台は相手の殺気を探知する能力がある。射程5キロメートルに及び、全長7キロメートルの島の中央に立てばその全域を索敵できる。加えて斬首砲という同射程の超長距離狙撃用の攻撃手段もある。発見したら即相手の射程外からの一方的な狙撃で仕留めることができる。カテジナの言う通りした方が良さそうだ。


「よし!行こう!」


私達は役所へとダッシュした。


「でも、殺気を探知する能力だから、相手が戦闘状態にでもならないと見つけられないのが難点なんだよね。」

「大丈夫大丈夫。本性を表したみたいだからすぐに反応するさ。」


渋い顔のファラに楽観なカテジナが言ったけど、それって誰かがルーシーに襲われるってことだから、そうなると楽観はできなくなる。

高い建物とか遮蔽物が多い街中だと、いくら射程が全域カバーできても狙撃できない可能性は高い。


「今はファラの力に頼るしかないね。頑張ってー!」

「うん。頑張るよ。」

「その意気その意気。ま、大して使ったことない能力だけど、なんとかなるでしょ。」


私はファラを元気付けて、ファラが答える。カテジナは問題を指摘した。

それはその通り。なぜか未だに残っていた白い竜のモンスターでしかテストしていないんだよね。


私達は夕暮れの街の中を走り、役所のある中央へとやってきた。

広い敷地に池や街路樹、馬車の待合所がある。そろそろ閉まる時間だ。急いで中に入ろう。

ガラスのドアを開いて待合室の横にエレベーターがある。それに乗り込む。

エレベーターを降りるとドア一枚向こうに屋上が広がっている。屋上まで直通で行けるんだ。

ここの屋上は住民に開放されていて誰でも入ることができる。至る所にベンチや周囲を見渡せる双眼鏡が置いてあり、この島を観察できるようになっている。

もちろん高いフェンスで囲んである。

物干し竿も置いてあるようだ。


ここは4階建て。それほど高い建物ではない。

周囲を見れば南西の私達の住んでる高層タワーと東の5つの研究所が群を抜いて高い建物だ。

他にも南には警察署や病院、東には水、ガス、エネルギーの供給施設、下水、ゴミなどの処理場、北西には学校や図書館、体育館、北東には大きな商業施設、公園のアミューズメントが見える。


「この狭い島にいろんなものがあるんだねー。」

「うん。私達の住んでた村とは大違い。まるで夢の中の街に住んでいるよう。」

「懐かしいねー。もうあそこに帰ることもないだろうな。」


私達は同じ村の出身だ。カテジナは幼い頃に引っ越してきたんだけど、それから私とファラとずっと一緒に暮らしてきたから家族も同然だ。

私達の村では子供でも学校半分、家の仕事半分という感じで生活していた。

村の防壁の外にある田畑を種蒔きや収穫するとき、モンスターの来襲を警戒するため周囲の田畑の持ち主が共同で見張りと警護を順番にやりながら行っていた。

私達戦えない女子供は長期間広範囲の田畑の仕事の手伝いをしなければならなかった。

それで私達は学校でも家の仕事でも一緒にずっと過ごしていたんだ。

幸いモンスターの強襲で悲惨なことは起きなかったけど、見張りがいなかったら危なかった場面も幾度かあった。


「モンスターが来たぞー!壁の中に逃げろー!」

「はっ!ファラ!カテジナ!逃げよう!」

「うん!」

「あはは!」

「カテジナ、なんで笑ってるの?」

「そうだよ、モンスターが来てるのに。」

「わかんない!でもなんか楽しー!」


ある日魔王の手下が私達の前に現れた。

誰を狙ってやって来たのかは分からないけど、私達は離れたくない一心で魔王の手下に3人でしがみついて離れなかった。

魔王の手下は観念したのか私達3人ともあの城へと連れていった。

途中眠らされてハッと起きたとき3人ともあの城の入り口で倒れていた。

私達は喜びあった。3人離れずに済んだから。


綺麗なお姉さんのセイラに優しくしてもらって私達は料理や掃除を頑張った。

あの暗い城の異質な生活でも3人一緒だから、他の仲間が居たからめげずにやっていけた。


「この料理じゃ魔王には出せないわねぇ。」

「えー。ごめんなさい。失敗しちゃった。」

「まあいいわ。これはみんなで食べましょう。」

「えー。それはそれで公開処刑なようなー。」

「大丈夫だよ。マリアの料理は見た目は悪いだけで味は悪くないから、一緒に食べよう。」

「見た目はグロいけどねー。」


魔王の夜の晩餐。覚悟はしていたけど私達は離れたくなかったから3人で魔王の部屋に向かった。


「なんだお前らまだ子供じゃないか。」

「子供じゃないよ!」

「子供ってことにしておこうよー・・・。」

「私らは一緒だから!相手するんだったら3人一緒にやってもらうからね!」

「かー、生意気なガールだぜ。俺はそういう趣味はないんだよ、ペッペッ、向こうに行け!」

「あー!汚い!唾かけられたー!」

「わーん。」

「バッチー!」


なんと私達は誰かが狙われていたと思っていたけど実は誰でもなかった。

私達お馬鹿?


「あなた達、魔王の事何か知らない?どんな能力があるのかとか、どこから来たのかとか、他に仲間がいるのかとか?」

「えー?知らないなー。」

「私達あんまり魔王と話したこと無いから。」

「熟成中って感じ?」

「そうなの。ふーん。あなた達3人仲が良いのね。いつも一緒にいるの?」

「そうだよ。昔から友達だから。」

「友達。」

「変な関係じゃないからなー。」

「別にそんなこと想像してるわけじゃないけど。いつもマリアが中心なのね。永遠のセンター、マリアって感じね。」


メイド服を着ていたルーシーとの最初の会話がそれだった。


「ねえ、ルーシーって何者だろう?」

「何者って?私達と同じ魔王の手下に捕まえられてきた被害者の1人なんじゃない?あ、私達はちょっと違うか・・・。」

「私も思う。ただ者じゃないよ。みんなに魔王の事聞いてるみたいだし、この前わざとアツアツのスープをぶっかけたらしいよ。」

「わざと?そんなことしたら大惨事になっちゃうんじゃ?」

「怒られなかったのかな?」

「ルーシーはわざとらしく謝って近付こうとしてたけど、魔王の方が近寄るなって制してたって。自分にはなんたら施術が何年かかっているから死んだとしても命が尽きるわけではないとか、真面目な顔でルーシーに言ってたんだって。」

「スープかけられただけでは死なないと思うけど・・・。大袈裟だなー。」

「あ!思い出した!」

「なによ急に。ファラ。」

「当番でも思い出したの?」

「違うよ。ルーシーって名前、以前どこかで見たことがあるような気がしてたの、ルーシーが来るずっと以前に、ここで。」

「ここでって、魔王の城で?んなわけないじゃん。ここなにもないよー。」

「探してみよう!ファラの記憶は良い方だし、探す場所も多くないからきっとみつかるよ!」


私達は魔王の部屋がある2階に上がって、魔王の部屋以外の何の部屋なのか分からない部屋を探してみた。いつも掃除をさせられているので、そのついでに。


「どう?思い出せそう?」

「あれぇ・・・ないなぁ・・・。」

「何を探してんの?本棚?」

「そっか。本があったんだね。」

「本は本なんだけど、日記だったの。誰のかは知らないけど。」

「日記って、そりゃ以前この部屋を使ってた人ってこと?」

「その日記にルーシーの名前が書いてあったの?」

「うん。馬鹿みたいな話だったから日記とは思えなかったけど、書き方は日記っぽかった。」

「なんだよー!気になるじゃん!何で教えてくれなかったのー?」

「ルーシーが来る以前なんだからしょうがないよー。で?内容は覚えてるの?」

「マリアも気になってるじゃない。えーっと、内容はね、宿敵ルーシーとの戦いの記録、4日間の戦いの末この度も決着は着かず。お互い眠らず休みも取らず、一撃も剣を与えられないまま時間だけが過ぎていく虚無さよ。悪魔の子ルーシー。その名に恥じぬ悪魔っぷりだ。そんな内容だった。」

「悪魔ー!?」

「それっていつの頃の日記なの?書いた人はどこに行ったんだろう?」

「分かんない。馬鹿みたいな話だったからよく見てなかったし。」

「あ!以前あった日記が無くなってるってことは誰かが持っていったんだ!誰かって言ったら!?」

「ルーシーか・・・。でもこの部屋随分長いこと使われてないって言ってたよ。そんな前に書かれた日記に出てくるってことは別人なんじゃない?同じ名前の人だってたくさんいるだろうから。」

「そうだね。他にもたくさん戦いの記録が書いてあったし、1000試合くらい。」

「1000試合!?ホントに馬鹿みたいな話だ!」

「他にはどんな戦いの記録があったの?」

「うん。馬鹿みたいだけど、弓矢で300メートル離れた的に何本命中させる試合とか、100本中100本真ん中に命中させて引き分けって書いてあった。」

「そんなの無理に決まってるよー。作り話なんじゃないの?あーなんだ馬鹿らしい。」

「そうだね。でもカテジナが言ったみたいに日記を誰かが持っていったとしたらルーシーの可能性は高いし、ちょっと部屋に忍び込んで探してみよう。」

「えー?悪いよー。ルーシーちょっと怖いし。」

「行こう行こう!面白そうだ!」


だけど、私達の企みはことごとく失敗した。ルーシーは普段部屋に鍵をかけてたし、ちょっとした隙もクリスが出てきて見つかったりした。


「あなた達ルーシーの部屋の前でなにやってるの?」

「え?クリス?」

「な、なんでもないよ。」

「クリスこそ、なにやってるんだよ?」

「な、なんでもないよ。あ、ルーシー。」

「なーに。集団で私に何か用?」

「ちょっとキスでもしようかと思って。」

「しないわよ!」


進展がないまま次第に私達はその事に興味を無くしていってた。そのうち勇者君が魔王の城から私達を解放してくれて、それどころではない状況の変化があって完全にその事は忘れていた。

学校で遊んだ鬼ごっこの記憶くらいのちょっとした記憶。


この戦いが始まるまでは。


解放された私達は村に直接戻る事なく3人で大陸を冒険してみる事にした。いずれ帰るけど、帰ればまた仕事で大忙しになる。それまで思い出作りに観光して回るのも良いかなと思った。モンスターも居なくなったしね。

ある日私達は肌の色が変わって変な能力が使えるようになった。

私達はリーヴァの元へ呼ばれた。面白そうだから行ってみた。

別れたばかりのセイラとかキシリアとかに再開した。

ルーシーとクリス、ライラは居ないみたい。

リーヴァは魔王の血を受けた者を魔族の一員として受け入れ、共に海の主権を守っていこうと訴えた。

私達唾かけられただけなのにこうなっちゃったの?

私達は青い肌のハーピーとして船を襲って人間の血を摂取した。

今思うと悪いことをしたと思うけど、それまでは喉がカラカラに渇いたような飢えを感じて理性が効かなかった。血を摂取する度にエネルギーの最大値が上がるような気がして落ち着いていった。


ルーシーとクリスが乗った船を襲ったとき、また状況が一変した。

勇者君と一緒だ。クリスは人間の姿に変身している。ルーシーが弓矢で仲間を6人次々に倒していった。1発も外さず、針を矢で撃墜して、針を放ったハモンもヘッドショットで倒した。

ロザミィの時も、ルカとエルの時も、ミネバの時も、1発も外さず1発も食らわない。


あれは本当だったんだ。ファラが見た馬鹿みたいな内容の日記。


ということは眠らず休みも取らず、悪魔の子供、という部分も・・・?

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