第113話



そんなことがありながらも、その後俺達は民宿への帰宅を許された。

俺だけはレーナとエレナから明日はおとなしくしていろと念を押されたが。

その帰路で疲れはてた俺達が話す。


「はー。サウナの後の方が汗かいちゃったわ。カードキーにあんな能力があるなんて。」


と、ルーシー。


「なにやってるの?あなた達?」

「何か掴んだのか?」


ルセットとアレンが問う。もっともな質問だ。


「マリア達からリーヴァが研究所東棟最上階に居るという類いのヒントをもらっていた。確証はまったく無かったが。行ってみた。直接会えなかったが、閉まるエレベーターのドアの向こうにその姿がチラッと見えた。恐ろしく長い髪の女だった。地面に引きずるほどの。」

「おお!もうそこまで近付いてたのか!」

「私達最後の目標ね。」


俺の返答に驚くアレンとルセット。


「残念ながらもう研究所東棟に近付くことはできないわ。カードキーが手に入らないと駄目なのはもちろん。警備員にガッツリ怪しまれてるから今みたいにはいかない。奴があそこに居る限り私達はリーヴァに近付けない。」

「居る場所が分かっているのに手が出せないとは、なんとも辛い状況だな。」

「捕まらなかっただけ温情ね。だけどアイツらいったいなんなのかしら?」

「本人のようにも見える。が、そんなわけあるのか?」

「まさかとは思うけど、クリスに見てもらう以外に確認しようがないわね。」

「レンダ、レーナ、エレナ。彼女達のおかげで助かったが、何かをさせるつもりのようでもあった。何かはめられてるということなのだろうか?」

「じゅうぶん気を付けないとね。雁字がらめになって身動き取れなくなっちゃわないように。窃盗グループというやつも調べておく必要がありそう。」

「帰ったらベイトに聞いてみよう。」



散々な1日になってしまった。

しかしリーヴァの後ろ姿。そこに辿り着いた。あと一歩の所まで。

セイラを未だ見かけないのは不審だが、思いもよらなかったアジトの捜索もここが終着地点というわけか。



だが、なんだろう?何か腑に落ちない感覚があるのは?

当初の想像と違いすぎて頭が付いてこれないのだろうか。


ロザミィが言ったこんなところにアジトは無いという言葉。

確かに一番星のような何もない島をこんなところと言うのは理解できる。

一番星で行方不明者が吊るされた木を消した理由。まったく不明。

ルカとエルが二番星で言ったこんな探し方では10年経っても見つからないと言ったこと。

見つかるもなにも堂々と三番星にある。言葉の意味は不明。

この島で過去にあったことを考えろというヒント。

この島というのは二番星のことか?三番星のことなら10年前にリーヴァがやって来たということに当てはまる。しかしそれは現在進行形で見ただけで分かる事だ。過去の事ではない。


やはり不明な点が多い。

全部俺達を騙す嘘だったというなら、まあ分からなくもないが・・・。



考え事をしながら民宿へと歩みを進めていった。

俺の判断は正しかったのだろうかとか、エレベーターで声を出してリーヴァを呼び止めればどうなっていたのかとか、今更考えても仕方ないことを。



ベイト達が戻っていたのはレーナとエレナに聞いて知っていたが、クリスが戻っているかは心配だった。

だがその心配は無かった。

フラウ、ロザミィ、クリスも戻っていた。みんなシノさんと一緒に夕飯の準備をして居間にいた。


「クリス。昼間通信装置で連絡したんだが、大丈夫だったのか?」

「え?勇者私に連絡したの?知らなかった。」


大丈夫そうなのは良かったが、通信装置の受信もオフにしていたのか?


「クリス。あなたどこにいってたの?心配したんだから、今日こそ白状してもらうわよ。」

「それより夕飯の支度が途中だよ。早く食べようよ。」

「うーん。」


ルーシーの追求に翻すクリス。

まあ無事だったのならそこまで早急に根掘り葉掘り聞かなくてもいいか。


円卓を囲み11人が椅子を並べる。今日の夕飯はすき焼きだ。

シノさんが肉を土鍋に浸して良い色になったらみんなの小皿に分けてくれている。

甘辛いスープと卵を割って頬張ると旨味が溢れてほっぺが落ちそうだ。

白いご飯もバクバク進む。


今日の俺の報告から始めた方がよさそうだよな。

さっきアレン達に報告したことをまたこの場で言った。

そしてルカとエルに似ているレーナとエレナに捕まり、ベイト達の信頼のおかげで助けてもらったことを。ミネバに似ているレンダにカードキー盗難を誤魔化してもらったことも。


「そんなことがあったんですか。決死の状況だったんですね。」

「あはは!日頃の行いってのはやっぱり大事だなー!」


ベイトとモンシアが反応した。


「いや、まったく。ありがたかったよ。」

「惜しい所まで行ったんだな。魔王の娘。全ての元凶。」


俺とアデル。


「それで昼頃クリスにミネバが本当に似てるだけなのか見てもらいたかったったわけなのよ。なんだか本人しか知らないようなことを口走ったりしてたみたいだから。」

「そうなんだ。多分別人だと思うけど明日見に行ってみる。」


クリスが素っ気なくルーシーに答えた。

俺もルーシーもクリスに視線を送る。


なんだ?別人と思う理由が何かあるのか?


「まさか・・・。本人とは思えないですがね。レーナとエレナに関しても。」

「そうだよなー。わざわざ本人が別人のふりしてそのまんまの格好で出てくるなんて意味が分からねえぜ。」

「最初はビックリしてたけどな。」

「そりゃそうだろ!死んだって聞かされてたんだから。」


ベイト、モンシア、アデルだ。モンシアが最後声を大きくする。


「それと、窃盗グループについても教えて欲しい。いったいどんなグループなんだ?」


俺はベイトに頼む。


「まだ実態は掴めてないようですね。何週間か前、深夜に商店で窃盗グループによる窃盗がありました。それ以前から同グループによる犯行と思われる窃盗が続いていて、刑事達の張り込みと巡回でたまたま窃盗の現行犯でメンバーの一人を逮捕できたそうです。その男の取り調べから大規模な窃盗グループの存在が明るみに出た。逮捕された犯人は実行犯の一人で少数のメンバーがグループを組んで犯行を繰り返しているが、計画を指示する計画犯は別に存在するようです。グループ内のメンバーの身元を聞き出し、張り込んだり聴き込み捜索したりで順次メンバーを逮捕していますが、計画犯の情報は今のところ聞き出せていないようです。」


レーナとエレナが俺を見逃してもいいくらい入れ込んでいるのはそちらの捜査に全力だからか。捜査官としてどうなんだとは思うが。


「昨日も言ったが、留置場から逃げ出した男がそれだな。メンバーから何か差し入れを受け取って脱走したらしい。差し入れっつっても、面会は出来ないようになってたからこっそり忍び込まれたんだな。警察本部にだぜ?それだけでも大事件ってわけだ。」

「計画を指示するやつの差し金だろう。メンバーの身元を話されるのは困るってわけだな。手強い相手になりそうだ。」


モンシアとアデルも続く。

なんか大きな話になってきてるぞ。


「昨日の朝、公園で既に判明している犯行メンバーをタレコミから居場所を特定して俺達が押さえたってわけだ。」

「昼にも見つけて捕まえた。しかしまさかの今朝の犯行があったのは奴らの肝が据わってると言うべきか。」

「犯行があったのは北東の小さな商店です。道に面したちょっとしたお店ですね。店舗と住居が一緒になってるような。そこで雑貨、菓子類、パンなんかが盗まれたと。正直盗みとしては大きな事件ではないのですが、起こったこと自体が警察の沽券に関わるというか。」


ナメられてるということか。


「犯行の手口は?」

「商店が閉店して寝静まった後に馬車で横付けして人海戦術であっという間ということでしたよ。ゆえに人的被害は今のところ無いそうです。」

「なるほど。」


とはいえリソースは限られているので回り回って、というのはレンダの言葉だ。


俺達は食事を終え、各自命名の持ち場へと戻っていく。

そうして今日も俺とルーシーが最後まで居間に残ることになった。

本当を言うと、一度くらい3階の自分の部屋で休むのもいいかと思っているのだが、ルーシーの熱い視線がそれを妨げている。

ニッコリ笑うルーシー。


「それじゃあ私達も休みましょうか。」

「ああ。そうだな。」

「勇者様明日はお留守番ね。」

「念を押されたからな。」

「私はクリスとまた研究所に行ってみようと思うわ。」

「ミネバのことか。」

「それに結局プリン買いそびれちゃったし。」

「あはは。そうだったな。楽しみに待ってるよ。」

「それに・・・リーヴァのこと諦められないしね。」

「おいおい。君までおかしなことするなよ?」

「うふふ。しないわ。今のところは。最後の手段として東棟職員からカードキーを頂戴して最上階に突入なんて選択もあるかもしれないけど、それをしちゃうとこの島での私達の立場はお先真っ暗だからね。」

「それは避けたいなー。」

「だから別の方法を考えてもみようかと思ってね。」

「別の方法?」

「アポイントメントよ。今から取っても3ヶ月かかるけど、今日明日予定が入ってる人もいるわけでしょ?探して同行させてもらえるよう頼んでみようと思って。」

「なるほど。難しいだろうけどな。」

「やってみるだけやってみるわ。」


俺達は2階のルーシーの部屋に歩きながら話していた。

隣のクリスの部屋のドアの前で立ち止まりルーシーを手で制した。頷くルーシー。

俺はクリスの部屋のドアをノックした。

返事がないが、どうしても今話しておきたい。

ドアノブを回すと鍵は掛かってないようだ。ドアを開けて声をかけてみる。


「クリス。寝てるのか?」


うつ伏せになっていたようだが、俺の方を向いて返事した。


「なーに?勇者。」

「一応聞いておきたいんだけど、シノさんキシリアに似ているけど本人というわけじゃないよな?」

「魔人の変身能力を使ってるかってこと?違うみたいだよ。」

「そうだよな。そうだったら最初に言ってくれるはずだもんな。」

「そうだよ。きっとミネバもルカもエルも違う人だよ。セイラも違う人が居たんだから。」

「え?」


セイラに似た人?


「それ、どういうこと?」


ルーシーも後ろで聞いていて部屋に入ってきた。


「私学校に行ってたでしょ?そこで生徒の授業をジーっと見てたらセイラが教室に入ってきたの。ビックリしたけど向こうもビックリしてた。不審者だと思って。その学校の先生でアルテイシアという別の人だった。別の部屋で二人で話してたらなんか良い雰囲気になって仲良くなった。」

「なんでそれを早く言わないのよ。」

「だって見た目が同じだけで魔人じゃないし、ちょっと裸になってたから。」

「なんではだ・・・。まあいいわ。それで通信装置を外してたのね。」


なんだってセイラの似た人まで出てきたのか。セイラ自身はまだ出てきていないのに。


「勇者。私悪いことしてないよ。」

「あ、ああ。それは心配してないよ。」

「隠してたこと怒ってない?」

「驚いたけど怒ってるわけじゃない。」

「じゃ、じゃあ今日は一緒に寝ても良い?」


クリスがもじもじしながら聞いてきた。

ルーシーが俺の腕を引いてふくれる。


「なーに?後ろめたくて遠慮してたってわけ?しょうがないわねー。私が予約済みだけど、一緒に寝てあげる。」

「うん。いいよ。」

「いや、さすがに3人は狭いんじゃないかな。」

「寝袋よりはマシよ!」

「そうだよ。マシだよ。」


どうせ俺はどんな体勢でもすぐに寝れるからいいか。

いいのかな?


クリスの隠し事が少し分かったのでスッキリした。

明日は暇な1日になりそうだ。


二人に圧迫されながら、その日は終わった。


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