第112話



午後の部は最上階から下の中途な階を降っていった。

そこには職員の寝泊まりできる寮が備えられてあった。

別に俺達は新入職員として見学しているわけでもないので、そこまで見せてもらう必要があったのか疑問だが。

階の中央辺りにある広めの休憩所で職員が集められ所内の体験談だとかを話してもらった。

失敗のできない仕事なので緊張感をもって務めているが、この島の発展のためにやりがいのある職場だ云々。


レンダの部屋にも案内してもらった。

いい役職らしいのでいい部屋かと思ったが、わりと狭い部屋だった。

薄い本がたくさん平積みされていて、ベッド以外のスペースが埋まっている。

俺達は座る場所もなくぎゅうぎゅう詰めで部屋に立っている。

よくこの部屋に案内しようと思ったな。


「こうやってプライベートでもあたしは研究を怠らないのよ。ヌフフフフ。」

「どれどれ?・・・う、うん。これは勇者君に見てもらった方がいいようね・・・。」


ルセットが薄い本を一冊手に取ったが、結局アレな絵本なのかよ。


「なんの研究なのよ・・・。」

「大事なお勉強でしょうが。まさか本物に出会えるとはね。ヌフフ。」


嫌な視線を避けるように俺は部屋を出た。



それから北棟に行って加工食品の工場を見学した。

各施設で作った原料を元にオートメーションで製品を生産していくようだ。

無人のコンベアに装置がポンポンと原料を加えたり、殺菌したり、加工したり、充填したり、冷却したり、包装したり。人は見てるだけで作業はしていない。


「人は見てるだけなのか。これじゃあ人間は必要なくなるな。」

「いやいや、手作業じゃないけど経過をチェックする仕事も重要なのよ。仕事が無くなるわけじゃないし、形態が違うというだけだね。」


俺の質問にレンダが真面目に答えてくれた。


完成した商品を試食させてもらう事になった。プリンというデザートだ。


「うん!甘くて美味しい!」

「ホントねー。これみんなの分も買って帰ろうかしら。」


唸る俺とルーシーもお気に入りのようだった。


小麦の生産風景も見せてもらった。

だだっ広い部屋でガラスに遮られた平原に小麦がざわざわ実っている。

天井には明るいライトが照らされ、シャワーのような水撒き装置もあるという。

種まき、収穫も機械がやってくれる。

今俺達が居る別室の制御室でそれらを全て操作するのだとか。

ちょっと信じられない光景だ。ここは建物の中、地上何十階の空中だというのに。


そんな常識をぶち壊させるような午後の見学会も午後5時になって終了した。


俺達は最初に居た中央管理センターの一階に戻ってきていた。


「さあ、定時になったんでこれで今日はお開きだね。どうだったかな?」

「レンダさん自ら1日中案内してくれるなんてありがたかったわ。本当ありがとう。」

「いやいや、あたしは暇なんで・・・。」


レンダの別れの挨拶にルセットが答えている。


「この技術をローレンスビルに持ち帰って実用化したいわー。」

「おいおい、マジで言ってんのかよ。」

「大マジよ。だって便利でしょ?」

「それはそうかもしれねーけど・・・。」


やる気のルセットにアレンが困惑している。


「ちょっと難しいんじゃないかしら?技術というかシステムの根幹は何でも生成できるリーヴァの能力でしょ?そこを真似することはできないんじゃない?」


ルーシーが苦言を呈した。

確かに。そもそも何もない島だからこそ一からインフラを敷き詰められたが、今ある俺達の町に同じような水道ガス下水等を作るのは至難の技だろうな。

何世紀かかるか分かったもんじゃない。


「それより疲れて汗かいちゃったわね。ここにシャワー浴びる所とかないかしら?」

「汗?あるよ。もっと汗をドバッーってかけるところが。あたしは定時に上がったらいつもそこに通ってるんだけどね。」


ルーシーが突然レンダに妙なことを聞いた。レンダも妙な返答をしている。


「サウナがあるからそこでスッキリしてからシャワーを浴びるといい。あたしの日課は一時間サウナで耐久レースをしてから上がるんだよねー。きんもちいいよー。ヌフフフフ。」

「あら、面白そう。ルセットも入るわよね?」

「え?ええ。面白そうね。」


困惑するルセット。俺もアレンも同様だ。


「男湯もあるから入っていきなよ。じゃあ、エレベーターにまた乗り込もう。」


再び乗ることはないと思っていたエレベーターに。

何階だかカードキーを使わずに押した階に移動して廊下を歩くとのれんがかかった男湯、女湯があった。この中にサウナもあるのか。


「じゃあ、男はこっち。あたしらは向こう。」


レンダが仕切って俺達を導いた。


「勇者様は熱いの苦手だからその辺ぶらぶらしてたら?ちょっと覗いてもいいのよ?」

「え?いやいや、なんで・・・。」


別にそんなに言われるほど苦手というわけでもないが・・・。


「まあいい。ちょっくら行ってくるか。」


アレンは男湯に入っていく。レンダとルセットも女湯の方へ。ルーシーもそれに続いて。


ハッとした。


そうか!ルーシーはレンダに白衣を脱がせるためにシャワーと言い出したのか!

カードキーを拝借しサウナに入っている一時間の間に東棟最上階にエレベーターで向かえと俺に言っているんだ!

バレたり捕まったりしたらどうなるか分かったもんじゃないが、ここで手をこまねいている暇はない。


廊下で突っ立っていると、のれんの間からバスタオル姿のルーシーがひょっこり出てきた。


「勇者様覗いてるー?うふふ。頑張ってねー。」


くるりと翻って中に戻る。

足の裏に何かを伏せていて後ろ向きで踵を蹴り上げるように、こちらにそれを滑らせる。


カードキーだ。確かに受け取った。レンダには悪いがしばらく預からせてもらおう。



俺は東棟に急いだ。一時間と言っていたがそれは正確な時間ではないかもしれない。強がって長めの時間を申告したが、実際はもっと短い時間ということもある。とにかく急いで戻ってレンダが気付く前にカードキーを返さないと。


東棟の出入口は西側にある。中央管理センターに向かいだ。今は職員は見かけない。急いで入り口に入る。

入り口入ってすぐ横にエレベーターが左右にズラリと並んである。あとはガランとした通路が一階奥に続いている。

見ている暇はないので左のエレベーターに乗り込む。カードキーを壁にかざして階数のボタンを押せばそれで目的地に辿り着く・・・。

無い!ボタンは69階までで70階のボタンが空欄になっている!

一旦69階まで行ってそこからまた別のエレベーターに乗らないといけないのか?

それでもいい。とにかく急いで先に進まなければ。


もどかしいくらいゆっくり閉まるエレベーターのドア。誰かに見られたら事だ。早く閉まってくれー!


やっとで動き出すエレベーター。どうやらカードキーの使い方も間違いではなさそうだ。

69階。いったい何があるというのか。

かなりの高さだが一瞬でそこに到着する。エレベーターがゆっくり開き、俺はドアから出る。

一階と同じような並びでエレベーターが並んでいる。当たり前か。

奥に続く通路を進む。赤いカーペットを敷き詰め、白い壁の長い廊下。ガランとしていて職員も警備もいない。居たら止められていただろうが。無闇に明るい照明が不気味だ。

通路の左右に何かが設置されていて狭くなっている部分がある。真ん中を通るしかない。

突然声が聞こえてきた。

驚いて一歩引き下がる俺。


「ご用の方はアポイントメントの取得番号を入力してください。」


誰か居るのか!?

周りを見回すが誰も居ない。


アポイントメントの取得番号?そんなものはあるはずがない。

左右に設置されているせりだした壁のようなものにエレベーターのボタンのような数字が書いているパネルがあった。これを押して通行許可を得るということか。

ということは押さずに通ったらどうなる?適当な番号を押したとしたら?

さすがに見過ごされるということはないだろう。

だが、この先に会うのに許可が必要な人物がいるということは確かだ。

カードキーを戻して気付かれない内にと思っていたが、どうやらそう上手くはいかないようだ。さすがにそこまで警備はザルではないか。


どうする?ここまで来ればあと一歩なんだ。引き下がれない。

しかしここで御用となってしまったら、島での今後がどうなるのか・・・。

迷う時間もそんなに長くはかけられない。

おそらくチャンスはもう二度はない。カードキーを何度もくすねられるほどレンダも脇が甘くはあるまい。


俺は通路を走り出した。警告のアラームが鳴り始める。


「アポイントメントの無い方はお通しすることができません。武装をしている者は速やかに武装を解除し、警備員の到着をお待ちください。」


悠長な警告の声が聞こえるが無視させてもらう。

これで俺はお尋ね者か。仕方ないとはいえ少々辛い。


左右に重厚な扉がいくつも並んでいる通路を走る俺。

それらが何の部屋なのか見る暇はない。

通路を突き当たるとエレベーターが見えた。3つ並んでいる。真ん中に迷わず入る。

カードキーをかざし、今度は70のボタンを押す。


いよいよ、リーヴァとご対面できるのか?

逸る気持ちを押さえることができない。ゆっくりと閉まるドアに苛立ちながら通路の奥から来ているものがないか凝視している。

ガコンと音がして閉まるドア。スムーズに上昇するエレベーター。

すぐに70階に到着。ゆっくり開くドア。


ドアの向こうは左右に広がる廊下だった。

赤いカーペットに白い壁。真正面に所長室とプレートが貼られた扉が待っている。

迷わずその扉に飛び付く俺。

扉を両手で開くと、鍵は掛かってなく、簡単に開いた。


中は物凄く広い。左右に白い壁、奥にガラス窓が見える。

天井と床は黒いが、白いラインが入っていて一種の幾何学模様にも見える。

左右の壁には腰くらいの高さの棚が並んでいる。

部屋の中央にはデスクが置いてあり、その椅子には誰も座っていない。

入り口の扉から奥のガラス窓まで100メートルはあろうかという広さだが、そこには誰も居ない。


無人だ。

リーヴァどころか誰も居ない。しかし何かあるはずだ。マリアの言葉を信じるなら・・・。


部屋の中を捜索しようと一歩踏み出したとき、閉めてなかった扉の後ろのエレベーターからチンと音がした。

俺が使ったエレベーターではなく、横のエレベーターが到着したようだ。


しまった!警備の者が来たのか!思ったより早い!

俺はまだ何も見ていない!

焦って動き出す俺だが、広いばかりで何もない部屋で、隠れる場所も手近な捜索場所もない。


エレベーターから誰かが降りてきて俺の背後に立つ。


「そこまでにしなさい。」

「抵抗するなら撃っちゃうから。おとなしくしてねー。」


聞き覚えのある声に振り向く俺。


「あーら。良い男じゃない。」

「えー?窃盗に入ったんだから悪い男じゃない?」


ルカとエル・・・に似た人だ。黒いスーツを身に纏っている。

二人の手に何か黒い小さなものが握られているが、なんだろうか?

こちら側に穴が空いていて、何か飛び出してきそうだ。


「その腰にかけてあるものを床に置きなさい。」

「なにそれ?骨董品?ベイト達と同じようなもの持ってるんだね。」

「ベイト達がお世話になっているようだな。今日の事件は解決したのか?」


床に剣を鞘ごと置きながら話を合わせる。


「あら。まさかあなたベイト達の同行者?」

「そうだが。」

「なーんだ。窃盗グループじゃないのか。」

「窃盗グループ?・・・ではないな。」

「何しにここへ忍び込んだの?」

「リーヴァと対面したくてね。今日この研究所を見学してファンになったんだ。」

「うそくさー。」

「まあいいわ。じゃあ許してあげる。警備員が後で来るだろうけど口裏を合わせておきましょう。」

「え?許す?」

「あはは。それヤバくなーい。」

「あなたは私達と一緒にここに上がってきた。ベイト達同様窃盗グループを捕まえるためにね。」

「ば、馬鹿な!現場の人間がそんなことして許されるのか!?それにここに入った人物だってどこに逃げたというんだ!?」


「許されるわけないでしょ。だから口裏を合わせるのよ。こっちに来て。」


ルカに似た人がツカツカと奥のガラス窓に歩いていく。

ガラス窓を開け放つ。


「これ、ちょうどいいのがあった。」


エルに似た人が置いてあったリュックサックのようなものを持ち上げた。棒が二本付いてワイヤーも伸びている。何に使うものだ?

ワイヤーを引っ張ると棒が左右に開いてビニールの羽が生えたように変形した。


「犯人はこれで逃げた。パラグライダーで。」


ルカはそう言って窓の外にそれを投げ捨てた。

お前らが勝手に物を投げ捨てていいのか?


羽の生えたそれは海に向かって東の空を飛んでいく。


ちょうどその時ドカドカと警備員達が部屋に雪崩れ込んできた。

ルカとエルよりも大きな武器を肩にかけている。

見知らぬ俺に不振な視線を向けながらもルカとエルに状況を聞く。


「賊はどこに行きましたか?」

「空を逃げたわ!あれよ!このままだと海に不時着する。船で回収する用意があるのかもしれない!急いで追って!」

「空を!?了解しました!すぐ手配します!」


警備員達が回れ右をして出ていく。

なんというタヌキだ。けろっとして舌を出すルカ。

俺はそのやり取りの間汗だくになって棒立ちになっている。

よく誰も俺の存在に何も言わなかったな。


「すまない。助かったよ。だが、どうして俺を助けたんだ?」

「私達が追ってるのは窃盗グループ。あなたに構っている暇はないの。と言うかベイト達に捜索を手伝ってもらってる手前、その同行者が犯行を犯したなんて私達の立つ瀬がないでしょ。」

「なんて理由だ・・・。」


ある意味ベイト達に助けられたということか。


「でも私達の顔に泥を塗るのだけは止めてもらえるかしら?どんな理由でここに来たのか知らないけど、もう2度と変な真似はしないでちょうだい。それと、ついでだからあなたもいずれ私達の窃盗グループ逮捕に協力して。数日は宿泊場所でおとなしくしていて欲しいけど。」


頷くより他ない。


「まーまー。そんなしょげることないよ。さー下に降りよう。」


部屋を見せてもらいたいが、さすがにそんなことまでは言えない。

それにパッと見た感じ特に何も無い。

デスクには書類とハンコ。管理センターで見たような機械が置いてあるだけだ。

本当にリーヴァの部屋なのか。


剣を腰に戻し真ん中のエレベーターに乗り込む俺達。

手掛かりが掴めずしょんぼりする俺。カードキーも返さなきゃ。


「何があったの?」

「賊が侵入したそうです。」

「私の部屋に?何か盗まれたの?」

「逃走にパラグライダーが使われたとか・・・。」


エレベーターの外の通路で左の奥の方から声が聞こえた。

血液が逆流するかと思うほどに仰天した!

私の部屋・・・!リーヴァがそこに居る!正面の部屋ではなく左の部屋に居たのか!

俺はゆっくり閉まるエレベーターのドアの外に駆け出そうとした。

だが、俺の左右に立つルカとエルに肩を掴まれた。


「言ったばかりでしょ?」

「変な真似したらさすがに庇えないよー。」


くっ!そうだった!だが、すぐそこにリーヴァがいるというのに!

ゆっくり閉まるドア。その隙間からリーヴァの横顔がチラリと見えた。

顔はやや後ろ向きでわからない。

青いイブニングを着ているようだ。

だがそんなものはどうでもいいくらいに目に留まる特徴がはっきり見えた。

身長が150から160くらいだろうか。その身長を優に越える長い髪。2メートルはあろうかという地面に引きずるほどのウェーブ掛かった髪が隙間から見える。


なんという運命のいたずらだ!もう少しあの部屋で待っていたのならバッタリ会っていたかもしれないのに!正面ではなく左の部屋に向かっていたらその場で会えていたかもしれないのに!


無情にエレベーターのドアが閉まり69階へと下がっていく。

意気消沈する俺。

だが、あの特徴は他で見たら絶対に判別できると言い切れる。声も僅かだが聞いた。

ここに来ることはもう出来ないだろう。別の機会を伺ってみるしかない。

その手掛かりにはなったと、今は満足するしかない。


俺のやることはこれで終わりではない。

あとはカードキーをレンダに気付かれる前に返さなければ。


俺が中央管理センターの男湯、女湯に向かうとルカとエルも一緒についてきた。

何故ついてきたのか言わないのが不気味だが、一刻も早く戻る必要があるので構うことができない。


俺は女湯の前に着いた。だが、ルカとエルが横で見ている。脱衣場に入ることはできないぞ?

これは不味い。


「ここで何をしてるの?」

「女湯の前で。」

「いや、連れを待ってるんだが・・・。それよりベイト達は今日はもう帰ったのか?」

「帰ったわ。」

「朝早くから手伝ってもらったからねー。」


なんとか隙を見つけようとするがそんな隙なんてあるわけない。

しばらくしてルーシーとルセットがのれんから出てきた。

いつもの服ではなく浴衣という衣装を借りているらしい。


「あら?勇者様どうしたの?それに・・・。」

「誰?」


ルカとエルを見て驚くルーシーとルセット。

ルーシーは公園で彼女達を見ているはずだが、警察が俺と一緒に居るということの方に驚いているのか。


「あなたもベイト達のお仲間?私はレーナ。刑事をやってるわ。よろしく。」

「私はエレナ。同じく刑事。よろしくー。」


始めて名前を知った。


「なにか?」


ルーシーは俺を横目で見ながら恐る恐る尋ねる。


「今は別に。後であなたにも協力してもらうことがあるかと思って。」

「知ってると思うけど、窃盗グループのことでねー。」


一応ホッとするルーシー。俺が取っ捕まったと思ったのだろう。いや、取っ捕まったのだが。


「私達が協力なんてする役目があるのかしら?ここは何でもありそうだけど。」

「どうかしら。」

「ここの島民は経験とフィジカルが足りないからねー。」


「なんじゃい。何があったー。」


のれんからレンダも出てきた。まずい。カードキーを返すタイミングが・・・。

レンダも浴衣を着ている。白衣は腕に引っ掛けてぶら下げている。


「なんだ。刑事さんか。」

「なんだとは何よ。」

「呑気だねー。東棟に侵入者が入ったのにさー。」

「侵入者ー?」


ミネバ、ルカ、エルに似た人達が談笑している。

ルーシーが倒した3人がルーシーの目の前で話してるってどんな絵面だ。

ルーシーも微妙な顔をしている。


俺はそっとレンダの後ろに近付いた。

そしてポロッとカードキーを床に落とした。


「あ、何か落ちたぞ?」


自分が落としたカードキーを拾ってレンダに手渡す。


「お、あぶねー。これがないとどこにも入れなくなるところだったよ。」


俺の手からカードキーを受け取るレンダ。

ふー。なんとかバレずに返せたか。


エレベーターの方からドカドカと足音が聞こえてくる。

ドキッとする俺。


警備員達が俺達の近くに寄ってきた。


「主任。東棟に賊が侵入しました。」

「あー。今刑事さんに聞いた。賊は捕まったのかい?」

「いえ、逃走中です。」

「どこに?」

「海にとか・・・。」


チラッとルカとエルを、いや、レーナとエレナを見る警備員。


「そうかい。じゃああとは刑事さんに任せたら?」

「はい。それで主任のカードキーで質問なのですが、お持ちですか?」


俺は汗がどっと出てきた。


「あるよ?」


受け取ったカードキーを見せるレンダ。


「賊が侵入した30分ほど前、主任のカードキーが東棟のエレベーターで使われていますが、使用した覚えがありますか?」


なんだって!誰のカードキーがいつどこで使われているか記録されているというのか!?

汗が流れ出る俺。

まずい。レンダのカードキーが盗難されて使われたというなら、その時間一緒に居たであろう俺達が怪しまれる!そしてずっと一緒にいなく、サウナにも入っていない俺がその最たる候補だ!


「あー。あるよ。行った行った。」

「カードキーは登りに使われていますが、下りには使われていません。どうやって戻って来られたので?」

「相乗りしたんじゃなかったっけ。」

「刑事さんと?」

「それより賊はどこから侵入したの?海から?空から?」

「まさかそれは・・・。いえ、調べてみます。失礼しました。」


レンダがうやむやにして警備員を退けてくれた。

喉がカラカラになるかと思ったが、なんとか助けてもらった・・・のか?

それにしてもルカとエルと口裏を合わせていたのだろうか?いや、そんな暇は無かったはずだ。

思考のリンクを使わない限り・・・。

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