第108話



昨日の道を辿って高層タワーに向かう。どこからでも見えるタワーは目印としてうってつけだな。

50階まで一気に上がり部屋のドアをノックする。

ドアが開いてマリアが出てきた。


「入って。勇者君。」

「さっきはどうも。またお邪魔します。」


ファラとカテジナも入り口で出迎えてくれていた。


「こんにちは。」

「さっきはルーシーと一緒にどこ行ってたの?」

「島の観光にね・・・。遊園地とかあるんだな、ここ。」


「あるよー。ここからも見えるでしょ?」


マリアが部屋の中に入り大きな窓から北東を指差す。

ああ、昨日はあまり観察してなかったな。高いビルの影に隠れて遊具が見える。


「勇者君ルーシーと遊園地で遊んできたんだ。」

「あー。ズルい。私らとも遊ぼーよ。」

「二人きりじゃないぞ。民宿の大家さんも一緒だったんだからな。それに一応捜索の一環なんだから。」


ファラとカテジナの嘆きに一言添える俺。


「それ何に対しての言い訳なのー?別にやんなくてもいいのに。」

「言い訳じゃない。勘違いすると、いけないと、思って。」


マリアに言われて苦笑する俺。

ルーシーと二人で遊園地で遊ぶなんて・・・。うん。考えられない。


「でも、遊ぶって何するつもりなの?カテジナ。」

「なんでもいいよ。しりとりでもする?」

「あはは。道具いらないし簡単だねー。」


ファラ、カテジナ、マリアが話を進めている。

わざわざここに来てしりとりするのはどうなんだ。

それよりリーヴァの話を持ち出したいが・・・。


「リーヴァの場合は、あ、なのかな?」

「そうだね。ルーシーの場合は、し、で。」

「私は蝶々が好き、みたいな文章は無し。」

「よーし!ん、が最後についたらその人の負け、罰ゲームするよ!順番はマリア、勇者君、私、ファラ。」


ついうっかり疑問を口にした俺に、マリアもファラもルール決めを設定し、カテジナが順番まで決めた。

勢いでやることになってしまった。罰ゲームの内容が明かされてないのが怖い。


「じゃあ私からいくねー。ルーシー。し!勇者君!」


マリアが突然始め出した。

3人は大きな窓の前にあるソファーに座り、俺は窓に背を向けて彼女達の前にあぐらをかいて腰を下ろした。


「信用。う。」

「お前ら早いよ。うま。はいファラ。」

「毎週。う。またマリア。」

「嘘。そ。勇者君。」

「相愛。い。」

「インチキ!ファラー。」

「キツネ。マリア。」

「寝不足。くー。勇者君。」

「くすぐり。り。」

「リーダー。だ、かな。」

「ダンス。マリア。」

「素性。」

「美しい。」

「また、い!?インドア。」

「足。」

「正体。勇者君ー。」

「意識。」

「禁止!」

「し、市販・・・。あ!」


「あー!ファラの負けー。シビアとかだったら良かったのにー。」

「あーん。罰ゲーム怖い!」

「あっはっは!ファラにどんなことさせちゃおっかなー?」


マリアがファラをなじり、カテジナが嬉しそうに大笑いした。

罰ゲームの内容は決まってないのか。危ないな。


俺はマリアをじっと見た。

マリアが言った言葉・・・、ルーシー、嘘、寝不足、素性、正体・・・。

何か暗示的な言葉じゃないか?

もし意味があって発言したとしたら恐ろしく頭がいい。

だが、嘘、素性、正体は何か同種の言葉だと分かるが、寝不足はなんだ?これは関係ないのか?それにファラにシビアという言葉を勧めたが、あ、から何を言うつもりだったんだ。

ただの勘違いかもしれないが、ここはマリアの発言をもっと引き出してみるのもいいかもしれない。


「よし、次はリーヴァのあ、から始めようか。」


俺は早速切り出してみた。


「まだ罰ゲームやってないよー。せっかちだねー。勇者君は。」

「どんな罰ゲームにするのー?」

「怖いよ。早く決めてー。」


ニヤニヤ笑うカテジナにマリアは無責任な顔で問う。ファラが泣き出しそうだ。


「どんなのがいい?」

「うーん。痛いのは可哀想だなー。」

「痛いのは嫌ー。」


ビクビクしているファラが可哀想だな。


「よーし!じゃあ制服脱ごう!みんなの前でセクシーに一枚ずつ脱いでみて。」

「えー!?」


カテジナが妙な罰ゲームを言い渡した。

ファラは顔が真っ赤だ。


「待て待て。それは俺がヤバい。ロザミィだって聞いてるんだろ?そんなことみんなに知れたら捕まっちゃうよ。」

「なーんで。温泉のときは全裸だったじゃんか。」

「ここは街の中で君達の部屋だからな。そういうのは不味い。」

「ふーん。じゃあどうすんの?」


俺は冷静にカテジナを止めさせた。いくらなんでもファラが可哀想だ。


「考え付いた。じゃあ勇者君にキスするのはどうかな?」

「え?」


言うが早いかファラ自身が罰ゲームを提案してソファーから身を乗りだし、俺のほっぺにキスをした。


「あー!自分で罰ゲームを決めるなんてズルい!」

「アハハ!ファラやるー。」

「罰ゲームを誰が決めるかは決まってなかったもん。それに・・・お礼。さすがに裸になるのは恥ずかしいよ。」


叫ぶカテジナに愉快そうに笑うマリア、サッと俺から離れたファラが照れながらうつむいた。


「別に裸までなんなくたっていいんだけど、それならさっさと次やるよ!」

「え?」


ファラの驚いた声を放置して元気一杯のカテジナが次を始めた。


「あ、あんちゃん!私の罰ゲーム!」


今度はカテジナが乗り出してきて俺の体に乗りかかるように抱き付いて、ほっぺにキスをしてきた。思わず後ろに倒れて窓ガラスに頭を付きそうになる。

ちょっと背筋がゾッとしてしまったが、どうやら窓ガラスという表現よりガラスで出来た透明な壁という方が正しいようだ。開け閉めできるような場所はなく、斜め上から見ると10センチ以上の分厚さでちょっと不注意で転んで頭から突っ込んでも、割れてそのまま落下するということは無さそうだ。


「おいおい。」

「あん。」


口を離してもう一度言ってキスをしてきた。


「あうん・・・。」


もう一度。

あんこや阿吽のことを言っているのだ。が、湿っぽい言葉からは違う意味に聞こえる。


「もー。それじゃしりとりにならないよー。」

「カテジナやり過ぎ。」


不満そうに言葉を漏らすマリアとファラ。

俺も言葉遊びを続けてマリアの反応を見たい。

カテジナを起こして引き離す。

ばつが悪そうにむくれるカテジナ。


「しょうがないじゃん。罰ゲームなんだから。」

「そ、そうだな。次は長めに続くといいな。それと、そういうことは俺の社会的立場がピンチになるから控えてくれると助かるかな。」

「なんだよ。私ら人間のふりしてる化け物なんだから気にすることないじゃん。」

「いやいや。俺は君達もクリスもセイラも、そんな風に思ったことはないぞ。俺と戦う意志がないと言ってくれたから、仲間とは言わないが、友達でいてくれると信じているよ。」


仲間になって欲しいと期待して、板挟みにしてしまったキシリアのようにはならないようにしなければ。

納得してくれたのか膝を抱えて座り直すカテジナ。


「始めるよー。」

「はーい。」

「いくよ!」

「よし。」


さて、何が飛び出すのか。確かめてみよう。


「リーヴァのあ。勇者君つぎー。」

「あくび。カテジナの番だな。」

「貧乏。ファラ頼むよー。」

「ウォッカ。マリア。」

「科学者。や、かな?勇者君。」

「槍。」

「リンゴ。」

「御三家。け、だよマリア。」

「研究所のよ。勇者君。」

「用心棒のう。」

「迂闊。用心だと危なかったねー。つ!ファラ。」

「月日。マリア。」

「東棟。」

「裏表、かな。」

「手足ー。し!ファラ。」

「仕草。さ。」

「最上階。い、だよ勇者君。」

「いい加減。」


終わらせよう。


「勇者君罰ゲーム!」


カテジナは喜んでいる。

だが、間違いない。マリアは俺にヒントを示している。

リーヴァ、科学者、研究所、東棟、最上階。

リーヴァのことを直接教えることはできないが、言葉遊びの単語の一つ一つなら教えたことにはならない。そういうことなのか?

そして都合良く言葉が並べられるわけないので、マリアだけじゃなく、ファラもカテジナも当然一枚噛んでいる。

マリアの次が俺だったのは間で調整するためか。


「罰ゲームどうする?」

「勇者君が決めたら?」

「それじゃあ罰ゲームにならなくない?」

「ファラが言うなー!」


カテジナ、マリア、ファラと言って、カテジナが最後に突っ込んだ。


「アハハ。ありがとう。おかげで五里霧中で闇雲に探すことはなくなりそうだ。そろそろ夕飯も出来てるだろうから今日のところはこれで帰るよ。」


「えー!?しりとりしただけで帰んのー!?今日は泊まっていきなよー。」

「罰ゲーム。やっていかないの?」

「じゃー。また次までに考えようよ。明日は多分来れないんだろうしさ。」


カテジナが叫び、ファラは残念そうに呟く。

マリアは察しが良いようだ。


「あー。私らは用済みってわけー?」

「悲しい・・・。」


カテジナとファラが悲しそうに落ち込んだ。


「そんなことはないよ。また必ず来る。」

「それじゃあ、頑張ってね。」

「ああ。ありがとう。そうそう、俺からも一つ。ルーシーは嘘なんてついてないそうだぞ。隠し事はあるそうだが、いずれ話してくれるそうだ。」

「そっかー。いずれ、で、間に合うといいけど。」

「え?」

「ううん。なんでもなーい。」


マリアは意味ありげにニコニコ笑ってそれ以上は言うつもりが無いようだった。


俺は次までに考えられる罰ゲームに戦々恐々としながらも、部屋を早々に出ていった。

帰り道、考えていた。

3人が周到にしりとりの内容を準備していたのだとすると、最初のしりとりでファラが罰ゲームになったのは過失ではなくわざと?

マリアが言ったシビアが用意されていた答えで、あ、から始まる何かをマリアは言うつもりだったがファラはそれを拒んだ。

だとしたら可哀想という俺の考えは違うものだったかもしれない。

3人も一心同体、一枚岩ではなく、それぞれ思いがあり、反発もするということか。


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