35、三番星

第102話

金髪のルーシー35、三番星


一番星から始まったセイラ達のアジトの捜索もこれで最終段階に入るだろう。

何せ探す場所がもう無いのだからここに有るに違いない。

いったいどんな島なのだろうか。


イビルバスを出発して5時間。朝の10時くらいになった。

今はどこを航海しているだろう。

俺は第二甲板の客室の二段ベッドに1人横になっていた。

まだ精神的に堪えている俺はみんなと話す余裕がない。1人になりたいと思い、黙ってここに引っ込んでしまった。

それにこの部屋はキシリアにアジトの場所を聞いてしまった曰くの場所でもある。

俺は俺の愚かさに楔を打つべく、この場所で自分に向き合わせていたかった。


果たしてどれくらい効果があったか疑問だが、しばらく休めた。そろそろみんなと合流しよう。心配させてもいけない。


階段を上がりいつもの部屋に戻る俺。ノックをしてドアを開けるとベッドでフラウ、ルーシー、クリス、ロザミィが眠っていた。

時間は10時だが明け方まで捜索をやっていたんだ。もう少し眠らせておく方がいい。

そうでなくても肉体的精神的に消耗しているのは俺ばかりではあるまい。


起こしてしまうと悪い。俺は開けたドアをそっと閉じて、ラウンジにでも行こうかと思った。

ルーシーがムクリと上半身を起こして俺を見た。


「勇者様どこ行ってたの?」

「あ、起きてたのか。ちょっと1人になりたくて第二甲板の客室に・・・。」


小声でありのまま答えた。ルーシーに隠し事はできない。


「そうだったの。つらい思いをしちゃったもんね。」


まだぐっすり眠っている他の3人を見ながら、ベッドをそっと出るルーシー。


「私と一緒に居てもいい?」

「いいけど、まだ休んでなくていいのか?」

「勇者様が居ないと眠れないわ。」

「そうだったな。って、寝てないのか?」

「私のことはいいのよ。それよりお腹空かない?」

「ああ。中途半端な時間になってしまったが、朝食にしようか。」


ルーシーが部屋を出てきて今度は階段を降りて食堂に入っていく。

食堂には船員が数名食事をしていた。俺達の食事の途中で慌ただしく出ていき結局俺達二人だけになったが。

メニューはピザ風にチーズとベーコンとピクルスを乗せて焼いたトーストだった。

チーズの香りと風味が食欲をそそる。野菜のスープで喉も潤う。

食事をしながらルーシーと話をしていた。


「最近あんまり落ち着いて二人になることなかったわね。」

「そうだっけ?まあ、仲間も増えたしな。」


二番星捜索で二人になった時以来かな。


「いよいよセイラ達と決着が着くのかな。君はどう思う?」

「この戦いを始めた当初から覚悟はしていたけど、実際になるとやりきれないわね。残りはもう魔王の娘リーヴァ、セイラ、マリア、ファラ、カテジナの5人。いやロザミィも合わせると6人か。なんとか戦わずに話し合いで解決できれば良いんだけど、向こうもそういうわけにはいかなくなってるでしょうね。」


マリア達か。彼女達にも温泉島で親切にしてもらった記憶がある。

戦わずにというのは切に思う。


「勇者様はアジトが三番星にあると思っているの?」

「え?それはそうなんじゃないか?この付近にあることは間違いないんだろう?だったら今まで無かったんだから次しかある場所がない。まさかその前提自体が嘘だったらゲームにならないんだがな。」

「セイラの挑んできたゲームね。どこまで信用していいんだか分からないけど、問題がまだ何も解決していないのよね。」

「ロザミィが言ったこんな場所にアジトは無い、ってやつか。」

「そう。そしてルカとエルのこんな探し方じゃというような言葉。2つのヒント。二番星にアジトは無いというのはともかく、過去に何があったか考えろと言ってたんだっけ?」

「そうだったな。それも全く意味が無かったわけなのか。」

「一番星で行方不明者が吊るされていた木が消されたことだって意味が無かったことになるのよね。もしも三番星にアジトが普通に有ったのなら。」

「温泉島での宝探しだってそうだよ。あれに意味があったとは思えない。もしかしたらセイラは俺達をおちょくって遊んでいるだけかもしれない。」

「うーん。」

「まあ、それも三番星に着いたら分かるだろう。」

「そうね。」


朝食を平らげた俺達は長居もなんなので早々に食堂を出た。


「そろそろ島が見えるかもしれないわ。デッキに出てみましょうか。」


ルーシーがそう言ったので、そのようにした。

階段を再び上がり連絡通路のデッキ側のドアを開ける。

強い日射しが頭上から降り注ぐ。

室内の暗い明かりの下にいたせいか目眩がするような眩しさだ。

ルーシーも目を片方閉じて手で陽を避けている。


「眩しいわね。」

「寝起きには辛いな。」


別に寝起きではないのだが。そういう感じの眩しさだった。

だがそんなことはどうでも良かった。


デッキにはベラや船員が騒然として突っ立っていた。

ベイト、アレン、ルセット等の戦闘員組はまだ部屋で休んでいたようだ。


何かあったのかとベラに近付いて聞いてみた。


「どうかしたのか?」


言い終わる前に俺も唖然とした。

それを見れば立ち尽くしもする。


海の向こうには三番星がすでに見えていた。


二番星より小さく、一番星より大きいくらいか。つまり全長7キロメートルほどの大きさということか。

おそらく完全な平地だろう。山も岡も崖もないだだっ広い平地。

海域の中心に向かって島が削れているように崖が見えるが、一番星や二番星のように高い崖ではない。

おそらくというのは、見える範囲でしか計れないからだ。向こう側が見えない。

その島に建っている大きな建物のせいで。

無数に生えていると言ってもいいくらいに、長方形の高い建物が島全体に建ち並んでいる。


「街がある・・・。」


生唾を飲み込みながらそう呟くのがやっとだった。


「思わぬ遠回りをしちまったもんだね。まさかこんなに堂々と住みかを作っていたなんてね。」


ベラが俺に答える。


住みか。街があるんだから誰かが住んでいるに違いない。

それが誰かと言われればセイラ達しかあるまい。


俺は自分でもここに有るはずだと言っていたばかりだったが、何か違和感を禁じ得ない。

そんなことがあるのか?

想像していたものと違いすぎる。


ルーシーを見てみた。彼女も俺と同じように浮かない顔をしている。


「クリスに見てもらわないと何とも言えないけど、あれをセイラ達が作ったというのは信じがたいわね。たった20人が住めばいいだけだったはずのアジトが、あれほどの規模で作られてるとは思えない。」


しかし能力的には不可能ではない。ロザミィは一瞬でログハウスを作って見せた。

ならば時間とやる気とエネルギーさえあれば街一つ作り出すのも可能と言えば可能なのだろうか。


デッキの上で徐々に近付いていくその街を見ながら佇んでいる俺達。

次第に戦闘員組のメンバーもデッキに上がってきた。

ベイト、モンシアが出てきて言う。


「寝過ごしてしまいましたかね。」

「なんでいなんでい、鳩が豆鉄砲食らったような顔してやがんな。」

「あれはいったい何ですか?」

「うおぉ!こいつは・・・豆鉄砲じゃ済まねえな・・・。」


アレン、アデルも同様に三番星を見て驚く。


「こいつは驚いたな。俺のじいさんの話じゃ、島に街があったなんて聞いたことねえんだがな。」

「上陸してみないと分からないが、とにかく今までの捜索とは別物になりそうだな。」


ルセットも起きてきた。


「うーん。頭クラクラする。徹夜は体に堪えるー。みんなおはよう。」


そういえば朝の挨拶なんてしてなかったな。


「おはよう。」


みんな口々に答える。


「あれ見ても感想ないのかい?」


ベラが島を一目見て顔を背けたルセットに半笑いで尋ねた。


「島ね。」

「アハハハ。確かにな。」


アレンが呆れたように笑う。


お待ちかねのクリスとロザミィ、フラウが最後にデッキにやって来た。


「勇者どこに行ってたの?」


俺を見て開口一番にクリスが迫ってきた。

俺の事は今はいいから・・・。


「あ!凄いです!もう島が見えますよ!」

「へー。ホントだー。私が引っ張って行かなくてもちゃんと進んでるんだー。」


フラウとロザミィが呑気に感想を言った。


ロザミィのリアクションを注視していたが、まったく変な反応はない。

何を考えているのか分からない。

アジトが目の前に迫っているんだ、焦りだとか困惑だとか、何かあってもよさそうだが。

まるで観光地の旅行者がスポットを観光しているように街を眺めている。


「クリス。あの建物って、魔人の能力で造られたものなの?」


ルーシーがさすがに痺れを切らしてクリスに質問する。


「違うみたいだよ。」


クリスは事も無げに答えた。


何だって・・・!?


俺達一同はデッキで顔を見合わせる。


前提が崩れてしまった。

当然あれはセイラ達が作ったものだと考えていた。

ということはあの街は元々有ったものなのか?


「待て待て待て!さっきも言ったがこの星の屑諸島に街があったなんて話は聞いてねえ。」

「と言うことは何かい?魔王歴の40年間、船が海域を航行出来ない間にあの街が造られたってのかい?いったい誰が?」


アレンとベラが誰にともなく口を開く。

あそこに住んでいたもの・・・。セイラ達が能力を得たのはつい最近。ここにやって来たのも一月ほど前だろうか。

それ以前にここに居たとなると1人しかいない。

魔王の娘リーヴァだ。

その能力は不明だが、魔人に能力を与えた人物だ。どんな能力でもおかしくはない。


「確か温泉島は人工物で出来ているとフラウが言っていたな。」

「そうでした。でも崩れ具合から相当以前のものだと思います。」


俺とフラウが話す。

今現在そこに存在するこの街とは関係ないのか。

まだ上陸もする前から頭が混乱してきた。

調べてみないかぎり答えなんか出るわけもないが。


「ねえ勇者。ミネバとキシリアの残していったものどうしよう。」

「ん?残していったもの?」


ぜんぜん関係ない話をしだすクリス。

混乱していてパッと思い付かない。


「ミネバが部屋に薄い絵本置いていったけど、あれどうしよう。」

「う、うーん・・・どうでもいいんじゃないかな・・・。」


ろくな内容ではないだろう。


「じゃあ私がもらってもいい?」

「ああ、いいと思うよ。」

「アレンはいらないの?」


突然アレンに話を振るクリス。


「いや・・・それをもらってもな・・・。」


さすがに困惑するアレン。ミネバとの思い出にしたって物が物過ぎる。


「じゃあサンダーダンサー40巻だけもらったら?」

「ああ・・・それならいいか。あいつが作った辛い料理とダンスのシーンでも見ておくか。」


ちょっとしんみりしてしまうな。妙な人物だったが、居ないと寂しいものだ。


「勇者はキシリアの遺品をもらっておく?」


キシリアの遺品・・・。

ドキッとしてしまう。まだ俺の中でその事は消化できていないようだ。

信じられないでいる。


だが、キシリアに遺品なんてあっただろうか。

大剣はデカすぎて持ってこれなかった。キシリアが変化させたものはキシリアしか戻すことはできない。あの大剣はあの島で錆びて朽ちるまでずっとあそこに放置されるのだろう。


「これ。キシリアのスーツとパンツ。」


クリスがどこからともなく、地面に落ちていたキシリアが着ていたダイバースーツと下に穿いていたのであろう下着を出した。


そんなものをもらってどうしろと言うんだ。

故人の衣服というのも辛いものがある。


「もー。クリスお姉さん、キシリアお姉さんが人前でわたくしのパンツを晒さないで下さいって言ってると思うよ。」


ロザミィがキシリアを代弁している。


「そうか。まだ使えると思ったけど、どうしよう。」

「クリスお姉さんがもらっておけば?」

「うん。そうだね。ミネバの絵本もまだミネバは全部読んでないと思うから、今度会ったとき内容を教えてあげなきゃ。」


内容はおそらくアレだが、クリスのいじらしい言葉に涙ぐましい思いがする。


「もー。クリスお姉さん、ミネバちゃんはもう全部読んだって言ってると思うよ。でもコレクションで取っておきたいからそのまま持っててって言ってると思うよ。」

「そうか。全部読んだんだ。200冊くらいあったのに。」

「ニュフフ。あたしにかかれば一晩あれば余裕で読めるわって言ってると思うよ。」


代弁というか復唱しているかのような本人っぷりだ。

確かにそんな感じで言いそうだ。

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