34、ミネバとキシリア

第98話

金髪のルーシー34、ミネバとキシリア


もうかれこれ2時間になる。

ルーシーが相手している146体の玉っころはもちろん1体も減らない。

あたしもその辺を色々探してみてたけど、源泉なんて見つからない。

ここじゃないんじゃないかな?


ルーシーはまだ元気に泳ぎ回ってる。超人か。

あたしは玉っころが時折撃ってくる角を全方位光線で撃ち落としてる。

少しでも時間を稼いで生き残るために・・・。


なんでこんなところで死にそうになってんだ。

まだ本番はこれからなのに。


「そろそろキツイわね。空気が持たないかもしれないわ。」


ルーシーが弱音を吐き始めた。

空気が足りずに勝手に死んでくれたら儲けものだけども、水面に上がるだけだよなー。


その時玉っころが急に一斉に溶け始めていった。


「にゃんだ?」

「やったわ!誰かが探し物を破壊してくれたのね!」


おおー。なんというタイミング。あたしにとってはこれ以上無いベストタイミングなんじゃ?

ルーシーの酸素ボンベが切れそう。

ここであたしが襲いかかったら勝機はあるんじゃないの?


「フーッ。冷や汗かいたわー。なんとか作戦成功ね。ミネバもご苦労さん。」

「ニュフフ。本当にご苦労なことだったね。ホワイトデーモンの排除を確認。これより休戦は解除する。」

「なに言ってるの?」

「言ったでしょうが。一時休戦だって。ホワイトデーモンという共通の敵が居なくなった今、休戦は終わり。」

「あなた・・・冗談で言ってるわけではなさそうね。」

「そうだよ。ルーシー。あんたとサシで勝負するためにあたしはここにあんたを誘い出したんだよ。」


少なからず困惑しているルーシー。

ニュフフフフ。驚いたかあたしの作戦に。

3つのブロックに分かれたこの島を捜索するなら、三手に別行動するであろうことは予測がついていた。そこにあたしらが協力する振りをして入り込めば、あとはルーシーがどんな組み合わせにするかというだけの問題だった。勇者とキシリアがべったりくっついて、クリスとロザミィも仲が良い。あとはあたしとルーシーが組めば邪魔の入らない1対1の状況が作れるってわけよ。

一応ロザミィにもそういう組み合わせになるよう口添えを頼んでおいたけど、必要なかったね。

そうそう、ロザミィは普段セイラとしかリンクの回線を開いてないから、船を引っ張るときわざわざスズメの中に絵本を持って行って、あたし達といつでも話せるように催促しといたけど、町では役に立ったね。


「あなた達が何か考えてるんだとは思っていた。思ってはいたけど、今ここで戦えって言うの?あなたと・・・。」

「違うね。戦いはもう始まってるんだよー!」


あたしはさっきまでルーシーを守って放っていた全方位の光線を周囲にめちゃくちゃに放った。


「やめて!あなたと戦いたくない!戦う理由なんてない!」


あたしの全方位光線を事も無げにスイスイ避けながら叫ぶルーシー。

やべえ・・・。ぜんぜん当たりそうにない・・・。


「この数日一緒に過ごして、あなただって良い思い出が出来たでしょう?ぜんぜん共存できない存在ではない!」

「あたしらは違うんだよ。表面上のあたしらをそのまま受け取らない方がいい。あたしらはもう壊れてるんだよ。生も死も破壊も創造も、友情も裏切りも、あたしらには同じようなもの。価値観がぶっ壊れて人の心では無くなってるんだ。」

「違うわ!最初は肌の色が変化し、能力が変化し、人でなくなったことに絶望して暴走したのかもしれない!でも暴走するってこと自体、人の心があるからでしょう!」

「その言葉もなんにも響かないねー。」


水中全方位を駆け巡る光線。それを魚の化身かのように上手に泳いで避けていくルーシー。

早く空気が切れろ!そうなれば水面に出るしかなくなる!そこを極太光線で狙い撃ちすればルーシーだって倒せるはず!

光線は剣では斬れない。こうして全方位に光線を放ち続ければあたしに近付けず、後手に回るしかない!

完璧な作戦だ!


「無闇に戦いたくない。みんなだってあなたの帰りを待ってる!」


そう言いながら徐々に距離を詰めていくルーシー。

光線はジグザグに水中に照射され続けてるのにまったく意に介さないようだ。

手には剣を持っている。

こわっ!


「勇者様もアレンも、クリスもあなたのこと気に入ってる。無駄なことはやめて一緒に帰りましょう!」


戦いたくないだの無駄なことだの・・・自分が襲われてるという自覚はこれっぽっちもないのか。

自分は帰れるつもりで話してるのが恐ろしいわ。


この光線だって普通は全方位一網打尽にできる攻撃のはずなのに、ルーシーの接近を抑えるくらいの効果しかねえ。


「空気の残量が無くなるまでそれほど時間が無さそうだから早めに決めてくれる?」


一気にルーシーが距離を詰めて来た。

あたしの頭を中心に放射されてる光線だから近付けば近付くほど密集して回避は難しいはずなのに。いとも簡単に首筋に剣が届く距離まで接近された!接近を抑える効果なんかぜんぜん無いじゃん!

空気が無くなって水面に出るのを待つ余裕なんかぜんぜんないぞ!

それにこいつ説得する気あんのか!?殺意高過ぎだろ!?


いやまあいきなり襲いかかったこっちが悪いんだろうけど。


こうなりゃ近距離で極太光線をぶっぱなすしかない!


「答えはこいつで受け取れやー!」


あたしは全方位から一点集中の光線に切り換えてデコから照射しようとした。

次の瞬間、あたしの視界が明後日の方向に転げ回った。


やべえ!首を斬られた!

いくらあたしらが即死しないとは言え、躊躇無さすぎだろう!


まあこっちは黒焦げにしようとしてんだけど。



あたしは変化能力で瞬時に再生。でも、こう密着状態に取り付かれたら光線の発射体勢に入るだけで首を斬られる。別の手を考えないと。


体から黒いもやのようなオーラを滲ませ水中に漂わせる。

もやは物理的な物体ではないけど感覚があるので一瞬早く外的要因を察知できる。

それと爪、と言うか指を三角のブロックみたいにして引っ掻きで近接攻撃を繰り出すよ。

魔族の身体能力で殺傷力と瞬発力は申し分無いはず。


突然ファイトスタイルを変えたあたしに警戒するルーシー。

あたしは間髪入れずに爪の攻撃を振ってみる。

ルーシーが反応して避ける。その動きが読める!ルーシーの動きに追従するように爪の軌道を即座に変化させる。

でもあたしの関節の動く間合いより離れられた。空振りだ。

でも距離が稼げるならそれでも良い。剣の一振りで届かない距離からなら光線の出番だ。

さすがにこれを避けるのは容易くはないでしょ。


極太光線をノータイムでぶっぱなす。ルーシーの避ける軌道が読める。

読めることで今まで認識してなかった動きの早さに驚く。

こいつ予測してあたしが攻撃する前から動き出していた!

あたしの股を潜るように背後に泳ぎ出す。


これは当たらない!体ごとルーシーを追うと射角が自分の体で取れない。


ルーシーは背後に回らずにあたしの足下から剣を手に急上昇してきた。

やべえ!股から真っ二つに斬り殺す気か!足の指を三角のブロック状態にして防御する。


「こうして見ると、だんだん化け物じみてきたわね。」

「どっちがじゃぁあ!あたしに変身を使わせてるのはあんたのせいでしょーが!」

「それより、本当にやめる気はないの?あなたの話が本当なら、キシリアも勇者様を狙ってるってことなの?」

「ニュフフ。そうだよ。今頃大変なことになっているかもねー。」


挑発するつもりで言ってやったら、ルーシーの目がめちゃくちゃ本気になった。


「時間がないのね。」


足の指で防御していたルーシーの剣に力が入って、そのまま足ごと切断して切り上げられる。


「ぎゃー!」

「とても信じられないし、信じたくない。勇者様と一緒に居て凄く嬉しそうにしてたキシリアがそんなことを考えていたなんて。勇者様を騙して裏切るなんて。」


あたしは足を再生してルーシーから離れようとした。けど。


「悪いけどもう構ってやれないわ。勇者様を助けに行かなきゃ。」


ルーシーに追い付かれる。そこで四肢をぶった切られた。


「んぎゃーぁああっ!!」


ルーシーの動きが読めるけど、読んだところであたしに反応できない。

再生する度にぶった切られて距離も離すこともできない。

なんじゃこりゃ。


何度も再生をし続けていると、さっきのホワイトデーモンにフルチャージ極太光線を無意味にぶっぱなしたせいで、エネルギーが尽きた。


あーあ。本当に無駄なことした。

全力を出せもせず見せ場も特になく、良いところもまったく無く中途半端に片付けられた。

そうしてあたしは死んじまった。チャンチャン。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る