第97話
私クリスとロザミィはアレンとアデルのボートから降りて南側の湖沼の中で待機していた。
黒いボディスーツみたいなピッタリした服を用意してくれてたけど、体にフィットし過ぎでちょっといやらしい。
私は水中でロザミィをジロジロ見ていた。
「いやーん。クリスお姉さん。目が怖いー。」
「怖くないよ。そうだ。ロザミィ疲れてるんじゃない?夜中からずっと船を引っ張って、少ししか休んでないでしょ?」
「うーん。疲れるっていうか。エネルギーが消費しちゃってる感じ?」
「じゃあちょっと補給しようか?」
「え?待ってなくていいの?」
「いいよ。そのうち始めれば。」
別にロザミィのスーツ姿を見て興奮したとかじゃないよ。
船を牽引して道具を複製して、ずっとエネルギー使ってばかりで補給もしてないみたいだから、いざというときにエネルギー不足になると困っちゃうからだから。
ロザミィは背が低いけど体はグラマーだ。ちゃんと出てる所が出てるし引き締まって無駄な所がない。
私達は抱き合ってキスを始めた。
最初はニヤニヤ笑っていたロザミィも次第にせつない顔になってキュって私の肩を抱き締めてた。
足と足も絡め合って、薄いスーツさえ邪魔に思えてくる。
気付いたら1時間くらい経ってた。
ロザミィがばつが悪そうに言い出した。
「ねえ、クリスお姉さん。もうそろそろ信号の合図ないのかな?」
信号の合図?
そういえばキスを始めた直後くらいに空が光ったような気がするけど、あれがそうだったのかな?
信号弾で合図って言ってたけどそれが何なのか知らなくて、聞くのも恥ずかしいから知った振りしてた。
「じゃ、じゃあそろそろ行こうか。」
私達は中央の湖沼に入っていった。
何もない泥の底が見える。
私達はエネルギーがみなぎっていたから、通常の3倍の速度で水中を泳いだ。
「あ!」
10分も泳いだら泥の底に動くものを見つけた。
「えー!?竜が居るよー?いやー。怖いー!!」
ロザミィが過剰に怖がった。
私も怖いけど。
ロザミィの言う通り、翼を3対6枚持った20メートルの巨大な竜が底に埋まっていて、水中に地響きを発てながら起き上がってきた。
口を開いて渦のようなものを吐いた。
熱湯だ。
私は渦に飲まれるかと体を強ばらせたけどそうはならなかった。
「なーんだ。水中じゃ火は吐けないんだ。じゃあ怖くないや。」
ロザミィが立ち直った。
私達の目の前に氷の壁を作って渦を防御してくれた。
そしてロザミィも水をかき集めて巨大なスズメに変化していく。
怪獣と怪獣の戦いが始まった。
竜に突っ込んでいくロザミィ。迎え撃つ竜。手の伸ばして攻撃してきた。
竜の爪がスズメの頭を貫通したけどそこは本体が居ないんで効果はない。
貫通されたまま、むしろ腕を固めて接近するロザミィ。翼で竜の体を押さえる。
竜が再び口を開いて何か吐こうとするけど、腕を固めたままのスズメの頭で竜の首を啄んだ。
すると今度は竜の体から針のような生えてきた。串刺しにする気だ!
ロザミィの周囲にバリアが張られて針を全て途中で止める。
飛行体を自動防御するバリアが働いたんだ。
なにこれ。どちらかというとロザミィの方が強い。
こういうことを想像してたわけじゃないけど、ロザミィをフルチャージしておいて良かった。
竜が翼で水中を上ろうと羽ばたく。
水中では火が吐けないかもしれないけど、水から出たらどうだろう?
不味い。水から出るとロザミィが苦手な火を使われてしまう!
「ロザミィ!そいつを水から出さない方がいい!」
私は叫んだ。
ロザミィは返事のかわりに体をますます巨大にして竜を押さえ込んでいく。
啄んだ竜の首を飲み込んでいく。
どこに入ってるの?あれ?
まさか・・・。
竜の体自体をスズメの体の材料として取り込んでいってるんじゃ・・・。
体をビクッとさせて翼と背中から脱皮するように分裂する竜。
ロザミィの拘束からあっという間に離れた2体目の竜が急いでその場を離れようとする。
でも竜の行く道に氷の刃がいくつも出てきて、逃走を遮る。
1体目を投げ捨てて2体目に飛び掛かるロザミィ。
沼の底に押し倒して上になる。
激しい巨大怪獣の応酬に湖沼の中は掻き回され、流されてしまいそうだ。
私が普通の人間ならとっくに吹き飛ばされてると思う。
でも空気や水を変化させて何かを作るように、竜の体をそのまま何かに作り替えれば一瞬で勝負が着くんじゃ?
私は試しに竜を変化させてみようとした。
私の力じゃそもそも上手くできないけど。
やっぱり駄目だ。力不足以上にターゲットが不規則に動いているとロックが定まらない。
さっきロザミィが嘴で動きを完全に止めたみたいにしないと出来ないんだ。
私達が拘束されてると変身出来ないのと逆だ。
私はこの戦いで加勢は出来そうにない。
当初の目的通り源泉にある何かを探すしかない。
波に飲まれながらも抵抗しつつそれを探し始めた。
竜が尻尾をロザミィのスズメに巻き付かせた。
そしてブクブクと周囲に泡が立ち上りだす。
発熱してる?ロザミィ大丈夫なの?
直接火じゃないけど焼き鳥になっちゃうんじゃ。この場合茹で鳥か。
装甲をパージさせながらウェルダンにならないよう熱を遮断してる。
ロザミィの方は嘴で首を啄みながら泥の湖底を引きずって左右に振り回してる。
スケールがでかすぎてもうよくわかんない。
辺りをキョロキョロ見回しながら必死に探していたら、あ、あった!
竜が最初に居たところに細かい泡が昇っている場所がある。そこは他より水温が高い。水流も見える。
そして、その上に黒い染料を水に溶かしながら浮いている物があった。
手に乗るくらいの縦長の宝石みたいなもの。表面はゴツゴツしてるので原石という方が正しいか。
紫色で透明に薄く光ってる。
これがモンスターを生み出す黒い霧を作り出していた元凶。
こいつを破壊すれば竜の動きも止まるんだ。
私は早速骨針を出してその元凶に一太刀浴びせた。
ガツンと音がして弾かれた。
なにこれ。硬い。傷一つつかない。
これを破壊すれば終わりだというのに。
スーツの背中に穴が開いちゃったけど、背中の骨針を6本出して再び挑戦する。
やっぱり弾かれる。
こんなに硬いなんて思わなかった。私の力じゃ壊せそうにないよ。
私はその原石を持ってロザミィの所に泳ぎだした。
「ロザミィ!見つけたけど硬い。なんとかして。」
あれもこれもロザミィ頼みというのは情けないけど今はそんなことも言ってられない。
「クリスお姉さん中に入って!」
湖底で竜と力比べして押したり引いたりしている巨大スズメの背中に回ってズブズブと入っていく。
中は相変わらず透明な壁と床と天井で周りの景色が全部見える。
空気があって水の中とは思えない。
目の前に竜のお腹が立ち塞がっててちょっとビックリした。
ロザミィは床でうつ伏せに寝転んで薄い絵本を読んでいた。
もっと真面目に必死に戦ってると思った。余裕ありすぎ。
「どうしたの?何か見つかったの?」
興味ありそうにロザミィが私に聞いてきた。
「うん。これが探してたやつ。硬くて壊れない。」
「へー。キラキラして綺麗だね。」
「綺麗じゃないよ。モンスターを出してるんだから。なんとかして。」
「うーん。私も破壊力はそんなに無いからなー。」
耐久力と防衛力は各種能力で異次元だけど、攻撃方面はもう触手はないし、私とそう変わらないかもしれない。
しょうがないんで、鉄のハサミみたいな工具で挟んで二人で引っ張って壊そうとしたけど、工具の方がへし折れた。万力というネジでゆっくり閉めていくやつも駄目だった。
おっきなハンマーで叩いても傷はつかない。
まさかの一番の強敵がこの原石だったなんて。
これじゃどうしようもない。
かれこれ出発してから2時間は経った。
アレン達もそろそろ危ない。ルーシーと勇者も空気が限界に近い。
気が焦るけどヤスリで擦ってもヤスリの方が磨り減っていく。
ダイヤモンドをカットするためのダイヤモンドのカッター。これが駄目ならこの世界でこいつを破壊出来るものは無い。ロザミィがいくら何でも作れるからと言って、この世に無いものは創れない。
慎重に試してみたけど、ダイヤモンドの刃が折れて原石は無傷のままだった。
「駄目だ。何しても傷もつかない。」
「頑丈だよー。私とどっちが頑丈かな?」
「そんなのこれに決まってるよ。ロザミィは火によわ・・・。」
ハッとした。
そうか!
「ロザミィ。竜を空中に抱えて飛んで!」
「えー!?火吹かない?」
「それだよ!アイツの火力を利用しよう!」
「あ、そうかー。」
ルーシーがルカとエルでやったように、相手の高い火力を使ってこの硬い原石を溶かせばいいんだ。
もうそれほど時間がない。
早くアイツに火を吐かせるよう誘導しなきゃ。
噛みついたり啄んだり、湖底を転げ回って取っ組み合いをしていたスズメと竜。
スズメが竜を持ち上げるように水面に上昇していく。
スズメの中のこの部屋は、常に水平が保たれているので私達が転がり回る事はないみたい。
水面から出て夕焼けに染まる湖沼の上空に現れるスズメと竜。
綺麗な眺めだけど今はそれどころじゃない。
ふと南の空を見ると10体の竜が戻って来ようとしていた。
まずい!本当に時間がない!いくらロザミィでもあの数相手じゃ辛いかもしれない。
いや、それより勇者とルーシーが持たないかもしれない。
3対の翼を持った竜は、空中戦は得意だぜと言わんばかりにスズメを振り払って空を飛び始めた。
今はそんなのどうでもいいよ。早く火を吹いて。
あまり遠くても火が届かない。ロザミィも竜を追う。
スピードは向こうの方が上みたい。差が開いていく。
スピンしながら空中を飛行する竜。真似して意味もなくスピンするロザミィ。
水平は保たれてるけど無駄に揺れるからやめて。
少し距離が開いた所で竜がターンしてきてこっちに突進してきた。
こんな大きさのものが空中でぶつかったらどんな衝撃になるのか。
「避けて!」
ロザミィがギリギリで突進をかわした。でも後方に飛んでいった竜が再びターンして突っ込んでくる。
今はそれじゃないよ。早く火を吹いて欲しいのに。
今度は角を伸ばして体当たりしてきた。
ロザミィも嘴でそれに応戦した。
「避けたらまた繰り返しになっちゃうよー。」
それはそうだけど、大丈夫なの?
空中で激しくぶつかる両者。部屋にグラグラと振動が伝わる。
立っていた私はお尻を着いて転んだ。痛い。でも床はぶよぶよしてクッションになってたから痛くない。
水中と同じように膠着状態に陥るスズメと竜。
空中での推力は竜の方が上なのか少し押されているくらいか。
でもヤバいよ。10体の竜がもうそこまで来てる。
ギャーギャー言いながら私達を囲みだした。
「やーん。いっぱいいるー。」
ロザミィが怖がりだした。
火を吹いて欲しいけど、囲まれながらだと辛いかな?
10体の竜は空中で膠着している私達に襲いかかってきた。
爪や口でロザミィだけをなぶり殺しにするつもりだ。
火じゃないの!?
バサバサと竜の翼が羽ばたく音に囲まれてスズメが蝕まれていく。
装甲を新調してるから何ともないみたいだけど、11体の竜に囲まれてボコボコにされているのを中から見るのはけっこうグロい。
「やーん。邪魔ー!」
スズメの翼からもくもくと煙が出てきた。いや、黒雲だ。
翼と一体となった雷雲から周囲に一斉に雷撃が放たれる。
一瞬辺りが真っ白になって轟音が響いた。
私はビックリして肩が震えた。中は大丈夫なのは分かっているけど、間近で見るのは怖い。
だけど10体のあとから来た竜は雷に打たれて活動を停止させた。体を焦がして湖沼に落ちていく。
でも死んだ訳じゃなさそう。ショック状態で一時失神したのかな。
ロザミィが普通に強い。
感心するけど釈然としないものがある。
よくこのロザミィと戦って無事に済んだなと怖くなる。
3対の翼の竜が角を引っ込めて口を開いた。
火を吐こうとしてる!
今だ!
「ロザミィは水中に逃げて!」
私はそう言って部屋の中からジャンプして外に飛び出した。
もちろん原石を持って。
「クリスお姉さんが焼け死んじゃうよ!」
ロザミィが私の背後から叫んだ。
そうか。その事は考えてなかった。凄い火力なんだもん。再生なんて間に合わないよね。
でも全滅するよりはいい。
私はスズメの頭に立ってもう一度竜の口に向かってジャンプした。
降下し始めるロザミィの頭の上じゃ届かないから。
そして原石を竜の口から放たれた火炎へと投げた。
えー!?って顔をする竜。意外と感情あるのかな。
原石は炎に触れる前に熱で溶けて塵になった。
それと同時に竜の体も粉々に散っていく。
口から吐かれた火は残り火だけ残して私の前方に渦を巻いて襲ってくる。
これだけでも相当な火力なんだろうな。
私は目をつぶる。
ひんやりとした風が私を覆った。
ひんやり?
私の前方に氷の壁が出来ていた。
「危なかったー。クリスお姉さんもうちょっと後の事考えてよね。」
私はスズメの頭に着地した。
ロザミィが助けてくれたんだ。
「ありがとうロザミィ。ロザミィのおかげで勝てたよ。」
「フフーン。私にかかれば楽勝だけどね。スズメちゃんの方がかわいい。」
そりゃあ竜に比べたらかわいいかもしれないけど。
ちょくちょくグロかったよ。
私は深呼吸した。
やっと戦いが終わったんだ。2時間あまりの死闘だった。
最初の1時間はロザミィとチューしてただけだけど、みんなに怒られるかもしれないから黙っておこう。
これで勇者の所もルーシーの所も竜が居なくなって安全になるよね。
「あー。いよいよかー。」
ロザミィが何か気になることをいった。
「いよいよって何が?」
「え?ううん!なんでもないよ!」
ロザミィが焦って誤魔化した。何か胸騒ぎがした。
「ロザミィ。何か隠してるの?」
「なんでもないよー。なんでもなーい。」
「ロザミィ。教えて。なに隠してるの?」
私は食い下がる。
「えー。だってクリスお姉さんは敵だからなー。」
敵ってどういうこと?私達勇者やルーシー、敵対するセイラやロザミィ、そしてミネバとキシリア・・・。そういう括りのことを言ってるの?
いよいよ・・・ミネバとキシリアがどうするって言うの?
私の胸が高鳴っていく。
「ロザミィ。教えて。私とあなたは敵なの?魔王の城で一緒に過ごした友達なんじゃないの?今だって一緒に戦った仲間なんじゃないの?」
「うー。」
「悪いことをしたのは許されない。でも反省して同じ過ちを繰り返さず、罪を償って最善を尽くすのなら、友達であることに変わりはない。他の誰が許そうが許さなかろうが、友達でいることに躊躇いはない。」
「うーんん。」
「何が起ころうとしてるの?」
「うえーん。クリスお姉さんは私と友達でいてくれるの?」
「そうだよ。ロザミィともっといっぱいキスしたい。」
「それ友達なのかなぁ?」
「友達だよ。」
「うー。ミネバちゃんがね。絵本を持ってきたとき、最初私だけに言ったの。」
この島から町に戻るとき、船を牽引していたロザミィの巨大スズメにミネバが行っていた時のことだ!私は遅れて様子を見に行ったけど、やっぱりミネバはロザミィに何か話していたんだ!
「何を!?」
「ルーシーは頭が良いから何か竜を倒す方法を考えるだろうって、そしたら3チームに分かれる事になるだろうから、あたしとルーシー、勇者とキシリアが組になるようにそれとなく口を出してくれって。」
「なんのために!?」
「1対1で戦えば勝負がつくからって。」
私は足元が崩れるような気がした。
そんなに前から・・・。いや、私達と船で町に行ったのもそれが目的だった・・・。
信じられない・・・。ミネバとキシリア。ダンスだったりボートだったり、絵本のお買い物だったり・・・。色々遊んでメイド時代より仲良くなれたような気がしてたのに・・・。
奇しくもルーシーはミネバの思惑通りの組み合わせを考えていた。
ロザミィが口を挟む必要が無かった。
「竜が倒せたら休戦は終了。その場で勝負をつけるんだって。」
こうしてはいられない!ミネバの元に急いで止めないと!
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