第96話
もうそろそろ2時間を回ってしまいそうです。
すでに手持ちのシャーク君バルーンは使い果たし、島の10キロ沖にボートで逃げ延びている状態です。
撃墜され海面に浮かんだバルーンの音を出す装置にホワイトデーモンが群がっていますが、火を吹かれて完膚無きまで破壊されてしまうと、この10体は島に戻ってしまうでしょう。
海面一帯に無惨に浮かんだり沈んだりしている400体のバルーン。
その虚しい光景以上に私の心は焦りと迷いと困惑で満ちています。
「どうしてこの竜はまだ残っているのでしょう?」
「どうしてって・・・。見つからないか、何かあったのか・・・。」
私フラウの問にボートで二人きりのルセットさんが答えました。
「何かとは?なんですか?」
「邪魔が入ったとか。」
「そんな・・・。」
「ちょっと考え辛いけど、別動隊が居たのかもしれないわね。戦闘を余儀なくされている。」
「そんな・・・。」
「仕方ないわ。私達はもうクイーンローゼス号に戻りましょう。」
「戻るってどうするんですか?ホワイトデーモンが残っているんですよ?」
「私達に出来ることはもうないわ。ここで待っていても何も出来ない。」
「でもホワイトデーモンが島に戻ったらルーシーさん達に襲いかかってしまうかもしれないんですよ?なんとかこちらで引き止めなくては。」
「やれることはもう終わったのよ。」
「そうだ!このボートを範囲ギリギリまで近付けて大声で叫んでみましょう!すぐに逃げれば追ってこれないはずです!」
「それは危険よ。知っての通りこのボートは直線は猛スピードで走るけどバックは出来ない。曲がるのも大きく迂回しないといけない。どこが正確なデッドラインか見分けがつかない状態でそれをやるのは危険よ。」
「で、でも・・・。」
私はうつ向いてしまいました。
「ルーシー達が無事に戻ってくるって信じて祈りましょう。」
ルセットさんはもう戻るつもりのようです。
信じて祈るなんて・・・。
神に仕える私が言うのもなんですが、神に祈ってどうにかなるとは思えません。
「それにね。ルーシーから言われてたの。もし一晩経っても戻ってこなかったら町に戻ってスタリオン国王の討伐隊を組織して作戦を練り直して欲しいって。このモンスター討伐は最優先でやらないといけない。とね。」
「え?」
「私も話し半分の冗談かと思って取り合わなかったけど、何か予想してたのかもね。」
「そんなの私聞いていません!」
「あなた達は眠っていたわ。勇者君が来る直前。」
戻って来ない・・・。戻って来ないって・・・。
カチっと通信機のスイッチを入れて送信オンにするルセットさん。
「みんな。クイーンローゼス号に戻るわよ。」
『本気ですか・・・?』
ベイトさんの声が聞こえます。
『マジで言ってんのか?まだ動きはねーぞ。』
アレンさんも。
『もう2時間だ。1度船に戻ってあんたらは休みな。島の10キロ圏内には入らないよう気をつけるんだよ。』
ベラ船長さんも。
ああ、帰ってしまう。ホワイトデーモンが私達のボートを横目に次第に帰路へとついていく。
そろそろ太陽が海を赤く染めだしています。
この雄大な景色を前に自分の無力さを痛感せずに居られません。
勇者さんとルーシーさんのダイビングスーツの空気も残り僅かなはず。
勇者さん、ルーシーさん、クリスさん・・・みんなが居なくなったら私はどうしたらいいのかまるでわかりません。
どうか、どうかご無事で・・・。
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