第95話



ニュフフ。ルセットとフラウに連れられてあたしとルーシーは北東にスタンバっている。

魔王の城に居たときからルーシーとはそれほど話をしたことなかったから二人きりになるとなに話していいか分からないね。

それを言ったらあたしと話が合う人の方が珍しい気がするけど。


キシリアとは出身地が同じタイクーン公国ってことでつるんでいたけど、本来はあたしとつるむようなお家柄じゃーないみたい。


「信号弾だわ。行きましょうか。」


空にホワイトデーモンが何匹か飛び立っていって、南の空が光った。

変な黒い全身タイツみたいなものを着込んだあたし達は、沼に入って探し物をするんだそうな。

ルーシーは昨日見たガラス玉を被ってる。変な格好だけどあたし達みたいに水中で呼吸できないからしゃーない。

なんであたしまでと思わなくもないけど、これも計画のうちか。


まあ、そんなわけでここからはちょっとあたしミネバがこっちのチームの出来事を書くことになったよ。ルーシー文章下手くそ。


ホワイトデーモンがいない沼の底はホントにただの沼の底だ。

30分だか40分だかはずっとこの何の変哲もない沼の底を見てたけど、つまらないから巻き。


いい加減同じ風景だわ無言で過ごしてるわで飽きてきた。

ちょっとルーシーに話しかけてみよう。


「ねえねえ。これってホントに意味あるの?あたし達のアジトなんてマジでこんなとこに無いからね?」

「そうなの?まあ、そうでしょうね。」

「そうでしょうねって。あたしらのアジトを探すために捜索してるんじゃなかったの?」

「それは最初に言ったでしょ?過去の遺物は残しておく必要はないって。9割くらいはあなた達の話は信用してるわよ。ここにアジトはないって話。でも残り1割でも可能性があるのなら自分で確認しないと気が済まない性分なのよね。」

「難儀な性分ねー。」

「それにね。ここだけの話だけど、魔王がこの場所にモンスターを残したってのが本当なら、それはこの近くに住むリーヴァのためでしょ?温泉でセイラが言ってたわよね?リーヴァは黒い霧の作り方を魔王に教えてもらってるって。つまりリーヴァにモンスターのサンプルを残すためにここに置いておいたってことなんじゃない?もしリーヴァがモンスターを量産するようなことがこれから起こったら、ここにいる竜型のモンスターを複製されると非常に厄介になるのよね。」

「ここだけの話であたしにそれを話すのどうなのよ。リーヴァも聞いてるよ。」

「リーヴァに話してるのよ。だからそれを潰すって。」

「開いた口が塞がらねえ。」


開いた口が塞がらない。いや口に出して言ったけども。

最初からリーヴァの戦力を削ぐのが目的だったんかい。

まあそれなら放置はできないわな。


「あなた達がわりと本気でモンスターを駆除しようとしてたってことは、リーヴァは魔王が何故ここにモンスターを残してたかって理由に気付いてなかったってことよね?すれ違いってやつね。だから今すぐに潰すわ。でもそれも目的の一つ。私の最大の理由は魔王の作り出したものが未だに残っていること自体が許せないってことよ。あいつ嘘をついてたって事がね。」

「は?あいつって?」

「待って!今湖底で何か動いた!」


ルーシーの言う通り、泥の中からホワイトデーモン翼無しがにゅるっと出てきた。


「は?」


なんでこいつここに居んのよ。


あたしはビックリしてちょっとだけちびった。ほんのちょっとだよ。水中だから誰にも気付かれないよ。

きっとルーシーもビックリしてちびってるよ。


ホワイトデーモンは起き抜けなのか目をパチパチさせてボーッとしてる。

起こしちゃったのかな?悪いね。そのまま寝てて欲しいんだけどね。


「やっぱりただでは済みそうもないわね。護衛が潜んでいるとはね。」

「やっぱりってどういうことよ。」

「そりゃすんなり行ってくれるならその方が良いけど、そこまで馬鹿じゃないでしょ。」

「予想してたってこと?」

「警戒だけはね。だからあなた達の力を借りたのよ。キシリア、ロザミィ、ミネバ、それぞれに分けてね。」


それはあたしの予想も当たってた。

いや、予想と言うより・・・。


「勇者様とクリスのとこにも現れてるわね、この様子だと。私が注意を引くから探し物を見付けてくれる?それを壊せば自壊するだろうから。」

「は?役割普通逆でしょ。それに、倒せば何の問題もないんじゃぁあああああ!」


あたしは開幕デコから光線をホワイトデーモンに浴びせた。

デコ光線は弾かれて全くの無傷だった。


「あー・・・。そういう感じね。」


こいつはタフガイだぜ。速攻でのノーチャージとはいえ全くの無傷は想定外だぜ。


「直接倒すのは無理みたいね。探し物。やっぱり頼むわ。」

「えーい。待てい。今のは挨拶みたいなもんよ。こんなデカブツ居たんじゃ探すのだって探せんでしょうーが。10分、いや、5分待って。フルチャージの光線をお見舞いしてやるから。」

「大丈夫なの?」

「今ので引き下がったんじゃあたしの沽券に関わるわい。末代までの恥じゃ。」


問題はフルチャージでデコ光線を放つとエネルギーを大量に消費してヘロヘロになっちゃうことなんだけどね。

後の事を考えたらヘロヘロになるのは不味い。


それに、今の話が本当ならあたしが積極的にホワイトデーモンを倒す理由なんてないんじゃないの?リーヴァのサンプルをわざわざ破壊する手伝いなんてさ。


ここでルーシーを見殺しにして放置した方があたしらの目的に叶ってる。


でも・・・。


ここで放置すればルーシーだけじゃなくみんな全滅することだって有り得る。

勇者ももちろん。外で囮やってるアレン達もホワイトデーモンに襲われるかもしれない。

全滅してしまったら後も糞もありゃしない。おっと失礼。ニュフフフフ。


あー、もう。なんで敵の心配してんだあたしは。


あーだこーだ迷いながらチャージを始めたあたし。

ルーシーはホワイトデーモンにまとわりつくように泳いで挑発してる。

前世は魚だったんかいな。人魚に変身したあたし等と変わらない綺麗なフォームでホワイトデーモンを翻弄してらっしゃる。


若干眠そうなホワイトデーモンはキョロキョロルーシーを顔で追っている。

体全身から不意に角を出してきて、竜というより針ネズミみたいになった。

それを難なくかわしながら背中に背負っていた剣で角を叩き斬っていくルーシー。

あの角もわりと硬いんじゃないかと思うけど、ルーシーは伝説の剣でも持ってんのかいな。


あたしは自分の行動にまだ迷っている。こういう時は直接セイラに判断を聞く方が後腐れ無いよね?


『どうしよう。ルーシーを助けるべき?ねえセイラ?』

『そんなの私に聞かれても困るわよ。いつも言ってるけど私達には上下の関係なんて無いのよ。ミネバが思ったことと私が思っていることは同列なの。自分のしたいようにすればいいんじゃない?』

『んなこと言ったって、後で責められるんでしょ。じゃあセイラならこういうときどうするか聞かせてよ。』

『決まってるでしょ・・・。勇者ちゃんに危険があるなら速攻でぶち殺す!』

『あー・・・。はいはい。良かったよ。同じ意見で。』


勇者のことになると損得勘定関係ないんだから参考にならん。

その後セイラは勇者の魅力について長々と語っていたけど、めんどくさいんで思考のリンクを切った。


でもやることは決まった。

ヘロヘロになってしまう事だけは気がかりだけど。


さあ、チャージが溜まった。これが効かなかったらお手上げだ。避けられても・・・わりと辛い。

でもアイツ出てきた所から一歩も動いてないよーな?


とにかくぶっぱなすしかない。


「ルーシー!退いて!溜まったよ!」

「わかったわ!頼むわよ!」


ルーシーは次々に伸びまくる角を切り落としながら後退して水面に上昇する。


「おっしゃ!おらぁああああっ!」


あたしはデコから極太光線をぶっぱなした。幅3メートルはあろうかという高エネルギー。最大出力。照射部8万度の破壊光線だ!

照射時間は30秒くらいだけどそれでじゅうぶんでしょ。


ホワイトデーモンの土手っ腹に命中した。外す方が難しいわな、こんな動かないデカブツ。

キャアァーって女の子みたいな声で悲鳴を上げるホワイトデーモン。

腹が光線で焼ききれて向こう側が見える。

行ける!やっぱりあたしの火力は最強だ!

そのまま体全身に光線をジグザグに動かして肉片を溶かしていく。


え?そんな高温を水中で放ったら水が蒸発しちゃうんじゃないかって?

ニュフフ。そこがあたしらの能力の凄いところなんだなぁー。照射部分以外は熱が伝わらないように逆に冷却してるのよ。近距離の使用で自分が燃えちゃわないようにね!


全ての肉片を片付けるのには時間が足りないけど、大部分を穴だらけにしてやった。

全長20メートル以上の巨体をここまで細切れにしてたったんだから勝負ありっしょ。


ついでにルーシーも消し炭にしてやろうかとチラッと目を向けたけど無理だなこりゃ。

水面近くからちゃっかりこっちを見てる。


照射完了。あたしは体の力が抜けてぐったり肩を落とした。

湖底にはホワイトデーモンの残った肉片が塵になって浮いている。

ルーシーがあたしの所に泳いでくる。


「凄いじゃない。こんな超火力を放てるなんて。」

「ニュフフ。まあね。あたしにかかればこんなもんよ。」

「大丈夫なの?疲労がたまってそう。」

「一時ダウンしちゃうけど10分くらいで戻るよ。それともなに?あたしとベロチューでもしてくれんの?」

「それはちょっと・・・。じゃあしばらくここで休んでいて。私は探し物を探してくるわ。早く竜全員の動きを止めないとみんなが辛いだろうから。」

「ああ、うん。わか・・・。ちょっと待って・・・。」


あたしが言うまでもなく、ルーシーもすでに再び臨戦態勢に戻っていた。

竜の残ってしまった肉片が湖沼全体にフワフワと動き出している。

人間大の大きさの白いボールに一本頭部前方に角が生えたような、無機質なデザインの集団が出来上がりつつある。


こいつ無敵かよ!バラバラにしたら不味いタイプってやつ!?


「どうやら休んでいられなそうね。時間を稼がれるのが一番辛いってこと理解してるのね。」

「性格悪すぎ!」


ニュフフ。参ったね。あたしはしばらくパワーダウン。一撃に全てをかけたのに。

勝ったと喜ばせてからのこの反撃は規約違反だかんね?


ボールみたいな集団は角を頭から切り離してあたし達に飛ばしてきた。

大量の角が一度に全方位から浴びせられるあたし達。


うんにゃろうーっ!あたしを舐めるなーっ!玉っころなんぞに負けてたまるかいなぁ!


あたしも残った力を振り絞って頭の周囲360度に光の粒を集束させた。

そっちがその気ならこっちもその気だわ。

全方位に細めの光線を何本も照射し襲い来る角を迎撃する。

そのまま玉っころ本体も光線で凪ぎ払うように周囲を焼き尽くす。


ああ、でも駄目だ。焼き切った玉っころが分裂して増えてしまう。大きさはそのままなのにズルい。

やっぱりルーシーが言ったように探し物が優先だったのかいな。この囲まれっぷりじゃ探し物なんて出来そうもない。

もしここに破壊しなくちゃいけないものが有ったらじり貧で押し負けちゃう。


「これはわりとピンチね。」

「ああー。やっちまった・・・。」

「あなた水にでも変身出来るんでしょ?ここから離脱して探し物さがしてくれない?」

「ルーシー一人でどうすんのよ?」

「倒せない以上、逃げ回るしかないわね。相手は146体。なんとか行けるわ。」

「多すぎ!」

「さ!早く!」


話してる暇もなく角を補充した玉っころが第2射を撃ってきた。

迎撃不可能なら探すのを優先するしかない。

あたしが余計なことしたばっかりに難易度が跳ね上がってしまった。


ここはルーシーの言葉に従っておとなしく探し物をしよう。

あたしは水に同化してその場を離れた。

ルーシーは湖底にまで一気に潜り角の一斉照射を逃れる。

真上真下からの攻撃は確かに無いからそこが穴になってた。


それから一方に泳ぎだし剣を片手に玉っころの集団に突っ込んでいくルーシー。

玉っころの陣形が乱れてルーシーを追うような形になる。

剣の平で玉っころにぶつかり押し込んでいくルーシー。第3射が一斉に放たれたけど掻い潜るように泳いで一発も当たらない。


ロザミィの時も、ルカとエルの時も話は聞いてたけど、本当に当たらない。

むしろ笑顔で楽しく遊んでるように見える。

146体っていつ数えたんだ。

こいつは本気で逃げ回るつもりなんだな。どのくらい時間がかかるのか分からないのに。


まあいいや。あたしは濁った泥の中を潜って行った。





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