第87話
俺達が船に着いたとき既にルーシーは来ていたようだ。
タラップを上がりデッキを見渡すと向こう向きのデッキチェアにベラと二人並んで座っていた。
「遅くなったか?」
俺はデッキチェアの後ろから声をかけて近づく。
キシリアも俺の左腕にくっついて一緒に歩く。
俺の声に振り向く二人。
「呼び出して悪かったわね。工房が近くにあってすぐそこなのよ。」
「色々作ってもらうんだってね。アタイ等にはいい休みだ。」
ルーシーとベラが声をかけながらデッキチェアを降りてきた。
「ルーシー。君はどうなんだ?ルセットと一緒にその工房で製作に取り組むのか?」
「そうね。仕上がりを逐一チェックしないと手間が増えるから、現場に居なくちゃね。」
「そうか・・・。これ、なにかに使えるのか?俺は使い方が分からない。」
鱗を2つルーシーに手渡す。
「ありがと。調べてみるけど、キシリアは分かる?」
「わたくしですか?さあ、わたくし達は使う必要がないので、それをもらったのはルカさんとエルさんだけでしたが。」
「そっか。分かったわ。これはついでだからあまり期待しないでおくか。」
手の中の鱗を弄っているルーシー。
「勇者君、ずいぶんモテモテじゃないか。そんなに見せつけられるのは嫉妬しちまうねぇ。ねえルーシー?」
「や、やだなー。案内しているだけだよ。」
「ウフフ。堪能しています。」
「あーあ。じゃあアタイも空いてる方で堪能させてもらおうかねぇ。」
ベラが俺の右腕に腕を組んできた。
胸の爆弾が俺の右腕に炸裂する。俺の顔が赤くなる。
「ついでに契約更新もしておくかい?」
顔を近付けるベラ。
契約ってキスのことじゃないか。
俺はドギマギして口をパクパクさせた。
「ああ!勇者さんが船長さんに目が釘付けになってます!勇者さんは船長さんのような妖艶な美人さんがお好きなのですか!?」
「そういえば紐みたいな水着着てたときも目が釘付けになってたわね。勇者様。」
なんてことを。本人が腕にくっついているのに肯定も否定もしづらいじゃないか。
鼻先がくっつきそうな距離でクスッと笑うベラ。
「いいリアクションしてくれて満足したよ。このポーズ案外良いね。支えられてる感が女心を刺激しちまうよ。」
「そ、そうなんです。女心を刺激するんです。」
ベラとキシリアが俺の肩に頭を預けてくる。
「ベラまでなにやってんのよ。今は良いけどベッドでは私のものだからね。勇者様の体は。」
ルーシーの発言に頭を上げて目を丸くするベラとキシリア。俺も真顔だ。
「それはそうと、勇者様キシリアの案内は上手く出来てる?退屈させたりしてない?」
「ええ。わたくしは勇者さんと一緒に歩けるだけで満足です。」
「それなら良いけど。」
「そうだ。明日の夜そこのホテルでダンスパーティーがあるそうなんです。ルーシーさんも船長さんも出場なさっては如何ですか?」
「ダンスパーティー?勇者様とキシリアは出るつもりなの?」
「はい。このあと登録に向かう所です!」
ルーシーとキシリアが盛り上がっている。
「出たいのはやまやまだけど作業を放っておけないし、見るだけならちょっと見せてもらおうかな。」
とルーシーは断った。
「アハハ。アタイも止めとくよ。踊る相手がいないし、知った顔がいたら面倒になっちまう。」
ベラも断った。知った顔というのはなんのことだ?
「そうですか。」
しゅんとするキシリア。
「またあのホテルに泊まろうと思うんだがルーシーはどうするんだ?まさか泊まり掛けで作業とは言わないよな?」
俺の言葉にキシリアとベラが俺の顔を覗いた。
別に変な意味で聞いたんじゃないぞ。
「そのまさかよ。私が言い出した事だし責任持って終わらせないとね。それとも私が居ないと寂しい?」
「え?それは・・・ちょっと寂しいよ。」
「キャー!」
突然キシリアとベラとルーシーが騒ぎだした。
「勇者さんかわいそう!」
「勇者君素直じゃないかー!」
「あーん。勇者様私も寂しいー!」
ルーシーが正面から抱き付く。
「うー。わたくし決めました。ルーシーさんの分も勇者さんの面倒を見ることに致します!同じ部屋じゃななきゃ嫌です!」
「あーん。どさくさに紛れて勇者様のベッドを奪わないでよー。」
「わたくしも勇者さんと添い寝したいです。」
「アハハ。いいじゃないか。このくらい積極的だと勇者君も喜ぶだろうさ。」
ベラが俺の右腕から離れた。
「それじゃ、アタイは先に行くよ。勇者君も堪能できたし。救命艇の準備をさせないとね。」
「ええ。ありがと。後でまた。」
船尾楼のドアに入っていくベラ。俺に抱き付いたまま冷静に送り出すルーシー。
「ホントにそうよ。キシリアあなた凄い積極的過ぎなんじゃないの?昔からそうだったっけ?」
「ウフフ。わたくしには勇者さんと一緒に居られる時間が限られているので、後悔しないように、前に進むことだけ考えるようにしているんです。」
少し寂しげなキシリアの表情にドキッとする。
「時間を限る必要なんてないでしょう。ずっと一緒にいられるじゃない。」
「それができればどんなに嬉しいでしょうか。」
目と目を合わせるルーシーとキシリア。
キシリアが何を考えているのか。俺には分からない。
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