30、行方不明事件

第84話

30、行方不明事件


アレンに連れてこられた古本屋がちょうど開いたみたい。

まだ8時くらいなので店が開くには早いけど、ミネバがシャッターが閉まった入り口でバンバン叩きながら開けてくれーって泣き叫んでたらちょうど良いタイミングで開いたみたい。

アレンが店の主人に頭を下げてたけど知り合いだったのかな?

私のイメージ通りの古本屋さんで狭いスペースにみっしりと棚と本が並んで、人の通る通路がさらに狭い。一人通るのがやっとですれ違えないほど。

本は古今東西の古い本が置いてあってジャンルも適当なのでどこに何があるのか探すのが大変そう。

料理の本の横に小説があったり、その横に剣術指南の本があったり。上には誰かの日記があったり。


「あったあった。こういうとき薄い絵本は探しやすくて助かるー。」


ミネバは店の一角にまとめられている薄い絵本の場所を探し当てたみたいだ。

でも朝っぱらから怪しい絵本を熱心に探し回るのって、端から見たら変な人なんじゃないかと思って、ちょっと遠くで他の本を探しているふりをしていようかな、と思った。

ミネバは気にせずに次々に棚から絵本を半分くらい出して表紙を確認している。


「おお、安い。これ100ゴールドだ。」


ミネバが感動している。

ちょっと待って。100ゴールド?さっき店で買ったのは20冊で2万だから一冊1000ゴールドってことだよね。


私はミネバの横に並んだ。


「安いの?だったらここで買えば良かったんじゃない?」

「いやいや、安いのはさすがに古いやつだけだよ。あたしなんかはその古いのを探してるんだけど。新しいのは500とか800とかで売ってるよ。」


なんだ。私から見たらどれも一緒だから安いならその方がいいかな。


私も棚から絵本を少し出して物色してみた。


あれ?これさきの本屋で新刊として売ってたやつだ。勇者ハーレム。

本の多さと高さに気押されて私は何も買わなかったけど、ちょっと気になる。


「ミネバこれ買った?800ゴールドで売ってる。」

「ん?ああ、悩んだんだけど20冊も持ってたから、ちょっと古い他を優先しちゃった。今のうちに押さえておかないと無くなっちゃうかもしれないからね。ちょうど良かったね。」


変な話を真面目にしているのに違和感を感じたけど気になるからアレンにお金出してもらおう。

私は表で待っているアレンの所に行って絵本を見せた。


「これ。」


アレンは顔がひきつったけど何も言わずミネバが買う分もお金を出してくれた。

勇者と一緒に寝てる私がこれを買うのが何かおかしいのかな。

私はもしかしたら、そんなことはないと思うけど、あり得ないと思ってはいるけど、もしかしたら私やルーシーやフラウがこれに出ているんじゃないかと思って気になっているだけだから。


最初は無愛想な店の主人だと思ったけど、ミネバが30冊くらい大量に絵本を買っていったら最後はニコニコ顔になっていた。それだけ買ったのに5000ゴールドくらいで済んだのでミネバもニコニコ顔になっていた。


「掘り出し物すげー!」


レジから袋に入れてもらった絵本をもって店を出ようとすると、棚に並んでいる本を見てミネバが反応した。


「あ、ここサンダーダンサー全40巻も置いてあるんだ。6000だって。どうしようかな。」

「え?まだ買うの?結構厚い本だから荷物になるよ?」

「荷物ねー。」


そう言いながら表で待っているアレンを見るミネバ。

サンダーダンサーってなに?語呂が悪い。


「以前は持ってたんだけどさすがに置いてきちゃったしなー。家に。」

「どういうこと?いつ家に行ったの?」

「いつって魔王の城から解放されてリーヴァに呼ばれる前に一旦家に帰ったでしょうが。薄い絵本だけは持ってきたけどさすがにあれは持ってこれなかったよ。」

「え?青い肌になった時に絵本持ってきてたの?私そんな余裕無かった。見られたくなくて近くの島に隠れたのに。」

「肌が青かろうが赤かろうが変わらないでしょ。あ、今は風呂敷に包んでぺしゃんこにすれば持ち放題だけど、人前じゃ恥ずかしいなー。」


もっと恥ずかしがることが別にあるんじゃないかと思ったけど言わなかった。


「いいや。買おう。昨日エグゼクティブキュートのコスプレしてまた読みたくなってきちゃった。」


何かよくわからないことを言って私に二つの袋を預け分厚い本の束を抱えてまたレジに向かっていった。


「あー、ヤバい。まだ2店なのに90冊も本買っちゃった。」

「まだって、まだ行くつもりなのかよ。」


紙袋を手に表に出てきたミネバにアレンが呆れた様子で聞いた。


「ニュフフ。まだ今日は始まったばかりだからね。あ、荷物持ってくれる?」


紙袋をアレンに手渡すミネバ。受け取るアレン。


「ぺしゃんこにすればいいのに。」


私もそう言いながらアレンに袋を二つ渡した。


「私が人間じゃないことがバレるでしょうーが。まあ一旦どこか宿でも取って荷物を置いてこようかな。」

「宿って。泊まるの?」

「んん。3日コース確定みたいだね。ロザミィから連絡があってルーシーが頼んだもの全部作ってもらえるんだって。」

「そうなのか?お前ら便利だな。」

「ニュフフ。まあね。どこか安い宿ない?」

「俺の家ならタダで済むんだろうがあいにく繁華街からは遠いからな。1人1日4000ゴールドの宿なら近くにあるにはあるな。」


「1人1日4000ゴールドなら3人で3日だと36000ゴールドだ。」


私が計算した。


「いやいや、俺は家に帰るよ。一緒には泊まれねえぜ。」

「ねえ、船かアレンの家に泊めてもらおうよ。どうせ安い宿なんて特別なにもないんだし。お金かかるだけだよ。」

「遠いってどのくらい遠いの?」

「おい。一緒には泊まれねえよって言っただろうが。俺んち来る気なのかよ。港にある船の方が距離的にも広さ的にもマシだよ。」

「えー?せっかく町に来たのに船で寝泊まりすんのー?アレンの普段のおかずとか使ってる道具とか見たいよー。」

「何の話だよ。」

「大丈夫大丈夫なんにもしないから。」

「そのセリフは俺が・・・いやそりゃまあお前らみたいな美人さんが泊まってくれるってんならありがてえ話なんだろうが。まだ時間も早いし一旦荷物置きに行ってそれから考えな。さすがに100冊近く持ち歩くのは俺も勘弁して欲しいからな。」


私達はアレンの家に行くことになった。

私はミネバの袋とは別の自分で買った絵本を紙袋から出して読みながら歩いた。

ミネバも後ろからチラチラ覗いて来ているみたい。


内容は以前書いた通りだけど、大陸を救った勇者が我が物顔で女の子達を我が物にするアレで、やってることが魔王と大差なくて勇者が見たら怒りそう。


「あれ?これ。」


ページをめくると唐突に金髪の長い髪の女と黒髪の長い髪の女が出てきた。

勇者に使い捨ての玩具のように利用されて捨てられた。たった3コマくらいの出番。


「これ私とルーシーに似てない?」


ミネバに聞いてみた。


「うーん。裸だし目をつぶってるしよくわからないね。」


そっか。

でも私達っぽい人が勇者のハーレムの一員として出てきて私は嬉しかった。

勇者のハーレムの一員として認められてるような気がして誇らしかった。

今度みんなにも見せよう。



私達はアレンの家があるという住宅街への道を歩いていた。

住宅街には所々に公園とまでは言えないけどベンチやブランコ等の遊具が置いてある広場が設置されていた。

子育てママさんに配慮して子供を遊ばせるスペースまで確保してあるんだね。

9時近くになっているので人通りはそれなりに出てきた。


そういう道を抜けてアレンの家、集合住宅の2階までやって来た。


「せまいなー。」

「だからそう言ったじゃねえか。荷物置きには使っていいから泊まるところ探せよ?決まったら持っていくから。」


ベッドと衣類棚となんか剣とかの武器、あと丸テーブルにお酒が置いてあるだけでガランとした部屋だった。

ドアを開けたらすぐその一部屋だけ。


「アレンって奥さんとか彼女とかいないの?」

「そういうのは部屋に来る前に聞けよ。見ての通りだよ。」


ミネバは衣類棚を勝手に開けて物色していた。


「なんで勝手に開けてんだよ。」

「いや、何か隠してないかなーて思って。」

「服は隠れてるよ。」

「まあいいや。ちょっと一休み。」


ミネバはベッドにゴロンと横になった。

納得いかない顔で荷物を部屋の隅に置くアレン。

私もベッドに座った。


「ねえどうするの?二人なら宿に泊まってもちょっとお金余裕あるけど。」

「え?ここでいいよ。城の部屋なんて同じくらいの部屋だったし。」

「おいおい。泊まるのか?」

「泊まるよ。安いし。と言うかタダだし。」

「おいおい。本気かよ船の方がマシだろ。」

「あー。こういう平凡な部屋なんか良いよね。くつろげるー。あ、このベッドアレンの臭いがする。」

「やめろよ。気持ち悪い。」


短パンの前を開けようとするミネバ。私は手でそれを止めた。


「クリスはここでいいのかよ?」

「いいよ。私の住んでた家もっと酷かったし。屋根半分無かった。」

「お前らどんな生活してたんだよ。」


「さてと。そろそろ店も開く時間だしもう一回町に出てみようかな。」


ミネバの一声で私達はまた町に赴くことになった。


この町は坂が多い。町自体が段々になって家や坂道や階段で埋め尽くされている。

私達が歩いていく見晴らしの良い広場になっている道の途中でずっと下の方の道に勇者とキシリアが腕を組んで歩いて行くのが見えた。


勇者はキシリアに腕を組まれて余程嬉しいのか、ニヤニヤしながら歩いていた。

私はちょっとモヤモヤした。キシリアとあんなにくっついて歩いてそんなに嬉しいの?

まあキシリアが人にくっつくのは昔からそうだったっけ。セイラにも私にも話をするときやたら近くに居て人の体を触りたがる変な女の子だった。

私も変に勘違いして色々してしまいそうになってた。


勇者達は私達に気付かず私達とは反対方向に行ってしまった。

私達に気付かず行くなんて勇者酷くない?


「ねえ、向こうには何があるの?」

「いや、何もねえよ。見ての通り町の外れの防壁で、外は砂浜と平原とスタリオンに続く街道があるだけだな。」

「ふーん。」


勇者が向かっている方向に指をさした私の質問にアレンが答えた。

まさか町から出ないと思うけど、キシリアが空を飛んでいくなら3日もあれば町の外に行って帰ってくることもできる。

私は今すぐに勇者の所にジャンプして、何やってるの?って聞きたかったけど、私はミネバの町案内しなきゃいけないから我慢した。


「そうだ。ミネバはキシリアと遠くから話ができるんだっけ?今何やってるか聞いてみて。」

「んあ?ああ、いいけど。そんなに気になるんだったら声かければいいのに。」

「別にそんなには気になってないよ。」

「じゃあ聞かなくていいじゃん。」

「気になるから聞いて。」

「ニュフフ。素直が一番。あー、別に何もしてないって。ただ歩いてるだけだったって。今勇者が主婦に話しかけてて何か起こりそう。」

「え?主婦?」


キシリアだけじゃ飽き足らず町の主婦にまで声をかけてるの?

勇者は絵本が出るくらい人気者だからきっと主婦も大喜びするよ。


「もういいよ。町の本屋に行こう。」


私は勇者と反対側の繁華街へと歩き出した。


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