第82話




その頃私クリスはアレンと繁華街に走り出したミネバを追いかけている。

20万ゴールドを裸で持ち出して走っていたら持ち逃げしてるみたいじゃない。


ミネバは繁華街に入ってキョロキョロしながらウロウロしだした。

早朝なので人は数えられるくらいしかいない。

この前戻ってきたときは夜中に買い物に来たけど、違う場所みたいに様相が変わっている。


やっと追い付いた。


「裸で走らないで。」

「いくらあたしでもそこまでイカれてないよ!?」

「お金のことだよ。」


私はミネバの手からお金を奪い取った。


「これ3人の3日分なんだから無闇に使わないでよね。」


お金を仕舞おうとしたけど私も入れるところがない。

アレンにお金を渡した。


「ん?俺が持っておくのか?まあいいや。預かっておこう。それより何処に行くか分かってんのかよ?」

「迷った!」


ミネバが頭を抱えた。


「迷うも何も場所知らないんでしょう?それにまだ入り口入ったばっかりだよ。」

「ニュフフ。そう焦りなさんな。落ち着いて行こうよ。」

「お前が落ち着けよ。今の時間に開いてる店はそう多くはない。ちょっと先にある大きな本屋がとりあえず開いてるかな。時間も惜しいしそこに行ってみようぜ。」


アレンが提案してくれたので、素直に従って私達はついていく。

しばらく歩くと本当に大きな本屋が見えてきた。

私が知っている本屋なんてこじんまりとした古本を扱っている軒先に本棚を並べているだけの小さなものしか知らない。

広い敷地と店内にズラっと並んだ本棚には綺麗な本が大量に並んで売っている。

同じ本もたくさん積まれている。


「え?これどうなってるの?誰かがこの同じ本描いてるの?」


店内に入って私は呟いた。


「クリスは石器時代からやって来たのかいな。複製の施術でコピーしてるに決まってるでしょうが。まあ、1ページ毎に複製しないといけないから時間はかかるけど。」


ミネバが知ったような顔をして私を見下した。


「この町ではそれも古いな。今は印刷の装置で大量に製本しているんじゃねーかな。」

「んぎゃっ!!あたしも石器時代だった!!」


アレンの説明でミネバは鼻水を吹き出した。

汚いからやめて。


店内は町の中以上に人がまばらだ。一つの棚の間の通りに1人居るか居ないかという閑散とした静けさ。

ミネバはその店内をそそくさと見回しながら歩いて行った。

何かを探しているみたい。

アレンは適当に入り口近くの本を眺めている。

私はミネバを追いかけて尋ねる。


「何を探してるの?」

「何をって昨日言ったでしょうが。勇者本を探しているのよ。」

「え?こんなところにあるの?」

「さすがに普通の本と一緒に棚には並んでないよ。あ、あれだ。」


店内の奥に人目につかない入り口があって黒いカーテンで仕切られている。

見るからに怪しい雰囲気だ。まさかあそこに入るつもりなの?

そう思う暇もなく嬉々としてカーテンに入っていくミネバ。


ちょっと怖いけど興味もある。私も入ってみよう。


カーテンをくぐると正方形の狭い空間だった。四方に棚があって、表紙が手前に向けられズラっと壁にもたれるように一面に絵本が並べられていた。

昨日ミネバから見せてもらったような薄い絵本がたくさん置いてある。


「いっぱいある。」

「そうでしょうとも。あたしはこの時を2年も待った。勇者本よ!あたしは帰ってきたぞー!」


急にミネバが大声を出したのでビックリしてミネバの口を塞いだ。


「静かなんだから大声出さないで。恥ずかしいよ。」

「おっと、つい興奮しちゃったねー。ニュフフフフ。どれどれ、どんな本が売っているかじっくり見てみようか。」


興奮の方向が下向きというか、粘っこい。

私もミネバと一緒に本を見てみる。


新刊、勇者ハーレム。勇者が裸の女の子に囲まれてニヤついてる表紙の絵本だ。

魔王との戦いに勝った勇者が世界中の女の子を我が物にしようとする内容みたい。

今の勇者もルーシーや私に囲まれてるから似たようなものか。


「お、まだこれ続いてるんだ。」


ミネバが見てるのは巨大ナメクジが勇者を色々するロザミィがもらってた絵本のシリーズものみたいだ。あれ続きがあるの!?


×アンナ、×アーサー、×魔王と言われてる知らない男、×モンスターが主流なのはミネバが持ってた絵本の頃から変わらないみたい。

他の作品の登場人物との組み合わせや、実話を絡めた創作、勇者は何々だった!シリーズといった意欲作で多岐に発展している。


ミネバは小脇に本をたくさん抱えていた。

それ全部買うつもり?20冊は持ってるみたいだけど。


「あ、ここ会計がこっちで払うんだ。アレン呼んできて。」

「え?ここにアレンを連れてくるの?何か嫌だよ。お金だけもらってくる。いくらもらえばいいの?」

「2万くらいかな。」

「2万!?本だけで!?」

「これだけ買えばね。ニュフフ。」


なんか呆れたけどルーシーは知ってて20万くれたのかな。

とにかく買うつもりは変わらなそうだからアレンのところに行ってお金をもらってくる。

アレンも2万って言ったら驚いた。



私達はその本屋を出て横にあるスペースのベンチに座っていた。

まだ時間が早く他の本屋が開くのはもうちょっとかかる。

これだけ買って他の本屋にも行くつもりなの?


ミネバは袋に入れてもらった大量の絵本から一冊取り出してペラペラめくってニヤニヤ笑っている。右横に座っているアレンはそれを見て引いている。


「お前何の本見てるんだ。」

「専門書だよ。これ面白い。」


左に座っている私もミネバの袋から一冊取り出して見てみた。

勇者は女の子だった!というタイトルで助けた町の人達と色々やっている内容。

だった、というか今でも勇者の体を女の子に変化させればいつでも可能なんだけど。

朝に見るのは刺激が強いような気がする。

私は絵本を閉じて一息入れた。


「ちょいと古い本も探したいから古本屋があるといいなー。」

「あるにはあるが、まだ買うつもりなのか。」

「とーぜんでしょうが。興味は尽きないよ。」

「じゃあしょうがねーな。この先歩くから今から行けばちょうど開店時間には着くだろう。そろそろ行こうぜ。」


興味が尽きないミネバにアレンは立ち上がって先導した。


本を袋に閉まって着いていこうとするミネバ。

私はミネバの後ろ手を引っ張って聞いてみた。


「ミネバはこんなに勇者の本を買って、勇者のこと、す、好きなの?」


一瞬真顔で考えるミネバ。


「そりゃーあたしだって女の子だから憧れたりするけど、王様やお姫様に憧れたりしたって結婚したり付き合いたいかって言うと違うでしょ?それと一緒よ。」

「憧れ?」

「まあ生勇者が近くに居るから一回くらい摘まみ食いされてもいいけどね。ニュフフフフ。」


ミネバはいやらしく笑った。


「あ、ヤバい。自分で言ってきゅんてしちゃった。生勇者ほしー。」


やっぱり好きなんじゃ?



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