第79話





こんばんは。クリスだよ。

また勇者が私に何をしてたか書いてくれって頼んできたけど、特に何もないよ。


それじゃあ何だからあったことをそのまま書くね。


勇者がキシリアと部屋を出て、私がルーシーにヌードを頼んだけど断られたあと、ミネバとロザミィが気になって見に行くことにした。


「ロザミィを見てくる。」

「ああ、ミネバが行ったって言ってたわね。」

「気になりますね。お気をつけて!」

「うん。」


下着姿のルーシーとフラウに見送られて私は部屋を出る。

途中船長さんの部屋での話し声を素通りしてデッキに向かう。

外は夕焼けだ。

結構離れてはいるけどロザミィの巨大スズメの頭の上を目を凝らして見てみる。

距離で言うと40メートル先くらいかな。

マストと船首楼の壁でよく見えない。でも人が乗っている様子はなさそう。


私は真ん中のデッキに伸びてるマストの見張り台に飛び上がった。

そこには海を監視している船員のビルギットさんが双眼鏡片手に海を見渡していた。

いきなり飛び乗ってきた私に驚いた様子でこう言う。


「おおっ!驚かすなよ。相変わらず良い脚をしてるなぁ。」


驚いたのはこっちだよ。また私の足を見て喜んでる。挨拶もそこそこに足を褒めるってどういうことなの?

でもまあ貶されるよりはいいし、聞きたいことがあるからスルーしておこう。


「ねえ、巨大スズメに今日乗ってきた女の一人が近付かなかった?」

「ああ、どうなんてんだか。今も中に入っているよ。」

「中に入っている?」


そうか、昨日の昼に勇者もロザミィの巨大スズメの中に入ってたのを見たんだった。

ロザミィの中。気になる。


「そうなんだ。ありがとう。」


私は船首のマストにジャンプして飛び移った。そしてそこからさらにジャンプしてロザミィの頭の上に。


「ロザミィ。ミネバも居るの?私も中に入れて。」


返事はなく、代わりに足元がズブズブと頭の中に沈んでいった。

巨大スズメの中は私の想像とはまったくかけ離れていた。

壁と床は見えない無色透明。私達魔人の目という意味では見えるけど、外が丸見えでまるで海の上を水平に移動しているみたい。みたいというか実際に移動はしているんだけど、何も乗っていないで自分で空中を飛んでいるかのような。

慣れるまでかなり怖い。

壁と床はぶよぶよしてて気持ち悪い。

頭の直径は10メートルくらいはあるみたいでわりと中は広い。


ロザミィとミネバは部屋でくつろいでるみたいにうつ伏せになって本を読んでいた。

辺りに薄い本が散乱して散らかっている。


「なにやってるの?」


「絵本を読んでいるよ。」

「そうそう。ロザミィが暇だと思ったから私の人間時代からのコレクションを持ってきたのよ。」


ロザミィとミネバが答えたけど、コレクションなんて始めて聞いた。


「本集めてたの?知らなかった。」

「ニュフフ。あんまり人に言うことじゃないからね。」


私は落ちている本をひとつ拾ってページを捲ってみた。


私に衝撃が走った。


一見して勇者だと分かる男がアーサーという男とベッドで裸になって抱き合っている。

キスもしてる。


なに?どういうこと?


「クリスお姉さんにはまだ早かったんじゃないかなー。」

「それはお目が高い。描写がリアルで有名な絵本だねぇ。」


ロザミィとミネバに何か言われた。

私はショックで最初のページから読み始めた。

細かい内容はここでは伏せるけど、魔王討伐の旅の途中で宿に入った二人がお互いを求め合うという話だった。

アンナはどこにもいなかった。


ショックだ。私とルーシーが毎晩一緒に寝ているのに何もしない理由がこんなことだったなんて。


「ロザミィさんお疲れ様です。聞こえますかー?」


しばらく読みふけっているとキシリアの声が外で聞こえてきた。

船首の手すりに体をもたれさせてこちらを見るキシリアと、勇者が横に立っているのがこちらからは丸見えだ。


私達は壁に頭を突っ込んで外に頭だけ出した。

そこで絵本の内容は作り話だって教えてもらった。


なーんだ。ビックリした。


頭を抱えて去っていく勇者とキシリア。

それを見送ると私達は本の続きを読み続けた。

別の本を見てみると内容がめちゃくちゃだ。魔王と言われてるけど見た目も性格もぜんぜん違う男に勇者が負けて色々されたり、アンナが主人公で勇者とアーサーに色々されたり。

とにかく変な話ばっかりだった。


「これなんなの?」

「今さら聞くの?」

「クリスお姉さんにはまだ早いよー。」


私はうつ伏せになっているロザミィの背中に馬乗りになって頬っぺたを両方つねった。


「ひひゃい、ひひゃいひょー。」


「ニュフフ。これは大人の女の子向けの勇者本だよ。勇者に憧れるあまり勢い余って描いた本をみんなで交換したり販売したり流通させて、そっち向けにコミュニティが確立しているんだよ。」

「そっち向けって・・・。」


早いかどうかは分からないけど、あまり深く関わりたくはないかもしれない。

本物の勇者とキスしてる方が楽しい。

そう思うと勇者とキスしてる私はこの人達に恨まれるんじゃないかと怖くなった。


「はあ!」


絵本を色々漁っていると突然ミネバが立ち上がった。

ビックリする私とロザミィ。ミネバを見上げて固まった。


「あ、ああ、漏れる。」


ミネバはがに股の太股から液体をチョロチョロとせせらぎ出した。


「ああ!ミネバちゃん!私のスズメちゃんの中でおもらししないで!」


ロザミィが叫んだけど時すでに遅し。透明な床に水溜まりができていた。

部屋にフルーティーな香りが広がる。

飲んだものがそのまま出てくる私達はジュースを飲んだらジュースがそのまま出てくる。


「いやーあぁ!良い香りがする!けどそれが逆に精神的にキツイ!」


ロザミィが悲観して叫ぶ。

ミネバはうっとりした表情でため息を吐いた。


「あー。昨日飲んだリンゴジュースが出てきちゃった。」

「なんでジュース飲んでるのよー。私達は飲まなくたっていいでしょー!」

「えー?ジュース飲みながら絵本片手にもう片方の手でウッてするのが最高に幸せを感じる瞬間でしょ?」

「そんなの最低だよー!!」

「ふー。こうやって出しても能力で元に戻せば無限に飲めるし、ちょー便利。」


そう言ってミネバ自身の足元の液体を消し飛ばして瓶の中に積めていく。


「いやー!再利用しないでー!!」


うん。ミネバはちょっとおかしい。

昔からおもらしして魔王に怒られてたとか話を聞いたけど、住んでる世界が違う。


辺りの海が暗くなってきた。いつの間にか部屋の中に照明が点いて明るくなっていたけど、暗い海を透明な床の上で飛んでいるのはまた別の怖さがある。


「じゃあそろそろ部屋に戻ろうかな。」


ミネバが言い出した。私も戻らないと。


「えー。私一人で寂しいよー。」

「ニュフフ。あたしのコレクションの中から好きなのいくつかあげるから選んでいいよ。」

「え?いいの?」

「いいよ。あたしのコレクションは5冊ずつ保管しているから、布教用のものを崩してあげるよ。」

「うわー。どれにしようかなー。」


ロザミィが嬉しそうに絵本を選び出した。

私がそれを見ているとミネバが私にも言った。


「クリスは実物で満足してるかもしれないけど、欲しいなら持っていったら?」

「私もいいの?」

「実物で充実してるかもしれないけど!」

「別に満足も充実もしてないけど、今度勇者に読んでもらおう。」

「んぎゃーっ!!本人に音読ーっ!!」


ミネバが泡を吹いて倒れた。


私とロザミィはミネバを放置して本を物色した。

ロザミィはモンスターに勇者がやられて色々されるやつを、私はアンナと勇者の純愛ものを選んだ。


「ミネバ。選んだよ。これとあれをもらっていい?」

「ハッ!寝てた!うん?ああ、いいよ。いいけども私が言うのもなんだけど、モンスターモノを選ぶってどういう神経してるのよ。」

「かわいいモンスターだからいいの!」


チラリとロザミィが持ってる絵本を見たら巨大ナメクジみたいなヤツだった。怖い。

これ勇者どうなるの?後で見せてもらおう。


「じゃあ明日は町に行くみたいだからあたしは早めに寝とかなきゃ。2年ぶりぐらいだから色々買い漁らないとね。ニュフフ。」

「え?ローレンスビルにも売ってるの?」

「さあ?そこに行くのは始めてだから分からないけど、大陸チェーンで展開してるから売ってるんじゃないかな。」

「ふーん。」


私は興味ないふりをした。

今読んでたのは勇者が魔王を倒した、わけじゃないけど、それ以前に描かれたものということみたいで、魔王が居なくなった、わけじゃないけど、今はどんな絵本が出ているのか興味が少しある。

さすがにルーシーやフラウ、私が描かれるのはまだ早いだろうけど、今後私達でアンナ純愛ものみたいなものが描かれる可能性もあるのかな?


「そいじゃおやすみ。高鳴る胸を押さえきれないけどね。ニュフフフフ。」


大量の本を風呂敷に包んでどこかになおしてからミネバが飛び出ていった。


自分が何しにここに来たのか忘れていた。

でももういいか。私も部屋に帰ろう。


「私も帰る。ロザミィ寂しいの我慢できる?」

「うん。いつもこんな感じだから大丈夫だよ。」

「そう。偉いね。」


私はロザミィの頭を撫でてやった。

口をんーって突き出してきたから指でつまんであげた。


「うえーん。クリスお姉さん酷いよー。」

「酷くないよ。おやすみね。あ、ロザミィは寝たら危ないのか。」

「もっと労ってー!」

「頑張ってね。」


私もロザミィを残して暗くなった外に飛び出した。



部屋に戻ると、ルーシーとフラウが下着姿でベッドに座っていた。

え?って思った。ルーシーは下着姿だったけどフラウまで・・・。


「遅かったわね。どうだったの?」


ルーシーがタオルで髪を拭きながら聞いてきた。

なーんだシャワーに入ってたのか。変な絵本を見てたからてっきりルーシーとフラウが変な関係になったのかと勘違いしちゃった。


「なかなか帰って来ないのでシャワーを先に浴びちゃいました。」

「私は今日走ったり砂埃まみれになったりだったからねー。シャワーがあってホント助かるわー。」


フラウとルーシーは満足そうにくつろいでる。


「なんか絵本読んでた。」

「絵本?その手に持ってるやつのこと?」


ルーシーは私がミネバにもらって持ってきた絵本を見た。


「うん。」

「へー。意外な趣味ねー・・・。絵本?」


興味ありげに手元を見るルーシーに絵本を見せた。顔がちょっとひきつった。


「何かいかがわしいような危なげな雰囲気を醸し出していますが・・・。」


フラウも覗き込んで引いてしまった。

アンナと勇者が半裸で抱き合っている表紙の絵本だからしょうがないね。

タイトルは愛欲ヒーリング。


「ただいまー。」


後ろのドアが開いて勇者が帰ってきた。


「きゃーっ!勇者様!ノックくらいしてくださいー!」


フラウがついたてに飛んでいって隠れた。


「え?あ、ごめん。」

「勇者、これ読んで。」


間髪を入れず私は絵本を勇者に渡した。

勇者は真っ青な顔になっていく。


「う、嘘だろこんな本まであるのか。」

「さすがに本人に見せるのは気の毒よ。しかもフラれた相手と・・・。」


ルーシーは静かに私の手から絵本を取り上げて枕の下に隠した。


「勇者アンナにフラれたの?」

「フラれたというか、アーサーとだな、いやこの話は後にしよう。腹が減ったんだ。ルーシーとフラウは食事はとったのかい?」


勇者に誤魔化された。


「まだよ。勇者様を待ってたんだから。」

「そうですよ。勇者様遅かったですね。どこを案内していたんですか?」


ルーシーと服を着て出てきたフラウは勇者を責める。


「プールに入ったり部屋に呼ばれたりしたよ。」

「プール?」

「部屋?」


勇者の悪びれない返答にルーシーと私が鋭い目で突っ込んだ。


「なかなか積極的な女性だな。キシリアは。昔からああいう感じなのか?」


ルーシーと私の鋭い視線に気付かないのかニヤニヤしながら話す勇者。

勇者はキシリアに夢中になってるみたいだ。

温泉でもキシリアの裸をジロジロ見てたし。


私とルーシーが何も答えないので勇者が私達を見て不安そうな顔をした。


「え、っと。昔から・・・。」

「奥ゆかしい、礼節と節度をわきまえた女の子だったよ。勇者のことよっぽど気に入ったんだね。良かったね。」


私はなげやりに勇者を励ましてやった。


「え?あ、ああ。ありがとう。」

「ウフフ。勇者様が困っているじゃないですか。正直に話してくれるのはお二人を信じているからですよ。さあ食事に行きましょうよ。私もお腹ペコペコです。」


困惑する勇者にフラウが助け船を出した。

そうか、私信じられてるんだ。

私は勇者の腕に抱き付いた。


ルーシーが無言なのが気になって勇者とルーシーの顔を見てみた。

怒っているのかと思ったら何か考え事をしているみたいだった。


よく見るとさっきの下着とは違う下着の上にいつもの服を着て食事に行く用意を済ませた。


「じゃ、行きましょうか。」


ルーシーの言葉で私達はぞろぞろと部屋を出て階段下の食堂に向かっていった。

私はミネバのアレを見て普通の食事に拒否感を更に強めたけど、みんなと一緒が良いからついていく。


食堂に入ると珍しくベイト、モンシア、アデルが左舷側に3人並んで食事をとっていた。

他の人は居ないみたい。

私達は右舷側の席にルーシー、勇者、私、フラウの順で積めて座った。


「遅い夕食だな。」

「ええ、船員が突然の出航で慌ててましたからね。やっと席が空いたんです。」

「そうだったの。悪いことしたわね。」


勇者、ベイト、ルーシーが話す。


「美味しそうね。同じもの頼もうかしら、勇者様とフラウはそれでいい?」


頷く二人。

ルーシーがベイト達が食べている切れ目にレタスとスライスしたチーズを挟んだバゲットと、クリーミーなスープにパスタが入ってるものをコックに注文した。


私の話はここまで。勇者が一緒だからここからは勇者が自分で書いてよね。

ふー。勇者私のこと何だと思ってるの?

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