第76話
勇者に頼まれたから少しそこから何をしたのかを私が書いておくね。
私はデッキに出てミネバの背中にしがみついた。
がに股だし腰が曲がってるしで、おんぶされてて恥ずかしかった。
「お!クリス良い匂い。おお!それと背中に柔らかいものの感触が・・・!」
「ちょっと、ミネバ変なこと言わないで。」
いきなり変なこと言い出して困った。
キシリアとルーシーは私から見ても綺麗で、何か尊いものを見てる感じなのに。私もキシリアが良かった。
翼が生えて飛び上がったらそれほど気にはならなくなった。
ミネバががに股で変なカッコしてるのがわざとだったんだと思った。
空を飛び出したらキレイな体勢で飛んでる。
勇者がせつなそうに私達を見送ってる。ルーシーに選ばれなかったのが悲しいんだね。後でいっぱい慰めてあげよう。
と思ったらロザミィの肩に手を置いて親しそうにしだした。
え?勇者、ルーシーと私がいない間にロザミィとなにするつもりなの?
後ろを気にしている暇はなく、まさにひとっとびで島の上空に着いた。
沖合いに船が停まっているんだから当然か。
外から見たら緑で覆われた島というだけにしか見えなかったけど、キシリアの言う通り、ドーナツの外側の輪が鬱蒼と繁って細い沼の通路を作ったりしているだけで、真ん中の穴は広い湖ができていた。
それがケーキを三等分に分けたみたいに盛り上がった土と樹木で南、北西、北東に分かれて3つの湖になっているみたい。
私達は外側のドーナツの輪の上に浮かんでいた。
音もなく飛べるのかと感心。
まず思ったのが、
「ここ、熱いわね。やっぱり温泉が湧いてるの?」
「わたくし達も確認はできていませんが、そうとしか思えないですね。湖沼は竜が隠れるほど深いですからそれが何処から湧いているかは空からでは見つけられません。」
ルーシーとキシリアも同じことを思ったみたい。
「わたくし達がさき逃げてきたのが南側の湖沼です。ほら、見てください。湖沼に浮かんでいるホワイトデーモン。もう10体に戻っています。」
おぞましいというか、恐ろしいというか、大きな竜があちこちに浮かんでたり寝そべっていたり、のんびりしていた。
「それぞれの湖沼に10体ずつ。不文律のように変化しないんです。先程わたくし達が倒した竜は共食いをした後だと思われます。2体減っているはずなのに一定時間で10体に戻る。それがこの敵の厄介なところです。」
「一度に半分以下にしないと減っていかないのね。」
「無茶ですよ。一度に15体倒すなんて。」
「そうね。今の何十倍の戦力が必要かもね。」
ルーシーはそう言いながら私をチラリと見た。
そうか、ルーシーはこのモンスターが変化の能力で作られた紛い物かどうかを見てほしいんだ。
モンスターの存在が始めから自作自演の嘘で、この場所から私達を遠ざけるための方便と疑っている。
でもそれは違うみたい。魔王の造ったモンスターをこの姿で見るのは初めてだけど私達魔人の能力で作られたものではないみたい。
私は首を横に振りそれを伝えた。
ルーシーは頷いた。
「信用されてないのですね。わたくし達の関係から言えば当然なのでしょうけど。」
「信用しなきゃ背中におんぶなんかしてもらわないわ。」
キシリアの言葉にルーシーがすぐさま答えた。
ここで落とされたら私達終わりだもんね。
キシリアとルーシーがピッタリくっついて体を密着させている。
私も間に挟まりたい。
ルーシーが突然弓を構えて竜を狙おうとした。
「ルーシーさん!?何をするつもりなんですか!?」
キシリアが驚いた。
「私が射ったら船とは別の方角に逃げてくれる?」
「なにもしないっていったじゃねーかぁぁっ・・・!」
ルーシーにミネバが興奮して怒鳴るけど最後は小声になった。
「やーねぇ。何もしないわよ。ちょっとどれくらい硬いのか試してみるだけ、それと奴等はこの島から出ないと言ったけど、どのレベルの話なのか確かめてみないと。」
「どのレベルって?」
ルーシーに私が聞いた。
「単に生活圏としてここから出ないで暮らしている方が都合がいいというだけなのか、それとも何かの理由でこの島から一歩も出られないのか。それによって話が変わるでしょう?今までの話には出てこなかったけどもう試したことあるの?竜をこの島から出してみた事が。」
「この島から出たところを見たことがありません。狭い通路を通れないというのもあるのでしょうけど、空を飛べばいいわけですしね。」
「だいたい追ってきたら撃退しながら後退するから積極的に出してみたことはないね。」
「それとさきの話で気になった事がある。竜は心臓や頭という急所を潰しても動き続けると言っていたけど、通常のモンスターにそんな特徴は無いわ。心臓部を潰せば消滅するのが普通よ。つまり、あなたが言ったように、裏で操っているものがある可能性がある。」
「操っている者って・・・。」
「あ、あたしらを疑ってるんかい!」
「もしくは魔王自身とかね。フフフ、それはないか。多分制御するシステム的なものが何処かにあるんだと思う。私達が探して壊すべきはそれよ。」
「ではこの竜は本当に操り人形で、何かを護るために置かれているだけだと!?」
「ええ。だから島から出れば十中八九追ってこないと思うわ。でも違ったらごめんなさいね。その時はあなた達の羽の速さが頼りだから、頑張ってね。」
「なんちゅー無責任な!」
ルーシーが弓を弾いた。
浅瀬で寝そべっている竜の腹に当たった。けど刺さる事はなく、弾かれて飛んでいった。
竜が首を持ち上げてこちらを見た。
周りの竜もつられて頭を上げる。
矢を当てられた竜が翼を広げて勢いよく飛び上がった。
思ったより俊敏だ。
キシリアとミネバに早く逃げてもらわないと大変なんじゃ?
「ぎゃあぁあああああ!来たあぁあああああ!」
ミネバは一目散に逃げ出した。
言われた通り船とは違う方向、東に飛んでいく。
キシリアも着いてくる。
複数の竜が翼を広げて飛び立って来ているみたい。
ヤバい。怖い。
「火を吹きそうだよ!」
私は後ろから追いかけて来る竜をミネバの背中から見ながら叫んだ。
竜の口から猛烈な火炎が吹き出した。
ミネバは上に、キシリアは下に高度を変えてそれを回避する。
下を見た。海の上だ。ルーシーの予想ならここからは追い掛けて来ないんだよね?
ラインを越えても止まらずに島を背に飛び続けるミネバとキシリア。
竜は・・・、まだ追いかけて来る!
何体居るの!?たくさんの竜が海を越えて飛んできている!
ルーシーのバカ!予想が外れてるじゃない!
「見て。南側の10体が飛んできてるけど北側20体は無反応だわ。」
ルーシーが観察しているけどそれどころじゃないよ!
どこまで付いてくるの?ミネバとキシリアの飛行速度が速いから追い付かれはしないけど、まさかずっと・・・。
「ここまでのようね。」
ルーシーが落ち着いた声で言った。振り返ると竜が空中に立ち止まっていた。10体の竜がボーッと棒立ちしているのがなんか不自然で可笑しかった。
「ふー。ドキドキしました。島の周囲10キロ先まで追い掛けてきてますね。」
キシリアはちょっと笑顔で言った。
10キロ!そんなに飛んだの?
「私も焦ったわ。島の周囲から一方的に砲撃されることに対処するため護衛範囲を広めにとったのね。ここから例えば船で島を砲撃するのは難しいでしょうね。」
ルーシーも焦ってたんだって。無茶しないでよね。
「これでホワイトデーモンが操り人形ってのがわかったね。うん。こりゃ生物の動きじゃないや。」
ミネバも納得しているみたい。
ルーシーが動きの止まった竜に更に矢を射ってみた。
距離は100メートルほど離れている。
硬い体に跳ね返されて矢は海に落ちるけど、反応はしてこない。
むしろ後ろの方に居る竜は帰り始めている。
「うーん。迂回しながら船に戻りましょうか。ここで数体相手しても増殖するだけで数を減らせないし。」
ルーシーの言葉にキシリアとミネバは島を中心に10キロ離れたまま船の南側にぐるりと回り込むように飛び出した。
まだ数体私達に付いてこようとしてた竜がいた。
このまま付いて来られたら船が危ないんじゃと思って見ていたら、突然その数体の竜が暴れだした。
ビックリして振り向くルーシー達。
数体の竜が同士討ちを始めていた。これが共食いってやつ?
「急に何!?」
私が驚いて言った。
「腹が減ったんかい?」
「いえ、多分違うわね。淘汰してるのよ。飛ぶのが遅かったやつを排除して速かったものを強化してる。強いものが残りそのコピーを造る。それを繰り返してるのね。」
私達はその後慎重に追っ手が来てないか確認しながら船に戻った。
島の南側から北上して出発したのに船の南側から北上しながら戻ってきたので勇者達は驚いた顔をして迎えていた。
随分遠回りして帰って来たので時間は経っていたと思うけど、デッキにはみんな残ったまま、私達を待っていてくれたみたい。
「大丈夫だったのか?竜の大群が追い掛けていったのがここからでも見えたぞ。」
デッキに着地するキシリアとミネバに待てずに声をかける勇者。
「勇者さんのパートナーさんは随分と無茶をなされるのですね。」
「近付くだけって言ったのに酷い!」
キシリアとミネバが答えた。
「ウフフフ。あなた達の飛んでくスピードは計算に入れてるわよ。ありがと。」
ルーシーがデッキに着地したキシリアの背中から降りた。
私もミネバから降りて迎えてくれた勇者に近付いた。
「で?どうだったんだ?その様子じゃ何か調べはついたんだろ?」
アレンが鋭く突っ込んだ。
「竜30体を一度に撃破するのは不可能ね。硬い外皮で遠隔攻撃は弾かれちゃうし、近付いた所で同じ。射程40メートルの火炎で焼き払われるだけ。一度目をつけられると島の周囲10キロ先まで追ってくる。例え飛行できても戦闘する余裕なんてなく集団に反撃される。射程ギリギリの所で一体ずつ倒しても島に残ったやつが増殖するので無意味。」
「絶望ですね。」
「なあ、なんか、この狭い島のことは見なかったことにして良いんじゃねーかな?」
ルーシーの説明にベイトとモンシアが悲観した。
私もその方が良いような気がしてきた。
こんなところにセイラのアジトが有るとは思えないし。
でも、勇者は口をつぐんでいる。きっと何とかしたいんだ。
「おわかりいただけたようで何よりです。この島の捜索は諦めて下さい。」
「まあ、ここにアジトなんか作るわけないでしょ?」
キシリアとミネバはみんなの反応に満足したようだった。
フラウとロザミィ、ベラ船長さんは勇者とルーシーを見ている。
どうするつもり?
「みんな、悪いんだけど・・・。」
やっとしてからルーシーが口を開いた。
モンスター掃討作戦を諦めるの?
「これから町に戻ってもいいかしら?」
皆はまた驚いた顔でルーシーに注目する。
「町ってローレンスビルにかい?どうするつもりだい?」
ここまで黙って聞いていたベラ船長さんが口を開く。
「モンスター相手にならモンスター専門の職人がいるでしょ?彼女の力を借りる。」
「ルセットか!それはいいアイデアだぜ!」
ルーシーにアレンが反応する。
「悪いけどロザミィ。船を牽引してくれる?ここからなら半日と少しはかかると思うけど。」
「え?いいけど。」
他人事のような顔をしてたロザミィが名前を呼ばれて二つ返事で答えた。
「職人とは・・・。」
キシリアは目をパチパチして呆けた顔をした。
「シャワー使ったんでしょ?あれを作ったひとよ。あなた達でも驚くものが造れるなら可能性あると思わない?」
正直不安しかない。本当にこんなモンスターを倒す何かを造ることができるの?
「そうと決まれば善は急げだ。早速出航の準備をするよ。と言っても広げた帆を直す方だけどね。あんた達!聞いての通りだ!巨大鳥での航海の準備を始めな!目的地はローレンスビル!二度目の帰還だ!」
ベラ船長さんは周りの船員に大声で命令した。
船員たちは急に大忙しで帆を閉じたり牽引用のロープを用意したりバタバタと動き始めた。
「そうそう。魔王が生きてるとかいう話は聞かなかったことにするよ。後が面倒だからね。勇者君。」
と言って船首のドアに入っていった。
ロザミィがそれについていく。
「そういうわけで私達は一旦ここを離れるわ。近況はロザミィにでも聞いてみるのね。」
「諦めないのですね。ルーシーさんらしいと言えばらしい。」
「そゆこと。」
ルーシーとキシリアが会話して向き合うけど話が途切れる。
「もう、すぐに出航すると思うけど?」
「え?ああ、あの・・・。わたくし達も、ついていって良いですか?」
「は?まあ、いいけど。あんたどさくさに紛れてついてくるつもりだったの?」
「ウッフッフッフッフ。はい。」
満面の笑みでキシリアが笑った。
急展開で町にまた戻ることになった。デッキでの集まりはそこでお開きになり、私達は部屋の荷物を片付ける作業に戻った。
ベイト達もそれぞれの部屋に一旦戻ったみたい。
キシリアとミネバはシャワー室の奥の二人部屋を使って休んでもらうことに。
ロザミィが大きい鳥になって船を牽引し始めてる。
部屋ではいつもの4人が荷物の仕分けでそれぞれ地味な作業をしている。床に下ろしていたリュックをモゾモゾ広げている4人。
残った食料、洗い物、ゴミ、武器、寝袋とか今回使わなかったけどテントとか、一応片付けやメンテナンスしておかないと。
勇者がルーシーに聞いていた。
「いったいどうするつもりなんだ?あの竜を倒す手段でもあるのか?」
「それはルセットに相談してみないと私にもまだ何とも言えないわ。」
「行き当たりばったりなんだ。」
私は呆れた。
「ずっと捜索続きでもなんですし。息抜きにはちょうどよかったのではないですか。」
フラウは前向きに受け取っているようだ。
それについては私もそう思う。
部屋のドアがコンコンとノックされた。顔を見合わせる私達。
けど来る人なんて決まってる。
「開いてるわよ。」
ルーシーが入室を勧めた。
「お邪魔しますね。皆様。」
キシリアが一人で入ってきた。あれ?ミネバは一緒じゃないんだ。
私達は床に座ってキシリアを見てる。
キシリアも部屋に入ってきて部屋の中をジロジロ観察している。
「へー。この部屋は広いんですね。向こうの部屋も悪くはないですけど、ここは凄いです。ベッドも大きい。・・・あら?でも、一つしかないのですね。」
どんどん勇者の顔が赤くなっていく。
「もしかすると皆さんこのベッドでご一緒なのですか?」
「そうよ。私達仲良しだから。」
「仲良しって・・・。ウッフフ。それはたいへんうらやましいですね。」
ルーシーは勇者と添い寝してることぜんぜん恥ずかしがる様子がない。私はちょっと恥ずかしい。
真っ赤になった勇者ほどじゃないけど。
勇者は言い訳しようと口をパクパクしてるけど言葉になってないみたい。かわいい。
私は勇者に助け船を出そうと話題を替えた。
「キシリアとルーシーってお似合いだよね。ちょっと二人でベッドに座ってみて。」
「は?お似合いってどういう意味よ?」
「いいからいいから。」
不満そうなルーシーを引っ張ってベッドに座らせる私。
キシリアも不思議そうな顔でルーシーの横に座ってくれた。
「ルーシーも少し笑って。」
私が指示を出すと不可解な顔をしたあと作り笑いするルーシー。
これ!
私はピーンときた。
「二人ともお姫様みたい。かわいい。ねえ勇者もそう思う?」
「え?ああ、そうだな。二人とも絵になるよな。ルーシーは黙ってると別人みたいだ。」
「別人ってどういう事よ。まるで喋るとガサツみたいじゃない。」
「あ、ごめん。」
私に勇者が答えたけど失言してしまった。
でも動けば武闘派、喋れば煽り力マックスでガサツどころじゃないよね。
「うーん。もう少し近付いてみて。頬っぺたをくっつけるくらい。」
「何をさせるつもりなのよ。あんたは・・・。」
ルーシーがちょっと照れた。
「え?絵を描こうと思って。」
「クリス絵が描けるの?」
「描こうと思えば描けるよ。」
ルーシーが意外そうな顔をした。勇者もフラウも床で私を見てる。
私は荷物からお菓子の包み紙とペンを取り出して、裏の白い方を構えてベッドの二人の前に立った。
「こんな感じですか?」
キシリアがルーシーの肩に抱き付いて頬を寄せた。
いい!二人の間に挟まりたい。
「ルーシーからももっと寄って。手も握りあって。」
「ええ。何の絵を描くつもりなのよ。」
「うーん。題名はお姫様のお茶会、のその後の爛れた関係。」
「爛れたってどういうことよ!お茶会の意味が無いじゃない!」
「うーん。もっと爛れた感じが欲しいから横になってみようよ。」
私は芸術家になったつもりで欲しい絵を要求した。
「こんな感じですか?」
キシリアはノリが良くて素直に要求に応えてくれる。
二人は肩を下にして抱き合ってベッドに寝転がった。
手を繋ぎ、顔も近い位置で見つめ合う。
「ちょっとキシリア。クリスの悪ノリに付き合わなくっても・・・。」
ルーシーが困惑したような顔でキシリアの見つめる目に視線を合わせる。
「ウッフッフ。いいじゃないですか。楽しいですよ。」
気分が乗ってきたみたい。もう一つ要求してみようかな。
「じゃあ、ちょっと服を脱いでみよう。下着姿が描いてみたい。」
「ええ!?それはちょっと・・・。」
「バカ!調子に乗りすぎよ!」
さすがにキシリアも引いてしまった。
後ろで勇者とフラウもドン引きしてる。
でも私は引かない。
「芸術のためだよ。やましい考えじゃないよ。」
「そりゃあ、あんたは女だし・・・。」
「そうですか。芸術のためなら仕方ありません。」
ルーシーは微妙な反応だったけど、キシリアは理解してくれた。
勇者が見ているというのにベッドの上でワンピースを脱ぎ出した。
「ちょっとキシリア?」
「大丈夫ですよ。勇者さんにはもう温泉で見せるものは全部見せてますから!」
温泉で裸なのとベッドの上で下着姿なのはまた少し違うような気がするけど、まあいいか。
純白の下着が眩しい。キシリアが履いてるのはレースで縁取られた上品な下着だ。
イメージ通りだった。
「さあ!ルーシーさんも!」
キシリアがルーシーの服を脱がし始めた。
「なんであなたがやる気になってるのよー!」
ルーシーは黒いフリルが付いた下着だった。
昨日ログハウスのベッドで見たままだ。
「あーん。簡単に脱がされちゃったー。」
ルーシーが泣き顔でナヨナヨした。
その隙に二人に抱き合って手足を絡ませ、見つめ合っている姿でポーズをとってもらい、私はペンを走らせた。
「なんかくすぐったいんだけど。お腹触るのやめてよ。」
「ルーシーさんお肌キレイ。気分が高揚しちゃいます。」
「もう・・・。」
「スベスベー。とっても触り心地がいいです。」
「やめてったら。」
キシリアの軽めなボディタッチにルーシーが体をくねらせて抵抗している。
ルーシーが弱気で押されてるのは珍しい。
私までドキドキしてきた。
「できた。」
「え?もうですか?」
キシリアは驚いた様子で起き上がった。
「うん。これ。」
私は力作をルーシーとキシリアに見せた。
「こっ!これは!」
「なんなのよこれ!」
二人は爆笑した。
丸い顔にチョンチョンと髪をはやして、体が棒線で表現した私の力作だ。棒線で手足を表現するのが難しかった。
二人の様子に勇者とフラウもルーシーとキシリアの後ろに回って絵を見に来た。
「なんだこれは。」
「アハハハハ!ある意味芸術です!」
「どう?うまく描けたかな。」
「どこをどう見たらうまく描けてるように見えるのよ!爛れてるのはあんたの線じゃないのよ!」
私が感想を聞くとルーシーに酷いことを言われた。
まあ自信があったわけじゃないからいいか。
ルーシーとキシリアのイケナイ関係を見れたから満足。
「ウフフ。クリスさんてこんな可笑しい人だったんですね。楽しい一時を過ごさせてもらえました。」
キシリアは服を着てベッドから立ち上がった。
可笑しいって言われると頭が変みたいに聞こえるけど、違うよね。
「わたくしそろそろおいとまいたしますね。せっかくなので船の中を見学させてもらおうと思いまして。」
キシリアがドアの前に立つ。勇者とルーシーは顔を見合わせる。
「それじゃあ、俺が案内するよ。俺もそこまでは知らないんだが。」
「あら、本当ですか?一人じゃちょっと淋しかったのでとても嬉しいです。」
「ああ。でも、そういえばミネバはどうしたんだ?」
「ミネバさんはロザミィさんの頭の上に行きましたよ。」
勇者が案内をかってでた。キシリア一人に船をウロウロされるのはちょっと危ない感じがする。
キシリアがじゃなくて私達が。だから勇者が見張りをするつもりなんだろう。
それにミネバとロザミィが一緒?あの二人感じが似てるような気がするけど、そんなに仲が良かったという覚えがない。
何を話しているのか気になる。
そっちは私が後で行ってみよう。
「それでは勇者さんお借りしますね。またのちほど。」
キシリアがドアから出ていった。勇者も私達に目配せして出ていく。
ルーシーが下着姿でベッドに残された。
私とフラウも顔を見合わせる。
「信用していいんですか?」
「さあね。何が狙いでこの船に乗り込んだんだか。」
「やっぱり全部は信用してないんだ。」
「ルカとエルの直後だしね。こっちはともかく、向こうに敵意がないのは不自然過ぎる。」
私はジロジロとルーシーの体を見ている。
「ルーシー、もう一枚絵を描いてあげようか。勇者も居ないし今度は裸で描こうよ。」
「それは断る!だいたいあんたのその絵にモデルなんて要らないでしょ!」
悲しい叫びで私の芸術は終わった。
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