27、ベイトズレポート

第73話

27、ベイトズレポート


ルカとエルを倒した後、俺とルーシーはしばらく洞窟で座って休んでいた。

さすがに1キロメートル走破と疲労と、緊張から解放されてぐったりした体では動くのが億劫になる。


「勇者ー!」

「ルーシーさーん!」

「生きてるー?」


洞窟の外でフラウやクリス、ロザミィの声が聞こえてから、そろそろと動き出した。


「来てくれたんだな。そろそろ行こうか。」

「そうね。」


立ち上がり入り口に向かう。

ふと足元にキラリと光る物が目に入った。


「これは・・・。」


しゃがんで拾い上げると、俺のポケットに入っている透明な鱗のようなもの、と同じような物が落ちていた。

ルカが倒れた場所。ルカが持っていた遠距離でも会話ができる道具の片割れか。


「どうしたの?」


ルーシーがしゃがんだ俺の腕に抱き付いたまま尋ねる。


「これ使えるかもしれないな。預かっておこう。」

「勇者様そういうの好きよね。」

「ルカの・・・遺品でもあるしな。」


洞窟から出てくる俺達を見つけて駆けてくるクリス。

立ち上がって彼女を迎える。


「良かった。無事だった。」

「ああ、おかげ様で。あの時君達が来てくれなかったら残り400メートル手持ちの矢無しで凌がなきゃならなかったよ。ありがとう。」

「うん。いいよ。」


嬉しそうに照れるクリス。


「それより最初は私の名前も言ってたのに途中から勇者様の名前だけになってたわね。どういうことよ。」


ルーシーがクリスに突っ込むが、抱き締め合ってからずっとルーシーは俺の右腕にしがみついている。


「ルーシーはどうせ無傷だし。心配いらないよ。」

「それは結果的にはそうだけど・・・。私をなんだと思ってるのよ。」


「勇者様。本当に無事で何よりでした。お怪我はありませんか?」

「ありがとう。大丈夫だよ。ただ、疲れたのと、ハハハ、腹減ったなー。」

「アハハ。」


フラウも心配してくれている。


「ルカお姉さんとエルお姉さんは?」


ロザミィが神妙な顔でクリスとフラウの後ろから聞いてきた。

俺とルーシーは顔を合わせる。


「倒したわ。」


ルーシーが一言答える。


「ふーん。倒したんだ。」


ロザミィが素っ気なく反応してそれ以上は変化はなかった。

もっとリアクションするのかと思ったが、何を考えているのか。

今のでセイラにもルカとエルの死が伝わったはずだ。

無反応なのが怖い。


「あなた達が迎えに来てくれて助かったわ。今からここを出てみんなを探しに行くのは疲れた体に堪えるからね。」


ルーシーも疲れているのか。超人だから体力が無限にあるのかと思っていた。


「なによ勇者様その顔。みんな私をなんだと思ってるのよ。」


「じゃあ私がみんなを乗せていってあげるよ。みんなで食べながら残りの海岸線を見て回ろう。」


ロザミィのありがたい提案により俺達4人はスズメの頭に乗ることになった。

二人並んで乗れる座席が前後に2列。

その代わりスズメの頭がちょっと前後に伸びて横から見ると不気味になった。

本人の頭というわけではないのでどうとでもなるのだろうが、美的センスは最悪だ。


前の座席にはフラウが、後ろの座席にはルーシー、俺、クリスが乗った。

二人ずつ乗れるんだから二人ずつ乗れば良いのにとは思うが、疲れているので言わない事にした。


フラウが空いた座席にリュックを広げて食べ物を取り出してくれた。

いつもの乾いたパンとチーズ、それと水の入った水筒だが、今は食べれるだけでいい。


ギチギチになって座っている俺達3人。

クリスはいつものように見てるだけ。俺とルーシーは狭くて食べにくいがバクバク口に食い物を放り込んでいった。


「そう言えばルーシー。妖刀の使い心地はどうだった?何なら俺より君が持っていた方が良さそうな気がするんだが。」

「えー?使い心地は悪くないし、切れ味は抜群だったけど、私はいつもの剣でいいわ。妖刀ってなんか恥ずかしいし。」

「え?そうかな?ちょっと心を擽られるだろ?」

「それは勇者様だけじゃないかしら。」

「そうなのか・・・。ちょっとショックだ。」

「そうそう、勇者様は聞いてなかったわね。私達が使ってた矢って鉄じゃなくて良かったけど、なんの素材だと思う?」

「え?新素材の矢とだけしか聞いてないな・・・。」

「うふふ。新素材なのは糊の方。実はあれ野菜のヘタなんかを固めて矢にしてるのよ。」

「え?野菜?」

「基本的に攻めてくるモンスターは町を襲うでしょ?戦闘で大量の矢の残骸がそのまま残ると環境に悪影響を及ぼす恐れがあるわよね?そこで雨や海の水に糊が溶けて野菜だけが残るように考えたのね。」


なんという見えない知恵だ。敬服するばかりの俺だった。



ロザミィは3つ目の袋小路の入り口を越え西の海岸線まで飛んでいく。


空から見たときは管轄外で気にしなかったが、一番西の峰に隠れていた外海の小島にぎょっとする島があった。

だがそれは後で話そう。


その後俺達は西の果てまで調べ尽くし、この島の捜索を完了した。

言うまでもなく発見は無かった。


人員も荷物も全てロザミィの中だ。このままベイト達の小島捜索部隊に合流するべく、まずはベラの船を探そうということになった。


一気に空高く舞い上がるロザミィ。

船は・・・。予想通りぎょっとする島の沖に停泊していた。




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