第69話
ログハウスの近くまで帰ると、岩の上に座っていたルーシーが俺を見つけて出迎えてくれた。
「勇者様どこ行ってたの?」
岩から降りて俺の元へやって来るルーシー。
ばつが悪く苦笑いの俺。何と言って良いか決まらずに当たり障りのないことで誤魔化そうとした。
「ちょっと気になる所を思い出したから、散歩ついでに見てきたんだ。心配させたかな。」
「そうだったの。一人で待ち惚けさせちゃったから、いじけてどっかに行っちゃったのかと思ったわ。」
「ははは。なんだそれ。」
「勇者様、汗掻いてるわね。シャワーで洗い流すといいわ。」
「そうさせてもらおうかな。部屋がどうなってるかまだ見てないから気になるな。」
「背中流してあげるわね。」
「え?いいよ。わざわざバスタオル姿になるのも面倒だろ。」
「え?バスタオル姿になるつもりじゃなかったんだけど、勇者様見たい?」
ああそうか。先日のクリスのせいで早とちりしてしまった。
ルーシーのバスタオル姿・・・。
「いいわよ。そんなに物欲しそうな目で見られたらやってあげたくなっちゃう。さ、早く入りましょ!」
俺そんな目をしてたのか?恥ずかしい。
とにかく中がどうなっているのか気になっていたのでルーシーの言葉に従ってログハウスに向かう。
昨日と同じ柱の上に水平に床が敷いてある造りだが、部屋の下が中空になっておらず下まで木の壁で埋まっている。
階段でドアまで上がるのは昨日と同じだ。
「勇者様入るわよー。」
ルーシーが中に声をかける。入ると湯気でむわっと湿り気を帯びた暖かい空気が佇んでいた。
部屋は左の端っこに衝立が立てられ荷物が積まれている。人が入るスペースはない。
それ以外は大理石で床と壁が覆われていた。いや、大理石のような薄いタイルなのか?
外周に腰に高さで座れるような段がぐるりと巡らせてあり、中央にはさらに段が下りていて湯船のように湯が貯まっている。
湯船の真ん中にステンレス製のポールが立っていてそこに湯を出し続けているシャワーのノズルが4本四方に向いている。
クリス、フラウ、ロザミィはバスタオル姿で外周の段に並んで座っていた。
服は荷物の所に並べて置いてある。
これは度肝を抜かれる。何もないこの島でまるで王族御用達の浴室にでも居るような気分にさせられる。
女性陣が騒ぐのも無理はない。
お湯はいったいどこから出てきているのか?
「あ、勇者が帰ってきた。」
「もう、やっぱり大丈夫じゃないですか。勇者様に逃げられたなんて泣くことないですよ。」
「な、泣いてないよ。」
クリスとフラウがバスタオル姿のまま俺に寄ってきた。
逃げられたって、どういう心境なんだ。
「もー。クリスお姉さんは寂しがり屋さんなんだからほっといたらダメでしょー。」
ロザミィは座ったまま俺に説教する。ロザミィのおかげで逃げて帰れたようなものだ。一応感謝はしておくか。
「勇者様私も服脱ぐからあっち向いててね。」
ルーシーが後ろで声を出した。
カーテンも敷居もなく後ろで脱ぐのか。
生唾を飲み込む俺。
「うん。まず上着を脱いで・・・。」
パサパサと衣類が落ちる音。
「ブーツも外して。」
足を上げ靴を脱ぐ音。
「ブラも外してー・・・。」
パチッと何か外れる音、スルスルと脱げていく音。
「勇者。何で集中してるの?」
クリスが俺の腕に抱き付いて来る。
思わず音に集中してしまった。
「パンツも脱いでー・・・。今勇者様に振り向かれたら私素っ裸だわ。恥ずかしいなー。あ!バスタオル取ってくるの忘れてた。勇者様荷物からバスタオル取ってー。」
「え?」
なんで俺に?とは思うが言われるがままにルーシーを見ないようにしながら荷物の所へカニ歩きした。
クリスも一緒に付いてきた。
「ゆ、勇者様!振り返ったらいけませんよ!ルーシーさんが!」
フラウが興奮している。
見るなと言われたら見たくなってしまうだろう!
しゃがんで荷物の中を探す。
クリスも両膝を着いて座る。
後ろのルーシーもだが、クリスも見ていられない。
焦りで手がもたつく。このリュックにタオルが入ってたか?
白い布を見つけて引っ張り出す。
「それは私のパンツだよ。勇者。」
クリスが笑って言った。
「おおっと、ごめん。」
「うん。いいよ。タオルはこっちのリュックに入ってたと思う。」
クリスが立ち上がって奥の荷物を取り出した。
おいおいおい。巻いているバスタオルの丈が短いから俺がしゃがんでいると見えちゃうよ。
俺は立ち上がって目線を上げた。
「はい。」
「あ、ありがとう。」
クリスが持ち出したリュックからバスタオルを抜き取り、後ろに居るであろうルーシーに肩越しに渡す。
「ありがと。勇者様。それと勇者様も脱がなきゃ駄目よ?」
そうだった。だが、俺ならこの前の脱衣場のやり方で済む。先にタオルを巻いてズボンと下着を脱ぐやり方だ。
クリスの持っている荷物から俺の分のタオルも取った。
「もう見てもいいわよ、勇者様。じゃーん。どう?」
チラリとルーシーを見ると、バスタオル姿のルーシーは腰に手を当てポーズをとっている。
「かわいい。」
「そ、そう?ありがと。」
自分自身の言葉にハッと気付いて照れてしまう。
無意識に口に出して言ってしまった。
視線を泳がせてルーシーから目を離す。
クリスが俺の腕を反対側から引っ張る。
なんだろう。
振り返ったらルーシーと同じポーズをしてみせていた。
思わず笑ってしまった。
「え?勇者。何で笑うの?私は?」
「いや可愛い過ぎる。」
不思議そうな顔をしたが、納得したのか笑顔で喜んだ。
「勇者様ー。早く脱いでー。」
「わかったわかったよ。」
ルーシーがせがむのでタオルを腰に巻いて裸になった。
みんながチラチラ見てる目が気になるが、ここまで来たらそうも言ってられない。
そのルーシーが投げ出した俺の服を畳んでくれている。
「勇者。シャワーかけてあげる。」
「凄いんですよー。こっちです!」
クリスとフラウに連れられて中央のシャワーの場所に向かう。
腰掛けの段を降り、湯が溜まった湯槽に入る。もも辺りの深さがあった。
ポールにかかっていたノズルを取り外して俺にシャワーをかけるクリスとフラウ。
「凄いですよね!こんなのホテルでも見たことありません。」
珍しくはしゃいでいるフラウ。
確かに凄い。残っているシャワーのノズルからのお湯でバスタオルが濡れてフラウの姿も凄いことになっている。
「これは贅沢だなー。でもなにも二人でお湯を浴びせなくても・・・。」
「甘いわよー。みんなでウォッシュしちゃうんだからー。」
「え?」
ルーシーとロザミィがモコモコしたスポンジのようなものに泡をたっぷり付けて手でガシガシしてやって来た。
「勇者ちゃんをあわあわにしてあげるよー。」
ニヤけたロザミィが後ろから迫る。
「勇者の体触りたい。」
クリスもスポンジを受け取って左から迫る。
「勇者様をゴシゴシしてあげますね。」
フラウも右から迫る。
「どう?みんなにゴシゴシされて嬉しい?」
ルーシーが前からニコニコして俺の胸を洗ってくれる。
「やりすぎだよ。そこまでしなくても。」
俺は困惑しながら四人に囲まれスポンジで全身を泡まみれにされてしまった。
両の脇腹をクリスとフラウにくすぐられて身を捩る。
ロザミィには尻に手を突っ込まれてまさぐられ変な声が出る。
ルーシーは笑顔で俺の顔をじっと見ながらスポンジで下腹部をゆっくりゴシゴシ動かしている。
四人はシャワーの湯を浴びてバスタオルがずぶ濡れになっている。
裾からポタポタとお湯が落ちて湯槽に波紋を作っている。
「ありがとう、もうじゅうぶんだよ。綺麗になった。スッキリしたよ。泡を落として上がろう。」
俺は色々と限界を感じて早めに終わらせたかった。
「もういいの?勇者様?」
「ああ。いいよ。みんなの気持ちとスタイルの良さはもう分かったから。」
「勇者様何を見てるんですか。もー。」
見るなという方が難易度高いよ。どこを見てもあれな場面だよ。
「じゃあみんなで泡を落とそう。」
クリスが言うと女性陣四人がシャワーのノズルを手に取りキャアキャア言いながらお湯をかけ合った。
俺はついでの的となって四人に攻められる。
ロザミィが一番俺にシャワーを浴びせてきた。主に股間に。
湯槽に貯まったお湯は上の段の排水溝から下に流れ落ちるらしく、一定以上は水かさが上がらない。循環しているのか泡も流れて湯が汚れることはない。
ふーんと感心しているとふと気付いた。
「これどこに寝るんだ?部屋が一面シャワールームでは寝る場所がないぞ。」
「大丈夫大丈夫。私を誰だと思ってるの?」
ロザミィが得意気に言ったが、いや、お前誰だと思えばいいんだよ。ほとんど知らないよ。
まあいくらでも作り替えることが出来る人ならなんとでもなるのか。
「その前に濡れた体を拭かなきゃねー。ビショビショだわ。」
「そうですねー。タオル取ってきますね。」
ルーシーとフラウが浴槽から上がる。
「勇者様また向こう向いててね。体を拭いて下着着るからね。」
「ああ。」
カーテンくらい引いておけばいいのだが。
ロザミィにその発想は無いのか。
あっちを向いたままザブンと浴槽に肩まで浸かる。
「じゃあ私達も着替えるね。」
クリスとロザミィも荷物の所へ上がっていく。
なんだかくすぐったいような刺激的な入浴だったが、さっきまでのことを忘れるわけにはいかない。
どうやって報告したものか・・・。
「もういいわよ。勇者様。」
考えがまとまらないうちにルーシーの声が聞こえる。
振り向いたら女性陣はみんな下着姿になっていた。
「服は洗濯しておきましょうね。汗と汚れが付いてるだろうからね。」
ルーシーがみんなの服を浴槽に投げ入れる。俺の服も。
浴槽のお湯が一方へ流れ出した。ぐるぐると。と思ったら今度は逆方向に。
なんだこれは。
俺は浴槽から飛び上がった。
「勇者様も体拭いてね。私達上で待ってるから。」
上?
荷物が置いてある端のスペースのドア側に紐が垂れていたのに気付いた。ロザミィがそれを引っ張ると天井から木製の階段が下りてきた。
二階があったのか!
手摺が付いた人一人が通れる程の狭い階段だが、不安定という感じもなさそうだ。
女性陣がワイワイ騒ぎながら下着姿のまま登っていく。
見たい!上がどうなっているのか凄く気になる。
タオルでさっさと体を拭いてトランクス一枚で階段を駆け上がった。
薄暗い部屋は壁にランプがいくつか灯してあるだけで、真ん中に大きなベッドがただ備えられていた。
丸い形の巨大なベッドは下に白いシーツ、上の掛けシーツは赤いシルクのような光沢のある生地。なにやら怪しげな雰囲気が漂う別世界に迷い込んだようだった。
駆け上がった足が固まる。
ルーシー達四人はすでにベッドの上で腰を降ろしている。
俺の登場に一斉に目を向ける四人。
薄暗い部屋、下着姿の四人、怪しい雰囲気のベッド。
入ってはいけない場所に入ってしまったようで腰が引けてくる。
「勇者様何してるの?早くこっちに来て真ん中に寝てね。」
「勇者早く。」
「このシーツ触り心地がとても良いですよ。」
「勇者ちゃんどう?この部屋気に入った?」
この中に入ってしまうと戻れなくなりそうで怖くもある。
「凄い部屋だな。ちょっと雰囲気有りすぎじゃないか?ビックリするよ。」
「それは勇者様だけじゃなーい?もしかしてその気になっちゃったのー?」
「その気ってなんですか!」
「アハハー!勇者ちゃんのえっちー!」
「なんか興奮してきた。」
「やめろー!」
これ以上話すと不味い方向に行きかねないので、俺はベッドの縁にトボトボと寄っていって座った。
下に降りる選択肢もあったろうが、甘い蜜の香りに誘われる虫のように、その花弁の中へ招かれてしまう。
縁に座った俺を後ろから引き寄せ中央に押し倒すルーシーとクリス。
赤いシーツを体の下から抜き出し、そのまま体ごと覆い被さるように並んで肩にかける。
俺の右にルーシーとフラウ。左にクリスとロザミィ。
俺の肩を枕にして抱き付く、いつもの体制でルーシーとクリスは寝ている。
「うーん。勇者様あったかい。勇者様まで下着姿なのは初めてかなー。」
「そうだね。私達が下着だったことはあるけど。」
ルーシーとクリスが顔を近付けて話している。
二人の体温が直接肌に触れる。
シーツで隠れているとはいえ、薄いシーツでは体型がそのまま浮かび上がってかえって妖艶に感じられる。
二人はどう思っているのだろう。
こんなに肌と肌が触れ合い、足が絡み合い、息が掛かり合う距離。
「勇者ドキドキしてる。」
クリスに心拍数が上がっているのに気付かれた。
「そりゃ、その姿でこんなにくっつかれたらドキドキもするよ。」
「ドキドキしてるんだ。」
クリスは嬉しそうに体を弾ませた。
「おおっ・・・。君らはなあ、おしとやかにしろとは言わないが、もうちょっと慎ましくは出来ないものなのか。こんな姿で抱き付いて寝るなんて普通じゃないぞ。」
「フッフッフー。それは出来ない相談ね。」
「そうだよ。出来ないよ。」
ルーシーとクリスに自覚はないのか。
まあもう気にするのは止めよう。
正直言うと悪い気分でもないし。
「ロザミィのおかげで凄いリッチな気分で休めるわね。ありがと。」
「ふふん。今朝のクリーチャーはもう見たくないからね。」
寝袋に3人入ってたやつか。
俺も礼を言っておくか。
「ルーシーもありがとう。俺のこと心配してくれて。」
「え?表で待ってたこと?」
「いや、シャワーで背中流すとか言ったの、俺が怪我してないか、どれくらい汗をかいてどこまで行ってたのかを調べるためだろ?」
キョトンとして俺を見上げるルーシー。
「フフフ。なーんだ。バレてたのか。」
「もう付き合い長いからな。でも隠すつもりはないんだ。ただ考えをまとめて朝にでもと思ってた。」
「何があったの?」
「ルカとエルがこの島に居る。」
「え?」
「え?」
「え?」
「え?」
全員同じ反応をした。
「と言うより、温泉島で四方に飛び立った後、ずっと俺達を着けていたのかもしれない。」
「アジトの場所を特定させないためかと思ったけど、別行動をしてるってこと?」
「かもな。」
「それで、大丈夫だったの?」
「途中までは。途中から急変して誘拐されそうになった。ロザミィの気まぐれで空を飛べるようにしてくれた場所があってなんとか逃げられたよ。ロザミィありがとう。」
「えー!?」
「明日何か仕掛けてくる可能性がある。この事だけは今言っておくよ。」
「仕掛けるって誘拐を?」
「どうやらセイラに狂信的になっていて、俺をプレゼントするつもりのようだ。」
「うーん。狂ってるわね。」
「残りの話は朝にしよう。いきさつとか、ルカとエルの能力とか要点はな。さすがに今日は疲れたよ。」
「わかった。じゃあゆっくり休んで。」
「そうさせてもらうよ。」
俺を寝かし付けるようにルーシーとクリスは肩を優しく叩いたり撫でたりした。これでは母親に添い寝してもらっている子供みたいだな。
苦笑いをしながら俺は眠りに落ちていくのだった。
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