第66話
その後、左右の壁はさらに広がっていき、最南端の絶壁まで到達した。やはりここにも何もないようだ。
数十メートル離れた俺達は真ん中に集い、フラウの待つログハウスへと帰還することにする。途中トンネルの上も眺めなければいけないが。
巨大スズメの頭の窪みの座席には俺とルーシーが座り、クリスは俺達が座っている窪みに足を投げ出すように後ろ向きに座った。
崖の間を低空飛行するロザミィ。
「うーん。怖いわねー。空というより飛んでるのがロザミィって所が恐ろしいわ。」
「どういう意味よー。」
ルーシーとロザミィが話す。
いくら敵の攻撃に無傷のルーシーでも空中で投げ出されたらひとたまりもないだろう。
まさかとは思うがロザミィは信用できないので、俺は座席の中でルーシーの手を握った。
本当に落とされたら俺も一緒に落ちるだけのような気もするが。
ルーシーが俺を振り返った。
ビックリした表情の後ニッコリ笑い、最後に恐る恐るクリスの方を見た。
クリスは俺達二人の向かいに座っている。
俺達が握っている手をジーっと見ていた。
トンネルの上部を上から眺める。何も無いようだ。そろそろ日が落ち始めてきた。思ったよりギリギリだったな。
クリスがジーっと見ていたが俺はルーシーの手を離さなかった。
恥ずかしがっている場合ではないからな。
ルーシーはトンネルの上を眺めたりして、その都度手を離そうとしたが、俺は無理に強く握っていた。
ハッキリ言うとこのアジト探しゲームは表向きの茶番だ。
やつらの本当の目的はルーシーの弱点を探すこと。ロザミィもセイラもそう言ってる。
俺達がやつらのアジトを探すこと自体には付き合わざるを得ない。
それが俺達のゴールでもあるからだ。
もしやつがその気ならば信用させて空中から放り投げ、事故死させれば弱点など探す必要はない。その可能性がある限り手は離せない。
だからロザミィは信用できない。
とはいえ弱点を探している素振りが全く見えないのは気にかかる。
最初に襲ってきたロザミィが一転して協力的、他の魔人も邪魔する様子もない。それも意図がわからない。
ログハウスに戻ってきた。結局ロザミィも変なことはしてこなかったが、何を考えているのか不気味だ。
フラウはワカメのスープ、キノコのソテー、バゲットを輪切りにして焼き上げ、トロトロに溶かしたチーズとソーセージをトッピングしたピザ風のトーストを作ってくれていた。
なんともありがたい。
そのまま外でいただくことにした。鍋にお湯が沸き上がるのを見ながら俺、ルーシー、フラウが囲んで料理をいただく。
クリスが俺の横に座り俺が食べるのを眺めている。
ロザミィはログハウスに入ってしきりに何かの準備をしだした。
クリスがずっと無言でいるのが気になってきた。
話しかけてみるか・・・。
「今日もお疲れ様。君達のおかげで明日の昼過ぎにはこの島の捜索が終われそうだよ。」
「勇者。明日はずっと一緒でいいの?」
「ああ、そうだな。もう海岸線と袋小路一つだし、手分けすることもないか。」
「うん。」
クリスが小さな声で返事をした。
「どうしたんですか?クリスさん、元気がないですね。」
フラウが疑問を口にする。フラウは空気を読もうとせずに疑問を口に出す風潮がある。
「私と勇者様が手を握ってたから勘違いしてんのよ。あれはロザミィに振り落とされないように握ってくれてただけなんだから。」
ルーシーもわりと実質的な事が優先なきらいがある。
「そうなの?」
クリスが俺を覗き込む。
「あ、ああ。あいつを信用するなと俺の直感が警鐘を鳴らしている。」
「ふーん。ロザミィ信用されてないの可哀想。」
可哀想と口にだしているがさっきより笑顔だ。
俺達は食事をし、雑談したり片付けをしたり、くつろいだ雰囲気で夕暮れを過ごした。
西の海に沈む夕日は崖に阻まれてここからでは見えない。
徐々に暗くなってそろそろ部屋に入ろうかというとき、ロザミィが出てきた。
「ねえ。みんな汗かいてなーい?」
「そりゃあ1日歩き回ったり探し回ったりしたからなあ。」
「見よう見まねでシャワー作ってみたよ!」
「え?」
「ええ!」
「嘘。」
みんなの反応が鋭かった。
ログハウスにゾロゾロと入っていく女性陣。
俺もそれに続いて入ろうとしたがロザミィに遮られた。
「あ、勇者ちゃんはまだ駄目だよ。みんな、は、だ、か、で入るんだからー。」
くっ・・・そうか。一目どんなものか見てみたかっただけだったんだが仕方ない。
ドアを閉められ、昨日と同じく一人外に取り残される俺。
中で黄色い声がこだましている。
何が有るんだろう。
ここにいるとまた覗いてるだの言われかねないので少し遠くに離れて座って待つことにしよう。
辺りはすっかり暗くなった。
突然一人きりになると寂しくなるな。
今日の出来事など色々思い返したり、まとめてみたり、明日以降の計画を考えてみたりしてみていたがあまりまとまらない。
こういう仕事はルーシーに任せておいた方がよさそうだ。
そういえば一人になったら見てみろと言われていたものがあったのを思い出した。
ルカとエルにもらった透明なうろこのようなアクセサリーだ。太陽に透かして見ろと言ってたかな。太陽はもう出てないが月明かりでもいいか。
ポケットからそれを引っ張り出す。良かった。傷付いたりはしてないみたいだ。親指の爪ほどの大きさ、薄さ、形はひし形に近いが角は丸くなっている。まあうろこだな。
不思議なのは透明で七色に見えるということか。
珍しい魚の鱗なのだろうか。
月明かりに透かして見れば、七色に輝いて確かに綺麗だ。
「やっと思い出したのね。」
「勇者はずっと誰かと一緒なんだもん。」
なんだ!?
近くで声が聞こえた。
周囲を見回す。誰もいない。ログハウスからは誰も出てきていないはずだが・・・。
岩影や海の中にも人影は無い。
いや、そもそも今の声はルカとエルの声だったような・・・。
俺の持っていた鱗のアクセサリーが鈍く光った。
「違う違う。私達はそこに居るんじゃないわ。」
「鱗で話しかけてるんだよ。」
この鱗から声が聞こえている!
遠隔通信?やつらは思考のリンクで遠距離でも会話できると言っていたが、まさかこれにも同じような能力が付いているのか。
しかも今俺が人影を探していたのを知っていると言うことは、どこかで俺を見ている?
いったい何処に・・・。
そしてこの鱗から漏れる光は昨日海で見たあの光に似ている。
まさか!?
「海に居たのか!?」
俺は海の上をくまなく探そうとした。
「フフフ。気付いてくれてた?でも今は違うわ。」
「後ろ見てみなよ。」
ハッとして振り返る、が真後ろには誰もいない。
崖の上だ・・・。昨日と同じようにぼんやりとした光が辺りを照らしている部分がある。
俺達を監視していたのか!?全く気付かなかった。
だが何のために?
「それはリーヴァの贈り物。私達はその力の元が言語野に埋め込まれてリンクを張っている。それはリンクを張っていないものと通話する便利グッズってとこね。」
「お互い鱗を持って声を出さなきゃいけないのがネックだけどね。」
魔王の娘のアイテムだったのか。
「面白いオモチャだが、何のためにこれを俺に渡したんだ。なぜ姿を現す。」
「言ったでしょ?これは私達と勇者の繋がりの証。こうやって会話するのが楽しいんじゃない。そのための道具よ。」
「そうそう。この前も色々急いでたし、もっとゆっくり話そうよ。」
「俺達の監視とスパイならもう間に合っているだろう。これ以上話すことがあるとは思えない。」
「監視とかスパイとかには興味はないわ。勇者の方に話すことが無くても私達には色々ある。例えば・・・そうね。あなた達がいったいいつまでこんなやり方でアジト探しをするのかってこととか。」
「こんなやり方だって?」
「アハハ。こんなやり方じゃあ10年経っても見つからないよ。」
なんだって?どういう事だ?やり方が違う?
「興味あるようね。でもここで話すのは邪魔が入りそう。だから勇者、今から3人で会わない?私達はこの崖の上で待っている。来てくれたらアジトのヒント1を無条件で教えてあげる。いい話でしょ?」
「ちゃんと崖の上に楽に登れるようにしておくから道具も何もいらないよ。」
罠だ。何のためにそんな事をしているのかはわからない。
俺を誘い出してどうするつもりなんだ?
教える保証はない。帰れる保証もない。リスクしかない。
「大丈夫よ。ちゃんと帰してあげるから。」
「10分、いや、5分でもいいから!」
「悪いが見え見えの罠に引っ掛かるほど馬鹿じゃない。」
「あーらそう。勇者ってのは勇気のある者って意味かと思ってたけど違うのね。女の子二人に怖じ気付くなんて。今から部屋に入ってルーシーとクリスにでも泣いてすがり付けばいいわ。」
「くっ!」
「アハハハハ!面白い!それ見てみたい。」
お前ら女の子じゃないだろ!
だが、この戦いで俺は全くと言っていいほど役に立っていない。
ルーシーやクリスに頼りきっているばかりなのは承知だ。
それにロザミィの言ったこんな場所にアジトはない、ルカの言ったこんなやり方では探せないという意味の言葉。
符号が気になる。
俺達は何か大きな勘違いをしているのではないか?
それが何なのか物凄く気になる。
どう考えてもこれは罠だ。ここで行くのは勇気のある行動ではない。
ただの愚かな行動だ。
だが・・・。
どうせ役に立っていない人間なんだ、例えここでリタイアしたところで戦況に変化はないだろう。
罠と分かっていても情報を得るには虎穴に入らねばならない時もある。
俺はログハウスを見た。
もし俺が帰らなければ後を頼む。ルーシー。フラウ。クリス。
愚かな行動をとる。俺は愚か者だ。
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