24、ルカとエル1

第64話

24、ルカとエル1


次の日起きたら朝になっていた。

まだ薄暗い時間ではあるが、そろそろ起きたい。

俺の寝袋には両側にルーシーとクリスがまだ入っていて、彼女達がどいてくれないと立ち上がれない。

寝ているのではないようで、二人でヒソヒソ話している。


「おはよう。よく眠れたかな?」

「勇者のせいで寝不足。」

「勇者様のせいで睡眠不足。」

「何で俺のせいなんだよ。」


「だってくすぐられる勇者様がいい反応し過ぎなんだもん。」

「変な気分になっちゃうよ。」


「理不尽過ぎだろ。さあ、起きるぞ。フラウとロザミィはもう起きてるみたいじゃないか。」


俺からはログハウス内の状況は目に見えないが、外で二人の話し声が聞こえる。朝食の用意をしてくれているのだろう。


「もっと勇者と一緒にいたい。」

「簡単なものでいいからって朝食を作ってもらってるのよ。」

「だからって寝てるわけにも・・・。」


ゴロゴロしているとロザミィが入ってきた。


「あーあ。変な格好。クリスお姉さんとルーシーお姉さんのだらしない姿は見たくなかったよー。」

「うっさいわね。勇者様と寝るのが私の健康法なのよ。」

「勇者と寝たらロザミィも離れられなくなるよ。」


「あーあ。勇者ちゃん良かったね。綺麗なお姉さん達に好かれて。」


「簡単なものでいいとおっしゃったのでバゲットのサンドイッチと作り置きのコーンスープです。」


フラウも入ってきて朝食を持ってきてくれた。


「あ、ありがとう。すまない。作ってもらって。」

「いえいえ。早く起きてしまいましたから。でもそのままで食べるんですか?」

「いやまさか。」

「クリス。体を起こすわよ。」

「うん。」


向かい合っていた体を逆に向けて3人が上を向くように回転するルーシーとクリス。そのまま俺の太ももに座るように腰をあげて上半身を起こす。

寝袋の中なので手が使えない。

ただでさえ窮屈なのに腰の部分で折り曲がってパンパンになっている。

出た方が早いだろ。


「あーあ。みっともない。変なクリーチャーみたい。」

「これはこれでなかなか器用だと思いますけどね・・・。」


フラウまでドン引きしているじゃないか。


「最後までやり通すのが私の心情なのよ。」

「うん。絶対に諦めない。」


ルーシーは寝袋から出た左手とちょこっとだけ出た右手でバゲットとスープを受け取った。

クリスがスープを右手で受け取り俺に飲ませてくれようとしている。

向き的に難しくないか。

さらに背中から骨針をにょきにょきと2本出し、フラウの手からバゲットを上手に掴んで俺の口元に運んでくる。


「勇者。食べさせてあげる。あーん。」

「ちょっと食べられないよ。」

「あーん。」


クリスがどうこうするつもりがないのは分かっているが、骨針を口元に持ってこられるとゾクリとする。

というかそんな使い方するなよ。


無理やり口に押し込められたのでバゲットを頬張った。

レタスとベーコンとチーズのよく食べてるサンドイッチだな。味は申し分ないし、この孤島で満足に食べられるだけでじゅうぶんだし、何よりフラウが作ってくれたので感謝しかない。


フラウも俺達の前に座って食べている。


「昼食は焼いたソーセージを挟んだバゲットを弁当箱に詰めておきました。それとチョコレートと飴玉をおやつに食べましょう。」


何て事だ。そんな事まで用意していてくれたのか。

クリスに無理やり押し込められているコーンスープをングング飲みながら俺は感動した。熱々じゃなくて本当に良かった。


「美味しかったわー。さーて勇者様を満喫できたしそろそろ支度しましょうかねー。」

「勇者美味しかった?」

「あ、ああ。」


ジッパーを全開に開けてサナギから舞い出る蝶のように二人が立ち上がる。

クリーチャーだったとは思えない凛々しい堂々とした姿だ。

クリスは下着姿のままだ。


「あー。手足が伸ばせるって気持ちいいわね。」

「スッキリした。」


手を上に背伸びするルーシーと横に広げて深呼吸するクリス。


あまり誰にも見られたくない一幕だったが、俺も気持ちを切り換えて捜索の準備に取りかかった。


フラウが作ってくれたお弁当、水の入った水筒、最低限の武器、まだ一度も抜いたことのない妖刀と普段使いの剣、弓矢を少々。ハーケンとロープも必要になりそうだ。


俺とルーシーは昨日言ったように地上の捜索だ。

クリスと見た一番東の峰の周囲を回ってみることにする。

と言っても一周ぐるりと回れるわけではない。

南側は島全体が断崖絶壁になっており、地上で行けるルートはちょうどBの字を縦に2つ並べたような袋小路を3つ備えた作りになっている。


B

B_ここ


昨日ルーシーが歩いたルートは東側から海岸線をなぞり、袋小路にまでは入らない下のBの下部分だ。

もちろん平坦な道などではなく、真っ直ぐな一本道でもない。

一人で歩くのは得策ではない。一番星後半のように分担は難しいだろう。というのは大きくそびえ立った4峰の崖だけではなく、岩場の道には起伏があり、登ったり降りたりあるいは危険も有るかもしれないからだ。


荷物をまとめていると横でクリスが床に伸ばしていた服を着始めた。


ビスチェ風の上を反対に着て背中の部分の紐を結びくるりと回す。

ブラが隠れるように着心地を直すように胸の部分を上に引っ張る。

ミニスカートを片足ずつ通して腰でフックをかける。

腰を下ろしてブーツを両足履いたら完成だ。

髪をかき揚げてポーズを決める。


俺の視線に気付いて振り返る。


「なに?勇者見てたの?」

「あ、いや、ごめん。」


感覚が麻痺してしまっているが、ジーっと見ていていいものではなかったな。


「ううん。いいよ。勇者に見られるの嬉しい。」

「と言うか最初から見られてるの気付いてたでしょー。ポーズなんか決めちゃって。」


横でルーシーが突っ込んだ。


「うん。勇者が口開けて見てるの可愛かった。」


意外とこっちも見られてたのか。しかも口を開けていたとは、これは恥ずかしい。


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