第63話
ルーシーとフラウを探して再びロザミィに乗り込み空へ舞う。
ルーシー達は海岸線を西に移動していたようだ。
すぐに見つかった。
ロザミィが近くに降りていく。
気付いたルーシーがこちらに手を振ってくれる。
「空の遊覧飛行はどうだった?」
ゴツゴツとした岩礁の海岸線は東の果てから変わらず。
なかなか歩きづらい道なき道だ。
いつも通りのルーシーがロザミィから飛び入りる俺達に声をかける。
フラウはバテバテで肩で息をしながら岩に寄り掛かっていた。
「最初は怖かったけど、ロザミィのおかげで快適だったよ。」
「勇者ちゃん分かってるー。」
くちばしをパカパカさせてロザミィが喜んだ。
「フラウの方は辛そうだな。」
「はぁはぁ、ちょっと進むだけでも登り降りがキツくって。」
「それじゃ、今日はここまでで食事にしましょうか。ロザミィ、荷物濡れないとこに下ろしてくれる?」
「えー?この辺で休むのー?」
「どこ行ったって変わらないでしょ。こういう場所しかないんだから。」
「それなら大丈夫だよ。私が造るから。」
陸地の岩場にロザミィがちょこちょこと歩いていった。
そしてそこに小さなログハウスのようなものを造り出した。
「便利だ・・・。」
俺は唖然とした。
巨大鳥を作れるんだから何でもありなんだろうが、既成概念を安易に崩すのは止めて欲しい。感覚が狂ってしまいそうだ。
ログハウスは床下に柱が4本立って床が中空に浮いて水平を保っているタイプだ。地盤がガタガタでも真っ直ぐに寝れる。
入り口前に階段があり、上ると両開きのドアがある。
中は家具など一切無い。ドアの両隣と左右の壁三方に跳ね上げ式の木の窓と上の方に通気孔はあるようだ。広さは4メートル四方というところか。
すでに荷物が中に置いてある。
「すっごい。これがあればゆっくり休めそうね。」
「私こんなの造れない。」
「あなた達の中でもロザミィが飛び抜けているのかしら。港で襲ってきたセイラだってこんな大きな物作ったりしてなかったわ。」
「もしかしてベッドも作れる?」
「あんまり頼ると後が怖いからこのくらいにしときましょう。寝袋でじゅうぶんだわ。」
「そっか。」
ルーシーとクリスが感心しながらログハウスの中で話している。
「やっと私の実力に気付いた?雨を降らせれば水だっていくらでも創れるんだから。」
ロザミィが人間の姿に戻り得意になっている。
実際とんでもない奴だ。能力に限界は有るのだろうか。
よくコイツと戦って勝てたものだ。
俺は外で伸びているフラウに目を向ける。
一旦外に出て俺達を眺めているフラウを抱っこしてログハウスに運んでやった。
「え?勇者様そんなことしなくてもいいですよ!」
「いいから先に休んでいろよ。」
寝袋を荷物から引っ張り出してフラウを横にする。
その様子を見ながらルーシーとクリスとロザミィは道具を用意して入れ違いに外に出て食事の用意を始める。
「喉乾いてないか?汗かいてるなら着替えた方がいいか?服脱がしてやろうか?」
「ちょっと疲れただけですから大丈夫ですよ!なんで脱がそうとしているんですか!」
「いや、俺ほとんど何もしてないから悪いなと思って。」
「気にしなくていいですよ。私の体力が無いのが悪いんですから。」
「そうだ。マッサージしよう。明日筋肉痛になるといけない。」
「ええっ・・・!そんなしていただかなくても・・・。」
「さ、うつ伏せになって。」
「え?ええ・・・じゃ、じゃあお願いします。」
今にも覆い被さろうとする俺に押されて、寝袋の上でうつ伏せになり足を投げ出すフラウ。
俺は足の爪先から丹念に揉みほぐしていった。
「う、うう。なんか照れてしまいます。」
「アハハ。照れることなんてないぞ。ここまで来たら家族みたいなものだろ俺達。」
「はあ。そう言われましても。」
土踏ます、踵、足首、ふくらはぎ。徐々に上へと手を滑らせていく。
「あー。そこ気持ちいいです。」
「凝ってる証拠だな。入念にやっておくか。」
ふくらはぎをさらに揉みほぐす。
最後に太ももを片足づつ両手でしっかりと包み込むように上下になぞっていく。
「これで最後かな。どうだった?」
「ありがとうございます。とても気持ち良かったです。」
「それは良かった。」
「あー。足の血行が良くなってポカポカします。」
仕上げに濡れタオルでフラウの足を拭っていたら、ちょうどルーシー達がログハウスに入ってきた。
「お待たせー。今日はホットケーキ作ったわよー。」
「ホットケーキ!?」
トレイに乗せた紙の皿には分厚いホットケーキが三段ほど重なっていた。シロップと何かのパウダーがかかっている。
「乾燥した果物をパウダーにして振りかけてみたよー。甘くて美味しいよー。」
ロザミィも入ってきた。
「ベーコンとキャベツのコンソメスープもあるから。飲んで。」
クリスが同じくトレイに3人分のスープ皿を運んできた。
そうか。食べるのは俺とルーシーとフラウの3人だけか。ベイト達と別行動なのは寂しいな。
「はえー。お腹の虫が鳴いてしまいますー。」
「生唾が溢れそうだよ。危ない危ない。」
フラウと俺は待ちきれないという様子でそれを受け取った。
「じゃ、いただきましょうか。」
「はい。」
「いただきます。」
俺達5人は部屋の真ん中で輪になって座り、作ってくれたホットケーキを美味しくいただいている。
クリスは俺達をニッコリ笑いながら眺め、ロザミィはそのクリスに寄り掛かって甘えている。
ホットケーキの生地の甘さとふわふわの食感が絶妙だ。シロップのまったりとした甘さとパウダーのサッパリとした甘さとも違い、飽きずに最後まで食べ続けられる。スープのベーコンとコンソメの塩加減も甘いホットケーキと一緒に飲むことで味覚が逆転して良いバランスになっている。これは二つの献立のコンビネーションプレイの勝利といった感想だ。
それはともかく、明日の提案をしておかなければ。
「明日の捜索は俺とフラウが交代で俺とルーシーが地上、フラウとクリスがロザミィと空中を担当と言うのはどうだろう?」
「え?私が空ですか?」
フラウはおっかないという感じで驚いた。
「怖いのは最初だけだよ。俺よりフラウの方が色々発見できそうだし、体力的にも俺が動く方が良さそうだ。」
「え?勇者、ルーシーと二人っきりになりたくて言ってるの?」
「いや、違うけど・・・今の話聞いてなかったのか。俺は今日はあまり体を動かしてないから、見た目よりこっちの方が楽なのかもと思ってさ。もちろんクリスが色々やってくれるおかげでだが。」
クリスの突然の質問に返す俺。
て言うか急になんだよ。二人っきりになりたいとか。
思わずルーシーをチラ見する俺。
横座りしながらスープを口にして俺の方を見ているルーシー。
変なこと言い出すからドキドキしてしまうじゃないか。
いや、こうやっておしとやかに食事をしているとやっぱり綺麗だ。
「ふーん。勇者はルーシーと一緒が良いんだって。」
クリスが刺のある言い方をする。
「明日はそうしましょうか。フラウがちょこちょこ付いて来てるのを見るのは楽しかったけど。」
「ルーシーさん酷いですよー!」
「ウフフ。勇者様、明日はよろしくね。」
「あ、ああ。」
自分で言い出した事なのにドキドキしてしまう。クリスのせいだ。
「みんな完食したみたいだし、そろそろ片付けね。」
「そうだな。」
「私とクリスお姉さんは今から食事にするね。」
ロザミィがクリスに寄り掛かって頬擦りしている。
食事か。雰囲気が怪しいが、まあ必要なことだろう。
ルーシーとフラウと俺は部屋を離れ後片付けをしに外に出た。
紙の皿は次の火を起こすときに火種に使えば良いので袋に入れてそのままだ。
鍋とおたまを水で濯いで綺麗にし、使った調味料等を荷物になおす。
火を消して完了かな。
片付け自体は簡単に終わる。
3人で階段を上がり部屋に戻ると寝袋の上でクリスとロザミィが抱き合っていた。
何故か二人は下着姿だった。
「ちょっと!なんでそんなかっこしてるのよ!」
「ひえー!見てはいけませんー!」
フラウが俺に目隠しをした。
「え?服がシワになるといけないから。」
「クリスお姉さん、もっとちゅーいっぱいしてー。」
「うん。いいよ。」
二人はその姿のまま抱き合って唇を重ねているようだ。
「お、俺は外で待ってるよ。」
フラウに制されて後退した。
暗い岩礁に波と夜風が打ち付ける。
ログハウスから少し離れた岩の上で座って待っている俺。
そんなに待たされる事はないだろう・・・。ないよな?
ボーッと月明かりの海を眺めている。
視界には船も島もない。ただ波打つ海だけだ。
こうして見ると本当に寂しい場所だ。
しばらくすると、海にチラッと何か光るようなものが見えた気がした。
今のは何だ?
立ち上がってその光った辺りをよく見てみたが、もう何も光りはしないし、何も見えなかった。
気のせい?何かが月明かりに反射しただけ?
海の中だ、何かあるとは思えない。
それにぼんやりとした光だったように思う。光線が向けられたというよりぼんやり光が周囲に漏れたという感じだ。
俺はそれが気になって周囲をくまなく見渡していた。
どのくらい経ったのか、ルーシーがログハウスのドアから出てきて、そんな俺に近付いてきた。
「どうしたの?」
「いや、見間違いかもな。なんでもないよ。」
「ふーん。もう入っていいわよ。私達も休みましょう。」
「ああ。」
ルーシーに連れられて部屋に戻るとクリスが下着姿のまま立っていた。フラウとロザミィは寝袋の中に入ってそれぞれもう眠っているようだ。
「勇者、ごめんなさい。寒かった?」
「いや、構わないよ。ロザミィには役に立ってもらってるからな。」
ルーシーが寝袋の用意をしている。相変わらず俺と一緒に入るつもりのようだ。
「勇者、この下着どう?勇者と分かれてから買ってみたんだけど。」
どうと言われても困るが、純白のシルクのような布地に刺繍が縁取られていて豪華な装いの上下だ。眠気もあるので素直に思ったことを言ってしまおう。
「凄く綺麗だけど、着ているクリスの方がもっと綺麗だ。」
顔を両手で塞いでしゃがみこむクリス。
反応が面白い娘だなクリスは。
「照れすぎでしょ。さあ、もう寝るわよ。」
ルーシーは寝袋をバンバン叩いて俺に先に入れと催促する。
もう慣れたので素直に従って中に入る。
ルーシーが続けて入ってくる。窮屈ではあるが人肌の暖かさに居心地の良さも感じる。
クリスも続けて入ってくる。さすがにそれは窮屈を越えている。
「ちょっとクリス。狭いわよ。」
「私も一緒に寝たい。入っていい?」
入ってから聞くのはずるい。出ていけとは言いづらい。
「いいよいいよ。どんなに寝苦しくっても寝れるのが俺の特技だしな。寝てしまえばみんな同じだよ。」
「変な特技だね。」
クリスは俺の左胸に顔を乗せて半身に体を預け寝そべっている。服の上からでも下着の肌触りの良さと、クリスの肌の感触が分かる。
右の肩にはルーシーが枕にしてピッタリくっついて横になっている。
寝袋のジッパーは閉めれずに開いたままだ。
「体が冷たくなってる。私が暖めてあげるね。」
クリスが体をすぼめてさらに密着させようとする。
「あ、ありがとう。もう二人の体温でポカポカだよ。」
やめるつもりはないらしい。
モゾモゾしながら体を擦り付けている。
「ところで勇者様とクリスは空からこの島を見てたけど、正直いってこの島にセイラ達のアジトって有りそうだと思う?感想は?」
ルーシーから真面目な質問が飛んできた。
「この島は一番星より広いんだが、それよりも崖の上が一面見渡せる不毛な平面だけに、探す場所がそれほど多くないと思うんだ。クリスとロザミィが居てくれてこのペースなら後二日以内で島全体の捜索が終わると思う。その上で後二日の捜索に水をかけてしまうような事はあまり言いたくはないが・・・。」
「言いたくはないが?」
「残念ながら無いだろうな。雰囲気だけはあるんだが、何分本当に何もない。何かあるなら空からもう発見出来ているはずだ。ここにセイラ達が通っている姿がイメージ出来ない。」
「そうよねー。イメージはともかく、本当に打ち捨てられた孤島という感じだわ。」
「まあ、それは俺の勝手な感想だし、裏をかいて実は何かあるのかもしれないから捜索は手堅く続けるつもりだが。」
「わかってる。ベイト達の方で何か見つけるかもしれないしね。」
「クリスも頼んだぞ。」
「うん。勇者がして欲しいなら何でもする。」
クリスがモゾモゾしながら上気した顔で答えた。
「なんか変な気分になってきちゃった。勇者、どうしよう。」
「変な気分なのは元からでしょ。」
「あ、ルーシーに酷いこと言われた。勇者、助けて。」
「どうしろって言うんだ。あんまりクリスをいじめるとお仕置きしちゃうぞー、とかか。」
「やだ、勇者様がどんなお仕置きするっていうの?」
「ん?考えてないけど。」
「勇者、私もお仕置きされたい。」
「いやいや、クリスをいじめたお仕置きをクリスにしてどうするんだ。」
「クリスホント変わったわねー。前はしっかりしたお姉さんって感じだったのに、今はカワウソみたい。」
「え?カワウソってなに?人間から動物になってるの酷くない?勇者、ルーシーにお仕置きして。」
「お仕置きって言ってもなー。そうだ、くすぐりの刑なら今は逃げられないぞ。」
「う、受けて立とうじゃない。」
「私もして欲しい。」
「だから何でクリスが、ってもういい加減寝よう。明日も早い。」
「え?しないの?」
「勇者にお仕置き。」
「は?」
俺は二人に鋏まれながら腋だの横腹だの胸だのをくすぐられた。
「ちょ、ちょっと待てー!!」
体を捩らせながらもんぞりうってその日は終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます