22、宝探し

第58話

22、宝探し


俺達が広い浴場に戻るとセイラ達が料理を作り終えているようだった。

エプロンを外し全裸に戻っている。

深いスープ皿に木の棒のようなものを2本添え、トレイに乗せて運んできた。


「あら。なにこれ?」

「豚骨ラーメンよ。」

「ラーメン・・・?」

「東方の食べ物。スープパスタみたいなものね。箸で啜って食べるのよ!」


ルーシーとセイラが温泉の真ん中に立ってやり取りする。


セイラ達が自分の分は無く、クリス以外の俺達7人の分のラーメンを脱衣場兼厨房から運んできた。


「旨そうだなあ!」

「どうぞ。召し上がれ。」


モンシアにルカがトレイを渡す。


「悪いな。」

「お口に合うといいのですけど。」


アレンにはキシリアが。


「いただきましょうか。」

「もらうぜ。」

「アツアツだから気をつけてね。」

「はーい。お待たせ。」


ベイトとアデルにはマリアとファラがそれぞれ支給した。


ルーシーにはエルがトレイを渡し、俺にはセイラが、俺達の横のちょっと離れた場所に座ったフラウにはカテジナが来てくれていた。


それぞれ元の位置に収まったがセイラだけは俺の目の前で立っている。


顔を見合わせる俺とルーシー。


「大丈夫だって言ってるでしょ。毒とか薬とか入ってないわよ。」

「結構油っぽいけど、体形的に大丈夫なのかしら。」

「ラーメン一杯では変わらないわよ。それにルーシーは体形気にするほど太りやすくないでしょー。」


「うーん。こってりしてて美味しいです!」


フラウはもう食べ始めてるみたいだ。

俺も良い匂いに耐えられず、スープを絡めながら麺を箸で啜る。


「本当にウマイなー。スープが濃厚で舌に絡み付くようだ。麺の喉越しと合わさって腹に染み渡るように入っていく。トッピングのネギともやしとチャーシューも食感と味を引き立てるのに一役買っている。」

「勇者様おいしそーに食べるのね。」

「ルーシーも早く食べなさい。冷めると美味しさが減っちゃうわよ。まあ、ルーシーの皿だけ激辛だったり、麺が入ってなかったりとか意地悪しようかと思ったけど魔王付きのメイドの誇りってものがあるからね。美味しいって言われないと癪じゃない?」

「それはどうも。食が進む話をありがとう。」


ルーシーは若干引きながらも麺を食べてみた。


「あら。凄く美味しい。」

「ウフフ。ありがとう。」


誘拐されて無理矢理働かされていても誇りというものが生まれるものなのかな。複雑な想いの中で過ごしていたのだろうか。


セイラは俺の左横にピッタリくっついてるクリスに覆い被さるようにのし掛かった。


「クリス。みんなが食べてる間に私達も食事をしましょ。」

「え?勇者が横で見てるよ。恥ずかしい。」

「大丈夫よ。みんな見て見ぬふりしてくれるから。」

「え。」


俺の左腕を握っているクリスの右腕。その右肩に首筋から回して右手を置き自分の方へ引き寄せるセイラ。

二人は突然イチャイチャとキスを始めた。

横目でそれを見ていた俺は思わず箸が止まってしまった。

見て見ぬふりをしろということだろうか。


見ないようにと目を反らそうとするが、クリスもセイラも視線は俺を向いている。

挑発的に俺を眺めながらクリスの唇に舌を這わせるセイラ。

クリスは息を荒くして頬を上気させ、肩を上下に動かしている。そして薄く開いたせつない目で俺をじっと見る。

俺は横でラーメンを口に入れるのだが、気になって食べれない。


俺の左腕を握っているクリスの手に力が入ったり、抜けたりを繰り返しながら、二人は唇を重ね合い、舌と舌を絡ませる。

時折熱い吐息が漏れる。

それでも俺に視線を向けたままだ。


どうしろと言うんだ。

ゴクリとラーメンのスープを飲み込む。

襲われている・・・わけではないんだよなあ?


しょうがないのでラーメンを啜っているとスープまで完食してしまった。


「ナマだ。」

「生のご招待だ。」

「何よそれ?」


モンシアの両隣に座っていたルカとエルがよく分からないことを呟き、ルーシーが突っ込んだ。


「知らなかった?セイラの部屋に招待されたことを私達はそう呼んでたの。」

「セイラの部屋に招待されたってことはぁ・・・。」

「え?」


ルカとエルはクスクス笑ってそれ以上は言わなかった。

ルーシーは顔を青くしていた。


「ここに居る連中はみんなご招待を受けてたんじゃないの。部屋の前で並んでた時もあったし。」

「もう。やめてください。昔のことですから。」


ミネバとキシリアも話している。


「みんなが私に相談とか教えて欲しいとか言ってやって来たんでしょ。私が呼んだんじゃないわよ。それより、勇者ちゃんもう食べ終わったの?おかわりしたいなら作ってあげるわよ。」


セイラがクリスを離して俺に問う。


「え?いいのか?おかわり。」

「勇者様。この状況でよくおかわり頼めるわね。」


ルーシーに怒られてしまった。


「ウフフ。いいのよ。作ってあげる。」


じゃあ俺も俺もと男性陣が声をあげる。

みんな俺同様セイラとクリスの行為に目のやり所がなく困っていたのだろう。


セイラ達が再び脱衣場兼厨房に上がる。


クリスが俺の左腕に抱き付いてきた。


「はぁ・・・うぅ・・・。」


なんか悔しそうだ。


セイラ達はすぐにおかわりを作って持ってきてくれた。


「はーい。どうぞー。」

「ありがとう。」


俺達は二杯目をズルズルいわせて食べていた。

セイラは俺達の前で仁王立ちだ。


「ルーシーはいいの?」

「私はいい。」

「そう。ああ、そうそう。さっき何のためにここに呼んだのか聞きたがってたわね。」

「ええ。」

「あえて、別の答えを答えるとすると、それはルーシーや勇者ちゃんの驚いた顔が見たいから、ねえ。」

「はあ?」


「ウフフ。キャスティングボートを握ってゲームメイクするのが楽しいってわけよ。振り回されてビックリしてガッカリして、悔しがって絶望して。そういう顔を見るのが凄く楽しいわ。だからゲームはフェアプレイでやらないと意味がない。別に怒った顔を見たいわけじゃないの。イカサマを使って勝ったって面白くはないわ。」


「それって翻弄されてたじろぐ人を見下すのが好きってことじゃないの。良い性格してるわね。」

「ずっと翻弄されてた人生なんだから、たまには良いじゃない。」

「私がルールに従わなかったらどうする?剣は持ってきている。この場であんた達を切り捨てる事だってできる。」

「それが無理なのは港で試したでしょう?私は化け物になった。でもあなたも化け物。じゃあ勝負をつけるのは違うやり方の方が相応しいんじゃない?」

「それがゲームってわけ?」

「そう。どちらが先に目的を達するか。アジトを見つけられるか、隠しとおせるか。」


俺達男性陣はラーメンをズルズル食べている。

なんか良いのかな・・・。


「ということで、これから宝探しゲームをやりたいと思いまーす。」

「は?」


セイラがいきなり変な提案をしだした。

喉に麺がつっかえそうになる。


「実は思ったよりも広いこの島。温泉もまだまだ別のルートがあるの。そこで私がここに来てからすぐに赤い風船をどこかに隠した。それをみんなで見つけて欲しいの。」

「みんなって。私達も?」


ルカが驚いた。


「そうよ。一番始めに見つけて持ってきた人が優勝。」

「なんでそんな事しないといけないのよ。私達に何のメリットもないでしょうが。」


ルーシーが呆れて唖然とする。


「あるわよ。あなた達の誰かが先に見つければ、私達のアジトの場所のヒントを教えてあげる。」


アジトのヒント?


俺はルーシーを見た。


「バカバカしい。隠したのがあんたなら思考のリンクで仲間にいくらでも情報共有できるじゃないの。」

「ここまでフェアプレイを熱弁してるのにまだ信じないの?ホントにあんたは入ってきた時から生意気だとは思ったけど。」

「うっさいわね。もう先輩も後輩も無いでしょうが。それに私は化け物でもないわよ。現実にいくらでも不正出来る事を指摘しただけでしょ。」


「じゃあルーシーは不参加と。勇者ちゃんはどうする?」

「やろう。」


「やるの!?絶対こいつらインチキするわよ!?」

「それは分かっている。だがメリットは無いがデメリットもない。無いで元々の物なんだし、やってダメでも失うものはない。」

「今の話で思い出したんだが、この島の捜索、朝はここで女性達と出会って中断、夕方は船が到着して中断、で全面的には終わってないんだよな。まあ、ここを探す意味が無さそうだが、最後までやっておくのも悪くないかもな。」


アレンもその気のようだ。


「ずっと座ってたんじゃ腰も痛ーしな。ちょいと食後の運動にゃなるだろうぜ。」


モンシアもだ。


「熱気も凄いですしね。外気に当たった方がいいかもしれません。」

「そうしよう。」


ベイトとアデルも。


「勇者がやるなら私もやる。」

「面白そうです!」


クリスとフラウもだ。


「うー。私だけ反対なのー。」

「ルーシーは考えすぎなのよ。現実主義者なのは分かるけどもっとエンジョイしたら?」


セイラに抱きつきよしよしされるルーシー。


それはそれとして、皆立ち上がり、それぞれの陣営にて円陣を組むような形で集まり始める。

セイラが中央に立ち皆の注目を集める。


「ルールはさっき言った通りよ。この島のどこかに隠してある赤い風船を探して私の所に持って来ること。勇者ちゃんチームの誰かが勝利したならアジトのヒントを教える。当然私達のチームメイトには場所は教えてないし、連絡もしない。場所を知っているのは私だけ。私はここでみんなの健闘を祈りながら、最初に風船を持って来る人を待つわ。時間制限は無いけど全員ギブアップしてここに戻ってきたら終了する。何か質問はある?」


「質問って言うか確認だけど、探している私達を各個襲撃してくるなんてことはないんでしょうね?」

「愚問ね。そんな面倒なことするくらいならラーメンに何か入れてるわよ。」

「じゃあそれを一応信じるわ。」


立ち直ったルーシーの質問に答えるセイラ。

思わず腹の辺りがゾワゾワしてくる。


「はーい。しつもーん。私達が勝ったら商品は何かなー。」


マリアがにこやかに問う。


「え?あなた達にも商品いるの?考えてなかったけど、それじゃあ勇者ちゃんと一夜を過ごせるってのはどう?」


「おいおい。なんで俺が商品になっているんだ。」

「そうよ。そんなのダメよ!」

「ダメだよ。」


俺とルーシーとクリスが声を合わせる。


「まあまあ、いいじゃない。勝てばいいんだし、過ごすだけなら何をしろって事でもないでしょ。私達はアジトを賭けてるんだからそれくらい出しても良いと思わない?」

「うーん。よく分からない理屈だが。」

「後出しで失うもの作ってんじゃないわよ!」


「はーい。じゃあ今からスタート!探して探してー。」


「ぎゃーっ!なんなのよー!」


叫ぶルーシー。

こちらの言い分は無視され急に始まってしまった。

マリア達、キシリア組、ルカ組はそれぞれ各方面に歩き出す。


「こうなったら全員で手分けして探すわよ!んもー!」


ルーシーは飛び出して行った。


「よーし。いっちょ探してみるかー。」


モンシアも他の皆もそれぞれ別方向に進みだす。

どうやら木の影に隠れていて気付かなかったが、それぞれ奥に進む通路があるらしい。

そろそろ太陽が西に傾いていく。時間制限は無しと言っていたがそう長くは探すことは出来ないだろう。出来るだけ早く見つけたい所だ。


俺とクリスはまだこの場に残っている。

脱衣場に上がる段々になっている岩場に腰掛けて、腰まで浸かっているセイラに近付くクリス。


「セイラの事だから普通に探した所には置いてないよね?」

「さーね。」

「なんで私にキスしたの?凄い恥ずかしかった。」

「さーね。まだ勇者ちゃんそこにいるけど、続きやる?」


チラリと俺を見るクリス。

おっと、邪魔だったかな。俺も探しに行くとしよう。


「昔はセイラが何考えてるか、なんとなく直感で分かった。今こう思ってるとか、これ考えてるとか。でも今はぜんぜん分からない。まったく。」

「離れたときお互いの環境が変わりすぎたのね。」


そんな会話が背後から聞こえてきた。

ベストフレンドの末路と言うには悲しすぎる。なんとか彼女の説得の機会も探さなければ。


俺は源泉が涌き出ているルートへ行ってみた。

ベイトが辺りを探している。


「誰も来なそうな所に置いてあるんじゃないかと思ったんですがね。今のところ無いようですね。」

「ベイトもか。しかしやっぱり熱いな。」

「涼むどころじゃ無い場所に来ちゃいましたね。アハハ。まあ、もう少し探してみますよ。」


奇しくも一人で根比べを始めてしまったベイト。同情するが同じ場所にいても仕方ない。俺は別のルートに行ってみるか。

ここに来る途中に横に細い脇道が有るのに気付いていた。

そこに行ってみよう。


左右の木がせりだして、道以上に狭くなっている通路に体を斜めにしながら入っていく。

一部立った状態で肩まで浸かるほど深くなっている所もあり、狭さだけでなく恐ろしくもある。


そこを抜けると道幅が2メートル程もあるが、前後左右に道が分かれ入り組んだ迷路のようになっている場所に出た。

碁盤のように木の生えた島と湯船の通路が列をなし、自分が来た道を見失いそうになる。

全体像が見えないので迂闊に進むと本当に迷子になってしまいそうだが・・・。


手にはバスタオルしかない。目印を付ける道具もない。

しかし風船を探さなければ来た意味もない。


意を決して前に進む俺。


幾つかの十字路を通り前に一直線に歩いていく。

思ったより広い迷路のようだ。道具なしで全部見るのは困難だろう。


ふと前方にある十字路になっている通路の水面を見ると赤い何かが浮いているように見えた。

探し物は赤い風船だったな。もしかすると風船が既に萎んで水面に落ちてしまっているのだろうか。


俺はさして急ぐわけでもなく、その浮いている赤い物に近寄っていったが、その時十字路の左側の方から誰かの気配がして赤い何かに手を伸ばすのが見えた。

俺も手を伸ばしそれを掴もうとしていた。

水面のその赤い何かに手が重なった。

お互いにその相手を見合う。


「あ。勇者じゃない。」

「あれー。勇者がこんなとこにいる。」


ルカとエルの二人組だった。


「あ、ああ。君達もここに居たのか。気が付かなかった。」


ルカと俺はお互いに水面の赤い何かから手を離さない。


「勇者。手を離して。」

「こ、これは何かな?」


いきなりここで負けるわけにはいかない。

せめて何か確認しないと。


「アハハ。ルカも離していいよ。それセイラのパンツだよ。」


エルの言葉に、え?っと手を離す俺。

しまった。本当か?


水面から赤い何かを拾い上げるルカ。


「本当。何でこんな所にセイラのパンツが浮いてるんだろう?」


両手で赤いパンツを広げて見せる。

ホッとしたような、してやられたような。


「セイラのパンツ欲しいならあげる。」


広げたパンツを差し出すルカ。


「いや、君達から本人に返してくれよ。」

「そう?それじゃそうするけど。勇者はこれからどうするつもりなの?」

「この場所をもう少し探してみるかな。まだ4、5ブロック向こうから来たばかりだ。」

「だったら一時休戦して一緒に探しましょう。別々に探しても二度手間になるだけだし。」

「私達はここに何度か来てるから道順を教えてあげるよ。」

「しかし風船が見つかったら持っていくつもりなんだろ?」

「欲しいならあげる。別件で勇者が仲良くしてくれたら、商品に価値なんてないもの。」


どこまで本気なんだろうか。だが持って行かれるよりその方がいいか。俺一人では帰れるかどうかも怪しい。


「じゃあ、一回りしよっか。」


エルが俺の左手を引く。


「そんなに急がないでよ。見逃しちゃうでしょ。」


ルカが俺の右手を引く。

両手に二人を連れ添って辺りに目を配らせ俺にはよく分からない道を進むことになってしまった。


奥に進んでいるのか元に戻っているのか、方向感覚が狂ってしまっている。


「随分深いんだな。この場所は。」

「そう。一人で探すなんて無茶よ。」

「私達に会って良かったんじゃないかな。迷子になって出られなくなってたかもー。」

「そいつは怖いな。」


二人に手を引かれ否応なく進む俺。もう確実に一人では戻れないが、二人を信用して良いのか。


「ところで勇者。昨日の朝に渡したやつ、持っている?」


ルカが突然聞いてきた。

別れ際に二人にもらった透明な鱗のようなアクセサリーの事だ。

脇に置いておいた荷物の中に入れて持って帰ったはずだから、まだズボンのポケットに入っているだろう。

しかし今までその事を忘れていたな。


「忘れていたけどズボンのポケットにあると思うよ。」

「忘れてたの?」

「アハハ。じゃあ、ルーシーとクリスにも言ってないんじゃない。」


そういえば秘密にしろと言われてたか。


「ああいうアクセサリーは俺よりルーシー達に渡した方が良いと思うのだが。」

「アクセサリー?違う違う。あれは私達と勇者の繋がりの証。」

「今度一人きりになった時に太陽に透かして見てみてよ。キラキラして綺麗だから。」

「あ、ああ。そうしてみよう。」


どういうことか分からないが記念品という感じか。


しばらく歩いているとルカが木の上を見ながら立ち止まった。


「あれ?あそこに何かぶら下がってる。」

「なに?あー、ホントだ。赤いねー。」


つられて見てみると木の枝の隙間から赤い何かが見えた。

だが風船という感じの動きではないようだが・・・。


「ちょっと手が届かない高さね。そうだ。勇者肩車してくれる?」


上を見ながらルカが提案をした。


え?っとルカの顔を見つめる俺。


「ほら、頭少し下げて。私が乗るから。」


待ってくれ。君は全裸だ。肩車って・・・。


「君達は飛べるんだろう?何もそんなことしなくても・・・。」


俺は抵抗した。


「枝が繁っていて羽が傷つくわ。あら?顔が赤いけどもしかして照れちゃったの?」

「あー。裸の私達で興奮してるのかなー?」


エルが俺にピッタリとくっついてきた。


「バカやってないで早くやりましょう。頭少し下げてね。勇者?」


俺の前に立つルカ。

本気なのか?困惑しながらも仕方なく俺は腰まである水面のギリギリくらいまで頭を下げた。


「うん。ちょうど良い。」


ルカは後ろ向きになって俺の頭の上をピョンと又越した。

俺の顔と言わず全身に血が駆け回る。


これは・・・!


「さあ、立ち上がっていいわよ。」

「私が横で支えるよ。」


フラフラと立ち上がろうとする俺に前からピッタリとくっついて支えるエル。

あまり支えにはなっていないような気もするが、今はそれどころではない。

俺がフラフラなのは重いからではない。刺激が強すぎるからだ。


「んん。もう少し前に歩いてくれる?あー、そこそこ。」


ルカが木の上を見ながら指示を出す。

その通りに動く俺。

止まれの指示で太股をキュッと締めて俺の頭を挟む。


なんだこれ。


俺の胸に自分の胸を強く当てて支えになろうとするエル。


「取れそう?」

「手がちょっと届かないわ。立ち上がるから待ってて。あ、勇者は上を見ないでね。」


言われなくっても見れるわけがない。


「とう!」


俺の肩に上手に立ち、すぐに飛び上がるルカ。

そのまま前方にザブンと大きな飛沫を上げて着地した。


俺から離れるエルとでルカの戦況を見守る。


振り向いたルカの手には・・・。


「ざーんねん。ぶら下がってたのはセイラのブラジャーでした。」

「なにそれー。うける!ブラがぶら下がってるなんて!」


俺は肩の力が抜けた。

セイラは分かっててやってるんだよな。見間違えて取ろうとすることを。なんというか。イタズラが過ぎる。


「勇者はセイラの下着セットいらないの?」


ルカがブラを自分の胸に上からあてがう。

エルもパンツをルカの後ろから回ってルカの腰にあてがう。


「さっきまで履いてたやつだよ。脱衣場で見た。」

「うん。本人に返してくれ。」


俺は努めて冷静になるように深呼吸をした。

その後迷路を3人並んで歩いたが何も発見できなかった。

俺にはどう進んでどこを探し終えたのか判別できないのだが、ルカとエルはこう言う。


「うーん。こっちには無いみたいね。」

「一周して縦横も見て、だいたい見終わったんだよ?」

「そうなのか。ありがとう。君達の案内がなかったら迷い混んでしまってたかもしれない。」

「じゃあ戻りましょうか。セイラに下着返さなきゃ。」


ルカ達と一緒に来た道を戻る。

狭い通路なので一人ずつ縦に並んでだ。


俺達3人はセイラの居るはずの大きな浴場に戻るがセイラとクリスの姿が見えない。

おや?と思ったらセイラとクリスは脱衣場の方で座って話をしているようだった。

随分長いこと迷路に居たような気がするが、その間ずっと話をしていたのだろうか。募る話が山積みだったのか。

ルカとエルは邪魔しないように脱衣場の方には行かず、浴場で待っている。

俺に向かって小声で呟く。


「勇者は宝探し続けるんでしょ?私達はちょっと待ってるから構わずに行っていいよ。」

「左の方にもいいロケーション有るんだー。今なら夕焼けが綺麗に見えるかもね。行ってみたら?」


そう提案されて少し気になったので行ってみる事にした。


「ありがとう。行ってみるよ。」


肩の高さで手を振る二人。

笑顔が弾けて溢れそうだ。

モンシアじゃないが本当にいい子達じゃないか。




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