第57話
時間は5時過ぎ、もう一回りは出来そうな時間ではある。
午後二回目の捜索を終え海岸沿いに集まる俺達。
「今日はこのくらいにして温泉島って場所に案内してもらいましょうか。」
ルーシーが言った。
「まだ5時過ぎだぞ?時間があるようだが?」
「ここから時間もかかるでしょうから早めに行きましょう。」
拠点に戻り救命艇を漕いで島に向かい、上陸後に温泉の場所まで歩きだ。早めでもいいかもしれない。
フーッと息をついて皆が拠点に歩き出す。
「このペースなら明日にはこの島の捜索は終わりですね。」
「何も無さそうだなあ。」
ベイトとモンシアが話ながら岸壁を歩く。
この辺は海岸沿いが崖になっていた。
拠点で色々準備をして出発だ。
温泉島へは北側の陸地を通るルートから入る。
最初に入った曲がりくねった南の温水ルートは大変だ。
救命艇を漕ぎ島まで近付く。
「おお、凄いもやで霞んでますね。」
「なんかありそうな雰囲気だね。」
フラウとクリスが感想を言う。
「俺達もそう思って上陸したんだ。実際何かあったが。」
思いもよらないものが。
救命艇を浜辺に上げてロープを木に結ぶ。
いよいよ上陸だ。やっぱり時間は早かったのではなかろうか。
まだ6時になっていない。約束の時間は7時のはずだ。
「悪いんだけどロザミィとクリスは空を飛んでセイラ達が何処からやって来るか見ててくれないかしら。」
「えー。」
ルーシーの言葉にロザミィは温泉気分だったのか不満そうな顔をしたが、文句は言わずに従った。
そうか、奴等のやって来る経路を調べるために早めにやって来たのか。
俺達の上を飛ぶようにロザミィとその頭上に乗ったクリスが飛行する。
陸地を歩き見覚えのある岩場にたどり着く。
段差があって、降りるとセイラ達が脱衣場として使っていた場所だ。
「ここを降りると温泉だな。」
俺がそう言うと向こうの方でチャプチャプと水音が聞こえてきた。
俺達は顔を合わせる。
急いで段になっている岩を降りると、温泉にはすでにセイラ達が入っていた。
なんてこった。いったいいつやって来たのか。
「あらー。勇者ちゃんにルーシー。早いのね。そんなに私達に会いたかったの?」
セイラ達8人は温泉に肩まで浸かってひとかたまりになっている。
俺達の方を振り向いてニッコリと笑う女達。
一人妙なメイクをしている女がいるが。
その様子を見てロザミィとクリスも降りてきた。
「驚いた顔してどうしたのかしら?そんな所に突っ立ってないで入ったら?今日も良いお湯よ。」
「あらあら。私が何処からやって来るか調べようとしてたのはお見通しってわけね。しかもロザミィに喋ったのは直前だから、最初からそのつもりだった。」
ルーシーが肩をすくめ頭を振る。
何処から来るか調べようとしていたことが読まれていた。
それは確かだろうが、いったいつやって来たんだ。
今日一日羽の音は聞いていない。ほぼ一日上空に居たクリスの目にも止まってないはずだ。
そこでハッと思い出した。
セイラ達は何もハーピーのような空中を飛ぶ姿にだけ変身出来るのではない。町でクリスが襲われた時のような人魚にだってなれるんだ。
海の中を泳いでやって来たとすれば、俺達の目にも耳にも止まる事はない。
なるほど。これが追跡されない自信の正体か。
「仕方ないわね。相手してやるわ。」
ルーシーは観念したようだ。セイラの方が一枚上手だったか。
俺達男性陣は一旦岩場を登って女性陣の着替えを待つことにした。
服を脱ぎ湯船に浸かれば、お互い裸はそう見えないはずだ。
「まさかこんなに早く再会できるとは思ってませんでしたね。」
ベイトが照れながら言った。
「こんなことあるのかぁ?いや、ねえよな?」
モンシアは興奮しているようだ。
「ルーシーキレイ。」
「ルーシーすっごい。絵の中から出てきたみたい。」
「はー。ルーシーって意外とあるんだね。」
「やめてよ。恥ずかしい。」
「クリス久しぶりね。」
「元気だった?」
「うん。今が一番調子良いかな。」
「初めて見る顔ですね。かわいらしいです。」
「ほうほう。弾けてる弾けてる。」
「はじめまして・・・。フラウと申します・・・。」
「セイラお姉さーん!」
「ウフフ。よく頑張ったわね。」
下の温泉で話し声が聞こえる。
フラウ以外はみんな知った顔同士だ。
それが何故こうなってしまったのか。
「勇者様ー。もういいわよー。」
ルーシーの声が聞こえてきた。
やれやれと岩場を降りて脱衣場に向かう。
脱衣場から出たすぐの湯船に12人の女性陣が集まってこちらに身を乗り出して目を向けている。
「おいおい、何だ!?」
「服脱いで。」
セイラが言うとみんなウフフと笑い出す。
「さすがに照れちまうな。」
「俺達がストリップショーするのかよ!」
「相手はもう脱いでるんですから。」
「参ったな。」
アレン、モンシア、ベイト、アデルもこれにはさすがにたじろいだ。
「勇者様。早くー。」
ルーシーもセイラ達と一緒の輪になって俺達を急かす。
「勇者様。私も脱ぎました。ほら、見てください!」
水着を着るかと思っていたフラウも裸だった。
タオルで前は隠しているが、隠しきれない身体のラインと膨らみが湯船の中からうっすらと見える。
それを自信満々に見せようとするフラウ。
「勇者。一緒に入りたい。」
クリスも最前列で俺を待っているようだ。
仕方ないが、こんなこともあろうかと俺達も大きめのバスタオルを持ってきている。これを腰に巻いて服を脱ぐか。
俺は上半身を脱ぎ、残念でしたと言わんばかりに、これ見よがしに腰にタオルを巻いてズボンを脱いだ。
キャーっと歓声が上がる。これでも喜んでいるのか。
「これはたまらん!捗る!」
変なメイクをした女が騒いでいる。
「勇者様、良いわー。凄くセクシー。」
「もう一枚。」
ええ・・・。なんだかよく分からないがそそくさと下着を脱いだ。
ギャーっとみんな騒いだ。
「さっさと脱いじまおうぜ。」
「ええ。ああなったらかないませんからね。」
モンシア達は俺を盾にして準備を整えた。
何しに来たのか分からなくなりそうだが、とりあえず湯船に入っていった。
前回と同じようにベイトとアデルを挟んで3人の女、モンシアに二人、アレンに二人が並ぶ事になったようだ。
ロザミィとフラウは俺達が最初やって来た木の影の向こう側にスイスイ遊びに行っている。俺の両隣にはルーシーとクリスが陣取って座った。
セイラが俺の前に立つ。
「勇者様の隣はもう埋まってるわよ。」
「勇者の横は無いよ。」
ルーシーとクリスがセイラをなじる。
「あらそう。じゃあ前に座っちゃお。」
セイラは俺の膝に背を向けて座った。
「おいおい。」
「ちょっとあんた何やってんのよ!」
「セイラ。大胆。」
「ウフフ。ここ座り心地良いわ。」
俺は生唾を飲み込んだ。こんなに近くで裸で、触れ合うのは・・・。
ルーシーとクリスがそれを見て俺に突っ込んだ。
「勇者様今何考えてる?」
「勇者が昂ってる。」
「ルーシー、とても綺麗だ。クリス、一緒に温泉入れてとても嬉しいよ。」
俺の誤魔化し方も堂に入ったものだ。
「誤魔化さないでよ。」
入ってなかったか。
だが悪い気はしないみたいで追求はされなかった。
「それより名前聞いてなかったよなー。」
モンシアが両隣の二人に言った。
「あら、自己紹介してなかったの?ホントあんた達は。」
ルーシーが肩をすくめた。
「モンシアの右がルカ、左がエル。」
「よろしく。」
「お願いねー。」
地獄の底に天国があると言っていた二人だ。愛想良さそうに笑顔で挨拶した。
「あそこの変なメイクの人が・・・。」
「ニュッフッフッ。変なメイクしてるの誰じゃい。」
変なメイクの女が辺りを見回した。
「あなたの事ですよミネバさん。」
「ふゅあ!」
「わたくしはキシリア。よろしくお願いします。」
アレンの隣の女が丁寧に挨拶した。
「あああぁあ!独特なメイクって褒めてくれたのにぃ!」
「それは褒めてないんですよ。」
アレンは笑いを堪えているようだ。確かに見るのが飽きない二人だ。
「3人の真ん中がマリア。」
照れ臭そうに手を軽く上げて振る。
「ベイトの横がファラ。」
「どーもどーも。」
「アデルの横がカテジナ。」
「んー、恥ずかしいから見ないでよ!」
浮わついた二人にネガティブな突っ込みを入れる女の子だ。
「俺達の事は・・・。」
「それは知ってるから大丈夫よ。」
俺にセイラが返した。
「そうか。」
「さーて、お招きありがとうと言いたい所だけど、何のために私達をここに呼び出したのか、教えてもらいましょうか。」
自己紹介が終わった所でルーシーが本題に入ろうとした。
「何のため?もちろんこれのためよ。」
セイラは湯船に両手を突っ込んだ。
俺は咄嗟にその両手を湯船の中で掴んだ。
「あら。両手を握られちゃったわ。」
「あんた今何掴もうとしたのよ・・・。」
ルーシーがドン引きしてる。
「勇者ちゃん。このまま抱き締めて欲しいなー。」
肩越しに俺を見ながらセイラが言う。
「私も一緒に抱き締めて欲しい。」
クリスも言い出した。
「抱き締めて欲しい?それなら仲間になってくれたらいつでもしてあげれるんだけどな。」
俺は牽制した。両手はまだ湯船の中で掴んだままだ。
「ふーん。」
セイラは拗ねたようにちょっと考えた。
そして周りの仲間達に言った。
「みんなごめんなさい。私勇者ちゃんの仲間になるわ。」
「ええ!ちょっとセイラ!」
「セイラが行くならみんな行くよ!」
「冗談に聞こえないって!」
「アハハ。冗談よ。」
なんだ冗談か。
「私は仲間だから抱き締めてもらってもいい?」
クリスは追い縋る。
「あ、ああ。今は両手が離せないから後でな・・・。」
「あら。それなら私も仲間だから抱き締めてもらえるわけ?」
ルーシーも入ってきた。
「え?ああ、そうして欲しいなら・・・。」
「マジかよ!俺も仲間だから抱き締めてもらえるのか!」
モンシアが叫んだ。
「いやー。男同士で抱き締められるのは困っちまうなー。」
アレンも言った。
「男同士はちょっと・・・。」
と言うとみんな笑った。
「やだー。」
「やめろー。想像しちゃうー。」
「えー。ちょっと見たいかもー。フフフ。」
「勇者受けでお願いしまづ。」
あちこちで悲鳴があがる。
「そうだ、あなた達夕食まだでしょ?ちょっと早いかもしれないけど、私達が何か作りましょうか。」
「日が暮れたら寝るから早いわけでもないけど、作るってもしかして空気からポンって出すんじゃないでしょうね。」
「そこまで不粋じゃないわ。それだと形は同じでも味や成分の保証はできないからね。想像通り上手く出来るか分からない。食材は作り出さなきゃいけないけどちゃんとした手料理よ。」
「信用できるの?」
「昨日もリンゴジュース飲んでくれたでしょ?勇者ちゃん。」
「あ、ああ。美味しかったよ。」
「ふーん。」
じっとりとした目で俺を見るルーシー。
「さて、自分で料理を作ることはもうないから、ちょっと久しぶりだけど腕によりをかけて振る舞ってあげましょうか。」
セイラが立ち上がる。
メイド達もそれに合わせて追随する。
セイラ達は一旦身体を拭いてエプロンだけを前にかけて岩場に調理器具をゴトゴトと作っていく。
裸にエプロン!俺はまた唾をゴクリと飲み込んでしまった。
そしてそれを目ざとく見逃さないルーシーとクリス。
「勇者様こういうのが好きなの?」
「勇者、料理作ってる姿見るの好きだよね。」
優雅な調理風景を期待していたが、どちらかと言うと職人気質のパワフルな仕事を始めた。
まあ、そうだよな。
フラウとロザミィが見えない。奥に行ってしまったのだろうか。
気になるので少し見に行ってみようか。
「フラウの様子を見てくるよ。」
「私も。」
「私も。」
ルーシーとクリスも一緒についてきた。
立って歩けば腰ほどの深さだ、二人はバスタオルを胸から巻いて身体を隠している。
フラウ達は俺達のいる広い浴場のすぐ裏にでも居るのかと思ったが、先の方に行っているようだ。
ロザミィだってどこまで信用できるか分からない。あまり二人きりにしない方がいい。
「あいつらどういうつもりなのかしら。和気藹々って感じだけど全く腑に落ちないわ。」
「昔と変わらないね。人数が減ったのはニナと船で倒した分だよね。」
「そうね。なんかこっちが悪い事したみたいじゃない。」
「それは違う。ベイト達も言っていたが、奴等は船の乗組員を三隻皆殺しにしている。俺達にだって襲ってきた。簡単に殺せる相手なら躊躇なく殺し、対等に戦える者にはゲームを仕掛ける。それが奴等の行動原理になっているんじゃないか?」
「ゲームか。何のためにそんなものを仕掛けてきたのか。私達を混乱させるためなら既に大成功だわ。」
俺達にアジトを見つけて欲しくないのなら、そのまま黙って証拠を消して去ればいい。わざわざ何かあると呼び掛ける必要は無かったはず。今も温泉などに一緒に入る必要はない。
「さっきの味の話。あれって人間の血の事言ってるんだと思う。きっと空気から作り出した血では補給に使えなかった。」
「なるほど。それが出来てしまえば永久機関の出来上がりね。ただでさえ不滅の能力を持っているのにエネルギーまで永久だったら勝ち目がないわ。」
ふと先を見ると湯船に人がうつ伏せで浮かんでいた。
フラウなのか!?
「フラウ!」
俺は駆け出した。
「何ですか?勇者様。」
ザバっと浮かんでいたフラウが起き上がった。
なんだ遊んでただけか。
「ロザミィは?」
「沈んでますよ。」
俺の背後からロザミィが浮かんできた。
「やーん。勇者ちゃんのお尻えっちー。」
「お前なあ・・・。」
ここに居たのか。と言うことはセイラに今の話聞かれたな。
まあ、俺達が疑心暗鬼だと言うことは最初から承知だろうが。
「さあ、あまりみんなと離れるなよ。」
「私子供じゃないわよ!勇者ちゃんのバカー!」
「いいからいいから。向こうに一緒に行こう。」
クリスがロザミィの手を引いて連れていこうとする。
「ロザミィはともかく。フラウは何やってたのよ。」
ルーシーは俺とフラウの方に近寄ってくる。
「いえ、地面を見ていたんです。これ天然に出来た物とは思えませんね。岩自体は自然の物ですけど、人の手が確実に入ってますよ。」
「確かに自然に出来たにしては湯船の高さがほとんど一定だし、ゴツゴツしてる部分は有るけどほぼ平らだわ。」
「一部セイラ達が改造したと言っていたが、どの辺まで手を加えたんだろうな。」
「ゴツゴツしてる部分やこの先の段差がある部分は自然の劣化と思うんですよね。わざわざ劣化した状態を作り出したとは思えません。」
そういえば最初ここに入ったときは多少苦労したな。
「人工物なの?この温泉。」
「そうだと思います。」
「え?いつ誰が作ったの?」
「相当昔ですね。遺跡レベルの劣化ですから。」
俺とルーシーは顔を見合わせた。
昔ここに人が居たのか。そんな形跡は全く見当たらなかったが。
しかし今それを考えても答えは出まい。
俺達もクリスとロザミィを追ってみんなの所に戻っていった。
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