第54話
船に戻ると船の上に大きな明かりが灯っていた。トントントンと音も聞こえる。
まさかシャワー室の工事をもう始めてる!?
嬉しいけど時間かかるんじゃないの?
私達は顔を見合わせた。
タラップを上がってデッキに出ると、船長さんとルセットが立っていて、船員さん達が仕事をしていた。
今日はもう休みと言っていたのにかわいそう。
あ、私が催促したのが悪いんだっけ。
「やあ、戻ったね。早速シャワー室の工事を始めてるよ。ルセットに掛け合ってもらって助かったよ。」
「この船屋上にプールあるのね。水回りは少し手を加えるだけで良さそうだから、突貫工事でやらせてもらうわ。」
二人に近付いてルーシーが質問する。
「横の部屋を改装するの?床は?排水は?」
「部屋の中にタイル張りの浴室を造る。排水はプールのパイプと繋げてろ過装置に流す。上水を術動式装置で循環させて各部屋で使えるようにする。それで完成。」
「うわー。スッゴい快適になりそう。」
「コックが泣いて喜ぶよ。」
「費用も結構かかるんじゃない?」
ルーシーが心配そうに聞いている。
「あっはっはっはっ。大丈夫大丈夫。アタイのポケットマネーで済むよ。」
「300万くらいね。装置のバッテリーが一個で1ヶ月くらいは持つけど補充を考えたら複数所持がオススメだし、これが意外と費用が高いのよ。コストと燃費を利用しやすいように技術を研いてるところだけど。」
船長さんとルセットが腕を組んだり腰に手を置き話している。
なんだか二人が遠くで話しているような気がする。
大物過ぎる。
私達は部屋に戻って休もうとした。
私達の部屋とシャワー室の間にドアが出来ていた。
向かい側の廊下に出なくても直接シャワーに入れるようになってる。
ドアはこっちと向こうと二重になっていて、両方で内側から鍵がかけられ不意に人が入ってこれなくなってた。
ドアは脱衣場に繋がっていてカーテンも引かれているから、鍵をかけ忘れても大丈夫そうだけど。
大きな作業は終わったのか音が静かになった。
ドアも閉められているし、ゆっくり眠っても良さそう。
ルーシーは勇者からもらったシャーク人形を胸に抱いている。
フラウ、ルーシー、私、ロザミィの順でベッドに横になった。
勇者がいつもいる位置でルーシーとロザミィを両手に抱いて眠る私。
ルーシーはグスグス言いながらシャーク人形のお腹を押している。
押される度にシャーク!っていう声が響いてくる。
今日だけは私で我慢してね。私も寂しいんだから。
泣いているルーシーにキスしようとしたけど顔を背けられた。
代わりにロザミィがキスをせがんできた。
後で頑張ってもらわないといけないし、やってあげよう。
朝になった。
ルーシーはまだグスグス言ってた。寝てないの?
ホントに寝れないの?
私は好奇心からシャワー室のドアを開けてみた。
向こうの二重ドアも鍵はかかってない。
私が使ってた時とは様変わりしててビックリした。
脱衣場はグルリとカーテンが引いてある。
その向こうにもカーテンがあってタイル張りの浴室が出来上がっていた。シャワーが壁に付いててバルブを捻れば水が出てくるのかな?
天井の穴は上から板を敷いてて一応塞がってる。
「使ってみましょうか。」
ルーシーが後ろから付いてきていた。
「え?まだ完成してるのか分からないよ。」
「大丈夫よ。クリスが寝てる間にみんなで完成したーって叫んでいたから。」
「そうなの?早い。」
「第二甲板の船員用のシャワー室とギャレーだけ改装したみたいね。凄い張り切ってた。」
「分かる。なんかこうワクワクする。」
「ここ使うときは一応両側のドアの鍵をかけておきましょうね。使ってるって合図でもあるから。」
「うん。」
ルーシーはそう言いながら鍵をかけた。
服を脱いでかごに置いておく。
タイル張りの浴室に入ると、こんな所で裸になってるのが恥ずかしくなる。
ルーシーはバルブを回して水を出した。
水が出た!
そういう風に作ってあるんだから当たり前だけど、船の中に居るのに勝手に水が出てくるのがいまいちよく分からない。
「あー。気持ちいい。あんまり無駄遣い出来ないから早めに使いましょうね。はい。」
ルーシーに水が出るホースを渡された。
私も水を浴びる。
「うん。気持ちいい。これいい。」
一通り水を浴びたら水を止め、浴室を出る。
脱衣場にあったタオルで体をふく。
「そういやあんた、どさくさに紛れて私にキスしようとしてたでしょ。」
「慰めてあげようと思って。」
「勇者様本人じゃなきゃ嫌なのー!」
服を着て、鍵を開けて、タオルを自分の部屋で干して、二人でデッキに出る。フラウとロザミィはまだ寝てるから休ませておく。
私達は武器屋の馬車が来るのを待たなきゃいけない。
船長さんが続いてデッキに出てきた。
「おはよう。あんまり眠れなかったろう?」
「おはよー。私が寝れないのは工事のせいじゃないけどね。」
「船長さんシャワー使ってみた。凄い気持ち良かった。」
「そうかい。そりゃ良かった。アタイも後で使ってみようかねー。ああ、そうそう。うちのコックが買い出しに出てるからちょいと待ってくれよ。戻ったら出航だけど、また巨大鳥にお世話になってもいいだろうね?」
「その予定よ。私達も荷物が届くの待ってるの。じきに来ると思うけど。それよりルセットはどうしたの?」
「帰ったよ。今回同行するより開発中の装備を完成させた方が役にたちそうなんじゃないかってさ。」
「そう。何を開発してるんだか。じゃあちょっと荷物が来るまでに野暮用済ませて来ようかしら。」
野暮用ってなんだろ?
ルーシーがタラップを下りて港の事務所に歩き出した。
そう言えばアルビオンからの手紙を待っていたんだっけ。ルーシーをお姫様抱っこして勇者が行ってた。
ルーシーが渋い顔して戻ってきた。
手紙来なかったのかな。
「スコットから便りが来てたわ。と言ってもクリスはまだ会ったことないんだっけ。」
私のこと虚偽の報告で人間だったという報告してたんだよね?
今となってはそうでもないけど、相対的に比較相手がもっと凄いからで、やっぱり人前で魔人の姿や力を見せるのは嫌。
「なんて書いてあるの?」
「ローレンスビルに向かうこと了解。無事の帰還を願う。引き続き大陸で起こった不思議な事件事故の調査を行う。」
「ふんふん。別に渋い顔することないんじゃない?」
「続き。アーガマ魔王の城で動きありとの噂。」
ドキッとした。
「なんだって?」
横で聞いてた船長さんも顔をしかめた。
「手紙だけじゃなんともね。でも遠すぎるから今回の一件とは無関係でしょうね。」
「他の魔王の娘が動き出したってこと?」
「可能性は高いわね。」
「まだここの娘の解決の糸口さえ掴めないのに勘弁して欲しいねえ。」
船長さんは頭を抱えた。
「まだどういう事か分からないし、ここに集中よ。返事書きたいけど色々あって何書いていいか分かんないわね。」
手紙を書いたのがモンテレーを出る直前だから、本当に色々あった。
海上でセイラ達が襲ってきたこと、ローレンスビルの町でもセイラとニナに襲撃されたこと、ルセットさんがセイラに襲われ私も狙われたこと、ロザミィ襲撃、魔王の娘が居ることが分かって私達が捜索を開始、捜索中にロザミィ再び襲撃。
割りと絶望的な状況が多かったような気がする。
ルーシーも頭を抱えていると港の入り口から馬車が入ってきた。
私が対応に出て荷物の受け取りをやった。
かなりの量の矢だ。
流石に船が傾きかねないので第三甲板の貨物室に大部分を積み込む事になった。
船員さん達に手を借りて運んでもらう。
ルーシーは手紙を書き終えてスコット宛に託ける。
船の補給も順次滞りなく行われる。
まだ朝方だ。本来なら昼頃にしか到着しないところをロザミィの牽引のおかげで早く出発できる。
突然港に再再出現した巨大鳥に呆然としながら私達の船を見送る町の人々。
船は星の屑諸島、一番星へ。
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