20、念願
第53話
20、念願クリス編
夜のうちに町へと着いた。
ルーシーが言ってた通り半分の時間で済んでる。
ロザミィ凄い。
町に近づく時に巨大鳥が再び現れたローレンスビルの自警団は大混乱したみたいだけど、私がロザミィの頭の上に白旗を立てておいたから、急ピッチで作られた新しいけど頼りない戦艦からは攻撃されずに済んだ。
夜だった事もあり町はそれほど混乱しなかったみたい。
巨大鳥がクイーンローゼス号を港に横付けするのを手伝ったときは、港に出ていた頼りなげな自警団の人達は腰を抜かしそうになってた。
正直私達もビックリだったけど。
「よーし。それじゃあ補給は明日にするよ。アタイらは何もしちゃいないけど、とにかく点検したら今日は休みな!じゃあお疲れ!」
船長さんが叫んだ。
せっかく早く着いたのに時間が遅くて買い出しに行けないのか。
ロザミィはデッキの横で巨大鳥の装甲を脱ぎ捨てて降りてきた。
「重いよー。もしかして帰りも引っ張らなきゃいけないのー?」
「お疲れ。上出来よ。」
ルーシーが一応労ってあげてる。
「もしかしなくても引っ張ってくれなきゃ困る。」
私は真面目な顔で言った。
「だよねー。クリスお姉さん勇者ちゃんに早く会いたいんだよねー。」
そうだけど、なんかバカにされた気がする。
「それは先に自警団に寄っていってからの話ね。一応ロザミィを連れて行かなきゃ。」
「え!?連れて行くの?」
ルーシーが事も無げに言って私は驚いた。
「それはそうでしょ。もうこんなに騒ぎになってるんだし。隠すのは無理よ。」
「えー。やだー。」
「やだじゃない。さあ行くわよ。」
ロザミィが嫌がっているのを引っ張るルーシー。
「私も一緒に行きます。」
フラウもルーシーに付いていく。
いつもの港に近い詰所に4人で歩いていく。
遅い時間だけど巨大鳥のせいで詰所は明々と明かりが点いていた。
私達がドアを開けるとビコックさんが見えた。
迎撃体制を解除して一段落しているって所みたいだ。
「いやー、驚きましたよ。こんなに早くまた巨大鳥がやって来るなんてね。しかも白旗上げて船を牽いているって、どうすりゃいいのか迷いましたよ。」
向こうも私達を見つけてカウンターにやって来た。
「驚かせちゃってごめんなさい。見ての通りあの巨大鳥は倒したからひとまずは安心してね。」
「どうなっているんです?服従でもさせたんですか?信用できます?」
「信用はできないわね。見てたかどうか分からないけど、この子がその巨大鳥よ。」
ルーシーがロザミィの手を引きビコックさんの前に差し出した。
「え?見てません。」
呆気にとられるビコックさん。
「それでだけど、こいつは行方不明者15人を含む65名を殺害した大罪人。本来なら今この場であなた達自警団に身柄を引き渡すのが筋なんでしょうけど、知っての通りこいつは特殊な能力を持っている。あなた達では危険が大きいと思うの。それに現在、こいつは私達の捕虜というわけでもなく拘束できてるわけでもない。ただ自分の意志で私達に付いてきているだけ。だからこいつの身柄の確保は少し待って欲しいのよ。」
ルーシーがビコックさんにお願いしている。
ビコックさんの一存で決められる事じゃないかもしれないけど。
ロザミィはつまらなそうに辺りをキョロキョロして見回してる。
「見てません。」
ビコックさんが同じセリフを呟く。
「え?」
「この人が巨大鳥と言われても見てないのでなんとも・・・。」
ビコックさんは未確認と言うことでロザミィを見逃してくれるということかもしれない。
話が分かる人で良かった。
「ありがとう。ほら、あんたも頭を下げなさい。」
「うえーん!ごめんなさい!」
ロザミィが突然泣き出した・・・。調子が良すぎじゃ。
「でもみんな美味しくいただいたので喜んでると思うよ?」
あんたそれ人間が魚や豚を食べる時に勝手に言ってることを・・・。
まったく反省の色が見えなくてビコックさんも困惑してる。
後ろのドアが開いて誰かが入ってきた。
声をかけられる。
「戻ってきたのね。アレンは無事なのかしら。」
「ルセットさんじゃないですか。もう容態は良いんですか?」
フラウが驚いて声をあげる。
私が船の部屋で襲われたとき、ルセットはセイラが取り付いてたから初めましてになるのかな?
「ええ。最初のヒールのおかげよ。ありがとう。」
「それは良かったです。アレンさん達は島に残って捜索を続けているんです。私達は補給で一時戻り、またすぐに向かう予定です。」
「ああ、そうだったの。早めの復帰をお願いされたんだけど、順調にやってるみたいね。」
「あなたの名前を至る所で聞いてるわ。いろんな装置を作ってるんですって?」
ルーシーが尋ねる。
「副産物ってやつね。本業は対モンスター用の殲滅兵器。でも今回は出番はないみたいね。聞くところによれば敵はヒトガタで特殊能力を持っているって話だものね。でも何か役に立てるなら何でも言って。」
「シャワーが欲しい。」
私は思わず声に出していた。
「え?水を循環させる装置のこと?」
「そうそれ。」
実はよく分からないけどそうだと言ってみた。
「船にってことなら船長さんに許可とか技術面で相談とか必要になるけど・・・。」
「やーねー。私達はすぐ向かわなきゃいけないんだから、そんな暇は無いわよ?」
ルーシーに嗜められた。
「まあ、そのつもりで準備だけは進めておくのはいいかもね。じゃあ早速船長さんに聞いてみるわ。」
そう言ってルセットは出ていった。早い。
「はあ、あれだけ好奇心の塊だからこそ技術者として大成しているのでしょうかね。」
フラウが呆然とした。
「さてと、私は常備勤務の見張りに任せて家に帰りましょうかね。皆さんはどうするんです?」
ビコックさんが取り越し苦労で良かったとばかりに支度を始めた。
「わざわざホテルに泊まるのもなんだし船に戻りましょうか。それとも町に遊びに行ってみる?」
「遊びに行きたいー!」
ロザミィが叫んだ。
「ええ!さすがにお店は閉まっているのでは?」
「開いてる所もありますよ。24時間でね。」
驚くフラウにビコックさんが事も無げに言う。
うーん。田舎の私の町とは違うなー。
どうせ船が出ても半日暇なんだしその時寝ればいいから夜遊びに出る事にした。ロザミィはずっと飛びっぱなしだけど、本人が行きたいって言うし・・・。
夜遊びと言っても朝になって買いに行くのを夜のうちに買いに行くってだけなんだけど、夜の町ってなんか変な感じする。
男の子に声をかけられちゃったらどうしよう。
勇者以外は興味ないけどね。
私達はぞろぞろと町を歩いて服の店に行った。
明々とついた明かりで店全体がショーウィンドウみたいになっていた。時間帯のせいか過激な服も並んでいるみたい。
ロザミィの服と下着を買う約束だった。
私もルーシーみたいに下着の着替えが何枚か欲しい。
ルーシーにおねだりしてみよう。
「ルーシールーシー。私も下着が欲しい。」
「え?ああそうね。着替えは多い方がいいしね。買っておけば?」
「いいの?」
「いいわよ。」
「クリスお姉さん一緒に選ぼう。」
「うん。勇者が喜びそうなやつを探そう。」
「勇者様が喜びそうな下着って何なんですか。」
ライトアップされて飾られてる、かわいい下着や過激な下着を見ながらみんなで騒ぎながら選んだ。
なんかこういうの楽しい。
「勇者これ喜びそう。」
「スケスケじゃないですか。ドン引きですよ。」
「クリスは特にジャンプしたら丸見えだから、ギリギリを攻めたらおもいっきりアウトよ。」
ロザミィはゴスロリメイド風の服を買った。
メイド服が落ち着くみたい。
「あーん!これかわいいー。これがいいー!」
「分かった分かった。騒がなくていいわよ。」
試着後にすぐ購入。そのまま着て外に出る。
「エヘヘ。どうかな?」
「かわいい。」
黒と白を基調として、腰に小さなエプロンが付いている。
首筋と背中が露出してスカートは膝上で短い。
タイツは太ももまでの長さでガーターで引っ張ってる。
靴は黒い光沢のあるかわいいデザイン。リボンのデザインがワンポイントで付いている。
「凄い派手な衣装ですね。」
「目立つわね。かわいいけど。」
「贅沢なお菓子の包み紙みたい。開いて食べちゃいたい。」
「クリスお姉さんの目が本気だよー。」
私はいつも本気だけど。
一応服の買い物は終わった。
あとは武器屋が開いてればいいんだけど。
矢を大量購入した店に行ってみたら開いていた。
勇者が妖刀を買った時に居た、耳打ちしあってやたらと親しげに話していた店員さんは流石に居なかったけど。
もう二度と矢の補充で町に戻らなくてもいいように多目に購入することにしてるみたい。
200ダース。1ダース3000ゴールドだから60万ゴールドを一気に使った事になる。
金額もぶっ飛んでるけど、2400本の矢なんてホントに使うの?
でもニナと戦ったとき私も針を数百本撃ち込んだ気がするから、残り全員分と考えるとまだ足りないまで有るかもしれない。
ロザミィはフラウの作戦で炎上させる事が出来たけど、セイラ達がどういう戦いになるかまったく分からない。
それにしても矢の在庫がよく残ってたと思う。
モンスターが出なくなってこっちの方の景気は良くないのかもしれない。
流石に持って帰るにはいかないから、翌朝馬車で船まで運んでもらうことにしてた。ロザミィに持っていかせればいいのに。
かわいい服が気に入ったのか、済ました顔で立っているけど、触手が出せなくなったことで弱点の露出が無くなり、逆に近距離、遠距離とも鉄壁の防御を崩せなくなったんじゃないのかと思ったけど、黙っておこう。
あとはスープ用の具材と、予想以上に食が侘しいから甘いお菓子とか携帯食を用意するらしい。
チョコレートや飴、果物を乾燥させたものとか。
今の私は要らないけど昔は好きだった。勇者の口から味見だけさせてもらおうかな。
生物や鮮度が必要な野菜果物類とかはないけど、そういう菓子類だけを扱っている小さなお店があった。閑散とはしていたけれど人が居ないわけではないみたい。酒場勤めや仕事帰りの女の子が寄っていくのかな。
意外と夜でも昼間と同じように買い物できた。
あとは戻って休むことにする。
そういえば男の子に話しかけられたりはしなかった。
ルーシーが怖いから話し掛け辛いんだろうね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます