19、瘴気の島

第50話

19、瘴気の島


「あれ見て下さい。アハハハ。傑作ですね。」


救命艇を降り、ロープで岩に繋ぎ、荷物を往復しながら下ろしていた俺達男5人。ベイトが海を、いや、船の方を見ながら笑い出した。


「なんじゃこりゃあ。」


やはり一番にモンシアが反応する。

やると聞いていた俺でさえ実際に見たときはそう言いそうになる。

ロザミィが巨大鳥になって船を馬車馬のように引っ張っている。


俺が見たいと言ったからやってくれたのか。


ありがたいし、これはテンションが上がる。


船の方に手を振って感謝を伝えよう。


「こいつはえらいもん見れたな。死んだ仲間達も浮かばれ・・・るのか?まあいい、あっちに行ったら聞いてみるか。」

「おいおい、縁起でもないことを言うなよ。」

「あっはっはっはっ!じじいになってからの話だ!じじいになってもこの光景は忘れんだろうよ!」


俺の訝しむ言葉にアレンは豪快に笑った。

じいさんに聞いたという諸島の魔物の話に新たな1ページが加わりそうだ。


船はみるみるうちに遠ざかる。

さて、拠点を作って日のあるうちに近くの小島に捜索に出なければ。


川辺のポイントG付近の砂場に六角形で大きめのテントを張り、数日分の食料、水、装備や備品を持ち込む。


男5人でかかれば造作もなくそれは終了。軽い食料を持って救命艇へと舞い戻る。


まずは南のかなり小さな島だ。

一目で向こう側の岸が見えるほどだ。上陸するまでもなく何もないのは分かるのだが、それでも何か隠されてないか一応捜索。


「何もありませんね。」

「次々行こう。時間が惜しい。」


ベイトとアデルが話す。


分かっていたことだが、非常に地味な作業だ。

何も無い算段の方が高い上に時間と人手は必要という精神を磨り減らす工程だ。

誰が活躍するでもなく、物語なら、そして、という一言で飛ばされる部分だろう。


救命艇で時計回りに次の島に移動する。

最初よりは大きな島だ。鬱蒼と木が繁っている。

そしてこんな小島でも大きな岩がゴツゴツと並んでいる。

一番星同様、動物や鳥の影はない。


「何の形跡もねえなー。」


モンシアの言葉だ。


「あと2つくらい見たら今日は終わりかな。日が落ちる前に戻りたいからな。」


アレンが順調そうに言う。


みんな口に出しては言わないが、実は3、4箇所向こうにかなり怪しい雰囲気の島がある。

大きさはここと同じくらいだろうか。かなり広めの屋敷の庭程度なのだが、島から何やら瘴気のようなものが立ち込めている。


あれに注意を奪われてこの島の探索がややぞんざいになっている感は否めない。

あの島に早く行ってみたいがために駆け足での捜索を無意識にやってしまう。


3つめの島に向かう途中、耐えきれず話題に出してみる。


「なあ、あの島気になるよな?」


みんなニヤリとした。やはり気になっていたか。


「気になりますねえ。こんなに晴れてるのにあの島だけもやがかかったみたいだ。」

「すげえ何かありそうじゃねーか!鬼が出るか、蛇が出るか!はたまたお宝が眠ってるかぁー!?」

「お宝はないだろ。」


ベイト、モンシア、アデルがはしゃぐ。


「どうする?気になるなら先に行っちまうか?」

「いや、今日は順番通り、このまま行こう。時間がそれほど無いし、もしあの島に何か有るとしたら明日の朝じっくり調べた方が良いだろう。」

「わかったぜ。さっさと終わらせて明日に備えよう。」


アレンと俺は一応現実的だ。


「まだ着いてもないのに終わった気でいるのは早計すぎますよ。」


ベイトの突っ込みにあっはっは。とみんなで笑う。


3つめの島に到着。意外と起伏があって回り道を強いられ難航した。

こんな時にクリスのありがたさが身にしみる。

くまなく捜索すると辺りは夕焼けになっていた。

予定通りには行かないものだ。

そろそろ戻らなければ夜の海は危険だ。


最終的に戻りの帰路は薄暗くなっていた。灯台代わりに拠点に灯していた明かりを頼りにオールを漕ぐ。


テント内で口に入れるだけの簡単な食事をし、酒を持ってきた者はちょいと一杯やってから用意されていた寝袋で今日はもう休む。


普段寝付きが良すぎる俺だが、このところの寝心地と打って変わった環境からかすぐには眠れなかった。

ルーシーの体からか髪からか匂ってくる香りが、アロマかなにかの効果でも発揮していたのだろうか。


彼女が俺がいないと眠れないと言っていたのをそんな馬鹿なと侮っていたが、まさか自分も眠れなくなるとは思いもしなかった。


彼女の体温、彼女の体重、彼女の鼓動、彼女の発する声。


それが俺にとって安らぎになっていたのだろうか。


ルーシーも今頃眠れないと言っているのかな。


やめよう。こんな事を考えると余計眠れなくなる。


そうして俺は夢見心地でうすぼんやりと微睡みの中に落ちていった。


遠くでバサバサと羽の音を聞いたような夢現の混じり合う曖昧な暗闇の中に。



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