第48話
川辺のポイントGに戻ってきた。
装備以外の荷物が置きっぱなしだ。
それぞれ装備を荷物にまとめたりチェックしたり手入れしたりで忙しそうにしてる。
私達の持ってきた矢だけ異常に減ってる。
ルーシーが射ちまくったせいだね。
私は装備を持ってないからロザミィとその辺に座ってみんなを見てる。
ロザミィは体操座りで座っててパンツ履いてて良かったかもと思う。
みんなは食事時だろうし、私達が準備しててあげようかな。
「ロザミィ。手伝って。」
「はーい。」
ルーシーが水を確保してくれてたからスープをまた作ろうかな。
そう言えばチョロチョロ流れてただけの川がロザミィが降らせた雨のせいで流れが勢い付いてる。
でも一旦町に戻るとか言ってたから今は放っておいて良いか。
小石を並べて枝に火を着け鍋をかける。
そうしてたらフラウが寄ってきた。
「あのう、これ。私の着替えなんですけど、私よりロザミィさんの方が着た方がいいかもと思って。」
フラウは水着が恥ずかしそうだった。
「いいよ。フラウが着てて。甘やかすと付け上がるんだから。いい薬だよ。」
「やーん。クリスお姉さんの意地悪ー。」
「言っとくけどフラウがあんたを倒したようなものだからね。完璧に見透かされてたから。」
「えー。」
ロザミィがフラウをジーっと見る。
「ジロジロ見ない。」
私は後ろからロザミィの顔を横に引っ張った。
「ふえーん。顔を引っ張らないでー。」
「アハハ。じゃあ着替えは大丈夫なんですかね。」
「うん。平気だよ。」
コンソメと玉ねぎでオニオンスープが出来た。
味見はできないから勇者にしてもらう。
「バッチリだな。」
バッチリなのは勇者の裸の上半身だよ。
それぞれ腰を下ろして一休みしている。
固いパンと私のオニオンスープは食べ終わった。
船を呼ぶ前に今後の方針を話し合うつもりらしい。
重要なのは・・・。
「さて、落ち着いたわね。今後の事について話を始める前に、聞いておかなければならない事がある。」
ルーシーが話し始めみんながロザミィを見る。
「私達は今あなた達のアジトを探すためにここに来ている。あなたがその場所を教えてくれれば探す手間が省けるってこと。」
「ふーん。」
ロザミィは相変わらず体操座りでルーシーの話を他人事のように聞いている。
「ふーん、じゃなくて、あなたに聞いてるのよロザミィ。あなた達の住処はどこなの?今どこからやって来た?」
「知らない。私はその辺を飛んでただけだよ。」
みんなの表情がピリリとした。
「知らない?自分の住処を知らないって言うの?そんな話を信じろって?」
ルーシーはキレかかってる。
ここで嘘や誤魔化しなんかされれば当然そうなる。
ただでさえ許容範囲をオーバーランし過ぎて余りあるのに。
「嘘じゃないよー。私はこの近くを飛び回ってみんなとは別行動だったんだよー。」
ロザミィがさすがに雰囲気を察して泣きそうになる。
「別行動だったねえ。では聞くけど私達がローレンスビルに入る前にあなた達は船を襲ったわね。あの時正確に何人いて誰がいたのか確かめられなかったけど、あなたもあそこに居たんじゃないの?」
「居なかったよー。」
「信じられない。」
「それについては一応の信憑性はあるかもしれない。」
勇者が割って入る。
「ほら、船を襲ったハーピー達は皆針の攻撃を繰り出していたろう?だがロザミィは俺の覚えてる限りそれは使ってない。あの時居なかったから知らなかったんじゃないかな?」
「そうなの?」
「うん。」
疑わしそうにロザミィを見るルーシー。
「船を襲った時居なかったとすれば、別行動をしていた事が確定する。別行動をとっていたとすれば、アジトの場所を知らない可能性も浮上する。」
「役にたたなくてごめんなさーい。」
「可能性もあるってだけよ。信用したわけじゃない。」
「でもこの近くに居ることだけは確かだよ。よくこの辺ですれ違うから。」
「あらそう。心強い情報をありがと。それでセイラにも会ったって言うの?」
「うん。なんで知ってるの?」
「でかい鳥になる方法を教えてもらったんでしょ?あなたの頭じゃ思いつかないでしょうからね。」
「うわーん。バカにされてるよー。」
ロザミィは横になってジタバタした。
ルーシーはクルリと勇者の方を向きながら肩の力を抜いた。
「予想以上にガードが固いわね。案外頭がいいのかしら。」
ロザミィは計算高い女の子じゃないと思うけど。ルーシーの考えすぎじゃないかな。
「もうひとつ聞く事があるわ。」
再びロザミィを正面に据えて近付くルーシー。
「今この島に来た理由は?何の目的でやって来たの?」
ロザミィはうつ伏せになってルーシーを振り返りながら泣きそうな顔で答える。
「ただふらっと寄っただけだよー。そしたらみんなが居たからこ・・・遊んでやろうって思ったんだよ?」
今なにしてやろうと言おうとした?
「それを信じろと?」
ルーシーが詰め寄る。
「本当だよー。」
ロザミィがルーシーに抱き付く。
「仮に何かの目的があってここに近付いたとする。あなた自身にここに来る理由なんて特別無いだろうから、当然目的はセイラか魔王の娘に指示されたことになる。
そうなると別行動をとっていようがいまいが緊密に連絡をとっていたということになる。アジトを知らないというのも信憑性に欠けるということにもなる。
ここに来た目的が少しでも垣間見えたら全部崩れるというわけだけど、危ない橋を渡ってでも隠そうとするものが有るってこと?それは何?」
「目的なんてないよー。」
「もうひとつ。あなた戦闘中にアジトはこんなところには無いって言ったの覚えてる?あれどういう意味?どんな所なら有るっていうの?」
ロザミィがルーシーからガバッと離れた。
目が泳いだ。
「空を飛んでいたらこんな所にみんなが居ない事くらい一目でわかるよ。」
嘘でしょ?明らかに動揺してる。
みんなの目も疑惑を強くしてるみたい。
「へーそう。じゃあ空からこの辺の島を見たらどこかにアジトがあるのが見えてたわけね。それはどこ?確実な事は知らなくても見当ぐらいは付くでしょ?どこにありそうか言ってみて。」
答えられないロザミィ。
ルーシーの顔を正面から見据える。
「もし適当な場所を言っても見当を付けた理由も言ってもらうからね。何があった、誰がいた、どのくらいの頻度で見かけた。」
ロザミィは周囲を伺っている。
勇者を始め、みんな腰を浮かして臨戦態勢になっている。
「やっぱりルーシー。あなたが一番危険人物だったわね。」
ロザミィの声が冷たく言い放つ。
手から何かを作り出そうとしている。
みんな後ろに一歩退く。
何かの攻撃をするつもり?
もうエネルギーはそんなに残ってないはずなのに!
ロザミィは両手に剣を作り出した。
そしてそれを自分の首に当て頭部を切断した。
「ロザミィ!」
私は叫んだ。
「クリス!早く!」
ルーシーが私に指示する。私はロザミィの体を変化させ再生させる。
首はつながった。でもロザミィの見立ては正しかった。
あと一回変化の能力を使うと灰になってしまう・・・。
彼女の体は灰になりかけていた。
もし、私がさっきキスしてなかったら完全に灰になっていたと思う。
私はみんなの目を気にせず倒れているロザミィにキスした。
「あまり追い詰めすぎたかしら。」
ルーシーが悲しそうに吐き出す。
「まさか自害しようとするなんて思わないさ。」
勇者がルーシーを慰める。
ロザミィの手がピクリと動く。
良かった。死んでない。
口を離してロザミィの体を見る。
灰になりかけていた部分が元に戻っている。
あまりエネルギーを補給し過ぎると何をしでかすかわからない。
このくらいにしておこう。
「もう大丈夫だと思う。」
みんな戦々恐々として見守ってる。
ロザミィが起きて何をするかわからない。
私はロザミィが作った二本の剣を手の届かない遠くの岩場に投げ捨てた。
「クリス。あなたの力に頼って悪いけど、一応手枷を作ってはめてくれない?またやらかしたら事だわ。」
私が作った物質でなければロザミィに変化されて手枷として機能しない。
壁や鍵も同様だ。
ルーシーに言われた通り石を持ってきて鋼鉄の手枷に変化させた。
鍵穴の無い一枚の鉄板に手首を通す穴が2つあるだけの、誰にも外す事が出来ないやつを。
鍵穴があれば鍵を作って外しちゃうかもしれないから。
ロザミィが何かの目的を持ってやって来て、アジトの場所を知ってることは確かなようだ。
でもアジトの場所を聞き出すのは無理そう。
私達の捜索を今後どうするか。ロザミィの処遇は?
問題が増えてしまった。
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