18、ロザミィ決着

第47話

18、ロザミィ決着クリス編


ロザミィと決着をつける。


それが私の役目。

あの子との長い付き合いもあるし、私がやるのが一番良いと思う。


雨を降らせられるということは、雷もまた使ってくるかもしれない。

足がすくむかもしれない。


それでも、ここでロザミィを逃がすわけにはいかない。

ジャンプして近付ける私が一番早くロザミィの元に辿り着ける。


まだ残っている木の枝を足場にしてピョンピョンと集中豪雨の場所まで跳んで行く。


ロザミィはあそこに居るはず。


黒ずんだ木が倒れて将棋倒しになっている。でかい鳥の姿で彷徨いたせいで一帯が見晴らしが良くなってる。

足場は倒壊した木のせいで最悪。こんな場所で戦うのは私とルーシー以外じゃ無理かもしれない。


豪雨は途中で止んだ。雲の切れ目が見え始めて辺りが明るくなってきた。

辿り着くとすぐにロザミィは見つかった。


ロザミィは折り重なった木の上に仰向けに倒れている。

青い肌の魔人の姿。全身が火傷で赤黒く焦げ付いている。白い可愛げな下着は消し炭になって見る影もない。


罠?


私は少し離れた所に着地した。


「ロザミィ。あなたその傷どうして治さないの?」


ロザミィは目を閉じていた。そして閉じたまま弱々しい声で答える。


「クリスお姉さん・・・?クリスお姉さん。」


私の方へ手を伸ばすロザミィ。


「答えて。」


それを無視して返答を待つ。


「体を再生するのをやめて雨を降らしたの。火は消せたけど、もう一度変身する力を使っちゃったら・・・。」


閉じた目から涙がこぼれる。


「私、灰になっちゃうかもしれない。私、怖い。怖いよ。クリスお姉さん・・・。」

「怖いでしょうね。死ぬのは。でも身勝手すぎると思わないの?あなた何人町で犠牲にしたか分かってる?」


グスグス泣き出したロザミィは答えない。


反省しているとは思えない。

でも泣いているロザミィを放っておけない。


私は少し近付いた。伸ばした手に触れる。

そして近くにしゃがみこみ頬の涙を指で拭いてあげる。


「だってお腹が空いたんだもん。」


私の手を握るロザミィ。


ハッとしたけど悪気は無いみたい。

本気で食事に出掛けただけのつもりみたいだ。


「このままじゃどっちにしろ衰弱して死ぬだけだと思うけど。」

「血が欲しい。」


またハッとしたけど攻撃してくる様子は無いみたい。


私はロザミィを見た。


変身、変化している部分はない。

ロックはかかってない。


「私が人間だったロザミィに変化させてあげる。それで傷は治る。私に変化させられたら自分の体を変身変化させることは出来なくなる。血管を触手には変えなれなくなる。それでもいい?」


目を開けるロザミィ。

驚いた顔で私を見る。


「クリスお姉さん。私を助けてくれるの?」

「死んで欲しくない。」


ロザミィはまた泣き出した。

私はそれを肯定と受け取った。


指をおでこにつけて肌色のロザミィの姿に戻していく。


傷ひとつ無い人間のロザミィが出来上がった。

きっと以前のロザミィと寸分違わぬ姿だろう。

なぜそんな事が言えるかは言わない。


上半身を起こし私に抱きつくロザミィ。


「クリスお姉さん。ごめんなさい。ごめんなさい。」

「私に謝ってもしょうがないよ。でもその気持ちが有るなら伝えるべき人に伝えた方がいい。」

「うん。わかった。お姉さんキスしていい?」

「ダメ。エネルギーを回復したら何するかまだ信用できない。自分の体を変身変化させることは出来ないけど、自分以外を変化させる能力自体はまだある。血を根こそぎ吸収する触手が無くなったから消耗の激しい使い方は出来ないだろうけど、使い方によっては針一本で何でもできる。」

「つらい。」


ベソをかきそうな顔で耐えるロザミィ。


その時後ろの方で走る足音が聞こえてきた。


「クリスー!」


勇者の声だ。ルーシーもみんなも一緒みたい。


決着をつける、とか言って勇んで飛び出したのに戦う事もなくロザミィを人間にしちゃった事が急に恥ずかしくなった。


きっと死闘を繰り広げていると期待されてたんだろうな。


「ちょ、ちょっと死闘を演じてみましょうか?」

「え!?無理だよ私何も出来ないよー。」


無理か。

でも抱き合ってるのは気まずいから離れよう。


立ち上がって離れようとしたらロザミィが私の背中にくっついた。


「人間の姿になったら裸が恥ずかしくなっちゃったよー。」

「しょうがないね。私の服を後で貸してあげる。メイド服まだあったと思う。」

「え?クリスお姉さんのメイド服懐かしいなー。」


勇者が一番に駆けてきた。

血相を変えて走りにくい道なき道を転がるように。

きっとルーシーの方がこんな道を走るのは得意だったと思うけど、がむしゃらになって走ってきたのかな。


私の事を心配してくれてる?


ちょっとドキドキした。


「クリス・・・?大丈夫なのか?」


勇者は状況が飲み込めずに困惑している。


「うん。大丈夫。」

「ロザミィは?」


私の後ろに隠れてるロザミィの首根っこを掴んで顔だけ見せた。


ルーシーもやって来た。ロザミィの人間になった姿を見て目を丸くする。


「どういうこと?」

「私がロックをかけた。変身することはもう出来ない。」


ちょっとカッコいい風に言ってみた。


顔を見合わせる勇者とルーシー。


フーッと息を吐く二人。


「驚かせないでよ。とにかく片付いたってわけね。」

「二人とも無事で良かった。」


安堵する二人。二人ともって言ってくれた勇者にまたドキドキした。


「なんで隠れてるの?」


ルーシーが近付く。


「裸だから。」


私が答える。


勇者がバックパックを下ろしてシャツを脱ぎ始めた。

私はジロリと見た。

そして私にシャツを渡した。


「これを着させてくれ。汚れてるけど無いよりはマシだろう。」


なんだ私にくれるんじゃないのか。

しょうがなくロザミィに渡した。


「ありがとう勇者ちゃん。」

「ちゃんって。ちゃん付けかよ。」

「セイラお姉さんも言ってた。」

「そう言えばそうだが、何も真似しなくても。」


おっきなシャツを着たロザミィが私の背中から出てきた。

シャツをクンクン嗅いでいる。私も嗅ぎたい。


「汗の匂いするー。でも癖になりそうな匂いだね。」

「臭うのはやめてくれないかな。」


勇者はドン引きしている。


ベイト達や遅れてフラウもやって来た。

私達の落ち着いた雰囲気に面食らっているみたい。


「そいつが、今のデカイ鳥って事か?」


モンシアが怒鳴る。


「青い肌の本体は見たことはあるが、こんな娘とはねえ。」


仲間を何人も殺されたアレンは胸中穏やかではないかもしれない。

平然とここに居られるのは我慢できないかもしれない。

それは私にもわかる。


「気持ちは察するわ。とにかく彼女は捕虜として預かりましょう。色々聞きたい事はある。貴重な情報源でもある。」

「わかった。別に襲いかかったりはしないよ。そちらがその気でなければな。」


ルーシーがアレンを説得してくれた。

魔人達が元々私達とメイド仲間ということを話していて良かった。

きっと事情を知らなかったら納得出来てなかったかもしれない。


「私ロザミィ。みんなよろしくね!」


ロザミィが照れ臭そうに、でも満面の笑顔でみんなに挨拶した。

さすがに私もドン引きした。


空気読めてないってレベルじゃない。わざと逆撫でしてるのかってキレられても文句言えない。


でもアレン達は大人だから文句は言わなかった。

唖然としてたけど。


ルーシーがロザミィに近付いた。


「所で私にさっき何か言ってたわよね?私のことなんて言った?」

「何も言ってないよ。」


ロザミィが顔面蒼白になって私の腕を掴んで助けを求めてきた。


「そうそう、下着が見たいんだったわね。」


ルーシーは上着をチラリと剥ぐってブラを見せた。

薄い紫の色が見えた。


「うわー。もっと見せてー。」


ロザミィが私を離れて不用意にルーシーに近付いた。

ルーシーはロザミィの両のほっぺたを引っ張った。


「私のことバカって言ったでしょうーが!」

「ひっへはいひょー。」


ロザミィが両手で空中になにか掴もうとバタバタ動かしてる。


「やれやれ。今の戦いが嘘みたいだぜ。」

「まったくだ。」


アレンに勇者が同意した。


「はー。なんかどっと疲れたな。」

「一旦戻りましょうか。」


モンシアとベイトも呆れてルーシーとロザミィを見てる。


雨のおかげで火事はだいぶ収まってた。

直接川辺のポイントまで戻ることになった。


火事になったのは私達の作戦のせいだけど、そうせざるを得なかったのはロザミィのせいだから。


とぼとぼとみんなで歩いて帰っていく。

ロザミィが脅威で無くなったと言っても危険が去ったわけじゃない。

他の魔人がいつ襲ってくるかわからない。

警戒はしなくちゃ。


私が誰かが倒しまくった木々の上を歩いていると、ロザミィが腕を引っ張ってきた。


「クリスお姉さん。お腹すいた。」

「そりゃそうだろうけど。まだ信用したわけじゃないよ。」

「えー。じゃあ勇者ちゃんに頼んでいい?」


ドキッとした。

勇者とロザミィがキスするってこと?

それはなんか嫌。

勇者ならロザミィのキスを断らないかもしれない。

私は周りを見た。


私とロザミィは一番後ろだ。


ロザミィの手を引いて木陰に隠れる。


「じゃあちょっとだけだよ。」

「うん。」


魔人同士のキスでエネルギーを補給できるのか、ロザミィがなんでキスで補給できることを知ってるのか。よくわからないけどやってみよう。


ロザミィは目を閉じて私に体を預けていた。

ちょっと震えてるのがかわいい。


そっと唇を重ねてみた。


私達は目を見開いた。視線がぶつかる。

思わず口を離した。


エネルギーが加速度的にチャージされてるような気がした。

ロザミィにこの急速チャージでエネルギーを補給されるのはまずい。


「フフフフフ。」


ロザミィが下を向きながら不気味に笑う。


「クリスお姉さん。ありがとうね。おかげで能力が少し使えるようになったよ。」


手を前にかざし、何かを空気から作り出そうとしている。


何をするつもりなの?


まさか私はロザミィに騙された?


愕然とする私をよそにロザミィが完成させたのは白いパンツだった。


片足ずつ上げてパンツを履くロザミィ。


今それする必要ある?




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