第46話
これまでに無いほどの咆哮、いや悲鳴をあげながら内部から焼かれるロザミィ。
全身の装甲にも火が燃え移り大炎上の様相だ。
所々装甲が剥げ落ち、翼も焼き切れ無残な姿になる。
すでに地面に墜落し辺りをヨロヨロと彷徨いている。
辺りの木々にも引火し赤々と周囲を不気味に染め上げ黒煙が一帯に立ち昇るかなり危険な状態になる。
フラウと俺、ルーシー、クリス、ベイト、アデル、モンシア、アレンは俺達の居た石畳よりさらに上に上がった岩場に集合している。
山火事が発生し元居た場所では危険だと判断したためだ。
「炎上している体を再生させ続けてなんとか耐えようとしているんじゃないでしょうか。力を自身の再生に割いているために装甲の修復まで手を回せないのだと思われます。あの状態では飛ぶことも出来ないでしょう。海まで行くには少し距離があります。このまま力を使い果たしてくれたら・・・。」
水着姿のフラウは言った。
水着は以前見たことがある。水色のワンピースで胸元が開いたハイレグのきわどいやつだ。場違いな格好ではあるが服を利用した作戦なので仕方ない。
このまま力を使い果たしてくれたら、俺達の勝ち、というわけか。
前回は海辺という相手を燃やすというには最初から不都合なロケーションだった。
この場所も周囲は海で囲まれている。一歩間違えれば同じ状況にもなり得たのだろう。
やつを上手く誘導してくれたルーシーのおかげだ。
巨大鳥の装甲が完全に燃え尽きる。
中からロザミィ本体が現れ炎上している原生林に落ちる。
普通ならば、あの状態では助けようとしてもそれは難しい。熱と煙に蒔かれ逃げ場はない。混乱と消耗、酸欠と火傷で絶望的な状況だ。
普通ならば・・・。
ロザミィの姿はここからでは見えない。
俺達はこの戦いの行方を固唾を飲んで見守っている。
クリスとの仲を考えると心苦しい所もある。
だが放置することは出来ない。
負けるわけにはいかないが、勝ったとしても素直に喜べない。
この戦いの辛い所だ。
「この炎が収まるまで、この島の探索はお預けね。」
ルーシーがポツリと呟いた。
「島全体を燃やし尽くすか、雨でも降るか、どちらが先になるでしょうね。」
ベイトがうなずく。
消火する人員も機材もない。自然消火するまで待つしかないだろう。
一抹の不安もあるが、しばらく動きはない。
戦いは終わったということか。
フーっと息を吐く俺達。
俺はクリスの肩に手を置き、彼女の心中を労る。
クリスも俺を見る。
「ロザミィ。どうしてあんな風になったのかな?」
クリスの質問にどう答えればいいか言い淀む。
ライラは自分が変わっていくことに恐怖していたと言った。
きっと急激な体の変化に心が付いていけなくなり、一種の狂気に変わっていたのではないだろうか。
ロザミィもまた、ハイになることで変化を受け止めようとしていたのかもしれない。
「安全を考えて燃えてない西側に迂回しながら川辺のポイントまで戻りましょうか。それから船で一旦町に戻った方が良いと思う。このままじゃ装備が足りない。補給しなければこの先戦えないわ。」
セイラや他の魔人達が同じような戦いをするとなれば、確実に装備不足だ。
全員がルーシーの言葉にうなずきこの場から動きだそうとした時。
ポツリ、と雨が落ちてきた。
さっそく雨が降ってきたのか。
山火事を消火してくれるなら助かる。
ポツリポツリと落ちていた滴は間もなくサーっと細かい雨になり、辺り一面に降りだした。
「雨が降ってきやがったなあ。大丈夫なのかよ?」
モンシアが呟く。
大丈夫とは?ロザミィのことか?
ふと空を見上げると雨雲が一点に集まるように渦を巻いているように見えた。
これは!?
「なんなの!?」
ルーシーも気付いたようだ。
雨雲はロザミィが居たであろう場所に一点に集まって集中豪雨を作り出している。
「ああ!なんてことでしょう!雷を作り出せるのなら、当然・・・!」
雨雲も作り出せる!
フラウの絶叫に俺達は戦慄する。
ロザミィはまだ生きている!
もう一度火を消火されハーピーの姿に変化再生され逃げられてしまえば俺達に次の勝機は無い。
今逃げられれば俺達のいないローレンスビルの町へと赴き、悠々と数百人の血を吸い尽くし、更なるモンスターになり得るだろう。
それだけは絶対に阻止しなければならない。
「私の出番なんだね。」
クリスが両手をグーにして胸の前で握り締める。
「決着をつけてくる。」
クリスはそう言ってジャンプしていった。
当然俺達も向かう。
距離を取っていたことが仇となった。さっきの雨で火は多少弱まっている。集中豪雨の場所は完全に消し止められているだろう。
一人で無茶はして欲しくはないが、ロザミィを逃がす訳にもいかない。
なんとか俺達が行くまで耐えてくれ!
俺達は火がまだ燻ってる雨でぬかるんだ原生林を走った。
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