第41話




朝だ。ホテルをチェックアウトし、クイーンローゼス号へと集う。

船はベラの宣言通り床の修繕は済んでいた。

9名がラウンジに集まっている。


テーブル4つを真ん中に並べて外側に椅子を配置、ベラが一人で船尾側に残りは船首側に、船首側にあるカウンター席にもアデルとモンシアが座る。

船尾側に向かって左からアレン、ベイト、ルーシー、俺、クリス、フラウの順でテーブル席に座る。


ベラが立ち上がり口を開く。


「お集まりだね。こっちの準備は整ってる。あんた達もアタイに命を預ける覚悟はできてるかい?」


ここまで来てその覚悟の無いものはいない。

全員がうなずく。


「わかった。よろしく頼むよ。敵は魔王の娘、及びその手足となって動いている魔人共だ。その本拠地を捜索し、見つけ次第叩く!何日も、いや、何週間かかるかもしれない。でも昨日の巨大鳥の町の襲撃、商船3隻の海上での襲撃、住宅での3件の殺人。これ以上奴等を好きにさせるわけにはいかない。アタイらが今ここで決着を着ける!みんなの力をかしてもらうよ!」


気持ちを新たにする。

士気を上げてくれるいい口上だ。


「アレン。みんなにあの話をしてくれるかい。」


ベラからアレンにバトンが移る。

全員がアレンを見る。


「わかったぜ。単刀直入に言うと、魔王の娘が居そうな怪しい島は有るのかって聞かれれば、ある。

北の海域に星の屑諸島と呼ばれる島の集まった海域がある。そこには3つの大きな島からなる大小合わせると20にはなる島が浮いてるが、そこは昔から魔物の住む海域と呼ばれていた。

40年以上前、まだ船が外海を航海できていた時代に、船乗り達はその海域を通るのは避けて航海していたというぜ。

まあ魔王のモンスターがその辺に出てきて魔物なんて珍しいものじゃなくなったわけだが、子供の頃にじいさんからそんな話を聞いて、船で海を渡れたんだとそっちの方が珍しい話になっちまってた。」


アレンが語り終わるとさらにベラが続ける。


「40年前の魔物はともかく、そんな島が有るってんなら調べてみる価値は有るってもんさ。アタイ達はその星の屑諸島一番南の島、名付けて一番星へ出航する!」


目標が明確になる。

やはりアレンの加入は俺達にとって不可欠だった。


「一番星の沖に到着後、この船は沖合いに停泊、戦闘員は救命艇で島の捜索に出てもらう。この船が戦闘に巻き込まれちゃ帰れなくなっちまうからね。捜索で敵影を見つけ次第速やかに排除、できればいいけど。でも敵の本拠地ではないとわかればこの一番星にてアタイらの拠点を設営する。長丁場になるだろうから、この船は何度か補給に町に戻ることになるだろう。その際、戦闘員兼捜索部隊は拠点に残り救命艇で付近の小島の捜索に当たってほしい。灯台もと暗しなんてこともあるからね。

一番星到着には1日ほどを予定している。しかし敵の襲撃も予想されるので、それまでのんびりというわけにもいかない。動きがあるまで各員所定の持ち場にて待機。以上解散。戦果を期待してるよ!」


ベラはラウンジから出ていった。

俺はそのまま席に座りベラの言葉を頭の中で反芻している。

ベイト達はアレンに話しかけている。

きっと昨日の戦いの話だろうか。


隣のルーシーが俺を覗き込む。


「1日時間が空くのね。勇者様どうする?」


どうと言われても船の中だしいつ何が起きるかわからない。

体力温存できるうちは休んでおく方が良いかもしれない。


「部屋で休んでおくか。」


汽笛が鳴り出航を告げる。いよいよ出発だ。


「勇者様ベラのことジーっと見てたわね。」

「え。そりゃそうだろ。真面目な話なんだし。」


俺は何故かドキッとした。


「ほんとー?別のとこ見てたんじゃないのー?」


ベイト達が隣に居るというのに何を言い出すんだ。


「俺も胸辺りを見てたなー。」


後ろでモンシアがボソッと会話に入ってきた。


胸元が大きく開いた薄いシャツ一枚だけだから自然に視界には入ったけども、別に見ようと思って見てたわけじゃないぞ。


「おっきいもんねー。」


ルーシーがそれに合わせる。


「違うよ。勇者はそんなの見てないよ。」


クリスが俺を擁護する。

ありがとうクリス。俺のことをわかってくれている。


「勇者は女上司タイプに上から命令口調で言われるのに興奮してるだけだよ。」


後ろから肩越しにバッサリ斬られた。


「ルーシーの長い説明聞いてる時も喜んでたし。」

「やだ、勇者様喜んでたの?」


照れた様子でテーブルの上に置いていた俺の手をキュっと掴むルーシー。

とんでもないことを言い出した。


「そういう」

「まあまあ」

「わからんでもないですがね」


ラウンジでヒソヒソと声がする。


長い間アーサーとアンナに頼られて俺が全てを決定していた反動で、ルーシーとかベラに引っ張ってもらうことに妙な安心感があったのはあったが。興奮してるわけではないぞ。


「いいからみんなさっさと休め!敵が襲ってきても知らないぞ!」


ラウンジ内は笑いで溢れた。


俺は一人でラウンジを出てクリス達が使っていた右舷側の部屋に行ってみた。

いつかの話の通り、部屋にはベッドやテーブルはなく、シートで覆われていた。

天井は屋根の床の修繕で一応塞がっているが、部屋側からは穴がまだ見える状態だ。

この部屋が使えないのは事実だな。


俺の使っている左舷側の部屋に行くにはラウンジをもう一度通って行くのが早いのだが、勢いで出てきた手前戻るのも癪なので船長室の前を通って逆の通路を行くことにした。


そこを通るとちょうどベラがデッキから船尾楼のドアを開けて入ってきた。


「勇者君一人でなにやってるんだい。」

「いや、部屋に戻ろうかと。」

「ちょうどいい、ちょっと来なよ。」


さっきの話でベラの胸元にドキリとしたが、手を引かれて船長室に連れられた。


船長室に入るとくるりと翻って俺に詰め寄るベラ。


「で、どうなんだい。みんなの手前不安を見せるわけにいかないから尋ねなかったけど、昨日の化けもん相当被害が出たそうじゃないか。あんた達が無事なのは良かったけど、アイツに勝てる見込みはあるのかい?見込みが無いってんなら今なら整備不良を言い訳にして引き返すのもありだと思ってる。」


うむ。命を預かる者としては当然の心配だろう。


「実は俺も聞かされてないが、フラウには勝つ手段があると言われた。」

「フラウ?あの娘が?」

「ああ、俺はフラウとルーシーを信じるよ。」

「ふーん。そいつは頼もしいね。ちょっと安心したよ。」


フーッと息を吐くベラ。

ズイっとさらに俺に詰め寄る。


「船乗りが最もやっちゃいけないこと、それは怖じ気付くことさ。怖じ気付くくらいなら船を降りた方がいい。何故なら海の上では誰も助けてはくれない、何も助けにはならない。己の気力だけが頼りだからさ。」


なるほど。良い心構えだ。


「まあ、最近処女航海したばかりのアタイが言ってもしょーがないんだけどね。」


ニマっと笑うベラ。


「ところで勇者君?さっきからどこを見てるんだい?なんかみんなの視線がやたらここに集まってるような気がするんだけど、気のせいかねえ?」


そう言ってはだけた胸元をさらにはだけさせた。

おお俺はそんなに見てたか?


「気のせいじゃないんじゃないかな・・・。」

「なんだい?勇者君もここが、そんなに、気に、なるのかい?」


襟元を上に引っ張って離すベラ。窮屈になったそれが解放され自由にたわんでいる。


「そ、それより出航したんだろ?忙しいんじゃないのか?」

「アハハ。船長は出航したら暇なのさ。アタイの仕事は計画と、これ。」


ベラは手でお金のマークを作った。


「そんなものか。」

「何事も無ければね。フフフ。それじゃ引き止めて悪かったね。何事もないうちにしっかり休んでくれよ。」

「ああ、そうするよ。じゃあ。」


俺は船長室を後にして自室に戻った。


部屋にはルーシー、クリス、フラウが戻っていた。

ベッドの縁に腰掛けて3人で並んでいた。


「勇者様どこ行ってたの?」


ルーシーがいきなり質問してきた。


「いや、別に・・・。クリス達が使っていた部屋に行ってみたよ。」

「そっちの方に行ってましたね。」


フラウがラウンジから出ていった俺の事を見ていたようだ。


「勇者何で焦ってるの?」


クリスが目ざとく俺の様子を看破した。


なんなんだこいつら。


「別に焦ってないよ。それより休むとは言ったが、さっき起きたばかりだからな。寝るには早すぎるよな。」


俺は部屋にあるテーブルに付いてある2脚の椅子のひとつに座った。


「なんか話でもする?」


ルーシーが言う。


「勇者の話聞きたい。」


クリスが言う。


「俺の話よりルーシーとクリスの話が聞きたいな。」


俺が言う。


「それ聞きたいですね。昔はどんなだったのかぜんぜん知らないです。」


フラウが言う。


「えー。私の話なんていいよー。」


「魔王に捕まってた頃の話?あんまり思い出したくないけど、セイラとかロザミィとかの話にもなるし、話した方が良いかな。」

「やだやだー。私はミステリアスな女でいたいのー。」

「話しても大丈夫だよ。私にとってルーシーは未だに不振人物だから。」

「言い方おかしいでしょ。」


クリスは一息いれて顔をうつむかせると、言葉を切りながらゆっくり話し出した。


「私達のあそこでの仕事は基本的に普通のメイドと同じだった。炊事洗濯掃除。あとは魔王に料理を運んだり夜の晩酌に呼ばれたり。魔王と顔を合わすのはそのふたつだけで話なんか特にしなかった。夜の晩酌はローテーションだったけど頻繁ではなかった。人数も多いから年単位で呼ばれなかったり。」


夜の晩酌か。夜と言うのはつまりそういうことなのだろう。

辛い話をさせてしまっているのか。


「セイラは私よりも先にあそこに居た。私があそこに連れ拐われて放心しているときセイラが慰めてくれた。私は元々酷い環境だったからそこまでヒステリックにはならなかったし、酒場で働いていたから料理や掃除なんかすぐに覚えた。セイラは私のこと気に入ってくれてすぐに仲良くなった。近くに大きな湖畔のある町に住んでてそこで一人で過ごすのが好きだったって言ってた。それで拐われたとも。よく二人で話もしてた。お互いの部屋に遊びにいったり、いろいろしたりした。」

「いろいろって何よ。」

「あそこではセイラより古参の人はいなくて、セイラが最年長。だから自然とリーダーみたいな存在になってた。実際頼りになるお姉さんだった。でも、それがセイラには不安で仕方なかったみたい。セイラより前に居た人たちはみんな知らないうちに何処かに行ってしまって戻って来なかったから。きっと適齢期を過ぎた女は用済みといって処分されるんだろうと噂してた。それが25歳くらいまでで、それ以上になると連れていかれるって。セイラの年齢はそれに近かったから凄く怖がってた。私と一緒に居るときだけしか見せなかったけど、よく震えて泣いてた。

だから勇者に助けてもらって城から解放されたとき、凄く感謝してた。もっと北の遠い場所で馬車から別れるとき、寂しかったけど勇者にお礼をするためにまた会いましょうって言って別れた。」

「そうだったのか・・・。」


俺を助けても良いと言い出したのはそれもあってなのか。

そしてまた魔王の娘に利用されてしまっているのは悲劇という他ない。


「あそこに連れ拐われてくる子はだいたい眠らされたまま城の入り口に置いておかれてた。それを見つけると私達が介抱してやって、状況を教えたりしてた。ほとんどの子は泣いたり絶望したり、数日はそっとしておいてあげないと現実を受け入れられなかった。

ロザミィもそうだった。彼女とライラは泣き虫だったね。

落ち込んでいる時にキスしてあげるとコロッと心を許して私になついた。」

「あんたが不振人物よ。」

「いつかロザミィが掃除をしているときにたくさんある魔王の部屋の壺を割ってしまって、私に泣きついてきた。一緒に謝りに行ったら魔王は壺ってどれのことだって言ってわかってなかった。」


魔王と普通に話してたのか。当然そうなんだろうが、俺の聞いたセリフは人間味のないセリフだけだったからイメージができないな。


「ルーシーだけはそれまでと違って突然キッチンに入ってきた。私達はビックリした。ロザミィは泣いちゃってた。」

「フレンドリーに話し掛けたつもりなんだけど・・・。」

「私達にとってルーシーは不思議だった。みんなは少し遠巻きに見てた。私はきっと寂しい思いをしてるだろうと思って話しかけてみたけど、そんな感じはしてなかったね。」

「そんなことないわ。あなたが気にかけてくれて助かってた。」

「ルーシーは積極的に仕事をこなしてた。特に魔王の配膳とかは常に同行してたね。私達は助かったけど。」

「新人だしね。」


「ある日2階にある使われてない魔王の部屋を掃除に行ったらルーシーが部屋から出てきた。掃除でもやってたのかと思ったらそうじゃなかった。セイラはルーシーは何か調べに来たんだって思って、ルーシーが何をしようとしてるのか私に探るように言った。興味無かったけど、セイラが探偵ごっこみたいで面白いじゃないって言ったんでやってみることにした。」

「そうなの?」

「うん。でも特に何もわからなかった。ルーシーの部屋で話を聞いても私の方が質問されてたし、興味無いからわからなかったけど。」

「アハハ。別に隠すような事は無かったんだけど、魔王の事を聞いたのよ。いつどこで産まれて親族なんかは居るのか、どんな能力を持っているのかってね。」

「つまり、謁見の間で話したことを調べていたのか。」

「結局魔王の口から聞き出すしかなかったから配膳とかで顔を合わすしか方法はないわけよ。わざと熱々のスープをぶっかけて永続的に再生能力が掛かってることを調べたり、娘の話をしたり。当然隙あらば首を取るつもりもあったけど、それは無理だったわ。私達に背後は見せない。近寄らせない。徹底的に隙は見せない。」

「じゃあルーシーは最初から魔王を倒すつもりだったの?」

「そうよ。私捕まってあそこに居たわけじゃないし。」

「え!?そうなのか!?」


と言うことは俺達が城に潜入するよりも2ヶ月前にルーシーが潜伏していたということか。

魔王は俺達にこの場所に人間が踏み入ったのははじめてだと言ったがその事に気付いて無かったんだな。

これだけ強いルーシーが魔王の分身に捕まったというイメージが繋がらなかったが、通りでだ。


「ルーシーさんの話をもっと聞きたいです。一体何故そんな危険なことを?」

「私の話はいいわよ。それよりセイラといろいろの話を聞きましょ。」

「その話は別に聞かなくてもいいですけど・・・。」


怪訝な顔をするフラウ。


「勇者聞きたい?」

「え?うーん。あまりプライベートな話はしてもらわなくてもいいかなあ。」


クリスがルーシーにガバッと抱きついた。


「どうしよう。勇者に若干引かれた。」

「大丈夫よ。元々結構引かれてるから。」

「いやいやいやいや。別にそんなことはないけど。」


極限状態の絶望の淵で助けの当てもなく過ごさなければならなかったんだ、どういう精神状態になってもおかしくはない。


「それよりこれからセイラ達と戦う事になるんだ。本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。もうあの娘達の姿と声は同じだけど、別の存在になってしまってる。これ以上過ちは犯して欲しくない。」

「そうか。」


理屈ではわかる。だが・・・。


一旦部屋に沈黙が流れる。

皆思いが有るのは事実だろう。



そして俺達は昼くらいまでこれといった事もせず、極力体力を温存するように努めた。


今のところ出番がなかった妖刀を出して眺めたり、シャーク人形のお腹を連打して遊んだり、ルーシーの身体をクリスが妙な手つきでマッサージしたり。


昼飯時になっても動きはない。

今日は何も起きないのではないかと気が緩みそうになるが、徐々に島に近付いているのだから、危険度は寧ろ上がっていくんだ。

警戒は怠らないようにしないと。

とはいえあまり肩に力を入れていても疲労するだけなので案配は難しい。


俺達は第2甲板の食堂に行ってみることにした。

この船に乗って第2甲板に降りるのは初めてだった。

船尾楼の6部屋とは別に第2甲板にも30人程の客室があると前に書いたが、他にも食堂、メスルーム、船員達のすし詰めの部屋、ギャレーという厨房がある。

客室は二段ベッドにテーブルという簡素な部屋で、二人部屋8部屋、四人部屋4部屋。俺達のいる船尾楼の部屋とはえらい違いだ。


船首側に船員の部屋、船尾側に客室があり、メスルームは右舷側の真ん中、食堂、ギャレーは左舷側の真ん中だ。


第2甲板に降りるには船長室のドアと船尾楼のドアの間にある連絡通路の階段を降りる。ちょうど食堂辺りに降りられる。

階段のそばに雑然と大砲が置いてあって小窓に向かって頭を垂れている。

ちなみに船では階段は横向きか後ろ向きで降りなければならない。

突然の揺れに前のめりで倒れると危険だからだ。


食堂に入る。長いテーブルが一つと左右に5脚ずつ椅子が置いてあり、一度に10人しか食べることはできないようだ。

ギャレーはその奥にあって直接料理を手渡しでもらえる。

ローテーションで時間をずらしているのか。

今は誰も座ってないので使っても良さそうかな。


コックに聞くともうすぐベラが降りてくるだろうということだ。

一緒に食べれたらいいな。


メニューはタラコをクリーミーなソースにまぶしたパスタだった。

テーブルの奥からフラウ、ルーシー、向かいにクリス、俺で座っていただくことにする。

クリスは相変わらず俺の横で見てるだけだ。


なまものは氷術を使って運搬すれば日保ちが良くなるそうで、メニューにレパートリーが増えていいと言っていた。多少水っぽくはなるようだが料理人の腕次第かな。


ローレンスビルの町で食品自体を凍らせるのではなく、箱の中を長期間冷やしておける氷術ボックスという装置が使われている店があって、コックはそれがカルチャーショックだったようだ。


早速いただいたパスタは絶品だった。

クリーミーさと塩辛さが絶妙にマッチしてパスタに絡まる。

美味いなーとコックに言うとクリスが物欲しそうな目で俺をジーっと見ていた。

ここで唾液の催促はやめてくれよ?


ルーシーもフラウも大喜びで絶賛していた。


半分程食べているとベラが食堂に入ってきた。


「おや、もう食べてるのかい?」

「いただいてるわ。すっごく美味しい。」


ベラとルーシーが話す。


「それは良かった。そのうち保存食しか食べれなくなるから今のうちだね。じゃあ、アタイも一緒にいただくよ。」


ベラはコックから同じメニューを受け取ると俺の横に座る。


「うん。美味い。」


ベラも喜んでいるようだ。


「ところでベラ。そろそろあなたの正体を明かしてくれないかしら?こんな船を個人で所有してるなんて只者じゃないんでしょ?」


ルーシーがベラに突っ込んでみる。


「もぐもぐもぐ。アハハ。有るとこには有るってだけだよ。それより勇者君。アレンの話も気にならないかい?」


どうやら答えたくはないようで俺に話を振ってきた。


「アレンの話?魔物が棲む海域ってやつか。」

「そうそう、それだよ。」

「巨大なタコでも居たんでしょうか?怖いです。」


フラウは震え上がった。


「何が居たにせよ今回の話とは関係あるとは思えないわ。40年以上昔の話なんだし。」


ルーシーは興味がないのかわりとドライだ。


「そうなんだけどね。でも船乗りが臆病風に吹かれるなんてことはない。避けて通らなかったって言うからには何か実質的なことがあったことは間違いないんだよ。」

「うーん。アレンのおじいさんの世代で通るのを避けていたと言うからには、もっと前の話なんだろうな。魔物が現れたのは。」


俺は腕を組んで考えた。


「魔物の正体ねぇ。行ってみればわかるのかしら。」

「ついでに倒してやりなよ。魔王のモンスター以前にいた化け物なんて興味が湧くだろ?」

「只でさえ娘と魔人で手一杯なのに、そんな余裕ないわよ。」


そんな話をしながら昼食を済ませ、ベラが食べ終わると一緒にそこを出ていった。


結局夕食を食べた後も何も起こらなかった。

そして月明かりの夜の海。鐘楼に立つビルギットがこう言った。


「島が見えて来ましたぜ!」








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