13、新装備
第34話
13、新装備
ルーシーが部屋に入ってきた。
「向こうの部屋は駄目ね。どちらにしろ船尾楼の床も補修する予定だったけど、流石に大穴が開いてちゃ雨降ったら雨漏りで使えない。
ベッドとかはどかしてシートとかで痛まないようにしなきゃ。」
クリスの肩にやっていた手を引っ込める。
別に焦る事はないのだが、泣いているクリスを見て妙に思われても困る。
クリスが急いで手を引っ込めたのを見て鋭く俺を見る。
感動のシーンが台無しだ。
「ルセットが使うはずだった部屋が空いてるから、そこを使ってってベラは言ってたわ。」
俺達の微妙なやり取りに気付かなかったのかルーシーは話を続ける。
「私はこの部屋でいい。」
クリスが答える。
「え?ホテルみたいに4人で寝るってこと?」
「フラウはわからないけど、私はそうする。」
「まあ、別にいいけど。」
「んん、ただでさえルーシーと相部屋なのをからかわれてるのに、クリスとも一緒というのは・・・。」
俺の意見を述べてみたが無視された。
「これ見て!」
ルーシーが部屋の一角に指を指して叫ぶ。
何かと思って振り向く。
そこにはクリスの下着が干してあった。
「可愛いパンツ。」
いきなりビックリさせるなよ。あまり目に入らないようにしてた下着をマジマジと見てしまったじゃないか。
「私のパンツが可愛くて悪い?」
クリスは照れたように怒った。
「いや、これがここに干してあるってことは、あんた達ひょっとして今ノーパンなの?」
「そりゃあ海に入って全身ずぶ濡れだったんだから。」
俺が答える。
「あらー。ノーパン勇者様とノーパンクリスがラウンジで私の説明聞いてたの?やけに口数が少ないと思ってたら下がスースーしてたのね。」
「変な言い方するなよ。」
「ちょっとドキドキするよね。」
「しないよ。」
クリスはピョンピョンかかとを上げ下げしてガウンをパタパタさせた。
「それよりクリス、正体をばらしちゃって良かったの?」
「いいよ。案外みんな驚かなかったし。」
「みんな理解がある人で良かったな。」
「うん。」
あまりにも色々なものを見続けて感覚が麻痺しているせいもあるだろう。
いきなりあれを見たら驚くに違いない。
「なかなか乾きそうもないし、とりあえず適当な着替えを買ってくるわ。そのあと装備や衣装を見に行きましょう。」
「すまない。」
「待っててね。」
ルーシーが部屋から出ていった。
もうセイラ達が襲っては来ないと思うが、一人で行かせて良かったのだろうか。
「そういえば。まだ勇者にお礼言ってなかったね。」
クリスがピョンピョンするのをやめてベッドに腰掛ける。
「なにかあったかな?」
「セイラに後ろから刺されたとき、助けに来てくれた。」
「ああ、驚いたよ。心配はしたが本当に襲われてたなんて。虫が知らせたのかな?」
「心配してたんだ。」
「一番危険だって言ってたしな。」
「じゃあ今度から勇者のそばから離れないようにするね。」
「ん?んん。俺じゃ頼りないかもしれないけど。」
セイラが俺を殺すつもりなら一瞬で殺されていたろう。
理由はともあれあくまで捕獲するつもりだったから生き残っている。
「勇者助けてって思ったら、ドアから勇者が入ってきた。もう死んでもいいって思った。」
「いや死なないでくれよ。助けに行ったんだから。」
「なんかお礼したいな。」
「さっきも言ったが、クリスはよく頑張ってくれてるよ。それだけでじゅうぶんだ。」
「したいな。」
「じゅうぶんだって。」
「したいってば。」
何故そこで頑なになるのかわからないが、うーんと考えてると今度はフラウが入ってきた。
「やっぱりここでしたか。ルーシーさんはどちらに?」
「ルーシーは俺達の服を取り敢えず買ってきてもらってるよ。それよりルセットさんは?」
「もう自分の足で歩けますよ。町の施設で長期的に診てもらった方がいいので、そちらに移りました。」
「そうか。良かった。」
「大丈夫そうだった?」
「一応精神的には安定している様子でしたね。なんか大きい椅子?というのが使えなくて残念がってましたけど。」
なんだそれは。
「私達が使ってた部屋の天井なくなってしまいましたね。」
「船長さんがルセットの部屋に移ってって言ってたみたいだけど、私はここで勇者達と寝ることにする。フラウはどうする?」
「え?私だけひとりは嫌ですよー!私も一緒がいいです。」
うーん。そうなるか。
ルーシーが戻る間、ベッドの縁に3人並んで腰掛けながら話しながら待った。
クリスが聞きたいというので昔の俺の旅路の話などを語ったりした。
大した話でもないのでここでは割愛するが。
それでもクリスとフラウは興味ありげに聞いてくれた。
クリスは足をパタパタさせながら合いの手をうったり、質問したり、酒場で働いてただけあって話させ上手だ。
程なくしてルーシーが再び部屋に帰ってきた。
手に袋を携えている。
部屋に入ってベッドに3人並んで座ってるのを見るとちょっと吹き出した。
「なーに?親鳥の帰りを待つ雛みたいね。」
俺達は笑った。俺は苦笑いだが。
「ルーシーママ早くお着替えをちょうだい。」
クリスが高い声を出して催促する。
「はい取り敢えずこれよ。」
「どんなだろ。」
クリスは部屋の一角にあるついたてのあるスペースで渡された袋を持って着替えを始める。
「下着も買ってきたんだ。穿いてみるね。」
わざわざ言わなくても・・・。
「大人っぽい。」
「黒が好きって言ってたから黒のランジェリー買ってみたわ。」
「勇者これどう?」
ランジェリーを着たクリスがついたてから出てきた。
「似合うわね。」
「かっこいいですー!」
ルーシーとフラウはそれぞれ感想を言ったが、俺はドキッとして何も言えなかった。
「勇者これどう?」
クリスは俺に寄ってきてあくまで俺の感想を聞きたいようだ。
「ドキッとしたよ。」
正直に感想を言った。クリスはイタズラっぽく口の中で笑うと満足そうについたてに戻っていった。
隠れる意味は?
再び出てきたクリスはちょっと照れたように新しい服をお披露目した。
「これは、どうかな?」
上はノースリーブハイネックの体型のでるニット地の白いセーター。
下は膝下まである黒いヒラヒラしたロングスカートだが右にスリットが入っていて、無難だが攻めるといった感じの格好だ。
「今までと印象が変わって、落ち着いた大人の女性という感じでいいじゃないか。」
今度は聞かれる前に感想を言った。
クリスは嬉しそうに笑った。
「ルーシーありがと。」
「これは仮の服で今から好きなものを探しにいくのよ。」
さてと俺もルーシーからもらった服に着替えるか。
ついたてに隠れたら女性陣もついたてに入ってきた。
隠れる意味無いだろ。
俺は3人を睨みつつ言っても無駄なんだろうなと諦めて、ガウンは着たまま下着を穿いた。
ボクサーパンツというのか、ピッタリした履き心地が今までのトランクスと違って馴れないな。
女性陣は大喜びでキャアキャア奇声を上げている。
フラウまで一緒とは、お兄さんは悲しいぞ。
下は黒いパンクルックのパンツ。上は胸元がはだけてサラサラした生地の赤いシャツ。
どういうセンスなんだ。
「ウフフ。どう?勇者様。」
「派手だな。ちょっと恥ずかしいが。」
「カッコいいよ。連れ拐われたい。」
クリスが言ったが魔王に連れ拐われた君が言うと反応に困る。
「勇者様面白いです。」
フラウが笑っている。面白いってなんだ?
これもいつもの服が乾くまでの我慢か。
そんなわけで俺達はようやく町に買い出しに出かけることになった。
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