11、爪痕

第28話

11、爪痕クリス編


「みえた?」


私はさっきからチラチラ下から覗いていた勇者に聞いてみた。

勇者がポカンとしているので、もう一度聞いてみた。


「スカートの中見えた?」


ばつが悪そうに苦笑いをする勇者。


「別に見ようとはしてないよ。」


そうやって誤魔化されると余計突っ込んでみたくなる。


「でも見たんでしょ。」


観念したのか真顔になった。


「どうだった?」


見るだけ見ておいて何も言わないのは嫌。

感想聞きたい。

ちょっと変だけど感想を聞いてみた。


「可愛かったよ。」


勇者がにっこり笑ってそう言った。

顔が一気に熱くなる。

なに?かわいいとか。


「そう言われると、ちょっと照れる。」


顔を上げてられなくて足元を見た。そう言えば勇者は足怪我してるんだったっけ。


「勇者もう足大丈夫?」

「ん?ああ、走りながらフラウにヒールしてもらってたから、傷口は塞がったみたいだ。フラウは器用だな。」


フラウナイス。

真っ赤な顔を見られるのが恥ずかしいし、ちょっとくっつきたくなったから、さっき断って心残りになったおんぶをおねだりしてみる。

ずっとルーシーがお姫様抱っこされてたのがちょっといいなって思ってた。


「じゃあ、おんぶしてくれる?さっきするって言ってた。」

「いいけど、飛び回って体力を使ったのか?」


別にそんなんじゃないけど、そういう事にしとこう。


「そ、そうだね。あー疲れた。」


勇者が背中を貸してくれた。おっきい背中。

それにのし掛かると密着感に余計に顔が赤くなるのがわかる。


ちょっとこれまずいんじゃない?

足広げて背中にくっついてるし、お尻に勇者の手が回ってるし、胸も背中に当たってるし。

ヤバイヤバイヤバイ。


ルーシーとフラウがこっち見てる。

今私の顔が赤い事はスルーして。

二人はニヤリと笑って私を見てる。

ハズイハズイハズイ。


勇者は特に何も言わずに私を運んでる。

ヤバイしハズイけどこのままでいいのかな?


興奮して骨針を出して体をぎゅうーって抱き締めたくなる。

ヤバイ。思考が人間じゃなくなってる。


屋根の上から見てた私はある程度方向がわかってたけど、何も言わずみんなに帰り道を任せた。

と言うか今口を開いたら凄い吃りそう。

ちょっと迷ったりしたけど、それだけ長くおんぶしてもらえるから私は嬉しかった。


体が少しずれてくると担ぎ直すように私を跳ね上げるけど、思わず声が出そうだった。

さっきのニナの戦闘なんかより汗をかいた気がする。

もしかして汗臭くなってるかな?


朝から戦闘だったりルーシーのお姫様抱っこだったり走り回ったりで勇者には散々な一日だったろうな。



ホテルに着いた。


「ここでいいか?」


勇者が聞いてきた。ダメって言いたかったけど、ホテルの中では流石に恥ずかしいから。


「いいよ。ありがと。」


って言って降りた。

ルーシーが何か言いたそうだったけど無視して中にずいずい入っていった。


鍵の部屋は高い階にあった。最上階7階の部屋だ。

階段をそれだけ上がるのかと思ったけど、ホールの奥に小さい部屋があってそこに入るようにスタッフさんに言われた。


「上に参ります。」


とスタッフさんが言うと部屋が閉まって、グーンって上に上がっていった。

え?凄い。私のジャンプ力より凄くない?

ドアが勝手に開いて多分7階?に着いた。

勇者は物凄く興奮してた。さっきまで疲れた顔でいたのに。

でも私も不思議だった。誰かが部屋ごと持ち上げてくれたのかな?

7階には部屋が4部屋しかなかった。

部屋の中にも4部屋あった。

これ二人部屋だったよね?なんでこんなにあるの?


バルコニーからの海の眺めが凄い。ここからあいつらが潜んでる島を探せそう。

流石に無理だった。


フラウとルーシーも凄い凄い言いながら部屋を見てる。

部屋選んだ私も我ながら鼻が高い。

お金はルーシー持ちだけど。


勇者の姿が見えない。

「勇者様シャワーに行ってるみたいね。ちょっと私達も行ってみましょうか。」


シャワーってなんだろう。雨でも降るの?

とりあえず一緒にいたいから付いていく。


ルーシーがドアを開けると裸の勇者が後ろ向きで立ってた。

瞳孔が開いた。


「勇者様シャワーの使い心地はどう?」


ルーシーが面白がって質問した。


「おおー、これは凄いですね!」


フラウは壁のシャワーってやつを見ているみたいだけど、私は別の所に釘付けになった。

ベラの水着を見てた勇者はこんな気分だったのかな。


「ホント凄いね。思ったより凄い。」


横のプールに勇者が飛び込んだ。


「ここは一人で使うものだぞ!見学なら使うときにしてくれー!」


勇者がめったに言わないような言葉で私達を叱ってる。

私達は顔を見合わせて笑いあった。

いいもの見れた。


「仕方ないなー。じゃあ後で使いましょ。」


ルーシーがそう言うと私達はそこから出ていった。

でもここからの見学ならいいよね?

ドアの外の勇者の服が置いてある部屋で、ドアを完全には閉めずに3人で細く開いた隙間から見ようとした。

私達3人息が合っていくのを感じた。これが友情ってやつなのかな。


「覗くのもダメ!」


勇者が気付いた。


「ちえー。」

「気付いたか。」

「勘が良いですね。」


仕方ないから部屋でブラブラして過ごそう。

ルーシーが近寄ってきて聞いてきた。


「おんぶされててどうだった?」

「恥ずかしかった。」


正直に言った。

それ以外答えようないよ。


「なんでおんぶなんかしてたんですか?あ、いや、されてたか。」


フラウが鋭い突っ込みを噛ましてきた。


「疲れたから。」


ということになってるから、それ以上突っ込まないで。


「ふーん。そうだったんだー。」


ルーシーがニヤニヤ顔をしてる。


「そっちこそなんでお姫様抱っこしてた、あ、いや、されてたの?」


ここは反撃するしかない。


「だって勇者様に凄い不信がられたんだもん。悲しくて泣いちゃった。」

「だってルーシー不信人物だし。当たり前だよ。」

「そうなの?ショックー。」


泣き落としでお姫様抱っこさせてたの?

可愛そうな勇者。


勇者がシャワーから出てきた。


「あがったぞー。次誰か入ってみてくれ。これは癖になるとヤバいやつだ。」


なんだかんだ言って一番楽しんでるのは勇者みたい。

私達はみんなでシャワーに向かった。

ルーシーが勇者とすれ違いざまに


「覗いてもいいよ。」


と言って挑発してみてた。

覗きまでして見たいものかな。


私達は脱衣場という所で服を脱いだ。

水着のときも思ったけどルーシーもフラウもナイスバディしてる。


フラウの唇の味を思い出してゴクリと唾を飲む。

これは何の感情?

食欲?それとも。


じーっとフラウを見てたのか、フラウが照れだした。


「そんなに見ないで下さいよ。女の子同士なのに。」

「ヤバい。新しい扉を開きそうになった。」

「ちょっとなに言ってるの?」


ルーシーまで怪しい目で見てくる。


「冗談。」


二人が爆笑する。

お待ちかねのシャワー室に入る。早速シャワーを全開にして水を浴びる。


気持ちいい。

これは癖になるとヤバい。

船長さんの船にもこれ欲しい。

後で知ったけど使った分の水が別料金なのは珠に傷。


泡が出る液体をタオルに付けて体を洗うと汚れが全部溶けていきそう。

3人で洗いっこしてキャアキャア言って遊んでた。

泡を落としてそろそろ出ようとする。

ルーシーが先にドアを開けたけど、何か勇者の声が聞こえた気がした。

ルーシーが固まった。


「え?」


ドアの外に勇者が居るみたい。


「あ、いや、俺は。」

「やだ。ホントに覗きに来たの?勇者様。」


ルーシーが手で一応隠すけど、そんなに騒いだりはしない。


「みんなー。勇者様が覗きに来たわよー。」


私達にも勇者が来てることを教える。

まあわかってるけど。


「きゃあーっ!勇者様の変態!覗き見はいけない事です!」


フラウは錯乱して勇者みたいにプールに飛び込んだ。


「勇者。見たいの?」


ドアに寄りかかって私は聞いてみる。

見たいんだったらさっき一緒に入れば良かったのに。


「クイーンローゼス号が気になるからちょっと見に行くよ。って言おうとしただけで・・・。」


勇者は顔を背けて見ないようにしてる。

なんだ勘違いか。


ニヤニヤした顔をしたルーシーが裸のまま言う。


「多分大丈夫だとは思うけど、確証はないわね。私も一緒に行くから待ってて。」

「いや、見に行くだけだから一人で大丈夫だ。何か有りそうなら戻ってくるよ。濡れてるだろうから休んでてくれ。」

「そう?」

「じゃあ行って来る。それと、ルーシー。」

「なに?」


「綺麗だ。」


え?

今なんて言った?

勇者はそのまま出ていったけど、ルーシーは固まってる。


あ、ダメだ。バタンと倒れた。

あーあ。ついに無傷無敗のルーシーが敗れた。

やるね勇者。

ムクリと起き上がったルーシーは今さら裸だったのを照れて服を着だしてる。


「顔真っ赤だよ。」

「ううう、うるひゃいわね!」


ルーシーも可愛いとこあるんだね。


私も先までこんな顔してたんだ。

そう思うとまた熱くなってくる。


勇者が戻ってくるまで先にベッドで休んでようね。

カクカク動いてるルーシーをいいこいいこしながらベッドに連れていく。


「勇者早く戻ってくるといいね。」

「うん。」


今は勇者の代わりに私が一緒に寝てあげる。

マイペースなフラウもベッドに入ってくる。


「3人でも余裕ありますね。」

「あと一人入るかな。」

「大丈夫じゃないですかね。今日は色々あったんでもう寝ますね。」

「そうだね。おやすみ。」


そう言ってフラウは端っこで眠った。


寝室のドアがノックされてガチャリと開いた。


「戻ったよ。船は大丈夫だった。ルーシーの言う通りだったよ。」


勇者が帰ってきた。案外早くて良かった。


「お帰り。」

「先に休んでたんだな。やっぱりせまくなりそうだし俺はソファーで寝るよ。」


ムクリと起き上がるルーシー。無言で勇者を引っ張る。


「ああ、約束だっけか。でもいいのか?そこに入って?」


私に聞いているみたい。


「いいよ。そのつもりで部屋頼んだの私だし。」


ちょっと入り辛そうにベッドにもぐる勇者。

フラウルーシー勇者私の順で並んでる。


何か言おうとしたけど勇者はベッドに入った瞬間に眠った。

はや。


「勇者寝るの早すぎ。」

「この状況でよく寝れるわよね?」


ルーシーが勇者の肩を枕にしてくっついて寝てる。


まあいいや。フラウの言う通り今日は色々あったし、もう寝よう。

私は勇者の左手を軽く握って眠った。



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