09、ニナ

第25話

09、ニナ



私はクリスティーナ。みんなクリスと呼んでる。


勇者&ルーシーペアと別れてフラウと二人で宿を見つけるように言われた。


ルーシーは勇者と腕を組みながらバカップルみたいに歩いて行ったけど、どこに入るつもりなんだろ。



宿を探せと言われても始めて来た町だし、旅なんてしたことなかったから勝手がわからない。


フラウに聞いてみる。



「宿ってどの辺にあると思う?」


「さあ、私も旅なれないものですから。でも大通りに分かりやすく看板が出てるんじゃないですかね。」


「そうなんだ。実は私初めての旅だから船がちょっと楽しかった。」


「あ、それ分かります!3日目まではすごく楽しかったです!」


「ベッドもふかふかだったし、水着も買ってもらったし。私達の水着姿見てる勇者かわいかった。」


「それはなんとも言えませんが・・・。」


「こんなこと言ってると勇者に怒られるかな?」


「アハハ。それは大丈夫ですよ。一緒に笑ってくれるのが勇者様です。」



謎の信頼感。


これはもう少し突っついてみた方がいいかも。



そんなことを考えて歩いていると大通りに出た。


まだ夕方だけど人の流れは多い。違うか。夕方だから多いのかな。


港町の酒場で働いてた私には夜の人並みの方が多い印象だった。



私達はホテルという看板を探す。



いきなり一つ見つけた。


モンテレーで泊まってた安い見た目の宿と違って、凄く豪華な門構えのホテルだ。



「ここでいいんじゃない?」


「え?凄く高そうですよ?」


「とにかく入ってみようよ。」



私は中がどうなってるのか気になったのでフラウの手を引いて入ってみた。


中に入ると大きなホールになっていて、奥に階段が続いていた。


スタッフが、いらっしゃいませ。ようこそおいで下さいました。と深々と頭を下げてきた。


フロントに通された。



「3人の部屋ある?」



と私は聞いた。



「3人様でございますか?・・・申し訳ありません。あいにくお二人のお部屋しか空いておりません。ですが、お子さまでしたらキングサイズのベッドですのでお休みになるぶんの余裕はあるかと思います。」


「一泊いくら?3拍を予定してるんだけど。」


「はい、お二人分の3食付きまして一泊8万ゴールドでございます。お食事無しでしたら7万ゴールドでご用意できます。」



フラウが私の手を引いている。


キングサイズのベッドなら船と同じくらいだ。4人で寝ても余裕あるかな。4部屋とるよりはいいか。



「じゃあそれにする。」


「ご利用ありがとうございます。こちらが鍵でございます。清算はチェックアウト時にもろもろおまとめいたします。」



お金後でいいの?



「お部屋に案内いたします。どうぞこちらに。」


「連れがいるから後で自分でいく。この鍵の番号の部屋でいいんだよね?」


「左様でございます。では後程お待ちしております。どうぞおくつろぎくださいませ。」



うやうやしく頭を下げるスタッフ。悪い気はしない。



フラウが青い顔をしてささやく。



「な、なんてことを・・・。スイートじゃないですか!高すぎます!」


「そうなの?でもルーシーお金持ってるし大丈夫でしょ。」


「ああ、勇者様がまた卒倒してしまいます。」



そういえば15000ゴールドの水着で倒れそうになってたっけ。


私は人間じゃないからか、倒れそうになる勇者を見るのがちょっと楽しみになってる。



「ところでフロントさんがお子さまでしたらって言ってましたけど、私達に子供なんているように見えたんですかね?まさか、私の事を・・・。」


「アハハハ。手を引いてたから子供に見えたのかもね。」


「むむー。神罰が下らなければいいですけどね。」



私達はとりあえず宿の準備が済んだので、港の近くの待ち合わせ場所に戻るために歩いている。



勇者がどんな顔するか楽しみ。



思ったより距離があったのか、歩いていたら辺りが暗くなり始めている。


繁華街だけあって、やっぱり人通りはまだ多い。酒場や飲食店が繁盛しているみたい。


すれ違う町の人々。幸せそうに笑顔で友達や恋人同士で町を徘徊している。


私も酷い生活を送っていたけど、みんなだってモンスター相手に苦労してきたんだもんね。


解放されてはしゃぎたい気分は分かる。



その中で、一人だけ怪しいやつが私達を付けてきている。


一見派手な町の女という格好をしている。


私が気付いてることを向こうも気付いてるでしょうに、よくも堂々と出てきたもの。


人に紛れるというわけでもなく、物陰に潜むというわけでもなく、私達の後ろを距離を開けてこちらに視線を向けながら尾行してくる。



「フラウ。人通りが少ない所に逃げ込むよ。」


「え?え?どうしてですか?」



人がいない裏路地に出来るだけ入り込もうとした。


回りに被害が出るという事もだけど、出来れば私の姿は誰にも見せたくない。


というかあとの方が理由としては大きい。



いくつかの角を曲がり、階段を下がり、大きな壁にはさまれた暗い通りにでた。


ここなら大丈夫そうだ。追っ手は隠れるつもりもないのか、堂々と石畳の路地の道の真ん中を無遠慮にヒールの足音を響かせながら歩いてくる。



流石にフラウも気付いたみたいで、体を強張らせる。



「どういうつもり?」



私が最初に話しかけた。



「よくも仲間を殺したわね。絶対許さない。」



まるでなにかを口に出して読んだかのような、抑揚のない下手なセリフで眉を潜める。



「とでも言えばいいのかしらねー。実は感情が思い出せないのよねー。」



声は知っている。姿は見たことなかったやつに変身してるけど、ニナの声に間違いない。



「とにかく私らの邪魔?になりそうだから殺しとくかってねー。」


「そう。あんたが先に死ねば。」



一瞬で近付き背中と肘から出した骨針で八つ裂きにしてやった。


バラバラになった肉片が地面に散らばる。


のこのこ出てきて死にに来るなんて、馬鹿なの?



「そうそうあんたのおかげで気付いたんだけど、自分の姿に変身すれば元の自分に戻れるんだってねー。やっぱり自分の姿は落ち着くわー。」



嘘でしょ!?まだ喋ってる。


バラバラになった体を変身させ五体満足なニナの頃の姿に戻る。



「そして体を変身させれば傷ついても元に戻せるんだって。あんたも気付いてた?セイラの受け売りなんだけどね。」



知りたくもない!完全に化け物じゃない。


呆気にとられて周囲の警戒を怠った。


私達の後ろから触手のような長い骨針が襲いかかっていた。



私とフラウの背中がそれに貫かれる。



と、思ったらグニャっという感触で体を逸れていった。


後ろに立っているフラウを見た。



やっぱり気のつくいいお嫁さんになりそう。


勇者を殺しかけた攻撃を止めてくれた施術だ。



「フラウ!ありがとう。」


「は、はい!」


「あら?死んでないのー?」



とにかく攻撃して隙を見せないようにしないと。


私は再び骨針で切りかかろうとした。


でも出来なかった。


ニナの触手はすでに無数にこの路地を巡らされていた。


私の骨針が触手によって引っ張られて振り払う事が出来ない。


暗いこの路地が仇となってしまった。



頭が悪そうに見えて用意がいい!


最初の攻撃は他の触手の動きを悟らせないための布石だったんだ!



「不死者同士が戦ったらどうなるのかしらねー。試してみたくない?」



ちょっとまずくない?


私は縛られて動けない。フラウはどうかわからないけど、フラウに戦いは無理。



「強い方が勝つ。それだけかもねー。」



悠々と私に近付くニナ。背後から無数に垂れ下がった触手がパチパチと火花を上げる。


何をするつもり?



私に巻き付いていた触手が電撃のようなのもを発した。



苦しい!



声が出せないくらいの衝撃。


体がビクビク痙攣しそうになってる。



「クリスさん!」



フラウが叫ぶ。良かった。私だけだったみたい。いや、よくないけど。



「どれくらい耐えれるかしらね。」



ニナは私の顔の近くに顔を寄せている。


私の絶望の表情を見て楽しんでる。



睨み返してやろうと思ったらまた電撃が身体中を駆け巡った。



「あああああああぁああ!」



意識が飛びそう。何かに捕まえられていたら変身できない。意識が飛んだら変身できない。つまりこれはそういう攻撃ってこと?


変身能力を封じる殺し方。



フラウだけでも逃がしてやりたかった。


別々に逃げれば良かった。



私は諦めかけていた。



「そこまでです!クリスさんに手を出させません!」



フラウが私の前に出る。ニナもかなり近くに居たから、相当目の前のはず。



「うふふ。あなたは後でじっくり血を吸いとってやるからおとなしくしてなさい。」


「あなたのようなアンデッドには過剰回復が効果覿面です!」


「は?私アンデッドじゃないんだけど。」


「ううっ!とにかくこれでもくらえなのです!」



フラウは何か勘違いしてるみたいだけどヒールをニナに放った。



「フフフっ!回復されても傷なんてないから意味ないわよー。」



ピンと来た。



「フラウ続けて!」


「クリスさん!もちろんです!」


「バカなの?」



ニナは勝ったつもりで余裕を見せている。これだけ近くにいるから、止めをさそうと思えばできたはずなのに。



「私もあなたたちに教えてもらった事があった。」



フラウの肩に右腕を乗せる。


そして右腕の手首からありったけの骨針を矢のように射出してニナに浴びせる。



骨針の針がニナの体を次々と貫く。その度に変化の力で元に戻る。


20本、30本。



「なにやってるわけ?無駄な努力なんて虚しいだけよ?」



逃げようとも避けようともしないで堂々と正面に立ち塞がり変化の能力を見せつけるニナ。


60本70本と平然と撃たれ続けている。


もちろんフラウのヒールも一緒に浴びている。


私達二人は無敵を気取ったお馬鹿さんを狙い続ける。



「無駄だって言ってるで・・・。」



言葉が切れた。



どうやら私の狙いがわかったみたい。


フラウの過剰回復でエネルギーの消耗を加速させる。


ヒールは自然治癒力の前借りらしい。勇者は1日休息が必要になった。


つまり、強制的に自己修復を行わせる。


変化の力を同時に使い続ければ力がどのくらい持つのか?



ニナは逃げようとしだした。私を縛っている触手がまだ離れない!



「逃がしません!」



フラウが飛び出してニナに抱きついた。


勢い余って地面に倒れるニナとフラウ。


いくらなんでも無茶をしすぎ!



「離れなさい!このおチビちゃん!」



ニナが触手を抱き付いて背中が無防備になったフラウに向けてくねらせてきた。



危ない!



フラウも危険だけどフラウの血で補給されると消耗したエネルギーが回復してしまう!



触手はフラウの背中に突き刺さらずにグニャリと軌道を変えて地面に突き刺さった。


ナイス!すでに衝撃吸収の施術を自分にかけてたんだ!



私は私の骨針を縛っているニナの触手を針でめちゃくちゃに撃ちまくって切断した。


そしてフラウに飛び付かれ地面に倒れたニナに近付き、ニナの顔面にゼロ距離で上から骨針を打ち込み続けた。



変身しなければ過剰回復で死ぬ。変身し続ければ力を使い果たして死ぬ。


選びなさい!自分の死に様を!



「ぎゃあああああぁつっ!」



何百発かの骨針を打ち込んだあと、ニナは叫び声を上げて灰になっていった。



荒い息使いの私はその場に崩れた。



「クリスさん!大丈夫ですか!?」



フラウが心配してくれる。



「ギリギリだったかも。私も灰になりそう。」


「そ、そんな!」


「フラウは女の子同士のキスはご法度なんだっけ?」


「え?ええ、それは、そうですけど、人助けのためなら喜んで・・・。」


「じゃあ目瞑って。」



フラウは言われるまま固く目を閉じた。


フラウの柔らかい唇に唇を重ねる。


一瞬ビクッと肩を震わせたけど、お構い無しに舌を口に入れた。


薄く目を開けると固く目を閉じ頬を赤く染めているフラウの顔が見えた。



ただの食事と思っているけど少し興奮している自分にも気付いてる。


やっぱり私は化け物。ニナと同じ側の存在なんだと自己嫌悪する。



暗い路地に水気の音が響く。ずっとこうしていたいけど勇者達の事も気になった。



「ありがとう。元気でた。」



私はフラウから口を離した。


口を離したときフラウは路地で横になっていた。


私はそれに覆い被さるように押し倒していた。


ごめん。やっぱり我慢出来なかった。



くたくたになったフラウが力なく上半身を起こす。



「それは・・・良かったです。」


「それじゃあ勇者達を探そう。追っ手が私達の所だけに来たとも思えない。」


「え?それは大変です。早く探さないと!」


「うん。行こう。」



私達は路地を抜け、繁華街の方へ戻っていった。




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