第24話
俺とお姫様抱っこされたルーシー、クリス、フラウ、ベイト、モンシアもアデルも。ベラを中心にデッキで辺りを警戒していた。
「さて、今後の方針だけどね。」
ベラの発言にそこにいた全員が注目する。
「とりあえず補給にローレンスビルには着港する。その後だ。」
そもそもの依頼はローレンスビルの海域の事件を調べるのが目的だった。
事件自体は発覚した。
これ以上この船に関わらせるのはどうなのだろうか。
「アタイはこの海の上でやられっぱなしで引き下がるつもりはない。海がアタイらの仕事場だからね。それにあんなやつらを放置してはおけない。」
「商船の連中の敵討ちもしなくちゃあいけませんからね。」
ベイトも言う。
「これよりクイーンローゼス号は化け物退治のためにやつらを追う!異論が有るものはいないかい!」
モンシアが手を上げる。
「また俺達は出番なしってわけじゃねえだろうな?」
「今の戦いは勇者君の戦いだったから作戦は任せたが、今後の作戦はアタイの指示だ。無論出てもらうよ。」
「じゃあ異論はないぜ!」
無茶だ。あの魔人相手に戦いを挑むなんて死ぬつもりなのか?
そう思ってハッとした。
死ぬ覚悟をしているんだ。
クリスが俺の近くに寄ってきて小声でささやく。
「ルーシーどうするの?」
俺じゃなかった。
「参加させてもらいましょう。どちらにしろ船がないと追跡できないわ。」
ルーシーが答える。フラウも寄ってくる。
「でもどこに行ったんでしょうね?」
「ずっと飛んでいるとは思えない。どこか近海の島にでもいるのかもね。ねえ、クリスからはあいつらに呼び掛けできないの?」
「無理。やり方知らない。」
「そうよね。それにしてもあいつらやけに統率が早かったような気がするから、もしかしたら全体を操ってた黒幕が全員の頭に呼び掛けていたのかもしれないわね。」
「確かに何の合図もなく全員一斉に逃げていったようだな。」
そろそろお姫様抱っこに誰か突っ込んでほしい。
「あいつらがバカなら助かるけど、半数を失った今回と同じようには襲ってこないでしょうね。」
「どうやってくると思う?」
「船を沈めようとするんじゃない?」
「おいおい、それじゃやっぱり追跡は止めさせた方がいいんじゃ?」
「そうなるとあいつらを追えないし、痛し痒しなのよねー。」
俺の頬をツンツンしながらルーシーは言う。
やめてくれ。
「勇者君達はどうするんだい?ローレンスビルで降りるってんならそれでもいいんだよ。」
ベラがこそこそ話し合っていた俺達に聞く。
待っててくれたのか。
「もちろん行くわ。ベラの指示に従いましょう。ただ。」
ルーシーは言葉を一度切って。
「死ぬつもりはない。」
「フフ、もちろんさ。」
言葉だけはかっこよく言ったがお姫様抱っこされたままじゃかっこがつかない。
昼が過ぎ夕時になってローレンスビルの港が見えてきた。
俺達の警戒をよそにセイラ達の再襲撃はどうやらお預けのようだ。
ようやく胸を撫で下ろす。
船員達が慌ただしく港に船を着ける準備をする。
ベラが俺達に声をかける。
「とにかく無事に着いたようで良かった。アタイらは補給に3日ほどかかると思う。食料、帆布、ロープ、装備、備品に床板も補強しないといけない。その間ここの船室を使ってもいいけど、町に出たいならそれでもいい。どうする?」
「そうね。作業の邪魔になっちゃいけないし、町に出ましょうか。」
接岸は無事に終わり、港の作業員によってタラップが横付けされる。
始めて訪れた町だが、噂通り石造りの堅牢な町並みだ。
重厚な雰囲気がやや物々しさを感じる。
港には大きな船が数隻停泊している。商船が襲われた噂で足止めを喰っているのだろうか。
それよりも魔王歴時代にモンスターの襲撃から船を護り通せたことが、この町の堅牢さを物語っている。
ルーシーの提案通り俺達は町に出て宿をとることにした。
港の職員にアルビオンからの託けが有るかもしれないと、一応受け取りを頼んでおく。
お姫様抱っこで現れた俺達を怪我人でも運んでいると思ったことだろう。
「そろそろ降ろしてもいかな?流石に腕が・・・。」
「仕方ないわ。でも腕は組んで歩きましょ。」
トイレに行きたいという時でさえ首筋に掴まってるからと言って離れようとしなかったが、流石に遠慮させてもらった。
そんなに俺の視線が怖かったのか。ちょっとショックだ。
「とりあえずやることを上げていきましょうか。」
「もう夕方だし、宿をとらないと。」
ルーシーにクリスが答える。
「装備のことも言ってましたね。弓を買ってこないと。」
フラウも答える。
「この町の自警団に話しも聞きたいな。まだ俺達は商船の噂を噂でしか知らないし、すでに10日前のことだ。また別の進展があってもおかしくない。自警団として対策をどうするつもりなのか気になる。」
これは俺。
「まだ化け物が犯人って知らないかもしれないしね。教えた方がいいかも。」
ルーシーもうなずく。
「じゃあ、装備は明日みんなで見に行くとして、まずはクリスとフラウで宿を見つけてもらいましょうか。ベッドは3つで十分よ。」
「はいはい。」
「まだ時間もあるし私達は自警団で話をしましょ。」
「そうだな。それぞれ終わったらここで落ち合おう。」
「了解です!」
そうして俺達は二手に別れた。
自警団の詰所は造作もなく見つかった。港を出て十字路を左に行ったところのすぐ近くにあった。
そこでの話をかいつまんで述べるとこうだ。
まず部外者の俺達が入っていって話を聞かせてほしいと言っても顔をしかめるだけだったが、俺が勇者だとわかると一応話しはしてくれた。
10日前の商船の噂は事実で、船員は皆殺し、体に得体の知れない傷が多数。干からびていたのか血はほとんど残っていなかったという話だった。
ライラにとっての脳、クリスにとっての唾液。やつらにとっては血液が食事というわけか。
最初の商船が港の防波堤に突っ込んで流れ着いたあと、2隻の船が出航したが、同じように皆殺しになり流れ着いたのだという。
港は震え上がった。
それまでのモンスターの襲来とは形の違う脅威が現れたわけだ。
襲ってくる敵ではなく、暗闇で待ち構える得体の知れない敵。
やはり犯人に見当は付いていないらしかった。海賊なのかそうでないのか。ローレンスビルの自警団だけでは判断が難しいため、本国スタリオンの救援を今求めている最中ということだ。
それは幸いだったろう。無闇に海に出れば4隻目の犠牲者になりかねかった。
しかし出航した船が都合よくこの港に流れ着くというのはおかしい。
それはセイラ達による見せしめのためのデモンストレーションであったのかもしれない。となると、わりとこの町の近くまでやつらは来ていたということか。
いや、羽をもって飛び回っている連中だ、どこにいてもおかしくはない。
今着港した船に事情を聞きに人をやっているらしい。
なんだ、入れ違いになったのか。
最初から俺もその船の搭乗者だと名乗れば良かった。
そう俺が名乗ると相手は目の色を変えて何があったのか聞いてきた。
魔人という詳しい話はできないが、ハーピーの姿をした化け物が襲ってきたことを伝えた。そして数日後にクイーンローゼス号がその追跡に出るということも。
無論危険な真似はするなと止められた。だがベラの意思は固いだろう。
今船を見に行って船長と話をしている連中が帰って来たら、一度自警団で協議するという。その結果次第で出航禁止か協力するか決まることになると。
出航禁止処置はどうしようもないが、地元の人間に協力してもらえるならそれは助かる。俺達はこの辺の地理に明るくない。やつらが隠れ住みそうな島などがあるなら教えてくれるかもしれない。
今のところ得られた情報はこれだけだった。
既に犯人は割れているので状況の確認と精査だけなのだが。
あとはその協議とやらを待つしかない。
詰所を出たら外は暗くなっていた。
街灯にも火が着けられている。
石造りの町並みと入り組んだ構造のせいか、影になる死角が多く、夜の不気味さが一際際立っているように感じる。
港にはまだ人影はある。クイーンローゼス号の船員もいるだろう。
ルーシーと腕を組みクリス達と別れた港の出入口に歩いていく。
近くだったのですぐに着いたが、まだクリス達は来てないようだ。
俺達は十字路の右側。行き止まりになっている石の壁に囲まれた袋小路で立っていた。
別れたときは夕暮れだったので気付かなかったが、この場所はわりと寂しい場所だ。
港内からは少し離れていて、繁華街からも遠い。
立ち並ぶ倉庫と石の壁の影で街灯の灯りがなければ真っ暗だ。
ふいに俺と腕を組んで立っていたルーシーが腕から離れる。
やっと満足したのかと思ったが、違うようだ。
ルーシーは肩の剣に手をかけている。
さきから感じていた不気味さはどうやら気のせいではなかった。
「惜しいわね。もう数歩こっちに来てくれてたら殺せてたのに。」
後ろから声がした。驚いて振り替える。
繁華街側の通路の壁。その壁の暗がりから女が出てきた。
「セイラ。」
ルーシーが名前を呼んで息を飲む。
青い肌ではない。魔王の城で見覚えがある。リーダー格としてメイド達をまとめていた女性だ。
黒いドレスを着飾って、どこから見ても人間の姿だ。
「クリスを見ていいこと教えてもらったわ。そういやそうよね。変身できるなら自分の姿にだってなれるわよね。」
「だったら人間に戻りなさい。魔王の娘の言うことなんか聞いちゃダメ。」
「あら。知ってたの?フフフ。確かに人間に紛れて生活すれば生き血をすすり放題かもね。」
「悲しいわね。心まで化け物になっちゃったのね。」
剣を抜くルーシー。
セイラが右手を下から上に振り上げる。
何をしたのかと思ったが、指先から何十本もの針が発射された。
危ない!
直接俺を狙ったのではないのだろう、思わず飛び退いたがそれでも複数針を足に受けた。
ルーシーは剣の一振りで針を弾き返していた。
さらに一歩でセイラに詰め寄る。
セイラは左手を横に振るう。
「伏せて!」
ルーシーの声に俺は身を屈める。
周囲に針がばら蒔かれる。俺の頭上を越えていったようだ。
叫んだルーシーも至近距離に身を屈めると、その反動で剣を振り上げそのままセイラの首を切り落とした。
一瞬の出来事に息をする間さえないという感じだった。
だが流石ルーシーだ。
ゴロンとセイラの頭が地面に転がる。
ルーシーが一歩引いた。警戒を解いてない。
その姿を見て俺もハッとした。
昼間のハーピーと違い、死体が灰にならない。
首の無い胴体は立ったまま体勢が崩れていない。
「実はあなた達のおかげでもうひとつ気付いた事があるのよ。」
ゾッとした。落ちた首がまだ喋っている。
首のない体が自分の首を拾う。
「灰になったのは傷ついた自分の体を修復しようとして力を無駄に使ったから。私達に修復能力なんて無いから、有りもしない力を全力で使って力を使い果たしちゃったってわけ。フフフ、バカよね?」
一瞬セイラの体が光り、そしてもとの位置に首がくっついた。
「傷ついた体から傷ついてない体に変身すれば、こうやって元通りってわけ。」
「化け物・・・。」
ルーシーが口の中で囁いた。
「耐えれる?不滅の私の攻撃から。」
セイラは背中から8本の骨針を四方に伸ばす。しかしそれで攻撃しようとしているわけではない!
一本5メートルもあろうかという骨針を大きく広げて、その先端から針を俺達に向けて連続で照射してきた。
避ける場所などない!
ルーシーが俺の手を引き後ろに下がる。
剣で針を叩き落としながらさらに下がる。
「倉庫に逃げましょ!」
開けた場所では不利だ。言う通りにしよう。
港の方に下がっていく俺達。セイラは追ってくる様子はない。
あの攻撃からはなんとか逃げられたのか。
いったいどういう動体視力と剣捌きなんだと言いたくなるが、ルーシーが何者かを考えるのはやめると約束した。というより今はそんなことを言ってる場合でもない。
使われていない倉庫を探しだし、そこの入り口近くに身を隠す。
それでも木の板や空いた箱等が積み上げられている。
船が積み荷を降ろす着港後ではなく、出航待ちなのが良かったか。
「セイラの姿をまた見られるなんて。あんなのずるいわ。」
ルーシーが悲しげに言う。
手加減一切抜きでいきなり首を切り落としていたようだが、感傷もしていたのだろうか。
確かに魔王の城で見た気丈な彼女を思い出し、悪夢を見ている気分なのは俺も同じだ。
「どうするんだ?変身の力がこれほど厄介だとは思いもしなかった。」
「同感だわ。ホントにバカでいてくれてたら助かったのに、頭が良いのが余計だった。」
「それと魔王の娘の話しもしてたな。これで追っていたターゲット確定というわけか。」
「そうね。思ったより早く動き出していた。魔王の死が娘達の行動のトリガーになっているのだとしたら、他も次々と動き始めるかもしれない。それより、勇者様怪我は大丈夫?」
「これくらいで音を上げるわけにはいかないよ。」
「勇者ちゃんには助けてもらった恩もあるし、見逃してあげてもいいけど?」
突然会話に入ってきた!
倉庫内の後ろを振り向く。どこから入ってきたのかすぐ後ろにセイラが立っている!
身構える俺達。
「その代わり私達のアジトで精一杯働いてもらうわよ。ほら私達女ばかりでしょ?やっぱり男手が欲しくって。」
「いったい何をさせるつもりかしら!?」
「フフフ。女ばかりじゃ子供は出来ないのよね。変身すれば男にはなれるかもしれないけど、一緒に過ごしてきた仲間同士で今さら嫌じゃない?」
「笑えないわね。魔王に捕まったあんたが魔王と同じことをするって言うの!」
「あら、私は嫌いじゃなかったわよ?キモチーこと大好き。」
「おぞましい!」
「勇者ちゃん。どうする?お姉さんに付いてくる?助けてもらったこと思い出しながらだと、とっても感情移入できそう。」
「断る!」
セイラの目が冷たく光った。
「手足を切り落として連れていく。」
倉庫内に骨針が伸ばされていたのか、物影から数本の骨針が迫ってくる。
剣で振り払う俺達。
ルーシーの元にツカツカと歩いて寄っていくセイラ。
その間も骨針の攻撃は止まない。
「ルーシー!」
セイラは右手を払うようにルーシーに攻撃する。
その右手を剣で切断し反撃するルーシー。骨針は上段下段、同時に攻撃を続ける。それも剣で弾き返しながら戦っている。
セイラの体がまた光り切断された右手が元に戻る。今度は左手で突きをするセイラ。
それも剣で切断するルーシー。骨針からは辺りにばらまくように針が照射される。
クルリと身を翻し避けるルーシー。セイラのくっついた左手からも針が照射される。
それを剣で弾き返すルーシー。
「化け物?化け物はあんたじゃない。これだけの攻撃で傷一つ付けられないなんて。」
舌を巻くセイラ。
「諦めて帰ってくれるなら追いはしないけど。」
「じゃあそうさせてもらうわ。あんたの暗殺は最初に失敗してたしね。」
退くのか!?
「でも、血の力を使いすぎちゃったからこの町で補給してからにしないとね。」
何だって!?
「ふざけないで!前言撤回!あなたはここで倒す!」
「できるかしら?不滅の私に。」
「血の力を使い果たせば不滅ではない!それまで切り刻む!」
「できるかしら?私を追うことが。」
そう言ってスルスルと天井にまで伸びた骨針で自分を引き上げる。
「まずい!逃がしたら町の人が襲われる!」
「フフフ。私を追うことは出来ない。」
そう言って彼女は消えた。
いや、何かに変身したんだ!いったい何に変身したんだ!?
「ライラは岩盤を空気に変化させて地中を移動してた。もし、空気に変身したのだとすれば見つけるのは不可能に近いわ。そして、あいつの暗殺から逃れる手段も無いに等しい。」
バカな・・・。完璧に侮っていた。変身能力がこれほど厄介になるとは。
あっさり引き下がったのは今ここで堂々と戦う必要が無いからだ。
油断している俺達に後ろから近付いて刺し殺せばいい。
「一つだけ見つける方法がある。クリスと合流しましょう。あの子達にも追っ手が迫っているかもしれない。」
しまった!もしそれが本当なら非常に危険だ!
不滅の敵、何にでも変身できる敵。狙われたら最後だ!
俺達は急いでクリス達が向かったであろう繁華街の方へ走りだした。
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