第23話
幸い俺達の中で怪我人はいなかったが、船を見ると悲惨なことになってしまった。
デッキやブリッジの壁や床に数百本の針が突き刺さっている。穴だらけだ。
帆やロープも破れたり切れたりしている。修繕に時間と金がどのくらいかかるだろう。
とにかくここでじっとしていられないので、急いで帆とロープの張り替え繋ぎ直しをやることになった。船内に予備が備えてあるらしい。
錨を降ろし総出で補修を行う。
俺とルーシーはデッキに戻り船の惨状と船員達の修理の様子を見ている。
ベイト達もデッキに上がってきていた。あまりの有り様に呆然と船を眺めている。
「何があったらこんなになるんですか?」
「よく無事だったなあ。さすが勇者とその一行だ!」
俺は一回死にかけたがフラウのおかげで助かった。
「これ、ありがとう。助かったわ。」
ルーシーがアデルに弓を返す。
「役にたったのなら良かった。が、代わりに預かったこの剣、鍛冶屋で打ち直してもらった方がいいんじゃないか。そうとうナマクラだぜ。」
アデルも剣を返す。
ナマクラ?幼い頃から剣を使っていたと言ってたが、ずっと同じ剣を使っていたのか?
今までのあの見事な切れ味をそのナマクラでやっていたというのか?
「あらそう。剣の事はよくわからなくて。」
よくわからずに使っていたのか?
いやいや、剣の事はともかく弓の腕前は説明できない。
思えばライラのときもクリスのときもそうだった。
魔人という圧倒的な力をもつ恐るべき相手、俺なんかからしたら到底及びもつかない相手だったろう。
その魔人相手にさらに圧倒して最後に目を引くのはルーシーの方だった。
君はいったい何者なんだ?
俺の視線に気付いて寄ってくるルーシー。
「そんなに怖い目で見られたら、私何もできなくなっちゃう。」
「え?すまない。別にそんなつもりじゃ・・・。」
「私を信じて。」
「わかってる。」
ルーシーはそのまま船尾楼に入っていった。
俺は今どんな目をしていたんだろうか?
クリスが入れ替わりに俺に近づいた。
「どうしたの?」
「いや、何でもない、はずだが。」
今のルーシーの悲しげな顔にクリスも気付いたのか。
「よく船長さんが狙われてるって気付いたね。勇者が駆け出さなかったら危なかったかも。」
「ドアを閉めるとき見えたような気がしたからさ。無事で良かった。」
「お手柄だね。」
クリスが褒めてくれる。悪い気はしない。
フラウがデッキに出てきた。
「怪我はありませんでしたか?」
「ああ、大丈夫。君のおかげだ。前回もそうだがいつの間に施術を仕込んだんだ?」
「10分って言われたから、これはまずいと思って。」
「よく気のつくいいお嫁さんになりそうだね。」
「そ、そんな。お嫁さんなんて。」
クリスとフラウと和やかに話している。が、ルーシーの様子が気になる。
船尾楼に入ったがどこにいる?部屋で一人なのだろうか?
話し辛い雰囲気だったが、放ってもおけない。
俺はルーシーの後を追った。
ルーシー。君が落ち込んでいる姿を見るのはゾワゾワする。
笑っている顔を見たい。
部屋に入ると、やはりルーシーはそこにいた。ベッドで一人横になっている。
なんと話すべきか迷ったが言い忘れていたことがあった。
「ルーシー、さっきはありがとう。ブリッジで襲われていたところを弓で助けてくれて。」
振り向いてくれない。
「ルーシー?」
ベッドに近付く。
ルーシーが起き直りクルリと振り向いた。
顔をくしゃくしゃにして泣きべそかいていた。
「勇者様に嫌われちゃった、エグエグっ!」
思っていた様子と違って困惑した。
「うわーん!」
「嫌ってない嫌ってないから!」
ベッドに入って抱きしめ頭をよしよししてやった。子供か!
「好きなだけ一緒に寝てやるから泣かないでくれよ。」
「ぐすん。」
「もう君が何者かなんて考えない。君は俺の味方だ。何者であったってよかったんだ。」
「ぐすん。ぐすん。」
「俺も君の味方だ。何があっても。だから、笑っていてくれ。」
「じゃあ抱っこちて。」
「んん?お、お安いご用さ。」
それから3時間くらいで帆とロープの張り替えが終わった。
今は一刻も早くローレンスビルへ着港することで皆の意見は一致した。
「もう一度襲われたら流石に全部の帆を張り替える予備はないね。一度補給に港に行きたい。」
とベラは言う。
「私達も一度装備を見直した方が良さそうね。アデルだけじゃなく全員が弓を持ってた方がいいわ。」
これはルーシーの言。俺にお姫様抱っこされながら話している。
最初は二度見されたが特に説明を受けるでもなくそのままスルーされた。
一応筋肉トレーニングの一環でという言い訳を用意していたが、使うことはなかった。それもどうかと思う。
半日ほどでローレンスビルに辿り着くだろう。それまでにまた奴等が襲ってこないことを祈るしかない。
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