第21話
それはそうと隅の方でなにやら船員達がどやどや騒がしく輪になってなにかを見物している。
なにかと思えば、デッキチェアにいつの間にかルーシー達が出てきていて3人並んで座っていた。
昨日の水着を着て。
「あら。勇者様もこっちに来てよ。」
どこから湧いてきたのかと思うような船員の囲みの中から俺を見つけ、ルーシーが呼んでいる。
気恥ずかしいが無視するわけにもいかない。
船員達が横に退いて道を作る。
視線が痛い。
「なにをやっているんだ?」
自然な感じで近づいたつもりだが顔が引きつってなかっただろうか。
「なにって。日光浴以外何に見える?」
クリスが答える。
それはそうなんだが。
「せっかく買った水着だし。着る機会なんてそんなにないだろうし。何より日射しと風が気持ちいいし。ね。」
クリスは背伸びのようなポーズをとって身体を伸ばしている。
「日射しより視線の方をいっぱい浴びてるような気がしますが。」
フラウはデッキチェアで小さくなって震えている。
「ほら勇者様も座って。」
「いや、俺はなにかできることを聞いてこようと・・・。」
「できることあるわよ!これサンオイルって言うんですって!全身に、くまなく、塗り込むと、日焼けを抑えられるんですって!勇者様、私の全身に、これ、塗って。」
全身に?いやいや、なんてことを言い出すのか。
「フラウかクリスに頼んだらいいじゃないか。」
「えー。いいじゃない。ケチー。」
「私も勇者に塗ってもらいたい。」
「え?じゃあ私も。」
クリスとフラウまで俺をからかってるのか。
「俺も勇者に塗ってほしい。」
「いってくれ!勇者!」
「勇者!勇者!勇者!」
何故か囲んでいる船員達からも催促されだしてる。
「ほーら、勇者様頑張って!」
うーん。しかし実はちょっと興味がないでもない。
ルーシーの体つきはか細い普通の女性程度だ。そんなに筋肉がついてるでもないのにあれほどの剣速が出せるものだろうか?
筋肉がどれくらいついてるかなんて普段聞けるはずもないので、ここで触って確認させてもらえれば・・・。
俺が良からぬことを企んでいるのが鋭い目に出てしまったのか、
「やだー。勇者様に襲われるー。」
襲われるって・・・。自分が頼んだんじゃないか。
ルーシーはきゃっきゃ言いながらフラウとクリスに抱きついてる。
「狼の目ですね。」
フラウが冷静に呟いた。
「早くやれば?日に焼けるでしょ?」
クリスはさらに冷淡に呟いた。
「じゃあ背中だけだぞ。あとは自分で塗れるだろ。」
「はーい。」
デッキチェアを倒してうつ伏せになるルーシー。
しょうがない背筋だけでも見せてもらおう。
なんかよくわからない液体を小瓶から手に出すと、それをルーシーの背中に塗り込む。
効くのかこれ?
「あー。いい感じ。」
ルーシーから吐息が漏れる。
船員達から歓声が上がる。何の歓声だ。何の。
見た目よりガッチリとした筋肉が付いているのかと思ったが、普通の背筋だ。女性特有の柔らかい肌、無駄な脂肪もないが硬い筋肉もない。
もっと別の場所も塗らせてもらうか・・・二の腕とか太股とか・・・。
「あん。勇者様の手暖かい。でも視線はもっと、熱い。」
また俺が鋭い目になっていたのかルーシーに茶化されてしまった。
これ以上の追求は無理か。
「勇者様が獣になってしまいました。」
フラウが嘆きながら呟いた。
「しょうがないよ。ルーシー美人だし、ナイスバディだし。」
「黙って立ってるとどこかのお姫様みたいですものね。」
クリスとフラウもやはりルーシーの見た目の美麗さを認識していたか。
「フラウそれどういうことよ。まるで喋ると野蛮人みたいな。」
「そ、そんなことは言ってないです。」
「あははは。でもそこがルーシーの良いところ、だろ。あとは自分でやれるよな?」
背中を塗り終えたので俺は立ち上がった。
「ちえー。しょうがないなあ。」
「じゃあ私が塗ってあげる。」
クリスが立ち上がって俺から小瓶を取り上げる。
やれやれ。最初からそうすればいいのに。
「え?」
ルーシーが戸惑う。
上半身を起こしているルーシーと同じデッキチェアに回り込むようにクリスが座る。
「顔から、首筋、鎖骨、両肩・・・。」
「あん。ちょっと。」
クリスが入念に手を全身に這わせる。
船員が怒濤の歓声を上げる。
「腕も左右、脇の下、胸の谷間も行っておく?」
「ん!もう!」
そうこうしていると人混みの後ろでドアが開く。
「なんだいなんだい!なにを騒いでるんだい!」
ベラが船尾楼から出てきたのか声を荒げる。
「なにを総出ではしゃいでんだい。休むやつは休む!夜に寝不足で航路を間違えたりとか御免だよ!」
ベラにどやされてそそくさと持ち場に戻る船員達。
10人以上いた船員が3人残すのみとなった。
「まったく。なにやってるんだいあんた達は。」
「いや、別になにをというわけでは。」
何故か俺もシドロモドロになる。
「部屋にオイルがあったから。使ってみようと思って。」
クリスがルーシーの体にオイルを塗りながら言う。
腹から下腹部に指を滑らせていく。
「クリス、ちょっと・・・。」
「こそばゆい?」
「はーん。その子供が着るような水着でちやほやされてたってわけかい。かわいいもんだねえ。」
「船長さんも水着持ってるの?見たい。」
「あっはっはっ。アタイの水着が見たいって?」
「大人の水着ってやつ見せてもらいたいわね。」
ルーシーもクリスの手を押さえながら挑むように言う。
「いいとも。後悔することになるよ。」
そう言って船尾楼の船長室に入っていった。
俺は何やってんだったっけ?
「ルーシー、お尻上げて。」
「もういいもういい!自分でするから!」
クリスの積極的なオイル塗りに避けるルーシー。
「別にしなくても、昨日から肌を守る施術使ってるんですけどね。」
フラウが呆れ顔で言った。
え?
しばらくして船尾楼からベラが出てきた。
「どうだい?これが大人の水着さ!」
言葉だけは威勢がいいが顔が真っ赤になって肩が震えている。
それもそうだろう。隠れる部分だけ隠れてあとは紐しかない。金色の布地があるんだか無いんだか、ほぼ無い。
ルーシー達の水着にも焦ったが、これは思考が止まるレベルだ。
知らない人が海でこの水着を着ていたら見ていいのか迷って目を逸らすのは確実だろう。
男の俺だけではなくルーシー達も絶句している。
「ま、負けた!」
何の勝負かわからないがルーシーが素直に負けを認めた。
「勇者様の目が釘付けになってる!悔しい!私もあの布面積くらいまでハサミで切ってくる!」
「やめなよ。ほつれてポロリするよ。」
部屋に戻ろうとするルーシーをクリスが止めた。
「あははは。しょ、勝負あったようだね。」
ベラがモジモジしながらセリフだけやたら威勢のいいことを言ってる。
そんなに恥ずかしいなら着なければいいのに。後悔してるのは自分なんじゃないのか。
「ふー。でもせっかくの水着なら泳ぎたかったよね。」
クリスが吐き出すように吐露する。
「海に入ったら置いてかれちゃうわよ。」
ルーシーが笑う。
「お?このクイーンローゼス号を舐めてもらっちゃ困るね。」
ベラが聞き咎めるように言い放つ。
顔は真っ赤なままだ。
ベラは船尾楼の上の方にある紐を引っ張った。スルスルと縄梯子が降りてきた。
そんなとこに梯子が!?
「こっちに上がってきな。」
そう言うとその縄梯子を上がっていった。
ちょっと待て。その紐みたいな水着を後ろから見上げるとホントに何も着ていないようにしか見えない。
俺は恥ずかしくて目を逸らした。するとクリスと目が合った。
クリスは俺をニンマリしながら見ている。
そしてわざと俺の視線に入るようにしてベラに続いて縄梯子に手を掛ける。
「じゃあ私も。」
チラリと俺を見て俺が見ているか確認してから登っていく。
「私も行きますー!」
フラウも登っていった。尊いもの見てる気分で思わず拝みたくなる。
次大神官に会ったらどんな顔をすればいいんだ。
「勇者様も来てね。」
ルーシーもそれに続く。
まるでファッションショーのモデルがランウェイをこれ見よがしに練り歩くみたいに、俺に肢体を見せつけている。
どうせなら筋肉を見せてくれ。
これは行っていいのか迷う所だ。しかし、上が何なのか確かに気になる。
誘惑に負けて俺も登ってみた。
船尾楼の上は腰の高さの手すりで囲まれている。その手前側ちょうど船長室とラウンジの屋根の上くらい、3本目のマストの前まで、ぐるりと人が通れるほどの外枠とその内側に木の板が列をなして並んでいる。
「勇者君反対側手伝っておくれ。」
ベラが上気したまま左の外枠に立つ。
俺は右側の外枠に。
閂で板が固定されているがそれをとると、板は2つ折りで畳むことができ、簡単に床から外すことができた。
その下にはなんと水が溜め込んである。屋根の上にプールがあるのか!
プール自体はそれほど大きいものではないが、あるというだけで驚きだ。
帆が張られてるので視界全部とは言えないが、見渡す限りの海を眺めながらプールを満喫できるとは恐れ入る。
「どうだい?泳ぐにはちとせまいが水浴びしながらのクルージングは悪くないだろ?」
「すごい。クイーンローゼス号。」
「なんなんですか?この船。」
ルーシーとフラウが素直に感嘆する。
俺とベラとで板を全て後ろのマストの下辺りに持ち運ぶ。それをロープで固定する。
「入っていい?」
「どうぞお嬢さん達。」
待ちきれなくなったクリスが問い、それにベラが答える。
横6メートル縦8メートルくらいだろうか。
腰あたりまで深さがあるプールに4人が入る。
「きもちー。なにこの贅沢。」
「王様になった気分です。」
「はははっ!気に入ってもらえたようだね。」
肩まで水に浸かったベラが言う。
「勇者は入んないの?」
クリスが外の手すりに掴まってる俺に言う。
「いや、水着なんて持ってないし。」
「服脱いで入れば。」
「それはちょっと・・・。」
バカンスにでも来たと勘違いしそうになるが、これから大丈夫なのだろうか。
船尾楼の更に後ろを眺めれば、最後尾一段高くなった所にブリッジが見える。あそこで舵をとってるのか。舵をとっているのはベラではなく、操舵士という専門職のようだ。
マストやセイルには様々なロープが伸びていてどこがどこにつながっているのか、素人の俺にはわからない。それを風に合わせて帆を張ったり向きを変えたり、繊細な作業で船が航行すというわけだ。
甲板真ん中のメインマストの中頃に、鐘楼という見張り台のようなものがある。そこに望遠鏡で周囲を警戒しているのが鐘楼員と呼ばれる監視員みたいなものだ。彼の働きによって俺達は今安全を保たれている。
船の全長は70メートル。幅8メートル。
船首楼10メートル、中甲板20メートル、船尾楼40メートル。それぞれ中央にマストが伸びている。
前述の船尾楼にある6つの客室以外に船内第2甲板にも30名ほどが泊まれる客室がある。
上の6つの客室がプールまであって、いかに特異な存在かということがわかる。
「ねえ勇者様どうしたの?」
ルーシーが腰までプールに浸かったまま上半身をのり出して俺を見る。
「立派な船だなと思ってな。つい乗ってる理由を忘れそうになるよ。」
「ふーん。忘れちゃえ!」
ルーシーがプールの水をバシャバシャと俺にかけようとする。
やめろ!濡れる!
ひとしきり遊んだ様子だが、昼飯時になり一旦水着の女性陣は部屋で着替えた。その後ラウンジでベイト達と一緒に昼食をとる。メニューは乾いたパンとチーズとソーセージだった。クリスだけはやはり食事をとらなかった。
昼飯後はせっかくなのでプールの掃除くらいはさせてもらうことにした。
水をろ過タンクに戻し、次に使うときは手動のポンプで汲み上げるようになっているらしい。
海の眺めがいいので仕事というよりは楽しんで掃除できたが、これが日課になるとそうでもなくなるのだろうか。
そのまま水のないプールで剣の修業をさせてもらう。
時間がゆったりと過ぎる。地上での喧騒が嘘みたいだ。
夜になり辺りは真っ黒に染まる。月と星の光でうっすらと見えるが、闇の部分はどうしてもある。
船の所々に備え付けられたランタンに火が灯される。
俺はまだ船尾楼のプールの横で手すりに掴まりながら海を見ていた。
昼にも思ったが、この夜に敵の襲撃にあったらひとたまりもないと、さらにゾッとする。
船尾楼最後尾のブリッジからベラがこっちにやって来た。
「蓋を並べるの手伝ってくれるかい。」
プールを閉めていた板をまだ戻してなかった。
「ああ、すまない。俺が邪魔をしてたな。」
無論今ベラはちゃんと服を着ている。
「ずっと一人でいたみたいだね。女達が寂しがってんじゃないのかい。」
「どうだろうな。実はパーティーになってまだ日が浅いんだ。」
「ふーん。」
「それより。報酬のことなんだが・・・。」
「なんだい。」
「それなりに用意できるとは言ったが、どのくらいを用意すればいいのか・・・。」
「あっはっはっ!そんなこと気にしてるのかい。」
「そりゃそうだ。この船思ったより大変なものだったよ。想定と桁を間違えたかもしれない。」
「交渉次第だね。さ、これで最後だ。」
会話の最中も作業を続けていたので蓋は閉め終わった。
「交渉する気があるなら付いてきな。」
そう言ってベラは船尾楼から縄梯子を降りていった。
もちろん俺も続く。
船長室に入るとデスクと椅子の横の壁に立て掛けてある本棚の上部に手をかけ、グイっと引き倒した。
何をするのかと呆気にとられると、本棚の裏はベッドになっていた。
本は柵のようなつっかえ棒で塞き止められ落ちないようになっているらしい。
いろんな仕掛けが有るものだなと感心していると、ベラがベッドに腰掛け向こう向きになってシャツを脱ぎだした。
「なっ・・・!」
にをするつもりなのかと口に出すつもりが、声にでなかった。
ベラはベッドにうつ伏せになり両腕に顔を埋めた。
「マッサージしてもらえるかい?肩がこって仕方ないんだよ。」
マッサージか。しかしなにも上を脱ぐことはないだろうに。
それにこれが交渉なのだろうか。
要するにベラの機嫌を損ねないように言うことを聞けということか。
「なんだい?うつ伏せじゃなくて、仰向けになってほしいのかい?」
「そのままでいいよ。」
俺は急いでベッドに近寄った。
ベッドの外から肩に手をやろうとすると、
「そこじゃ力が入んないだろ。乗りなよ。壊れやしないからさ。」
上半身裸でベッドにうつ伏せになってるベラを股越してマッサージをしろというのか。大胆な女性だ。
まさか断ったりしたら報酬の値段が跳ね上がったりはしないだろうが・・・。
仕方ない。やるしかない。
ベラの肩に手をやって首筋から揉みほぐすようにマッサージする。
確かに本人が言うようにかなり凝っているようだ。いつ頭痛になってもおかしくない。
「あああっ!効く!痛いけどっ!」
「え?痛いのか?」
ベラがビクッと体を反らせる。
思わず手を止める。
「やめないでおくれよ?もっと乱暴に、ねじ伏せるくらいにっ!」
「よ、よし。止めてほしいときは言ってくれよ。」
俺はマッサージを続ける。むしろベラの肩凝りが心配になってわりと本気で取りかかろうと思っている。
「いっ!すごい!痛いけどっ!きもちいい!そこっ、そこもっと強くっ!勇者君、凄くうまいぃ!」
絶賛されてるのは凄く嬉しいが端から聞かれると誤解されそうな発言に内心穏やかではない。
ふと、そういえばここには船内につながる集音機があったような・・・。
ゾッとして手を休めそちらを見ると、それに気付いたのかベラが笑う。
「あははは。大丈夫さ。手元の弁を開けないと下には聞こえないよ。」
「そうか、それは良かった。」
ひきつり笑いだった。
それから30分コースで腕やら腰やら足やらもマッサージさせられた。
俺の方が凝ってしまいそうだ。
これも交渉のうちなのかと思えば。
その間よくそんなに声が出るなと思わんばかりにベラは悲鳴のような声をあげた。
「ああっ!ん!もっと下の方!そこ、いいっ!ンンッあああぁ!」
俺はマッサージマシーンと化していた。
「勇者君ありがとう。あ、ちょっと向こう向いててくれるかい。」
言われる通りにした。シャツを着る音。
「あ、弁が開いてた。」
終わった。
「あはは。冗談さ。」
「冷やかさないでくれよ。」
「ウフフフ。アタイと勘違いされて困ることあるのかい?」
「勘違いが、困るだろ?」
「そういやそうか。フフフ。ま、気持ち良かったよ。また頼もうかねえ。それじゃ、交渉の話に移ろうか。」
え?今までのは?
俺の勘違い?
それはそうか。お金の問題がマッサージで解決するわけなかった・・・。
「まず、モンテレーからローレンスビルまで俺達を運んでくれる運賃だが、日数もかかるし、食費も部屋代も込むとどのくらいになるんだろう?」
俺はおっかなびっくりで切り出した。
「アタイらも客商売でやってる訳じゃないから相場なんて知りゃしないが、経費くらいなら40万くらいじゃないかね。」
「一人で40万か?」
「あははは。まけといてやるよ。4人で40。」
40万か、払えない額ではないな。ちょっと一安心だ。
「それと、もし戦いで船に損害が出たらその修理費用なんかはどうなるのだろう?」
「そうは言っても、相手がどんなもんか、戦いでどのくらい被害が出るのか出ないのか。終わってみないとわからないからねえ。大砲の砲撃で倒せるならそれでいいけど、あんたらの見込みではそうじゃないんだろ?」
「ああ。どんな相手か本当にわからないが、今までのモンスターのような組織だった戦闘で倒せる相手ではないだろうと思う。」
「厄介だねえ。」
はぐらかされているような気がするので、もう少し突っ込んだ質問をぶつけてみるか。
「もしも、そんな事にはさせないつもりだが、もしも、この船が全損、に似たような状態になったら、補修はいくらぐらいかかるものなんだろうか?」
ベラが無表情で考える。
「20億ゴールドくらい?」
聞き間違いかと思考が停止しそうになったが、豪華な部屋、プールまで完備。そりゃそうだと今更ながら桁を勘定しなおした。
お、俺の人生何人分くらいだ・・・。
目眩がして倒れそうになった。
「ちょっとちょっと、ベッドでアタイを押し倒そうってのかい。」
「あ、いや、すまない。ちょっと目眩が。」
言葉では迷惑そうだが何故か満面の笑みだ。
「あははは。戦う前に倒れないでくれよ。しっかり守ってくれないとね。」
命をかけても守らねばならない。絶対に。
フラフラになりながら俺は船長室を出た。
ラウンジの前を通ったが誰もいないみたいだ。ルーシー達はどこだろう。
部屋に入る。やはり豪華な部屋だ。3×8メートルの広さだが、そこに2×2メートルのサイズのベッドが備えられ、テーブルと椅子2脚がある。どれも床に固定されてる。
奥には衝立が立てられ着替えや化粧直し、洗面、体を拭くプライベートスペースが確保されている。
ベッドにルーシーが横になっていた。
「おかえり。遅かったじゃない。」
「待ってたのか。ずっと海を見てたよ。」
「ふーん。なんでフラフラになってるの?」
「あ、いや、この船20億ゴールドするって。」
「え?」
さすがのルーシーも驚いたようだ。
「ベラって何者なの?」
そういえばそうだ。値段に驚いて失念してしまったが、その船を所有しているベラはただ者ではないことになる。
「考えてもしょうがないし、とにかく今日は寝ましょう。」
バンバン自分の横のベッドの空間を叩く。
俺はペットか。
他に行くとこもなし。いつものように横にならんで寝ることにする。
だいぶ毒されてきた。
「ねえ勇者様。」
寝床に入るとルーシーが聞いてきた。
「このベッド広いわね。」
「キングサイズだからな。」
「私はもっとせまくてこじんまりとしたベッドがいいな。ぎゅうってくっつけるやつ。」
「猫みたいだな。」
ルーシーはすり寄り俺の肩に頭を置いた。体も半身重ねている。
これがルーシーにとってのいつもの寝方なんだろう。
昼前の水着姿を思い出してドキッとする。
息遣い、鼓動、ぬくもりが直接伝わったり伝われたりしそうで、余計どぎまぎする。
「あれ?勇者様?今何考えてる?」
ルーシーが顔を見上げる。
やっぱりバレてる。
「ルーシー・・・。一つ頼みがあるんだ。」
真面目な顔で言う。
「なに?」
「二の腕の筋肉触らせてくれるか?」
「あはは。なにそれ、ばーか。」
そう言って顔を伏せた。
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