第20話


俺達2人と新たに加わった戦闘員3人はラウンジへと通された。


クリスはカウンター席に、フラウはテーブルに座ったままだ。


とりあえず俺達に今やる仕事はない。


今後一緒に戦う仲間になる彼等と挨拶くらいはしておきたい。



「はじめまして。俺は勇者。この船に雇われてすぐで悪いが、何事か起こっているというローレンスビルへ向かってもらうことになった。いろいろよろしく頼む。」



扉を閉めてまだ椅子に座る前に手を前に出し握手を求めた。



「お噂はかねがね伺ってますよ。よろしく勇者殿。俺は剣士のベイト。」


「俺は弓が専門のアデルだ。」


「お噂はかねがねだぁ?お噂所の話じゃねーだろ。有名人だよ有名人!あっはっはっはっは!俺は戦士のモンシアだ。よろしくな。」



三者三様の握手を交わす。



部屋、というよりルーシー、クリス、フラウを見回すベイト。



「こちらのお嬢さん方は?」


「私はルーシー。クリスとフラウ。よろしくね。」



ルーシーがまとめて紹介する。



「かーっ!あやかりたいね!有名人ともなればこんな美人を3人も連れて旅ができるとはね!」



モンシアが俺を小突く。



「いや、彼女達はれっきとしたパーティーメンバーで、付き人とかではないよ。」


「ほほう。いずれお手並みを拝見できるかな。」



ベイトが感心する。



「まあ、話もあるし、好きに座って。」



ルーシーがフラウのテーブルの手前に座った。


ベイトとモンシアが対角のテーブルに座る。


アデルはカウンター席のクリスから離れた席につく。


俺はルーシー達の手前、ベイトの横のテーブルに一人で座る。



「話とは?」



ベイトが尋ねる。



「私達が戦う相手のことよ。」


「海賊かなんか知らねーが、ひでえことしやがるぜ!全身切り刻んで皆殺しだっていうんだからな!モンスター相手でもそんなこたあ聞いたことねえぜ!」


「確証はないけど、私達が相手しないといけないのは、そのモンスターみたいな存在かもしれない。」



訝しむベイト達。



「本当ですか?モンスターは消えたはずでは?」


「モンスターは消えた。でもそれに関連した存在は残っていた。すでにサウスダコタで私達が一体倒したわ。」


「ご冗談を・・・と言いたいところですが、この噂を聞けば納得できる部分もありますね。」


「なんてこったい。じゃあ商船はモンスターに襲われたってのかい?」


「つい2ヶ月前までモンスターがその辺をウロウロ徘徊してたんだ。再び何が起こってもおかしくない。」



アデルが口を開いた。



「ベラにはすでに話してあるが、危険な戦いになるかもしれない。」



これは俺。



「いいでしょう。危険でない戦いなどどちらにしろありませんからね。モンスター相手というならむしろ俺達の得意分野だ。」


「はっはっはっ!そういやそうだな!」



ベイトとモンシアは意に介さずという様子だ。



これまでのモンスター退治とは違う敵ではあるのだが、ここではただ人間ではない、ということだけ伝わればいいか。


どういう敵が来るか、俺達にもまだわからないのだ。



ここからは余談が続く。



話の後、カウンターの酒瓶を見つけたモンシアが早速飲もうとしだした。


まだ出航して間もない朝っぱらから新人が飲んだくれるのは如何なものかと思うが、実際今はやることがない。


結局ベラの許可もとらずに飲みだしてしまった。



カウンターから酒を引っ張り出したモンシアは、クリスの横に座り自分で酌をしながらクリスをジロジロ見ている。



「いやー。本当に勇者がうらやましい。こんな美人と旅できるなんてなあ。」



クリスはあからさまに嫌な顔をすると、俺が座っているテーブル席の横に座った。



ベイトはあっはっはっと笑った。


アデルもモンシアの肩を横からポンポンと叩いた。



「なんでい。褒めただけなのに。」



モンシアは不満そうだ。


クリスは3人を無視して俺に話しかける。



「部屋割り決めておこう。」


「そうだな。ベイト達は寝床は決まっているのか?」


「ええ、本当は下の船室にせまっくるしい船員用の4人部屋があるんですが、いきなりそれじゃってことで船尾の客室を左右使わせてもらうことにしました。さき見せてもらいましたがホントに狭い。2段ベッド2つに人が一人通れるかという通路があるだけでした。あの部屋に慣れるのか不安ですよ。」



下はえらいことになってるんだな。



「じゃあ私は勇者様と左の大部屋で寝るわね。」



ルーシーは惜しげもなくいい放った。



「勇者様と一緒じゃないと眠れないから。」



さらに傷口を開いた。


俺は真っ赤になりそうだ。



ベイト達は爆笑した。



「あはははは。いやいや仲がよろしいのは良いことです。」


「ホントにうらやましいねぇ。」


「失敬。笑ってしまった。」



「俺は、シングルベッドの部屋を使うよ。」



俺は消え入りそうな声で呟いた。



「だーめ。一緒がいいの!」



ルーシーは恥ずかしげもなく強制した。


フラウとクリスが呆れた顔で顔を見合わせている。



「じゃあ私達は右の大部屋を使わせてもらうから。」



クリスはそう言って立ち上がった。



「部屋に行くのか?」



俺は問う。



「うん。フラウも行こう。」


「え?私もですか?じゃ、じゃあ。」


「ルーシーもちょっと来て。」


「え?勇者様のベッドは渡さないわよ?」



三人は立ち上がり右舷側の扉を開けて出ていった。



ベイトがそれを見送りながら、



「俺達嫌われちまいましたかね。」


「いや、そんなことはない、と思うが。」



酒場で働いていたんだ少々の冗談で気を悪くするとは思えない。



「それはそうと、やはりモンテレーの自警団で活躍していたのか?」



話を変えようとベイトに質問する。



「そうです。港町なんで船をどう護るかってことに苦心しましたよ。陸上げしていても足の生えた亀みたいな奴が上がってきて近くにあるものを壊していきますからね。他と違って平地の半島なんで陸の方の対処は楽だったんじゃないですか。」


「それを昨夜この船の船員にスカウトされたってわけだ。まさか船長が女だとは思わなかったがねぇ。そういやあの船長、勇者に惚れてるのかな?さっきキスしてたみてえじゃねえか。ホントうらやましいねえ。」



モンシアは酔いが回ってるのかだいぶ愚痴っぽくなっている。



ベイトもカウンター席に寄って行ってグラスに酒を注ぎだした。



「金さえもらえれば言うことはないだろう。」


「美人に囲まれてちやほやされてみてえよー。」


「やれやれ。」



ベイトは肩をすくめて見せた。



「仲がいいんだな。3人昔馴染みなのか?」



俺の質問にやはりベイトが答える。



「そうですね。でもガキの頃からってわけじゃないですよ。俺なんかはアルビオン出身です。海が近いモンテレーが性に合ってこっちの自警団に志願したんです。」


「俺は酒場のねーちゃんが性に合って留まったんだがな!」



モンシアが急に上機嫌になった。



「おかげで大漁よ!」


「大漁?」


「子宝にな!がはははは!」



なんだ、うらやましい連呼しているが幸せな家庭を持っているなら、むしろ俺の方がうらやましいよ。俺なんてつい最近までアンナにふられて寒村に逃げ隠れていたのに。




それから話が途切れ、ベイト達はカウンターで酒をちびちび。


俺はラウンジを眺めながらテーブルで一人くつろいでいた。



さてと、じっとしていても体が鈍るばかりだ。デッキの掃除くらいは手伝って体を動かすか。



「俺はちょっと手伝える事がないか聞いてくるよ。」



うなずくベイト。



デッキに出ると一面の海に今更ながら感動を覚える。


同時に完全に孤立し逃げ場も安全圏もない綱渡り状態なのも自覚する。



この船上で戦闘が始まるんだ。




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