第17話
それからお爺さんが迎えに来てくれた。
お爺さんはクリスが戻ってきたことを喜んでいた。
オールで船をこぐ手伝いをしようとしたが、フラウに止められた。
傷口は塞いだが自然治癒力の前借りで、エネルギーは消耗しているはずだから、体力を使うのは厳禁。栄養補給と休養に務めること。だそうだ。
アンナからもよく言われてた事を思い出す。もっとも、休んでいる暇などなく強行軍ばかりだったが。
代わりにルーシーとクリスが片方ずつ漕いだ。
前から見ていると二人が並んで船を漕いでるのは微笑ましい。
さっきまで死闘を繰り広げていたとは思えない和みっぷりだ。
どうやら俺の顔に笑みがこぼれていたらしく、クリスがジロリと俺を見ると足を内股に閉じ膝を向こうに向け、声に出さないで口だけで何かつぶやいた。
何か勘違いされてないか?
メイド服と言うには丈の短いスカートではあるが、別にそれを見てニヤついていたわけでは・・・。
お爺さんはいつもの漁場に行かず、自分の食べる分だけ獲って来たらしい。
市場には行かずこのまま帰るとのことだ。
浜辺に着きお爺さんと別れる。
さて、一仕事終わった気分だが、時間的にはまだ午前9時だ。
ベラの言葉に甘えてサウスダコタまで船を出してもらえば、アルビオンに今日のうちに戻れるかもしれない。
しかし、ルーシーは別のプランを提案した。
「せっかくここまで来てるんだから、私達自身でも情報収集をしましょ。夜に昨日とは別の酒場にでも行って、もっとこの辺の事を調べてみるのもいいと思う。勇者様も休養が必要みたいだし。宿にもベッドがひとつ空いてることだし。」
別にベッドは空いてるわけではない。
俺の事を気遣ってくれるのは嬉しいが、戻るのが遅くなって大丈夫だろうか。
まあ、スコットとシモンはメイド仲間の情報を探すのに手間はかかっているだろうが。
「じゃあ勇者様は宿でしばらく休んでて。私達はちょっとお買い物に行ってくるから。」
そう言ってルーシーは無理やり二人の女性陣の手を引いて消えていった。
浜辺でポツンと取り残された俺。
ずっとルーシーが一緒だったので賑やかだったが、居なくなると侘しいものがある。
まあ、女性陣同士での話もあるだろう。ここはルーシーの言うように宿で休ませてもらうとしよう。
zzz
宿のベッドで一人休んでいると、ガヤガヤと声が聞こえて目が覚めた。
見るとルーシー達が帰って来ていた。
外はまだ明るい。2時間くらいしか寝てないのか。
「勇者様ちょっと外に行かない?」
ルーシーがニヤニヤしながら聞いてくる。
「そうだな、そろそろ昼飯か。」
クリスとフラウがなんとも言えない顔で見合わせている。
そういえばお買い物とか言っていたが何も持ってないようだ。
買わず終いで帰ってきたのか。
フラウの言う通り、一旦体を落ち着かせると急に疲労が出てきたような気がする。
アンナと違って術が強力な分反作用も強いのだろうか。
今度は俺がルーシーに手を引っ張られながら外へ出ていく。
だが連れられたのはさっきの浜辺だ。
さっきまでちらほら居た漁師達はもう見えない。
浜辺の隅の木陰で4人で立っている。
なんでこんな所に?
そう思いながらボーッと立っていると、突然ルーシーが服を脱ぎ始めた。
な!?
驚いていると、クリスとフラウまでが同じように服を脱ぎ出す。
なにやってんだ!
「じゃーん。水着買ってきたの。似合う?」
ルーシーは服の下に白いビキニを着ていた。
驚いたが、それはそれでキワドイのだが・・・。
「ちょっと恥ずかしいですが。こういうのは攻めた方がいいって。」
フラウは水色のワンピースの水着だが、かなり角度が狭い。胸元も広く開いている。
「勇者は好きそうだから。サービス。」
クリスは黒い布みたいなのを胸元の金具でとめてる。下はビキニだ。
ちょっと顔を赤らめ向こうを向いてる。
「水着を買ってきたのか。みんな似合ってるけど、目のやり場に困るな。」
「気に入ってくれた?」
ポーズをとるルーシー。
「どこを見ようとしてるんですか。」
両手で身体を隠そうとするフラウ。
攻めたのは自分だろう。
「元気になってくれたなら買った甲斐があったね。結構高かったけど大丈夫?」
クリスは向こうを見ながら、見るならどうぞと言わんばかりに、堂々と立っている。
「高かったって?」
「1着15000ゴールド。」
「え?1着で?」
「そう。」
「そんなに布地がせまいのに?」
「そうですよ。」
「なんかこう、水を周囲から弾き飛ばすような施術とかがかかって・・・。」
「ないわよ。そんなもの。」
なんと言う事だ。俺の全身の服より高いんじゃないのか?
俺は頭がクラクラして膝が崩れそうになった。
「勇者様!」
「まだ体力が!」
「大丈夫?」
3人が崩れそうになった俺を抱き抱える。
そんな薄着の格好で囲まれたら、逆に倒れそうだ。
結局俺は木陰で横になって休むことにした。
3人は海に入ってバシャバシャと遊んでいる。
まさかとは思うが、情報収集とか俺の休養とかただの口実で、自分が海で遊びたかっただけじゃないのかと考えが浮かんだが、気のせいだろう。
しかしこんなのどかな風景は初めて見るような気がする。
浜辺とはいえあんな薄着で海に入って遊べるなんて。
ウトウトとしながら皆の様子を眺めていたらクリスが海から上がって俺の右隣に座った。
「怪我大丈夫?」
「あ、ああ。傷口は塞がってるよ。凄いもんだ。」
「見せて。」
クリスは横になっている俺の左肩を見ようと、右隣に座ったまま左隣に左手をついて右手でシャツを肩までめくった。
目の前にクリスの上半身が迫り俺は左に顔をそむけた。
「本当。痛みは無いの?」
「疼くくらいかな。」
クリスが俺の肩を指でなぞる。
「くすぐったいよ。」
左の方を見ながらなので、クリスがどんな顔をしているかわからない。
「じろじろ見られるのは好きじゃないけど。」
「ん?」
「興味がなさそうにされるのはもっと嫌。」
ビクッとして正面のクリスの顔を見上げる。
「ちゃんと見て、ちゃんと褒めて。ね、勇者。」
ニンマリとサディスティックな笑みを浮かべて俺を見下ろすクリス。
「心得ておくよ。何て言っていいか・・・。」
「怪我が治って安心した。ごめんなさい。許してくれるといいけど。」
突然話がもとに戻る。
ちょっと混乱しそうになる。
「君も大変だったんだ。許すもなにもないさ。君みたいな魅力的な女性が仲間になってくれただけで俺は嬉しいよ。」
こういうことか?
クリスは満面の笑みでクスクス笑った。
そしてまた海に駆け出して行った。
なんだったんだ?
サディスティックな笑みと満面の笑みどちらが本当のクリスなのか。
それとも両方とも彼女の本心なのか。
今は3人で水をかけあったり、泳いだり、浮かんだり沈めたり。
きゃあきゃあ言って遊んでいる。
しばらくして遊び疲れると、3人が俺の近くに戻ってくる。
「あー遊んだ遊んだ。」
「楽しそうだったな。」
「残念だったわね。一緒に遊べなくて。」
「いや、俺はここでいいよ。」
ルーシーと俺の会話にフラウが入ってくる。
「どうしてですか?」
「え、いや、恥ずかしいよ。」
3人が顔を見合わせて笑う。
「それじゃ、水着が乾いたら服を着て宿に戻りましょ。それから遅めの昼御飯食べて夜まで休憩。朝早かったからお昼寝しておきましょうね。夜になったら酒場で情報収集よ。」
皆うなずいた。
「乾くまで時間がかかるんじゃないのか?拭くもの持ってこようか?」
「いいのいいの。超撥水加工ですぐに乾くようになってるから。しかも透けない。」
ルーシーはビキニの上を指でちょっと引っ張った。
キワドイんだから止めてくれ。
「それよりクリスさんの食事はどうするんですか?普通の食事を食べてみます?」
「いらない。2周間食べなくても平気だったし。」
「まあ、一応口に入れてみるのを試してもいんじゃないのか?スープみたいなものとか。魅力的だし。」
俺は何か変なことを言ったのか。
3人が俺の顔を真顔で見ている。
クリスだけが腹を抱えてクスクスと爆笑しだす。
「下手すぎ。」
今のは駄目だったか。
それから間もなくして、ルーシーのプラン通りに、宿に戻り、昼食をとり、ブラブラした後仮眠をとった。
クリスは結局食事を食べなかった。
お腹が減ってないという以上、無理に勧めてもしょうがない。
ベッドは3つしかないのだが、いつも通りルーシーと俺は同じベッドで横になった。
クリスは唖然としていたが、ルーシーが、
「勇者様に抱っこしてもらわないと眠れない身体になっちゃった。」
と言うと、汚いものでも見るような目付きで俺を見た。
そこは俺なのか。
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