第14話
モンテレーはサウスダコタよりも漁業に長けた港町だ。
港以外の町の周囲には当然防壁が張り巡らせている。サウスダコタ同様丸太を繋ぎ会わせたものだが、それよりはだいぶ高さや強度で劣っているようだ。
町は平地ばかりで民家や酒場、今までは滞っていた漁業関係の市場などが主な建物だろうか。
もうじき夕時だ。まずは宿を探そう。
スコットの話では無人島にクリスと思われる女がいるという話だが、今船でこの近隣の海域を眺めていたが、大小合わせると20は下らないほどの小島があった。それを全て探すというのは大変だ。
諜報部の人間が噂を聞いたという酒場を探し、情報を得る事から始めた方が良さそうだ。
しかし、それもどこの酒場かという記載がないので、この町にある20は下らない酒場をしらみ潰しに当たることになる。
根気のいる作業になりそうだなと思っていたが、なんと、最初の酒場で当たりを引いた。
宿で3人部屋を取ってしばらく休んだあと、日が暮れてきたのでそろそろ酒場に出かけることにする。
フラウは宿に残った方がいいのではと言ったが、付いていくという。
この町の一番の大通りにある一番目立つ酒場に入る。
後で思えば諜報部の人間がここを外すはずがないという大本命だったわけだ。
中はすでに騒々しいようなばか騒ぎだ。
カウンターも8つあるテーブル席もほぼ埋まっている。
ルーシーがカウンターの中に構えているマスターに話しかける。
という体で、酒場中に聞こえるような大声で叫ぶ。
「マスター!無人島に住んでる女がいるって本当なの?」
一瞬辺りの話し声が収まりルーシーに視線が集まるが、すぐにもとの騒ぎに収まる。
マスターはそれに答えようとしない。かと、思ったがあごでルーシーの背後を指す。
つられてそちらを見ると大きな男が後ろに立っていた。
「あんたその話が聞きたいのかい?」
男はビールを片手に飲みながら陽気に笑っている。
「ええ。何か知ってるの?」
「ここにいるやつはみんな知ってるぜ。」
「そうなの?どんな話か聞かせてくれる?」
男の話は前後が逆になったり同じことを何度か言ったり、支離滅裂な部分もあったが、要約するとこういう事らしい。
女の名前はクリスティーナ。
5年ほど前、まだ女が少女だった頃。両親がモンスターに襲われ亡くなったとかで、この町に一人でやって来た。
身寄りもお金もなく、住む場所さえ無かった彼女は、町の防壁の外に捨てられ朽ち果てて廃墟となった家に住むようになった。
p当然モンスターがこの辺に現れれば逃げ出さねばならない。
自警団がモンスターの襲撃を報せる鐘を鳴らすとしても、一歩間違えれば危険な場所であることに変わりはない。
そして、せっかく住めるように家を修繕してもまたモンスターによって破壊される事もあったという。
彼女は町で仕事をやっていた。酒場の店員だったとか。
酒場の店主やお客さんに危険な家に住むのはやめて町に住めば良いといつも言われていたが、彼女はそこに住むのを止めなかった。
何故かはわからない。
結局2年近くそこに住んでいたが、3年前に魔王の手下インプの襲撃にあい、そのまま行方不明となった。
住民の通報により自警団が向かった時には、既に空の届かぬ所に飛んでいたという。
だが、奇跡的に彼女は帰ってきた。
2ヶ月ほど前のことだ。例の廃墟となった家に彼女の姿が目撃された。
彼女はそれからその家を修繕するため、使えそうな材木やら道具やらをどこからか拾ってきたりもらってきたりして、黙々と作業をやっていたそうだ。
モンスターがいなくなったことで、そんな場所でも暮らせないわけでもないのだろう。
しかし半月ほど前風向きが突然変わる。順調とは言えないが作業も中途半端なところで、無人島に行くから誰も来ないでと言い出す。
そして今、彼女はまだ戻っていない。
そういう話だった。
「ちょっと待って。まるで見てきたような話があったけど、誰から聞いたの?」
一段落ついたところでルーシーが話に割って入る。
男は自分が座ってたテーブル席の隣の男を指差す。
「あいつだよ。バーニィはクリスに気があるんだ。がっはっはっ!」
バーニィと呼ばれた男はやめてくれと言わんばかりに手で顔の前を払う。
マスターがあごで指したのはこの男の方だったのか。
しばらくクリスと一緒に居た事になるが、その時は大丈夫だったのだろうか。
「あまりアルフレッドの話を真に受けないでくれよ?ただ近くに住んでたから様子を見に行っただけだから。」
と彼はいう。
「それでその彼女、今どこの島に居るの?」
俺達が一番知りたい情報だ。
「南東にカップケーキみたいに切り立った崖と生い茂った樹でこんもりとした島があるだろう?あそこさ。」
なんとなくあったような気がするが、人が住む目的で入るような場所ではなかったのは確かだ。
「あんな場所に?本当なの?」
「嘘じゃないよ。実は俺、誰も来ないでって言われてたけど、あの後行ってみたんだ。でもこっぴどく怒られたから、諦めたよ。」
その後会ったのか!
「それいつ頃の話なの?その時彼女の顔を見た?」
「ん?どうだったかな。クリスが島に行ってから2、3日後だったな。そういやずっと逃げてて背中しか見てないよ。何せ足場も視界も悪くてね。」
「そうだったの。大変だったわね。みんなありがとう、いい話が聞けたわ。マスター、店のみんなにこれで一杯おごってあげて。」
そう言うとルーシーはマスターに気前よくお金を差し出した。
「これはこれは。みんなこのお嬢さんから贈り物だよ。」
店内割れるような歓声。
その歓声を後に俺達はそこを出た。
外は人がまばらで店内の喧騒からの落差に思わず寒気を感じてしまう。
実際海からの潮風と日の沈んだ夜の気温で随分寒くなったのだろう。
「どうしてみんなにお酒をおごったんですか?」
店を出てフラウがルーシーに質問する。
確かに気前が良いのはいいが、そこまでしなくても男達は気持ちよく話してくれてたのに。
「船もそうだけど、次の援助や情報を引き出すには気前良いとこ見せておかないと、向こうからやって来ないでしょ。」
「なるほどー。そうかもしれませんね。」
次か。ルーシーはいろいろ考えてやっているんだな。
「今日は順調に事が進んだわね。この調子でクリスも見つけられるといいんだけど。」
小島に向かうための船を出すのは明日の朝に漁師にでも頼むしかない。
今日のところは宿に帰って休むとしよう。
明日、いったいどんなことが起こるのだろうか。
前にも書いたが宿は3人部屋を借りてある。
2階の部屋で海側に大きな窓があり、丸テーブルに椅子が3脚置いてある。ベッドは3つ並んでいる。
女性二人と同じ部屋というのは肩身がせまいが、押し掛けられてベッドがせまくなるよりはマシだろう。
漁師が船を出す前に起きていなければならないので、俺は早々に床に就いた。
が、ルーシーはベッドに入らず窓を開け海を眺めている。
なんとなくその様子が物思いに耽っているように感じられたので、ベッドから体を起こし話しかけてみる。
「明日は早いぞ。眠れないのか?」
ルーシーは微かに笑うと、こちらを振り向いて、
「ごめん。月明かりがまぶしかった?窓閉めるわね。」
そう言って窓を閉め、俺のベッドに入ってきた。
「一個空いてるんだがな。」
「いつもみたいに一緒がいい。」
イタズラっぽく笑うが、いつものような元気がないような気がするのは気のせいか。
「フラウが起きてたらまた勘違いされそうな事を・・・。」
「起きてますけど。」
後ろを見るとフラウも目を開けて見ていた。
明日早いんだからみんな寝ろよ。
「どうかしたのか?」
「クリスの生い立ちが信じられなくって。」
想像以上に不幸というか、救いがない話ではあった。
ルーシーは顔馴染みなのだろうから、ショックは大きいだろう。
「クリスは面倒見の良いお姉さんタイプだった。私も最初は彼女に元気付けられたものよ。彼女が居たからみんなめげずにあそこで生きていれたんだと思う。」
「ガッツのある女性だったんだな。いや、今も強い精神力があるからこそ被害が押さえられてるのかもしれない。明日、探しだそう。」
「そうね。ありがと。」
そう言うと俺に抱きついてきた。
「近いんじゃないか?」
ちょっと戸惑った。
「いつもこうして寝てるんだけど。」
え?そうなのか?
「おやおや。どんな寝かたしているんですかね。」
フラウが向こう向きに寝直した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます