第11話
アルビオンに着いたのは昼前だった。
総務局本部にある特別捜査室へと急ぐ。
スコットとシモンはやはりそこにいて、俺達を出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ。勇者殿。」
「ご無事でなによりです。心配しました。」
「すまない。夜が更けてしまったのでサウスダコタに泊まってきたんだ。」
二人に説明する俺。
「そうでしたか。報告を聞きたい所ですが、まずはこちらから。
昨日の午後特別捜査室が正式に発足しました。任命式には我々が出席しましたが、勇者殿がいないということで簡易的なものになりました。」
「王様の前に出るなんて初めてなので、緊張しましたよー。」
シモンは顔を上気させ手でパタパタと扇ぐ。
「国王からはよろしく頼むとのことです。人員の補充なども要請があれば対応すると。さ、ともかくお座り下さい。話を聞きましょう。」
俺はサウスダコタの詰所での話と街道岬での一件を全て話した。
事件は半月ほど前、魔王に捕らわれ、俺が解放したルーシーの同僚ライラによって引き起こされたこと。
13名が被害にあい、最初に4人既に亡くなっていたこと。
ルーシーの補足ではその4人も、頭に穴が開いていて脳を吸いとられて形跡があったと言う。
ライラは魔王の血を受け、怪物に変化していたということ。
そしてその力を使い果たし最後は消滅した。
被害者は首から下が既に無く。ルーシーによって介錯されたということ。
これもルーシーの補足だが。
「その中にアルビオンから調査に来た人もいたわ。不憫に思って何か家族や仲間に言い残すことはないか尋ねたけど、無いって。何か言い残せば不慮の死ではなく、覚悟の死だとバレるから。化け物に襲われたあの時に自分は死んだのだと思うと。最後に特等席で勇者殿の戦いを見られて、自分の仇を討ってくれて、何もわからないまま死ぬより本望だって言ってた。」
重い言葉だ。最後に俺達の戦いが慰めになってくれていたなら、救いなのだが。
「つらい戦いだったようですね。本当によくご無事でした。新しい情報が一杯で整理できません。この情報諜報部にも共有しますが、よろしいですか?もちろん他言は無用で。」
「今後、諜報部の人手も借りることにもなるだろうからな。頼むよ。」
ルーシーはテーブルに肘を乗り出し話を続けた。
「さて、今のは昨日起こったことだけど、今後のために一応分析してみたの。」
一同ルーシーを注目。
「まず、今回の一件。今のところ魔王の娘の消息とは関係ない事件のようだけど、魔王によって引き起こされた問題である点に変わりはないから、私達の調査の対象として引き続き彼女達の消息も捜索をお願いしたい。」
俺達一同は頷く。
「それと魔王の血を受けた娘という言い方。呼び方が面倒だから今後、魔人と呼ぶことにするわ。昨日の魔人ライラが見せた能力は3つ、地面の中を移動する、骨を刃物のように伸ばす、人の体を植物の根のようにする。これは全部同じ能力だったと思う。」
同じ能力?
「つまり、物質を変化させる能力。骨と根っこは見たままだけど、地中を移動していたのも、岩盤を空洞に変化させてそこを動いてたんだと思う。」
「なるほど、それならあの動きにも説明がつくな。物理的に穴を掘って移動していたとは考えられない。」
「問題は他の魔王の城に居た娘達の何人か、もしくは全員が魔人になっている恐れがあって、皆が同じ見た目の変化と能力を持っているか、わからないということ。同じ能力だったとしても、応用が利きすぎて何が出てくるかも全くわからないけど。」
さらにルーシーが続ける。
「そもそも、ライラが魔人になったのが半月前という中途半端なタイミングなのが、理由がわからない。なぜ、一月半は無事だったのか。時限式だったのか、その時何かが起きたのか。彼女だけなのか、条件さえ合えばみんなそうなっているのか。
ちなみに私は魔王の城に来て2ヶ月ほどのピチピチのギャルだからライラみたいにはならないと思う。安心してね。」
今サムサムのギャグを言われても反応しづらい。
「もし半月前に一斉に魔人化が発症したのなら、同じ時期に各地で同様の事件が起きてないか調べる必要がある。」
「そうですね。洗った方が良さそうです。」
スコットが応じる。
「そして今から名前を言うから、過去数年に魔王に拐われた娘がどこで拐われたのか、彼女達が帰っていった出身地を探して欲しい。」
「膨大な資料になりますね。でも出来ると思います。」
シモンが応える。
その後、ルーシーがセイラ、ニナ、クリスティーナ、他、合わせて20名ほどの名前を伝える。メモするシモン。
「俺達も手伝えるなら。」
「いえいえ、休養も大事です。いざというときに不覚を取ってしまわれたら大変です。」
「そうか、そう言ってもらえるなら。」
「そんなわけで、多少時間をいただくと思いますので、今日のところはお休みになられてください。何かわかれば使いを寄越しますので。」
シモンが笑顔で気遣ってくれる。
お休みにと言われてもまだ昼前なのだが。
探し物の邪魔をしても悪いので特別捜査室からは退出することにした。
フラウは一旦ここで別れて自分の部屋に戻った。俺達は宿屋キャロットへ。
俺はキャロットでブースターをつないでいるルーシーに話しかけてみた。
「昨日の戦い。君の実力には驚いたよ。いや、君にはずっと驚かされてばかりだが。」
「そういう所で褒められてもねぇ。もっと褒めて欲しい所はあるのに。」
そう言って足をチラリと見せた。
「いったいどこであんな技を修得したんだ?」
わざと無視したのを一瞬ムッとして横目でにらみながらルーシーが答える。
「別に修行したわけじゃないけど。ただ、小さな時から剣が遊び道具だったからかな。」
小さな時から?そういうものなのか。
俺も幼いときからモンスターとの戦いで剣を握っているが、昨日のルーシーの剣技は遥かに格上な動きだったような気がする。
剣の技を志す者において、目指す理想の動き。無駄なく最大限の力を発揮する。剣に余計な重力を感じない、一体となって手足のように扱っている。そういったものだ。
「おれは魔王を倒せなかったことを恥じてソドンに引っ込んだ。だが、魔王を倒したのが君のような実力者だと知っていたら、引っ込む必要なんて無かったかもしれない。今は恥じていたことに恥じ入るよ。」
俺は正直な気持ちを打ち明けた。
するとルーシーは俺に抱き付いてきた。優しく抱擁するように。
「それは前にも言ったけど、勇者様が魔王の前に立っていたから出来たことよ。私1人で挑んで出来た事じゃない。」
首に腕を回す。
「もうひとつ言うけど。あなたの仲間はものの数秒で意識を失って倒れていたけど、あなたは最後まであそこに立ってた。魔王に睨み返してた。あいつは目を丸くしてたんじゃないかしら?なんで倒れないのかって。だから背後に隙が生まれた。致命的な隙が。
お世辞じゃなくて、勇者様のその肉体的にも精神的にも鈍いとこがあいつを倒せた要因なのよ。フッフッフ。」
後頭部をポンと叩かれた。
褒められてるか貶されてるのかわからない。
「私は剣。勇者様は盾。それにフラウがヒールをしてくれれば、最高のパーティーになるってことよ。」
そういうことだったのか。
俺は盾。
しかし、出来の悪い盾では使い物にならないだろうから、稽古には励むとする。
その後、後学のためルーシーに剣捌きを見せてくれと頼んだが、やんわりと断られた。
照れていたのか、俺が自信を無くして村に引きこもるのを心配してなのか、単にめんどくさいからか、それはわからないが。
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