第6話
結局、ルーシーの2つの願いは即断では決めかねるとして、一旦保留になった。ルーシー自身は求めなかったが、魔王討伐の褒美として、俺達と同じ5000万ゴールドが進呈された。
国王達は今や大騒ぎで会議をやっていることだろう。
俺達はというと。
謁見が終了し、放心した状態で城を出る俺に、ルーシーは腕を組んできて。
「いろいろ説明してなくてごめんなさいね。びっくりさせようと思って。」
「びっくりさせすぎだ。頭真っ白だよ。」
「ウフフ。作戦成功。」
何が作戦成功だ。人の気も知らないで。
「と、言うわけで。これからもよろしくね。勇者様。」
「説明なく勝手によろしくと言われてもな。それより本当にフラウをパーティーに加えるつもりなのか?」
「あら?ずっと二人きりの方が良かった?まあそれも捨てがたいんだけど。」
「まだ会ったばかりなのに、いきなりすぎるんじゃないか?」
「じゃあ会いに行きましょうか。私達で説明と意思の確認をしておくのも悪くないわね。」
アルビオン城の右横には、大聖堂と神官達が暮らす宿舎が建ち並んでいる。
大聖堂は城の敷地内に有ることからわかるように、一般人の礼拝を受け入れてない。そこは、神官達が神に祈り御業を修行する場所だ。
希に儀礼としてセレモニーが催されるが、戴冠式のような重要なイベントのときだけだ。
見習いというフラウはそこにいるかもしれない。
大聖堂の入り口から中に入ってみる。
厳かな雰囲気の中、蝋燭が灯され、香が炊かれ、左右に並ぶ椅子に座り多くの神官が手を合わせ神に祈りを捧げている。
パッと見た感じここにはフラウは居ないようだが、後ろからではよくわからない。
ルーシーが通り掛かった神官に声を掛ける。
どうやら宿舎の掃除をやっているということらしい。
邪魔をしては悪いので早速そちらに行ってみる。
大聖堂から見るとやや隠れた場所にひっそりと宿舎が建っていた。
ここも城の敷地内だが、木造で質素な建物だ。
とはいえ、かなりの人数を収容できるようで、3階建てでかなり大きい。
掃除は大変だろう。
大聖堂と違い、こちらでは和やかな話し声も聞こえてくる。
近くに寄ると俺達に気付いた住人が何用ですかと尋ねてきてくれた。
フラウの事を話すと、中から彼女を呼んで来るといって中に入っていった。
しばらく待つとフラウが出てきた。
今朝は神官の法衣を着た正装であったが、今は普段着らしく、質素な白い服を纏っている。
俺達が訪ねてきた事に驚いているようだ。
「勇者様、今朝程は押し掛けてしまい、申し訳ありませんでした。また、こちらの要請を聞き入れて、お越しくださってありがとうございました。」
フラウはお辞儀をする。
「いいのいいの。それよりまだ大神官は戻られてないようだから知らないだろうけど、あなたにお願いがあって来たのよ。」
ルーシーが早速話を切り出す。
「私に?お願い?ですか?」
「そう。私と勇者様のパーティーに入ってくれないかなと思って。」
しばらく固まるフラウ。いくらなんでも単刀直入し過ぎはしないか。
「いや、今朝あったばかりだし、何でいきなりって思うとは思う。と言うか俺もさっき聞いたばかりなんだが。だから、その、なんだ・・・。」
固まったフラウに助け船を出そうと思ったが、俺も正直混乱している。
「あの、凄く光栄なお誘い、なのだと思います。が、私なんかでよろしいのでしょうか?見習いですし、実戦の経験も全くありませんが?」
フラウはあたふたとしている。
「経験はそのうちつくでしょう。それより今からあなたほどのヒーラーを1から探すより、身元が信頼でき、能力も折り紙つきのあなたの方が私達にとっては願ったり叶ったりなのよね。」
言われてみればそうかもしれない。
なかなか貴重な存在だ。
「でも、見習いとはいえこちらでのお勤めもありますし。魔王が倒された今、外の世界に飛び出して修行を疎かにも・・・。」
彼女はまだ魔王の娘達の話を知らないので、何のためのパーティーかも知らない。
「後で大神官から話があるでしょうけど、私達は魔王の娘達の所在を追う旅を始める。そのために私剣士。勇者様剣士。ではバランス悪いんであなたの力を貸して欲しい。というわけよ。」
再び固まるフラウ。
それはそうだろうな、俺もまだ噛み砕けてはいない。
というか、ルーシーは剣を背負っていいるからそうなんだろうが、やはり剣士だったのか。
彼女についてもわからない事だらけだ。
いったい何者なのか。何故いろんな事を知っているのか。
流されて一緒に冒険することになっているが、本当にそれでいいのだろうか。
ルーシーからは絶大な信頼をされているようだが。
「念を押すけど、娘達が人間に敵対心を持っているのか、平和的なのか、それすらまだわからないんだからね?戦いが起こるのか、平穏に暮らしていて発見できないままってこともあり得る。万が一に備えて戦う準備だけはしておく、ってことでよろしく。」
フラウが強くうなずく。
「わかりました。私も勇者様のお力になれるのなら、ぜひこちらからお供させていただきたいです!」
え?意外とすんなり受け入れるんだな。
「相手がどう出てくるかわからない以上、危険もあると思うけど?本当に大丈夫?」
「はい。魔王歴中、負傷した騎士団員の手当てなどは日夜やっておりました。皆様のお力になれるのなら私も最前線でお役にたちたいです。」
頼もしい返事をもらった。
後は大神官の許可をもらえればというところだろう。
俺はやや、かやの外にいるような気がするが。
「あの、私からも質問してよろしいでしょうか?」
フラウが何故か照れながら聞いてくる。
「ああ、もう仲間なんだから何でも質問してくれ。」
俺が答えられることはほぼ無いがとりあえず言っておく。
「あの、勇者様とルーシーさんはどのようなご関係なのですか?」
今度はこっちが固まる。
「あ、いえ、変な誤解とかするよりハッキリ聞いた方がいいかと思いまして!」
顔を真っ赤にしながらあたふたと手を振るフラウ。
神官の見習いとはいえまだ女の子なんだ。そういう事に関心がないと言えば嘘だろう。
今朝もベッドに二人で座って食事してた所に入ってきたから誤解されても仕方ない。
「ちょっとここでは言えないかしらねぇー!」
「いやいや、言えるだろう。俺達もまだ出会って1週間かそこらだよ。関係どころか俺は君のことをまだ何も知らないと思い知った。さっきの謁見での話も、もっと詳しく教えてもらわないとならない。何をどこまでどうやって知ったのかを。」
「あら?ここから真面目な話にすりかわるの?まあ、これから命を預ける以上、納得してもらわないといけないでしょうね。」
ルーシーは観念したように肩を落とすが、周りをキョロキョロと見回す。
宿舎の目の前で辺りに神官が慌ただしく彷徨いている。
込み入った話はここでは適切とは言えないか。
「ここじゃあなんだし時を改めましょうか。王の命をいきなり破りかねないし。」
「確かにそうだな。」
「ただひとつだけ教えておくわ。私はアーガマ出身で、魔王が倒される2カ月前、つまり今から4カ月前ってことね。その時期に魔王の城でメイドとして働いていた。
私がいろいろ知っているのは、あそこにいたメイドならある程度はみんな知っていたと思うけど、魔王自身の口から聞いたから。ここまででとりあえず納得してくれる?」
情報がまた一気に増えた。
アーガマ出身。大陸の南の大国と言えばこのアルビオンだが、北の大国と言えばアーガマと言われている。かなりの大都市で俺も魔王討伐の旅の途中アーガマ国王の協力を仰ぎ、一時期拠点として使わせてもらったこともある。
だが、出身と言われても今のところ確かめようはない。
「魔王の城に居たんですか?」
まったく知らなかったフラウは呆然として聞き返す。
「そうよ。」
「そ、そんな。」
彼女はショックを受けたようだ。被害の話は聞いていたろうが、実際にその当事者を目の前にすれば、絶句もするだろう。
俺もあの時の姿からメイドだったと決めつけていたが、実際に口で聞いたのは初めてだ。
とすると、魔王の城に捕らわれていた女達が首を横に振ったのは、今この場にいないという事だったのか。
「魔王と話す機会があったのか?」
これは俺の質問だ。
「メイドだからね。日常的に会話はしていた。」
どういう暮らしぶりだったか想像を絶するので意外な感じだが、当然と言えば当然かもしれない。
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